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超次元戦闘スーツ――ステラ別話  作者: 安田けいじ
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エイリアンの宇宙船

 レグルスとサルガスは、次の日から、基地に泊まり込みで、謎の球体の調査に当たった。彼らには、風前の灯火であるステラの命を、何としても救いたいという、その一点しかなかった。

 有難いことに、米大統領の呼びかけに、世界から優秀なメンバーが集まっていた。大統領も、純粋に彼らを故郷に返してやろうと決断したようである。


 彼らは、扉を開けるポイントを、心、声(音)、電波などに絞り、一つ一つ着実にテストしていった。それは根気のいる仕事で、作業は深夜にまで及び、睡眠が二時間ほどの生活が続いた。



 調査を始めて一月が過ぎると、調査団は、何の進展もない事に苛立ち始めていた。それは、レグルス達の科学力なら、早急に結果が出るだろうと思っていたからだ。

 そんな雰囲気を察したレグルスは、軍と相談し、昼食に酒とご馳走を出して皆の苦労をねぎらった。


 皆、美味しそうに食事し、お酒を飲みながら歓談した。その日はゆっくり休んで、明日から頑張ろうという事になった。



 あくる日、レグルスは、話を整理するために全体会議を持った。


「球体に声をかけた時、何か変化が起きたような気がしたのですが」


 レグルスが皆に聞くと、一人の博士が声を上げた。


「私も同じです。球体が、何かを訴えようとしているような、思念のようなものを感じました」


「では、一度、英語の全データを電波で送ってみてはどうだろう」


 年配の言語学者が言った。


「念のため、言語翻訳装置も使ってみましょう」


 レグルスが、そう言いながら席を立つと、皆もそれに続いた。それぞれに分担を決め、急ピッチで準備が進められ、昼すぎには完了した。


 ガラス越しに球体が見える指令室から、言語データが送信され、翻訳装置を起動すると、球体が仄かに輝きだした。


「オオッ!」


 誰からともなく感嘆の声が上がった。初めて球体が反応した瞬間だった。


「突破口は、開けましたね!」


 レグルスが微笑んで、サルガスと握手を交わした。早速、マイクを通して色々と話しかけてみたが、その日は、それ以上の進展は無かった。



 皆が引き揚げた閑散とした格納庫に、ステラを車椅子に乗せたユウキが顔を見せた。


「ステラ様、動いて大丈夫なのですか?」


 レグルスとサルガスが駆け寄った。


「今日は気分がいいから、ユウキに連れて来てもらったのよ。エイリアンの宇宙船の扉は開いたの?」


 ステラの声は弱々しく、顔に生気は無かった。彼女は、サファイヤ星へ帰る方途が開かれるのではないかと、無理を押してやって来たのだ。


「残念ながら、今一歩というところです。文明の進んだ宇宙船なら、船体を管理するコンピューターが反応するはずだと思うのですが……」


 レグルスが無念そうに答えた。


「ユウキ、私を抱き上げて。球体に触れてみたいの」


 ステラは、ユウキに抱かれながら、球体を手で触り、静かに話しかけた。


「聞いているなら答えて、貴方に危害は加えない。どうしてもあなたの力を借りたいの、お願い……」


 彼女は球体の壁に手を置き、念じるように額を付けた。その時、緑の球体が大きく輝いたかと思うと、ユウキとステラの身体が、球体の中にフッと消えたのである。


 ステラ達を見守っていたレグルスとサルガスは、「あっ!」と驚き、球体に駆け寄った。だが、ステラとユウキが消えた辺りを、触ったり叩いたりしてみたが、入り口らしきものは何も無かった。


 そうこうしている間に、突然、球体がフッと浮きあがったのだ。レグルス達が驚いて飛びのくと、


「格納庫の天井を開けてください!」


 ユウキの声が、何処からともなく聞こえて来た。サルガスが指示通りに天井を開けると、球体は静かに急上昇し、夜空へと消えていった。


「やはり宇宙船だったのですね!」


 サルガスが、夜空を見上げながら、レグルスに言った。


「何処へ行ったんでしょうね。ステラ様は大丈夫なのだろうか?」


 そこへ、どやどやと、司令官や警備兵達がやって来た。


「何があったのです!」


 レグルスは、球体がステラ達と共に何処かへ飛び去ってしまったと、有り体に答えて、


「彼らが、帰るのを待つしかないですね」


 と、結んだ。



 ステラとユウキが帰って来るまで、レグルス達は、約束の新型ロケットエンジンの開発作業に入った。


 引き続き世界の科学者達も加わり、工場内は熱気を帯び出した。レグルスが提供した設計図を基に、部品の発注、製造、組立と、大忙しの日々が続き、驚異の三週間で、エンジンは完成し、性能テストの日となったのである。

 これは、原子力を使った光子エンジンで、光速に近いスピードが出せるのだ。地球文明にとって画期的なエンジンだった。


 テストは大成功となり、一年後に、太陽系を一周する、有人ロケットの打ち上げが発表された。


 完成の祝賀会が終わった頃、ステラは帰って来たが、ユウキの姿は無かった。驚いた事に、ステラの心臓の病は完治し、元気になっていたのである。

 彼女は、宇宙船の操縦の解明に時間が掛かった事、自分たちの星へ帰る目途が立った事、出来る事なら、一日でも早く旅立ちたい事を司令官に伝えた。


 司令官は、政府の決済が下り次第、旅立つ事を許すと答えた。彼らには、エイリアンの宇宙船の事よりも、光子ロケットの方が今は大事件のようで、それはそれでステラ達にとっても都合がよかった。


 翌日決済が下りて、ステラ達は日本への帰路に就いた。


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