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超次元戦闘スーツ――ステラ別話  作者: 安田けいじ
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死闘の果て

 巨大戦艦の主砲によって、ネーロ軍の艦船も大半が破壊され、壊滅状態となっていたが、ステラは、彼らを一兵たりとも残しては、サファイヤ星の脅威になると判断して、徹底して破壊していった。


 その時である。横にいたレグルスが、巨大戦艦の動きに気付き、大声で叫んだ。


「ステラ様! ムミョウの巨大戦艦がサファイヤ星に向かっています。彼らは、艦もろともサファイヤ星に突っ込む気です!」


 巨大戦艦は長さ数十キロもあり、サファイヤ星に激突したなら途轍もない被害が出ることは間違いなかった。ステラは全軍に指令を発した。


「全艦、巨大戦艦を叩け!」


 サファイヤ軍は、巨大戦艦に群がり一斉攻撃をかけた。だが、巨大要塞の様に堅固な艦は、主砲以外の兵器で必死に応戦して来た事もあって、簡単に破壊することは出来なかった。


 そこへ、ムミョウ親衛隊がユウキ達に襲い掛かって来たのだ。彼らは、ムミョウと同じ赤と黄色の斑のスーツを着ていたが、その中に本物のムミョウがいるのかどうかは分からなかった。


 増々、巨大戦艦の破壊は難航したが、既にサファイヤ星の大気圏近くまで来ていて、時間の猶予はなかった。その時、レグルスが叫んだ。


「これでは間に合わない。私達十拳士が援護しますから、あなた方は攻撃に集中して下さい!」


「分かった。ステラ、コスモノバで行くぞ!」


「了解!」


 “コスモノバ”とは、コスモの最強兵器の一つである。


 ユウキとステラは、サファイヤ星を背にして、並んで両手を大戦艦に向けて攻撃態勢を取った。十拳士はじめサファイヤ軍の精鋭がそれを援護し、ムミョウ親衛隊を懸命に抑えた。


 二人の翳した手の前方の空間に、巨大なエネルギーの雲が渦を巻きだした。それは、百メートルを超える球体に成長すると、爆発的な燃焼反応を起こし、一気に燃え上がった。巨大な火の玉、それは、核融合反応で燃える太陽そのものだった。


「行けーッ!」


 二人は、その太陽を大戦艦目掛けて、一気に押し出した。人工太陽は更に膨張し、ムミョウ親衛隊を飲み込み、大戦艦のどてっぱらに炸裂すると、壮絶な火炎の中に全てを飲み込み、焼き尽くしてしまった。


「ムミョウ、何処に居るんだ。出て来い!」


 ユウキが叫んだ。


「儂なら、ここにいるぞ!」


 不意に、一体の赤と黒の斑のスーツが現れ、マスクを格納してその素顔を見せた。それは、鋭い目つきの人間のように見えたが、透視装置でスキャンすると彼もアンドロイドだった。


「お前がムミョウなのか? ネーロ帝国に人間は居ないのか?」


 ユウキは、謎だらけのネーロ帝国への疑問を彼にぶつけてみた。


「人間? 彼らは当の昔に死んでしまった。我々は、彼らの遺志を継いで、新しい星を求めて宇宙を彷徨いネーロ星に住み着いたのだ。しかし、そのネーロ星の寿命も尽きてしまった。それで、サファイヤ星に目を付けたのだ。まさか、此処まで手こずるとはな。

 お前さえ倒せばネーロ帝国は又再建できる。ユウキ、今日こそ決着をつけるぞ」


「ムミョウ、宇宙に不幸をまき散らす、お前の流浪の旅を終わらせてやる。来い!」


「パワーだけが全てと思うな。儂の力、とくと味わえ!」


 ムミョウはマスクを着けると、両手を腰に当て胸を張った。胸の部分が変化し、円形のスピーカーを幾重にも重ねた様なものが形成されると、それが一気に爆振したのだ。


 ズ――――――――――――――ン!!!!!


 腹に染み渡るようなおぞましい大音が宇宙に轟いた。サファイヤ軍の兵士達は、その音ともつかぬ音波に襲われた途端、ズン! と腹から入った何かが身体を巡り脳に至ると、目の光は失せて、ムミョウの操り人形と化してしまったのである。


 彼らは、ムミョウが命ずるままに、ある者は隣の仲間を襲い、ある者は艦を破壊し、ある者は艦を操って味方の船を攻撃した。戦艦や戦闘服部隊が入り乱れての、同士討ちが始まった。ムミョウが放ったのは、敵を洗脳する、音波砲だったのだ。


「みんな、止めなさい!!」


 驚いたステラが懸命に叫んだが、彼らには届かなかった。


 そして、レグルスはじめ十拳士までも、ユウキとステラに襲い掛かって来たのだ。その音波の影響を受けなかったのは、コスモに護られたユウキとステラだけだった。


「レグルス、どうしたんだ!?」


 ユウキが、彼らの攻撃をかわしながら叫んだが、攻撃が止む事は無かった。


「ムミョウに操られているのよ。振動波を浴びせてみるわ」


 ステラが、何物をも揺り動かすような、凄まじい振動波を戦艦や戦闘部隊に浴びせてみたが、何の効果も無かった。


「ふん、そんなもので儂の呪縛が解けるものか!」


 ユウキとステラは、十拳士達を傷つける訳にもいかず逃げ回っていたが、ムミョウがフルパワーで攻撃に加わると、なす術もなく火炎の中に閉じ込められるしかなかった。


 ユウキは、彼らの集中砲火を浴びながら、何か突破口はないかと、しきりに考えていた。そして、心には心だと閃いたのである。


「コスモ、僕達の思念を、彼らの心に沁み込ませる事は出来ないか?」


『やってみましょう』 


 次の瞬間、コスモとスペースが合体して、巨大なライオンが宇宙空間に躍り出た。


 ライオンの異空間の中で、ユウキとステラが手を繋ぎ、精神を集中して、全宇宙に届けとばかりに念じた。


「魔軍撃破!!」

 

 ライオンが大きく息を吸い込み、目をカッと見開いた刹那、


 ガオオオオオオオーーーーーーン!!!!!!


 巨大な口から、ユウキとステラの思念を乗せた凄まじい超電波が、光と共に吐き出されたのである。それは、サファイヤ軍の兵士達の心に染み入り、ムミョウの呪縛を打ち破って、更に、ムミョウの身体までも破壊し始めた。


「な、何だこれは!!」


 ユウキとステラの、全ての魔軍を打ち破らんとの強き思念が、悪意の塊のムミョウの身体を貫き破壊していたのだ。


 必死に再生しようとするムミョウ目掛けて、ユウキ、ステラ、そして、呼び出した守護神アース、タイフーン、サン、ルナが、一斉にそれぞれの最強兵器を放つと、そのパワーはムミョウの再生能力を凌駕した。


「この儂が負けるとは……何なんだ……お前たちは……ウ、ウガ#△%ーーッ!!」


 悪の根源ムミョウは、ついに倒されネーロ帝国は崩壊した。十数年、サファイヤ星の人達を悩まし続けた侵略戦争が此処に終結したのである。


「勝った! 戦争が終わったんだ! サファイヤ星万歳!!!」


 正気に戻ったサファイヤ軍の兵士達から、勝鬨が上がった。


 ユウキとステラはスーツ姿に戻って、十拳士達に労いの言葉をかけた。


「レグルス、みんな、ご苦労様。怪我人を回収して帰りましょう」


 サファイヤ軍の戦艦の多くは激しく破壊されていたが、堅固なスーツのお陰で犠牲者は少なかった。

 後始末が終わると、彼らは青いサファイヤ星へと凱旋していった。


  完



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