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超次元戦闘スーツ――ステラ別話  作者: 安田けいじ
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北部基地着任

 ユウキは、軍用機で配属先の北部基地へと向かっていた。途中、ミサイル攻撃の痕跡なのか、黒く焼け焦げた地域があちこちに見えた。


 やがて、景色は、一面の白い世界へと変わっていった。北部方面は雪と氷の世界で、その雪の下に基地があるのだ。


 雪の大地が左右に開き、軍用機は、その中へ下りて行った。


 アレクの計らいで、ユウキには、軍の顧問で、大佐の階級が与えられていた。入隊間もない若者の扱いとしては、考えられない人事だったが、アレク将軍の肝いりとあって、異論を唱える者は無かった。


 彼は着任早々、ミサイル迎撃システムを視察した。迎撃システムは、北部の数千キロに及ぶ海岸沿いに、五〇〇基設置されているが、そのほとんどが無人である。防御の要のこのシステムを、更に完璧なものにするのが、彼の役目だった。


 毎日のように、ミサイル警報が鳴って、その度に指令センターに緊張が走った。


「前方、五〇〇キロにミサイル確認! レーザービーム砲スタンバイ!」


 次々とアナウンスが流れ、前面の大画面に敵のミサイルの位置と、味方の迎撃ビーム砲の状態が表示された。


「敵ミサイル距離百キロ、二十五番、二十六番、迎撃ビーム砲発射!」


 長距離ビーム砲が火を噴き、大画面の敵ミサイルが次々と破壊され表示が消えていった。


「迎撃成功、敵ミサイル無し!」


 この防御システムは自動化されているが、いざという時は、人が介入しなければならない場合もあるのだ。 


 ユウキは大画面を見ながら、基地責任者のリゲルに尋ねた。


「オペレーターの精神的な疲れは、大変なものでしょう。勤務体制はどうなっていますか?」


 リゲルは、若くて見たこともないユウキの事を、胡散臭い奴だと思っていたのだが、その言葉を聞いて少し驚いた。視察に来る幹部の殆どは、先ず、設備の事から聞いて来る。兵士達の状況から聞かれたのは、初めてだったからだ。


「二十六時間を、三交代でカバーしています。任期は一年ですが」


「そうですか。では、兵士の負担を少なくするために任期を半年にしましょう。それから、休みの時間に気分転換する為の設備、カフェ、レストラン、運動場、遊技場、などを拡充します」


 ユウキは、その場で本部の許可を取ると、リゲルに頼んで、これらの諸設備を作ってもらう事にした。基地には、今迄、気分転換の為の設備は殆ど無かったのだ。


 この基地には、ミサイルの被害の修復の為に、再生工事用ロボットがあった。このロボットを使って作業は急ピッチで進み、一週間ほどで施設は完成した。従業員には、コスモが作った美しいアンドロイド達を使う事にした。


 施設が開設されると、兵士たちの表情も明るくなり、士気が大いに上がった。


 続いてユウキは、ミサイル迎撃用の新兵器である、誘導装置付き拡散ミサイルの設置と、敵ミサイルの発射を検知する、精度の高いレーダーの導入を相次ぎ決定した。

 これは、新レーダーでいち早く敵のミサイル発射を感知し、拡散ミサイルで迎撃して、残ったミサイルをレーザー砲で撃ち落とすという、二段構えの迎撃システムである。

 いずれも、コスモの設計を基に緊急配備された。


 ユウキは一応の任務を終えると、ネーロ軍北極基地の偵察の為、ステルスモードとなって、一路北極へと向かった。北極の上空の人工衛星は悉く破壊され、敵の北極基地の情報は皆無であったからだ。


 北極には、基地らしいものは何一つ無かった。恐らく、地下にあるのだろう。ユウキは、北極大陸全体が見渡せる位置まで上昇すると、地下基地のある場所を透視して探った。

 すると、北極の南海岸沿いに基地は集中していたが、中央部にも大きな基地らしきものがある事が分かった。


「コスモ、氷を解かす爆弾の位置も特定できるかな?」


『やってみましょう』


 ユウキは、数日かけて、兵の数など出来るだけ詳しいデータを収集すると、ネーロ軍の本部と思われる、中央部の大きな山の麓にある地下基地へと下りて行った。


 彼は、通風孔らしき部分から侵入して、巨大な基地の内部へと入っていった。ロボットやアンドロイドが多く、人間には遭遇しなかった。

 一番奥の、幹部の部屋らしい所を見つけて透視すると、部屋の奥にある大きな椅子に座った男に向かって、3人の兵士が何かを報告しているのが見えた。


「ヤミ様、例のステラの居場所が分かりました」


「うむ、やっとわかったのか。それで何処だ」


「サファイヤ軍の北部基地にいるようです」


「よし! ムミョウ様も急いておられる、予定通り暗殺部隊を送れ! 最強クラスの戦闘服部隊でなければステラには勝てないぞ。失敗すれば分かっているな!」


 ヤミは、兵士達を睨み据えた。


「わ、分かっています!」


「うむ、全部隊をサファイヤ軍の北部基地に投入し、その、どさくさに紛れて暗殺部隊を潜入させろ。ステラさえ居なくなれば奴らの士気は必ず落ちる。ぬかるんじゃないぞ、いいな!」


「はっ! 了解しました。あと一つ報告なんですが、奴らの本部に潜り込ませたスパイの話によりますと、最近、ユウキという若い男が軍に入ったようで、これがかなり強いらしいのです」


「よし、そいつの事も探るんだ!」


「ハッ!」


 兵士達が逃げるように出て行った。ヤミというのは北極基地の司令官らしい。


 ステラが北部基地にいるという話に、ユウキは首を傾げた。三日前まで、自分が居た所だからだ。それに、本部のスパイの話も気になった。


「誰だ!!」


 突然、ヤミがユウキの気配を感じ取ったのか、エネルギー弾を数発撃ってきた。それは、壁を破壊してユウキを襲ったが、彼は、間一髪で躱し、一目散にネーロ軍の基地を飛び出て、サファイヤ軍の北部基地へと戻っていった。



 飛びながら、ヤミたちの話をアレク将軍に報告したが、ステラの件は彼も知らないと返事があった。


 ユウキは、北部基地に着くなり、リゲルの部屋へ飛び込むと、そこには、サファイヤブルーのスーツを着たステラが立っていた。


「ステラ!」


「ユウキ、来てくれたのね。会いたかった」


「僕もだ」


 ステラとユウキは抱きあい、再会を喜んだ。


「無事でよかった。君の居場所を誰も知らないから心配していたんだ」


 その光景を、何も知らされていないリゲルが呆気にとられて見ていた。


「ステラ様、この方はどなたなんですか?」


「貴方は知らなかったわね、ユウキは私の夫になる人よ」


 ステラが微笑むと、リゲルは、まさかと言うような顔をして、二人を見るばかりだった。


「ステラ、早速だが、君が此処に居ることは、既に敵に知られている。すぐにも、暗殺部隊がやってくるかも知れないから、身を隠した方がいいんじゃないか?」


「そうね。でも、隠れてばかり居ても事態は変わらないわ。博士に新しいスーツも貰ったし、此処で決着を付けようと思うの」


「そうか、腹を決めたんだね。分かった、一緒に戦おう。リゲル、本部への応援要請はどうなっている?」


「ユウキ殿、すでに手は打っています。ストレンジ博士から送られて来た、新型スーツも全員に配布完了しました。応援部隊が着き次第、作戦会議を持ちたいと思います」


「了解!」


 基地は、にわかに慌ただしくなり、基地の巨大な扉は、引っ切り無しに離発着する軍用機で閉じる暇もなかった。




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