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007 さすが大樹さまー

 えーと、玄関を出て右に大きな箱、と。あった、あった。んん? 何か光って……、あ、精霊だ。おはよう。


 わーう!


 仮称・出荷箱の上で寛いでいた『銀燐(ぎんりん)精霊』は、僕が挨拶をするとどこかへ去って行った。

 さらに視界の端で光るものがありそちらを見るとドアノブの上でバランスを取って遊んでいるふうの、土属性の『橙燐(とうりん)精霊』がいる。



「……何してんの?」



 わう!


 ここここ、中見てー、とアクロバティックに言うので屋敷の中を覗けばそこは倉庫の前室だった。



「ああ、ここからも出入り出来るんだ」



 ほうほう、と納得しているとこの橙燐精霊もまたどこかへと飛んでいく。

 もしかして、僕に知らせるためにここにいたの?

 そう呟いた僕にわーにんが、そうなのー、と返事をする。なるほどね。近くにいる精霊が教えてくれるって、事典だけの話じゃなくてこういうのもなのか。

 ありがとねー、と去って行ったほうへお礼を言って、当初の目的である森へと向かう。



「……あっちこっち、きらんきらんし過ぎじゃない?」



 わうー?


 わーにんたちは不思議そうにしてるけど、地面の石やら木の根元やら葉っぱやらが色とりどりにもの凄く光ってるよ……?

 光の強いところには精霊がいて、少し弱いところは精霊がいた(あと)のよう。そして光が消えそうなところは精霊がやって来てちょっと留まってからまた去って、とやってるものだから一向に減りやしない。

 うー、ちょっと眼に厳しい。



「あのさ……。これ全部、注目しなきゃいけないポイントなの……?」



 わーにんに怖々問い掛けると、気にしないでー、だって。

 花とか実とか育っている最中は取らないでほしい、だけど成長しきったらじゃんじゃん持っていってほしいからお知らせしてるだけ、必要じゃないなら別に放っておいて構わない、ということらしい。

 なんだー、良かった。さすがにこれらを全部回収してたらもうそれ以外何も出来ないよ。



「それじゃあ、今日は食材を中心に探してみようかなぁ」



 そう言ったのは、ほんと軽い気持ちでだったんだけど……。

 木の葉っぱや地面の石なんかの光がしゅっ、て消えて、果実やきのこ、ハーブっぽい葉のあたりがギンギラと光り出してしまった。


 わー!

 わう! わーう!


 歳末の商店街で「ちょっと良いお肉、買っちゃおうかな」なんて漏らせばお肉屋さんがハッスルしちゃうのは当然だ。

 ……うん、つまりはそういうことなんだ。

 これ! これおいしいから持っていって! このきのこと葉っぱでスープになるんだって! この実、「しょーゆ」と「わさび」で食べるって聞いた! 作って作ってー!

 とまあ、大騒g――、ちょっと待て最後。今何言った?



「醤油とわさび、知ってるの!?」



 わうー?


 当たり前じゃーん? みたいな顔を全員でするの止めて。

 いや、そんなことよりも!



「どこー!? どこにあるの、教えて!」



 ぴぃー!?


 醤油&わさびという最強コンビの名を出した闇属性『藍燐(らんりん)精霊』をぴゃっと鷲掴みにして、もにもにと感触を楽しんでから問い質した。

 だって醤油、大事じゃん!

 すごくおいしかったけど夕食、朝食と洋風が続いて少しだけ不安に思ってたんだよね。和食あるのかなって。それにはこのコンビは重要な要素なので是非とも……、ってもにもにしすぎてぐんにゃりしちゃった。ごめん。


 わーうー。


 代わりにわーにんが、湖のほうー、と教えてくれた。『チョーミ湖』と言うらしい。湖があるんだ。うーんと、その湖の近くで造るなり保存なりをしてるってことだよね。



「それ、僕も譲ってもらえるの?」



 うー? わう。


 良いんだ? やったー! 醤油ー醤油ー。出来れば今日にでも食べたい。

 聞けば、湖に行くのはここで採集してから向かっても充分余裕らしい。じゃあ今教えてもらった、醤油で食べるとおいしい実っていうのを採らせてもらおうかな。僕も食べてみたい。



「おいしい実って、どれ?」



 ぐんにゃり中の藍燐精霊をちょいちょいと突いて起きてもらう。はっ、と身を起こして浮き上がった精霊はふらふらと大きく蛇行しながら誘導してくれた。……ほんと、ごめん。


 わう!


 少し歩いたところで、びしっ、と精霊が指し示した先にあったのはバナナに似た果実だった。でもバナナのように房になってるんじゃなくて一本ずつ、それもかなり太くて長い。あの大きさなら重さは普通のバナナ五本分くらいありそう。朝ご飯にこのサイズのバナナが出て来たら確実にお腹が苦しくなるね。



「んー……、とーどーかーなーいーっ」



 飛び跳ねれば指がちょっと届く分、諦めが付かない。

 うーん、でもどうしよう。


 ぴぃ!



「え、うわ……っ」



 小さな掛け声と共に精霊が何かをしたようで、目当ての果実が突然落下し僕は慌てて掴み取った。

 あっぶなー! これ頭に当たったら結構痛いよっ?

 どうやら、どや、と得意気な『緑燐(りょくりん)精霊』が風を起こして実を切り離してくれたらしい。

 いきなり危ないことしちゃダメでしょ、と叱る僕の言葉に、けれど彼らはわーにんと一緒になって「何がー?」と首を傾げる。

 果実は地面に落ちる前に精霊の誰かが受け止めるはずだったし、僕に関しては紫燐精霊が絶対に守るからこれもやっぱり問題なしで、何を叱られてるのか分かんなーい、だって。



「えー……。絶対に守るって、君らがー? どうやってー?」



 全く信用出来ない話だったので嫌味っぽい口調になっちゃったんだけど、それがわーにんたちをひどく刺激してしまったらしかった。


 ぴ!?

 うー、わう!

 わー!



「ひょ? み……っ、ぎゃあぁぁぁ!?」



 ちょっと待てー!

 わーにんの号令を受けて、その辺りにいた紫と銀色以外の六色の、百に近いと思しき数の精霊が攻撃を仕掛けて来た。その時僕に出来たのは、両腕で頭を庇うことぐらいだ。

 もにゅんもにゅんもにゅんもにゅん。

 ……だけれど、受けた衝撃は昨日精霊たちが僕に突撃してきたのと同程度のものに過ぎず、ものすごくシリアスに構えまくっていた僕は呆気に取られた。



「……は?」



 わう!


 わーにんが、遠慮なく褒めろー、と言わんばかりの眼でこちらを見てくるけど僕には何がなんだかさっぱり分からない。



「せーつーめーいーしーろー!」



 ぴ、ぴぃぃぃ……。


 うわ、すっごい伸びる。面白い。

 がっと掴んだ「おめが」の頬をみょーと横に引っ張ると、どういう仕組みなのかどんどん伸びてくる。そして手を離すとしゅうぅぅ、と泡が小さくなるみたいに元に戻った。



「で、今のはどういうつもりだったの?」



 わー、わう。わううー。


 さっぱり実感は無いけれど『紫燐光(しりんこう)』というので僕を包んでいるから、六属性の攻撃は全部無効化してるのー! なんだって。

 六属性ってそれ、特大バナナが頭に当たった場合は無意味じゃないの? と問うと、帽子が良い仕事ー、と返された。



「帽子? これ、すごいもの?」



 普通の麦藁帽子に見えるけど。

 ん? あれ? なんだろ、鞄の中が何か……。そっと中を覗いて見ると「しーた」が事典をせっせと揺すっていた。何してんだ。


 うー、わう!


 やほー、とでも言うように片手を上げて鞄の中から出てきた。

 事典に新着情報があるときに、ああやって知らせるんだって。まさかのバイブレーション機能。オフにして良い?

 まあ折角だからと事典を開く。

 麦藁帽子も新着でいいのかな。あ、あった。えーと?



「……」



『堅牢たる麦藁帽子』ってなに? 材料に『不死鳥の羽』ってあるけど本気? 『物理防御』『魔法防御』とかって項目、必要?

 ……ああうん、はいはい。すごい帽子だということはよく分かったよー。


 自分では見えないけど恐らく虚ろな眼をしながら、ぱらぱらとページを捲る。

 あ、これ夕飯に食べたカツだ。『ドラカツ』? 『ドラゴン肉』?

 え、ドラゴンてドラゴン? 「世界を半分こしない?」って持ち掛けてきたり、タマタマを集めると願いを叶えたりしてくれる、あの?

 まあね、随分大きいチキンカツだなとは思ったよ? でもそんな大層な食材だとは普通思わないじゃん……。

 ううう……。伝説級の珍味をおいしい以外の大した感想もなく食べちゃった。


 あと、どうやら料理には時間限定で能力が上昇するといった効果が付くようでそれは大歓迎なんだけど、ドラカツの効果が『全属性攻撃力アップ、全属性耐性アップ』というのは絶対に誤植だと思う。

 だって戦わないのに攻撃力アップしたって……、いやいやいや、まだ効果継続中ー、とか言われても食べてから既に十二時間以上経ってるんだよ? 間にしっかり睡眠も取ったし、それでも継続中っておかしいでしょ。全然時間限定じゃなくなってるよ。さすが大樹さまー、ってそういう話じゃない。

 それにこういうのって、後から食べた分で上書きされるものじゃないの? ……そっちの効果も重複? 『物理攻撃力アップ』? あのさ、それが本当なら今の僕、人型の急造兵器になってない? さすが大樹さまー、ってちょっと黙れ。


 ちなみに、のちにわーにんから聞いた話。

 例えば『移動速度アップ』に加えて『移動速度ダウン』が付くとどうなるかと言うと、どちらも無効化はされずに併用して発動、でも効果としては相殺、となるらしい。

 無意味じゃないかと言うと、でないと土属性と風属性とで無効化しちゃって同時に使えないとかすっごい不便ー、と返されてなるほど納得だった。


 無効化するのは有効時間が過ぎた時と、無効化させる薬とかを使った時、それから同じ内容の効果を重ねた時だけど、この場合は先に発動していたほうが押し出される形で消えるので敢えて重ねることで途切れさせることなく運用することが可能なのだとか。


 他には、同じ内容の効果と言っても『移動速度アップ』『移動速度アップ+』『移動速度アップ++』はそれぞれ別だから併用出来る、効果を受けないための薬や装備があるからただ料理を楽しみたい時には用意しよう、などを教わった。ありがとう、わーにん先生。



「んん? そういえば、この事典って自分で書き込まなくていいんだ?」



 それは楽だけど、じゃあお姉さんからペンを借りた意味が無いよね。

 そうぼやいたら事典の収録内容は大樹お母さんの管理下で共有、余りにもおかしいのは後から確認が入る、気にせずじゃんじゃん書き換えておっけー、とわーにんが言う。

 アイテムを入手するか、貰い物でも借り物でも使用したことがあれば情報は全部が開示、材料の一部を入手した場合はそれを使うアイテムの名前や種類は何かとかの一部分が開示されるんだそう。

 ついでに、全面開示されたページの、種類順に並べたときの前後になるアイテムも名前とか一部分が開示になるらしい。親切設計。

 ……お姉さんに色々借りて使わせてもらったらどんどん埋まっちゃいそう。ゲーマー的にはそこら辺は気を付けたい。



「あ、この『黒フィーオの実』ってこれかな?」



 事典に載っている絵と、一旦鞄に仕舞っていた果実を見比べる。

 ふーん、「刺身にするとおいしい」ってはっきり書いてある。触ってみた感じだと皮は硬くて、バナナと同じやり方で皮を剥くのは難しそう。手触りがちょっとかぼちゃのようだったから切るのに苦労するかと思ったけど、包丁で簡単に皮が剥けると書いてあるので一安心だ。

 特にバナナのようなにおいも、他の何かのにおいもしないなー。アボカドみたいなもの? 確かあれもわさび醤油で食べるよね。

 まあ、いっか。とりあえずこれは仕舞って他のも探s――。



「……なにしてんの、君ら」



 事典と黒フィーオの実を鞄に仕舞って顔を上げたら、なぜなのか精霊たちが集まっていて、わーにんたちはそれを整列させていた。


 わう!



「え、え……? ありがとう?」



 先頭の精霊から黒フィーオの実によく似た、というか色違いっぽい果実を差し出されて思わず受け取る。

 明らかに精霊のほうが果実より小さいんだけど、軽々と持ち上げてるように見える。よく持てるな。どうやってるんだろう、コツとかあるのかな。

 その後には、やはり色違いのフィーオの実、それからメロン、桃、梨に似た果実、きのこやハーブなどを次々と渡された。

 彼らが一体何を思ったのか知る由もないけれど、提供された品々を僕はせっせと鞄に詰めた。詰め続けた。けれど、詰めても詰めても終わりやしない。数は力、って上手いこと言ったもんだよね。

 そして程なく、僕の鞄は限界を迎えた。



「これ以上はむりー! そんなに入んないよ!」



 わう~……。


 しょんぼりされても入らないんだってば……。

 仕方がない、戻って倉庫に入れないと。



「わーにん、一度帰るよー」



 わう!


 並んでくれていた精霊たちにごめんねと謝って、さっき通って来たばかりの道を引き返す。


 わーうー。


 いくらか進んだ頃、頭に乗っていた「さんかく」がぺしぺしと叩いて僕の注意を引いた。



「んー? なに、どうしt――」



 ひょ……っ? び、びっくりした……。

 何にって、振り返ったら精霊たちが整列したまま付いて来ていたからだ。

 彼らは通常、ふわふわと浮いて移動している。加えて、いつもは騒々しいのにどうしたわけか今は皆が皆一言も発していなかったせいで、僕は自分の後ろにこんな行列が出来ていたなんてまるで気が付かなかった。



「えぇと……。さっきから、みんな一体どうしたの?」



 わー、わうー。


 お構いなくー、って言われても……。この状況を構わずにいるのって難しいんだけど。

 どうしたものかと困惑しているとわーにんが、いいから帰るー、とせっついた。

 いいから、って、えええー……。


 わーう。


 え? 今持ってる食材を渡したいだけー、ってそうなの?

 先頭で葉野菜のような何かを持っていた『赤燐(せきりん)精霊』に訊ねると、サラダにいいんだってー、とどこかズレた助言をくれた。

 僕が受け取るのを前提に話してるよね。まあ、くれると言うならありがたく貰おうじゃないか。



「じゃあ、みんなで屋敷まで行こうか」



 そうして僕はなんとかの笛吹きの如く、様々な光を従えて屋敷までを練り歩いたのだった。


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