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超次元戦闘スーツ――ステラ別話  作者: 安田けいじ
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サファイヤ星

 ユウキは、ワンダー星から地球へと進路を取った。


「コスモ。地球までは、やはり十時間ほどかかるのかい?」


『ワープすれば、四時間ほどです。天の川銀河なら、その日の内に何処へでも行けますよ』


 天の川銀河は直径十万光年あるという、気の遠くなるような距離を、たった一日で飛ぶことのできるコスモの能力に、ユウキは驚くばかりだった。今、そのコスモと一体になった自分を思うと、今更ながら体が震えた。


『じゃあ、ワープに入りますよ!』


 周りの景色が瞬時に変わると、そこは、時空が歪み、七色の光が躍る無音の世界になった。暫くして気分が悪くなったが、すぐにコスモが、銀河の映像に切り替えてくれたので快適となった。


 ユウキは、銀河を突っ切って地球に帰ると、サファイヤ星への出発の準備の為、会社を退職し、四国の両親の許に趣いた。


 母は、「どないしたん?」と、急に帰ったユウキの顔を心配そうに見た。


 ユウキは、居住いを正し、外国に行くので挨拶に来たと切り出した。ユウキは、地球以外の星に行くとも言えず、イギリスで働くという事にしたのである。

 せめてもと、ステラと撮った写真を見せて、結婚した事を報告した。


「外国の人なんやね」


 最初は驚いていた両親だったが、綺麗な人だと、目を細めて写真に見入っていた。


 ユウキは、母の手料理をご馳走になりながら、束の間の一家団欒を楽しんだ。半日ほど両親の傍で過ごし、名残は尽きなかったが、暇の時間がやって来た。


「今度はいつ帰ってくるね?」


 との、母の問いに、


「いつか必ず、ステラを連れてくるよ」


 と、いうのが精いっぱいだった。


「それじゃあ……」


 ユウキは、両親に別れを告げた。


 父と母は、ユウキの車が見えなくなっても、その残像をいつまでも追って、動かなかった。

 ――もう二度と会えないかもしれない。そう思うとユウキの眼に涙が溢れ、胸が締め付けられた。彼は、車を路肩に止めて、オイオイと一人泣いた。



 ユウキは故郷から帰ると、家の整理をして外に出た。家の事は、医師の黒沢に一任していた。

 カチャッと家の鍵をかけ、植木鉢の下に鍵を隠すと、門の所まで下がり、我が家を仰ぎ見た。


「いつか、帰って来られるかな?」


 ユウキは、そう呟いて、大地を蹴った。


 宇宙へ飛び出すと、コスモに身を委ねた。


「コスモ、サファイヤ星迄の所要時間は?」


『二時間と掛からないでしょう』


「ステラの星に着いたら、まず、どうしたものかな?」


『状況が分からないと動きようがありませんから、街に降りて、情報を集めましょう』


 ワープから抜けて、太陽の横を通り、しばらく行くと青い惑星が見えて来た。


『あれが、サファイヤ星です』


 更に近づくと、青い海に白い雲、そして大陸と、確かに地球によく似ていた。サファイヤ星の付近に、宇宙艦隊らしきものは見えなかった。

 ユウキは、ステルスモードで大気圏を抜け、首都らしき街の郊外に下り立った。


 コスモがデータ収集すると、この星は、一日が二十六時間、一年は、三百七十五日だと分かり、時計を合わせると昼の十二時だった。


 住宅街なのか大きな建物は無く、未来っぽい球形やドーム型の白い家々があり、緑は多かった。又、レンガ作りの家等、ヨーロッパを思わせる、古風で風情のある家もあちこちに見受けられる。


 道路は綺麗に整備されていて、交通機関が充実しているのか、戦争の為なのか、人通りも車も少なかった。よく見ると車にタイヤは無く、自動運転なのか、ハンドルも無かった。


 衣服は、地球とそう変わらないように見え、木々に新芽が吹き出している事から、季節は春だと分かった。


 ユウキは普段着のまま、その辺りを見て歩いた。すると、レンガ作りの茶色い建物に目が留まった。レストランのようである。お金も持たぬユウキはどうしたものかと、その前で考えていると、ドアが開いて、中年の綺麗な女性が顔を出した。


「いらっしゃい。さあ、どうぞ」


 女主人らしい彼女は、戸惑っているユウキを、笑顔で奥の席へと案内した。店内はこじんまりしていて、昼頃なのに客は少なかった。


「すみません。田舎から出て来て何も分からないものですから、少しお聞きしたいことがありまして。……実は、お金も持ってないんです」


 水を持ってきた彼女に、ユウキが頭を掻きながら話すと、


「お腹がすいているんでしょう。お金の心配はしないでいいから、おすすめのランチをご馳走するわ」


 彼女は、見ず知らずのユウキに、何故か親切にしてくれた。


 美味しそうに平らげるユウキを、彼女は、息子でも見るように目を細めて見ていた。


「お幾つ?」


「二十六に成ります」


「そう、私には子供はいないから、若い人を見ると、自分の子供のように思ってしまうのよ。それで、どちらに行かれるの?」


「実は、軍に入って戦おうと思うんですが、戦況はどうなんでしょう?」


「まあ、軍に? この辺りはまだ大丈夫だけれど、北の方では、北極からのミサイル攻撃が続いているらしいわよ。皆、いつ此処へ敵が来るのかと、その話ばかりしているわ」


 と、顔を曇らせた。


「それと、人を探しているんですが、ステラという女性を知りませんか? 軍の幹部だと思うんですが」


 ステラの名を出した途端、彼女の目が光り、周りにいた客が一斉に彼を見た。


「貴方は何者なの?」


「私は、ステラの夫です」


 ユウキは信頼できそうな彼女に、そう答えてみた。


「貴方が、ステラの……」


 彼女は、まさか、というような顔をしてユウキを見た。


「私はユウキ、地球と言う惑星からやって来ました。ステラに会うにはどこへ行けばいいですか?」


 地球から来たというユウキの言葉に、彼女は特に驚く素振りも見せなかった。彼女は、少し考えていたが、


「……奇遇ね、本当に。私は、ステラの叔母のカペラです。貴方の事はステラから聞いています。ステラを無事に帰していただいてありがとう」


 彼女は、そう言って深々と頭を下げた。


「とんでもありません」


 ユウキは、慌てて、彼女に頭をあげるように促した。


「今、ステラに会うことは出来ません。敵のスパイも暗躍していますので……」


 と、カペラは多くを語らなかった。


「又、怪我をしたんじゃ……。 元気なんでしょうね?」


「それは、心配いりません」


「何か訳があるんですね。連絡が着くなら、私が来ていることを伝えておいて頂けますか?」


「分かりました。それから、軍に入るのなら、私の知り合いに軍の幹部がいますので紹介しましょう」


 彼女が何処かへ連絡すると、三十分ほどして、軍服を着た恰幅の良い男が現れた。カペラがユウキを紹介し、男は、自分は近くの基地の責任者で、ダグラスだと自己紹介した。


「この人は、私の知り合いなの。軍に入りたいと言うんだけど、お願いできない?」


 カペラが言うと、


「戦闘訓練は受けているのですか?」


 ダグラスが、ユウキを観察するような眼で、言った。


「受けています。自前の戦闘服もありますので、いつでもお役に立てます」


 ユウキは、そう言ってステラにもらったスーツ姿になった。


「それは!?」


「レグルスに貰ったスーツです」


「レグルス様を知っているんですか?」


「期間は短いですが、お世話になりました。レグルスは、今、何処に居るんですか?」


「それは答えられませんが……」


 ダグラスは、不審げにユウキを見た。


「レグルスかサルガスに聞いてもらえれば、私の素性が分かると思いますが」


「実は、私にも彼らの所在は分からないのです。でも、カペラ様の紹介ですので信用します。よろしければ、基地の方に案内しましょう」


 軍の幹部までが、レグルスの居場所が分からないと聞いて、ユウキは、ステラ達に何が起きているのだろうと、謎は深まるばかりだった。


 カペラに丁重に礼を言って、ユウキはダグラスと共に、基地へと向かった。



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