偽りの夫婦②
ステラが、酒癖が悪いというのは、ユウキにとっても意外な発見だった。二度と酒は飲ませないと思いながらも、ステラがヤキモチを焼いてくれた事が嬉しかった。
家に帰ると、布団を敷いて、服を着たまま寝かせた。彼が床に就こうとした時、襖があいて、「お水頂戴」と、ステラが苦しそうに言った。持っていった水を一気に飲み干すと、ユウキの前で服を脱ぎ始めたのである。
ユウキが、慌てて自分の部屋に戻ろうとすると、ステラは彼に抱き着き、離れようとはしなかった。
やむなく、ステラの布団に一緒に入り、彼女が眠るのを待った。下着だけのステラに抱き着かれたユウキは、数センチの所にある彼女の顔を、どうしたものかと、眺めるしかなかった。
アルコールの匂いが鼻を突いたが、それ以上に、この状態は彼を興奮させるに充分すぎて、眠る事は出来なかった。
どれくらい経ったか、彼女の腕枕になっていた左腕が痺れてきたので、そっと腕を抜いた。スヤスヤと寝息をたてている彼女の額にキスをして、ユウキは自分の布団へと戻っていった。
翌朝、朝食の準備をしながらステラが聞いた。
「私、飲みすぎて昨日のこと何も覚えて無いんだけど、何かあった?」
ステラは何も覚えていなかった。ユウキが昨日の出来事を聞かせると、
「いやだ、ごめんなさい」
彼女は、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「それで……何もなかったわよね?」
「男と女が、裸で抱き合って何もないわけないだろう」
ステラは、まさかと言うような顔をしてユウキを見た。
「お酒の匂いがすごくて失神しちゃったよ」
「ひどい、嘘なのね!」
ふくれっ面のステラは、大笑いするユウキを睨んだ。
「ごめん、ごめん、お酒は合わないようだから、あまり飲まない方がいいんじゃない」
ユウキは、そう言って話題を変えた。
その夜の事である。ユウキが寝床に入って、本を読んでいると、ステラが枕を抱いて部屋に入って来た。
「どうしたの?」
「一緒に寝てもいい?」
「えっ」と言ってユウキが戸惑っている間に、ステラが布団の中に滑り込んで来た。ユウキは、暫くステラの顔をうかがっていたが、その、美しい瞳に吸い寄せられるように彼女を抱き寄せると、唇を合わせた。
ユウキは、熱いキスをしながら、溢れる気持ちを抑えきれなくなって、ショーツの中に手を滑り込ませようとした。だが、彼女はピクンと震えて、ユウキのその手を拒んだ。
ユウキがキスを止めて、ステラの顔を見た。
「ごめんなさい……」
ステラは睫毛を伏せた。彼女は、抱いてほしくて彼の所に来たものの、いざとなると、拒否反応が出てしまった自分の気持ちが分からなくなっていた。
「無理もないさ、無意識の中の本当の君がダメだと言ってるのかも知れないね」
「……」
ステラの瞳が潤んで泣きそうな顔になるのを、ユウキが額にキスをして、優しく抱き寄せた。ステラは、ユウキの優しさに包まれながら眠りに就いた。
ユウキへの想いを募らせたステラの行動は、若い二人が共に凄した、当然の成り行きだったのだが、彼女が記憶をなくしていなければ、異星人と恋に落ちる事は、無かったかもしれなかった。
次の日、二人は、いつもの生活に戻っていたが、その日から、ステラがユウキの寝床に来る事は無かった。
彼には、もう一つ気になることがあった。それは、ステラが、時々、暗い顔をして塞ぐことがある事と、夜中に聞きなれぬ言葉を発し、うなされる事があったからだ。
増々謎が深まる、ステラの正体。考えるほどに、ユウキの気持ちは塞いでいった。