セピア色の思い出
セピア色した昔の思い出。
彼は私のもとを去った。
それから一切の連絡もよこさないで...。
海辺の寒々とした冬の浜辺を歩く二人。
彼は言った。
「君とこうしていられるのもあと少しだな...」
「どうして?」
「それは僕はとても、とても重い病にかかってるからさ」
彼女はそれ以上訊くのをためらったが、勇気を出して訊いてみた。
「どんな病気?」
彼はフフッと少し自嘲気味に笑いながら言った。
「この世にある全ての歯車から、僕は取り残されてしまったように感じるんだ」
「思い過ごしじゃない?」
空の青は少し雲の体積に侵食されて、影が薄く見えた。
「だから、僕はここで君とサヨナラする。。。じゃあな」
と言いかけた瞬間、彼はピストルのトリガーを頭に向けて撃った。
......。
しかし何も起こらない。
「む、なんでだ?確かに玉を入れておいたはず...」
彼はまるでパニックにおちいっていた。
「あなたに自殺願望があることくらい、当にわかってたわよ。だからこっそりあなたの隠してたピストルの玉を抜いたの。無鉄砲な行動、ニヒルなムード、どれをとっても自殺志願者のそれよ」
彼は涙した。
「おれは、、、生きてていいのかな?」
彼女は彼をそっと抱きしめた。
「いいに決まってるでしょ?」
紅に染まる夕日が二人を照らしていた。
影と影が二人を映し出す。それはまるで映画のワンシーンのようだった。
その次の日の朝、彼女はふと目覚めて、となりに彼がいないことに気がついた。そしてそこには置き手紙が置いてあった。
「捜さないでください『正常な世界』にいる君をこれ以上僕の歯車の狂った世界で汚してしまうことは、心が痛むから」
彼女は思った。彼は生きているのか死んでいるのかわからない。彼の言う、その歯車とは何なのかもわからない。ただ、彼に生きていてほしいと。