独白
独白
「残酷だね」
薄闇に包まれた世界。その片隅で少年のような、少女のような高い声が漏れる。
「またいつものですか? 聞いてるのは私くらいしかいませんよ?」
「それと、お月様だったね。あはは……ほんとに残酷だ。内緒話もできやしない」
笑って、その声は繰り返す。銀色の星空の中心で、黄色い真円が淡い光を放っている。
「自由に生きたいと思ってる?」
「……力を持って生まれたのですから、当然の権利です」
問いかけに、冷淡と言えるほどに落ち着いた声が返る。
「それが、一生懸命に生きている人たちの犠牲の上で成り立ってるとしたら?」
「不特定多数の犠牲なんて関係ありません。私は、私の人生を生きているんですから」
ジッと、こすり合わせたような音がなる。
「ボクも、不特定多数に入ってるのかな?」
それを合図に、方々で響き渡る。しだいに共鳴する様に大きさを増し、膨れ上がるかのように辺りに広がる。
「……わかりません。少なくとも今は」
「いまは、ね」
煩いほどに響く今際の声の中で、二つの声は静かによく通った。
「ボクも自分のために。自由に生きたい。それでも、ある特定の人のために行動したくなることもあると思うんだ。非合理でもね」
「……それもまた、自分のためなのでは?」
「ほんとに残酷だ。自由に生きるために縛られるなんて、それを心地よく思ってしまうなんて」
発言の内容とは裏腹な愉しげな声。それに呆れたような声が返る。
「明日も早いですし、告解なら聖職者にでもしたらどうです?」
「……そうしたいところだけど、今会いに行くわけにもいかないし。それに……」
「それに?」
「生憎と、神は信じない性質なんだ」
その声を最後に、世界から音が消えた。