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超次元戦闘スーツ――ステラ別話  作者: 安田けいじ
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新たな敵

 レグルス達は、太平洋の流星落下地点の探索に出かけていて、長期休暇を取っていたユウキも仕事に復帰し、ステラと二人だけの平和な日々が戻っていた。


 ユウキは、仕事を終えて、ステラが待つ我が家に帰る事が、嬉しくて仕方なかった。二人の間に心の溝は無くなっていたのだが、彼のただ一つの心配事は、ステラは、故郷からの迎えが来れば、帰ってしまうのではないかという事だった。


 彼女がユウキをいかに愛していても、苦悩する故郷の人達のためなら迷わず帰ってゆく、それがステラだと思った。

 ユウキは、ステラと別れるくらいなら、今の人生を捨てて、ステラと共に旅立ってもいいとまで考えるようになっていた。

 今は、その時に備えて戦闘力をつけておこうと、時間を見つけては修行に励むユウキだった。



 ある日、驚くニュースがテレビで報じられた。太平洋を航行中の米空母“アメリカ”が何者かに襲われ撃沈したというのである。国防大臣は、あってはならぬ事だとして、徹底的に調査し、犯人をせん滅すると息巻いた。

 米軍は、日本に現れた謎のロボットの可能性も視野に入れて調査に入ったが、既にグラースはステラ達によって破壊されていたから、その筈は無かった。


 ステラとユウキは、そのニュースを聞きながら顔を見合わせた。新たな敵の可能性が高かったからだ。ステラは、すぐにレグルスと連絡を取り、調査に向かうよう指示を出した。

 

 ユウキは、再び戦いに備えての戦闘訓練に入り、仕事の合間の、夜と休日を訓練の時間にあてた。師匠はステラである。


 ステラとの訓練は壮絶を極めた。毎日、気を失って目が覚めると家にいた。ステラは人が変わったように容赦なくユウキを叩きのめした。今、厳しく鍛えることが、ユウキの命を護る事になると思ったからである。

 ユウキも、とことん腹が決まり、気を失うまで懸命に拳を繰り出していった。


 そんな激闘が一週間ほど続いた頃、ユウキの目に、高速で動くステラの動きがフッと見え出したのだ。もう一息、もう一息だと、ユウキは心を研ぎ澄ませた。次の瞬間、ドスッ! と鈍い音がして、ステラの身体が数メートルも吹っ飛んだ。初めて、ユウキの拳がステラを捕らえ瞬間だった。


「あ、ごめん!」


 倒れたステラを、ユウキが起こそうとすると、


「油断しないで!」


 彼女の、本気の拳が再びユウキを襲った。



 二週間もすると、スーツの性能にも助けられていたとはいえ、ユウキは、ステラと互角に戦えるようになっていた。ステラは戦いながら、ユウキの成長の早さに驚いていた。拳法の技に磨きがかかり、実践的な格闘技へと昇華されていたのだ。


「この位にしましょう」


 ステラがそう言って、訓練は終わった。


 短期間に無理をしすぎた為か、ユウキの疲れも半端ではなかった。ユウキが、自分のことばかり考えていた時、食事の支度をしている彼女が時折、顔をしかめていることに気が付いた。


「どうしたの?」と聞くと、「何でもない」という。


 その夜、彼女は、気分が悪いと言って早めに床に就いた。ユウキは心配になって、嫌がるステラを無理やり抱き上げ、そのまま病院へと飛んだ。病院の裏庭に下り立ち、人のいないのを見計らってスーツを脱いだ。


「今度は何だい?」


 黒沢医師が笑いながら近づいて来た。一年前に世話になった例の医者である。診てもらうと、心臓が弱っていて、一週間は安静にとの事だった。


「このまま無理をすれば、命を落としてしまうぞ!」


 黒沢は、ユウキを別室に呼んで、ステラの心臓の状況を話した。


「無理はさせるなと言ったのに、どうしてこうなったんだ。エイリアンである彼女の手術は、血液が合わないからこの地球では出来ない。無理をしないで、延命するしかないんだよ」


 ユウキは、ステラの心臓が、そこまで悪化していたとは、夢にも思わなかったので、愕然とした。それを、ステラに告げるべきか迷ったが、新たな敵の事もあり、話すしかなかった。


「そう、そんなに悪くなっていたのね」


 ステラは、驚く様子もなく、冷静に話を聞いた。


「君には、もっと生きてほしい。戦いは止めてくれ!」


 ユウキが、ステラの手を取って懇願した。その目には涙が光っていた。



 一週間入院して、ステラが家へ帰ると、レグルスから連絡が入った。レグルスとサルガスの姿が、ホログラムとして部屋の空間に投影された。


「仲良くやってますか。変わりはありませんか?」


「新婚気分をエンジョイしているわ」


 と、ステラが返すと、


「それは、それは」


 レグルスが嬉しそうに微笑んだ。


「関係者から話を聞きますと、ネーロ帝国のロボット兵器スコーピオンに間違いありません。スコーピオンは、両の腕に、触れるものすべてを破壊するドリルビームを持っています。私共の戦艦のシールドを破ったのも、その武器でしょう。尻尾にはビーム砲も搭載されていますので、注意が必要です。

 米軍が、先ほど所在を特定したようですので、まもなく攻撃に入ると思われます」


「そう、犠牲者を出さない為にも、米軍と共同戦線を張る必要があるわね。正体を隠して、彼らと連携を取ることは出来ないかしら?」


 ステラの問いに、レグルスは少し考えていたが、


「こちらで、ジョーンズという米軍大佐と知り合いになりました。そのあたりから話を通してみましょう」


 と返答した。


「大変だけどお願いね。準備出来次第そちらに向かうから」


 ステラは、レグルス達にねぎらいの言葉をかけ、通信を終えた。


 ユウキは、またぞろ、仕事の段取りをしなければならないと思った。長期に休んだと思ったら、毎日疲れ切った体で出社するユウキに、ちょっと休みすぎだと、同僚からも文句が出ていたのだ。

 仕事自体は、しっかりこなしていたが、休み辛い状況にはなっていたのである。そんなユウキの心を察してか、ステラが言った。


「今回は、私だけで行くから、あなたは仕事頑張って。クビにでもなったら生活できないもの」


「分かってると思うけど、絶対に戦っちゃいけないよ!」


 と、ユウキが釘を刺した。


「……大丈夫。戦いはレグルス達に任せるから」


 次の日、ユウキの新型スーツを着てステラが旅立つのを、彼は心配そうに見送った。


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