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008 専用曲とかあったほうが

 たくさんの精霊たちを引き連れてそう遠くもない距離を歩き屋敷の近くまで辿り着くと、どこかへと向かう途中のお姉さんと行き会った。



「あら、お帰りなさい。随分早いのね?」

「……えーと。ただいま戻りました。あの、お姉さん……。後ろの、それは……?」

「え? ああ、この子たち? お掃除だけなんだけれどお手伝いしてくれる道具なの。それぞれの内部に『指示書』と呼んでいる部品が付いていて、その指示の通りに掃除をしてくれるのよ。でも、あんまり融通が利かなくて。こうして一緒に作業するのが一番効率的なの」



 どうやらお姉さんの後ろのはたき、箒、モップは自立自走するものらしい。

 彼らは立ち止まるまではしゃなりしゃなりと歩いていた。まるで自らが無機物であることを忘れたかのようなしなやかさで。正直、ホラーだった。



「……えーと、僕からはかなり自由度が高そうに見えますけど。融通、利かないんですか?」

「自由度? それはよく分からないけれど、例えばね、屋敷の一階の掃除を頼むと配膳の済んだ食堂でも、誰かが作業中の机の上でも、指示通りに掃除を始めてしまうの。みんながあれこれと『指示書』を書き換えてようやくここまでになったけれど、全てを任せるまでにはなっていないのよ」



 だって、自分たちで掃除したほうが簡単だったんですもの。

 お姉さんはそんな身も蓋もないことを言って苦笑した。

 まあ、あの倉庫を作り上げた人たちなら全自動掃除機なんて不足なく調整し終えててもおかしくないのに、現状でそうじゃないということは大して必要な機能でもなかったってことなんだろうな。

 でもさー……。自作の機械が想定通りに動くとか、イイよね? ね?

 よし、決めた。今のところ仕組みは全然分からないけど、「全自動掃除機を完成させる」をひとまずの目標にしよう。ゲームでもリアルでも、目標も目的も無しに好きにしろとぽーいと放り出されたらクソゲー評価一直線だから自分でどうにかしないとね。



「それで、みんなこんなに集まって何かあったの?」

「あー、それが……。素材集めをしていたらみんなが僕に、って色々くれたんです。そうしたら鞄が一杯になっちゃって。なので仕舞いに来ました」

「まあ……。ふふ、この子たちも久しぶりだからあなたに構いたくて仕方がないのね」



 わー、わーうー!


 だってこの子しんぱいー。知らないことてんこもりなのー。びびりー。へなちょこー。

 ちょっと! 最初の一人以外、悪口じゃないのそれ!?



「そう、ね……。以前は上の子たちから教わっていたのだけれど、今はそれも難しいから……。でも、あなたが寝ている間に大樹が基本的な知識は与えておいたとは言っていたし、実際に言葉の問題などはないでしょう? 他の事はこれから徐々に覚えたらいいわ。ね?」



 わーう!


 おまかせー。

 わーにんが何やら安請け合いをしているけど、何をする気でいるんだろう。分からない時には聞くから普通に教えてくれるだけでいいからね? くれぐれも「普通に」でお願い。



「ふふ、そうだったわね。紫燐精霊が三人も付いているのだもの、きっと大丈夫ね」

「あれ? 三人も、ってもしかして多いほうなんですか?」

「多いほうというか、複数の紫燐精霊が付いたのはあなただけのはずよ。……ええ、やっぱり他にはいないわよね」



 僕から少し視線を外して、お姉さんは大樹お母さんに確認を取った。

 え、ほんとに? 僕、通常の三倍? 颯爽たる僕? じゃあ専用曲とかあったほうがいいんじゃないですか?

 浪漫溢れるフレーズを思い出して、僕はちょっと浮かれる。

 いやでも、これが三倍で何になるというのか。



 わー?


 首を捻る僕と一緒になって、わーにんたちが頭部を傾ける。

 気を付けて、上の団子がぽろっと落っこちるよ。

 そう思ったので人差し指で真っ直ぐに戻してやったら、面白がって余計に押し付けてきた。意図せずのもにもにに、僕の指も大喜び。



「あの、お姉さん。この子らが多いと、何か変わります?」

「えぇと、何かあるかしら……? 大樹、どうなの? え、便利? どんな風に? 大樹……? 小さいことに拘っては大きくなれない、ってなんのこと?」



 ……なんか、覚えのある言い回しだな。

 まあ、通常二つの団子が僕には六つ、お得なのは確かだからそれで納得しておこうか。


 わーう、わっわーうー!



「ん? あ、そっか。ごめん、今行くね」



 ただ待っているのに焦れたのか、大勢の精霊たちがここから倉庫に続く扉までを人垣で花道を作るみたいに集まっていた。

 すみません行ってきます、とお姉さんに告げて足早に倉庫前室に入り操作盤の前に立つ。

 えーと、トラックボールに触ればいいのかな。

 おお。そっと手を触れると何も表示されていなかったディスプレイにこちらの文字で「〇〇一」の文字が見えた。そのまま手の平を上に動かすと「〇〇二」、その後で「〇〇三・ディジアール」となる。

 んー? 僕のだけ名前も表示されるんだ。そこら辺の違いはよく分からないけど、今はまあいいか。

 僕の名前が表示されているのを再度確認。そして「長押し」を意識して手の平でトラックボールに触れると、かちりと音がした。

 これで良いのかな?

 扉の上の表示灯が点灯しているのを見、ゆっくりと倉庫への扉を開く。

 おおお、()(さら)ー。

 昨日見せてもらったお姉さんの倉庫はもちろん綺麗だった。でも目の前のこの新品な雰囲気というか空気感というか、それってなんか独特な感じだよね。



「ディズ? 大丈夫かしら、手伝いましょうか?」

「あ、はい大丈夫で……。大丈夫、なんでしょうか……?」



 昨日は気付かなかったのだけれど、扉のすぐ横には大きな籠があった。近くにいた精霊から、仕舞うアイテムをそこに入れちゃってー、と促される。大樹お母さんと彼らとで僕の倉庫にきちんと仕舞っておいてくれるらしい。ありがたい。

 でも……。


 わーうわうわうーー。

 わっわわうーわー。

 わわわわうーわわうー。



「……」



 これあげるのー、とそれぞれが思い思いの品物を手にして並んでくれてるのに受け取った(そば)から即倉庫行きとか、僕の人間性大丈夫? まだ「可もなく不可もなく、普通にいい人」として世間が納得してくれる程度に(とど)まれてる?



「どうかしたの? 何か分からないことでもあったのかしら?」

「お姉さん。僕は今、ヒドいことをしていませんか?」

「え?」

「だってですね……」



 懸念を伝えると、ぱちりと大きく瞬きをした後でお姉さんはくすくすと笑った。



「そんなこと、気にしなくて大丈夫よ。いらないからと捨てられてしまったら悲しいでしょうけれど、あなたはちゃんと仕舞って取って置こうとしてくれているのでしょう? 一つもひどいことなんてないわ」



 わーう!

 わううー!


 そうともー。気にしないのー。

 やり取りを聞いていた精霊たちはそう言って、自ら籠に放り込み始めた。

 あ、いいんだ。そんな雑な感じでいいんだ。

 随分手荒に扱うなぁ、と見ていたらどうやら籠の中にも精霊がいたようで、よいさーほいさーと器用に受け取っていた。



「ほらディズ、あなたも。鞄の中にたくさん入っているんでしょう?」

「あ、はい。それじゃ……、はいこれ。よろしくね」



 わーうー!


 じゃんじゃん持ってきてー、ってそれじゃ呑兵衛(のんべえ)でしょうが。

 それにしても、こんなに入れちゃって下のほうのは潰れちゃわないのかな……、あ、間に精霊がいる。新発見、緩衝材にもなるんだ。

 ついつい精霊たちの働き振りに見入っていた僕に、お姉さんが問い掛ける。



「この後はどうするのかしら? 採集はもうおしまい?」

「あ、いえ。湖があるそうで、そこに行くつもりです」

「そうなの。だったらこれを持って行って。鞄は空いたのよね?」

「えーと? あ、お弁当! いいんですか? ありがとうございます!」

「……ディズ。倉庫に仕舞わなくていいの、お昼に食べるの」

「え、だってもったいない……」

「もったいなくないの」



 えー、初お弁当なのに。倉庫に入れておけばそのままで保存できるのに。

「ダメ?」と駄目元で問い掛けたけど「ダメ」と明確に駄目出しされた。残念。



「はい。ちゃんとそれを持って、行ってらっしゃいね。湖は大樹の前を右に行って少し歩くと看板があるから、それの指示通りに向かうといいわ」

「右に行って、看板……。分かりました、ありがとうございます。それじゃ、行ってきます」

「ええ、気を付けてね」



 送り出してくれるお姉さんと精霊たちに軽く手を振って、まずは大樹お母さんのところへ。

 えーと、ここを右、と。

 お母さんにも行ってきますと告げて先を行こうとすると、目の前に突然何かの果実が現れた。



「ひょ……っ? え、お母さん?」



 大樹さまの実ー。おいしいー。元気ばくはつー。

 手を差し出すと、桃よりももっと淡いピンク色の実がぽとりと落とされた。……あ、この香り。お姉さんが食べさせてくれた、昨日の果物かな? 確かにおいしかった。

 ん? あれ? ちょっと待った。僕、『実』としてこの樹に生ってたんでしょ? で、この実って……。



「僕、兄弟食べちゃったー!?」



 わさー!?

 ぴいぃー!?



「だって僕、お母さんの『実』でしょ!? で、こっちもお母さんの実でしょ!?」



 わっさわっさわっさ! わっさー!

 わううー! わう! わう!


 そうだけど違うのー! ぜんぜん別なのー! 大っきくなる実とおいしくなる実はきょーだいにはなんないのー!

 あれ、違うの? じゃあいいや。

 ああ驚いた、と胸を撫で下ろしていると、大樹お母さんもわーにんたちも酷く疲れた様子だった。お騒がせしました。



「いただきます、ありがとうございます」



 手に持った実を少し掲げてお礼を言うと、わしゃわしゃわしゃわしゃと帽子越しに頭を撫でられた。触られている感覚はあるけれど、これまでのより多めに撫でられたのにさして衝撃がない気がする。『堅牢たる麦藁帽子』様、ちゃんとすごいのかもしれない。

 さて、そろそろ行こうかな。

 行ってきますともう一度挨拶をして、僕はその場を後にした。



 △▼△▼△▼


 えーと、看板看板。あ、これか。

 木製の看板を確認すると四角の枠が描いてあり、そこに手を置くようにと指示があった。



「手を置く、ってなんで?」



 意味の分からない指示に首を傾げると、倉庫とおんなじー、よびだすのー、と教えてもらう。

 よくよく見てみれば『チョーミ湖』のほかに『春の畑』や『夏の畑』などにも繋がっているらしい。なるほど、畑は共同で使用するんじゃなくて不思議パワーで専用になってるんだ。

 そう納得して手で枠に触れると、やや間を置いてからかちりと音がした。

 たぶんこれで良し、と。

 道なりにまた少し進むと分岐点に行き着いたが、一本の道以外は皆、進路を妨げるように葉が繁っている。お母さんの葉じゃなくて、緑色をした普通の葉っぱだ。本当に普通かどうかは僕は知らないけどね。

 それぞれの道には行き先が書かれた標柱が立っていて、どうやら『チョーミ湖』以外に続く道が塞がっているらしかった。

 でもこれ……。



「僕でも簡単に跨げそうなんだけど」



 ぴ!?

 わーにん! わーにん!

 うわわわわわーにーーん!



 出来ちゃうよねー、と跨ぐ素振りを見せるとわーにんたちがわーにんし始めた。あ、そんなにダメなの?


 うーうううー……。

 わぁーにぃーーん……。


 ちょっと、なんで咽び泣くの? 僕まだ無事だよね? 僕だけが気が付いてないとかじゃないよね?

 僕に縋り付いてぴぃぴぃ泣いてる三人を手で捕まえて、全員まとめてもにもにして宥める。



「ごめんごめん。湖行こうね」



 ぐんにゃりして静かになったのをこれ幸いと、湖への道を進んだ。

 うーん、湖に着くまでにも何か拾えるかと思ってたけど特にないなー。

 さっきの「今日は食材探し」って軽口、まだ有効なのかも。葉とか花とか、採取出来そうなのがいくつかあったのにその辺りには精霊のお知らせがなかったんだよね。

 一方で、食材であるきのこは光ってたけど、これはもう精霊に貰ってるからまた後でで良いかな、って僕の判断でスルーしてる。

 結局新しい入手品がないまま、『チョーミ湖』に到着。



「うわあああー……。すーごーいー」



 僕の思う「湖」とは大違いの光景が、眼前に広がっていた。

 白く輝く砂浜。繰り返し繰り返し寄せる波。そしてどこまでも青い空。見た目は限りなく海寄りの風景だけど。

 これしおー。これにがりー。

 聞く前から教えてくれる素晴らしく有能な精霊たちが言うことには、砂は「塩」、湖水は「にがり」、なんだって。

 塩はともかく、水がにがりの湖があるか!! ……海もないか。なんで海水通り越してにがりになってるんだろう。



「……考えるなー、考えるなー。己の目で見、耳で聞いてしまったことはすべて、ここでの『現実』なんだー」



 ぐんにゃりから再起動したわーにんが、どこから出したのか小さめの布袋を渡してくれたので、これにも敢えてツッコミは入れずに大人しく塩を採取した。にがりは必要になったらでいいや。

 ……。思わず採ってたけど今日の目的は醤油だった。


「醤油、どこにあるか分かる?」



 わーにんに聞くと、僕の塩採取を見ていた精霊たちもが揃って一方を指した。

 んんー? 醤油を造っていそうな建物はないけど。洞窟とか地下とかかな。

 ぱたぱたと手を叩いて立ち上がり、そちらの方へと向かってみる。



「……どこー?」



 ちょい右ー。そこを真っ直ぐー。

 言われるまま歩いたというのに、施設らしきものは何もない。再度問い掛けると、彼らは真上を指し示した。

 これー。みしょの実ー。しょっぱしょっぱ。

 ……。まさか果実として木に生ってるとは思わなかったな。うん、まあ、大豆から作れと言われてもたぶん出来ないからこれで良かったんだよ、きっと。



「えーと、もぎ取っていいんだよね?」



 グレープフルーツに似た果実に乗っかって、ここここー、とアピールしている一人に聞いてみる。

 鋏じゃないとダメかな? と、果実を眺めている僕にと、精霊たちが素材を手にしてまたもや行列を成した。



「……ありがとう、助かります」



 わーう!


 目当ての『ミショの実』に、わさびに似た何かの根っこ……、あ、これわさびなの?

 ……あっさり目的を達成できちゃった。

 へー、そこの沢に生えてるんだ。なるほど。

 えーと、この白い葉と黒い葉はよく似てるっぽい。……胡椒? この葉っぱ両方とも? しかも根っこはわさび? わさびは普通なのかと思ったけど、時間差でファンタジー要素がやって来た。

 この葉っぱと、『甘白花(かんはっか)』という名の白い花の花弁は乾燥させて砕くとそれぞれ胡椒と砂糖になるらしい。乾燥させて、っていうと乾燥前のものが結構な量必要になるんだよね。塩なんて砂扱いで拾うだけなのに。ありがとう塩、感謝を忘れず大事に使うよ。


 ……新着情報のある事典が鞄の中で蠢いているのは絶対に気のせいだから無視無視無視。

 さてこれからどうしようかと考えていると、わーにんたちが勝手にお姉さんのお弁当を鞄から引っ張り出してきた。

 ごはんー。たべよー。どらかつさんどー。

 ああもう、勝手に……。ところで「どらかつさんど」って、もしかしなくてもドラカツのサンドウィッチ?

 ……それ、また食事効果が付くんじゃないの?


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