人間至上主義
処女作。いつか書き直そうと思ってます。
人間至上主義
「まいったな……」
四方を見ても壁はなく、見上げても、見下ろしても、空もなければ大地もない。そこにはただ乱暴に、空間の概念がありました。
その真ん中で、信じることが力になる。そんな世界を見下ろし、「神様」は言いました。
信仰が足りなくなった世界にできた、ほんの小さな綻び。決して無視できない、世界の矛盾。崩壊の兆し。
「神様」は「魔力」という、信仰とは反対の概念でこれを覆い隠すことにしました。
「魔力」を管理する存在も派遣して、我ながら完璧。
しかし臭いものに蓋をしたつもりが、蓋が異臭を放ち始めたのです。人々は放っておいてもあふれてくる便利な力を手にし、代わりに信仰を失っていきました。足りない信仰は綻びを大きくし、もっと大きなもので蓋をし、もっと便利になる力を人々が使う。
いわゆる、悪循環というやつです。いつからか、人々は本来の信仰を失っていきました。
他人のことを考えず、自分の都合で行動し、自分の解釈で判断し、見返りとして縋り付く。
それはひどく滑稽な現実逃避。あがめる言葉は定型文。
人は、そうやって見返りのために神を信じることを「信仰」と、そう呼ぶことにしたようです。
「これは……詰んだかな?」
魔力を扱える存在の数を定数化したり、それらの行動パターンに枷をつけたり、信仰の在り方を布教したりと、手は尽くしました。
しかし、衰退した信仰が戻ることはなく、気が付けばすぐそこに黒い影が……
「主よ」
「……何だい?」
「生贄が送られてきました」
どうやら、仕事が増えたようです。傍らに控える天使を下がらせ、紙とペンとを取出して。
「もう一つ、報告したいことがあります」
「今度はなんだい? 悪いニュースじゃないといいんだけど……」
空中に差し出された紙には、一人の人間が映っていました。神を信じていないようです。
最近増えているので特に気にすることはないのですが、どこか懐かしいにおいがします。
「これは……面白い。終わらせるのは惜しいね」
どうやら、あきらめるにはまだ早いようです。神様は別の紙を取り出して上機嫌でペンを走らせ、送られてきたばかりの生贄を呼び出しました。
本人達の知らないところで、最期のゲームが始まったようです……。