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8話:解けて消える杞憂

 影の巨竜が消え去ると共に、暗く染まっていた空も晴れ、再び穏やかな光が降り注いだ。

 死闘の終わりを再確認し、聡哉はゆっくりと大地に降り立つ。

 少し離れた所から、ミラが駆け寄ってくるのが見える。


「聡哉! まさか本当に勝っちゃうなんて思ってもなかったわ! 貴方は私の自慢の弟子よ!!」


 ……いや、命を助けてもらったのは間違いないが、師匠でも何でも無かったような……?

 そんな事を考えていると、その後ろからレメゲトンが拍手をしながらゆっくりと歩いてきた。


「全く。私もまさかああも鮮やかに勝たれるとは思ってなかったわ。 貴方は私の自慢の弟子よ」


 ……確かに能力を目覚めさせてもらったのは間違いないが、弟子と言うほどの事だろうか……?

 二人とも、大恩人なのは紛れもないのだが。

 またもそんな事を考えていると、不意にレメゲトンが呟くように言った。


「こりゃあ杞憂に終わったわね。私の心配も、明音(あかね)ちゃんの心配も」


 明音。その名が耳に飛び込んだ瞬間、全身を雷に打たれたような衝撃が駆け巡った。


「なっ……!? ね、姉さんと知り合いなんですか!?」


 三島明音。紛れもなく、聡哉の姉の名だ。


「ええ。数日前に知り合ったのよ。察してはいたけど、やっぱり姉弟だったのね」


 ミラが話していたのは、本当に姉の事だったという訳だ。

 まさか、こうもあっさりと手掛かりに辿り着けるとは。


「そ、それで……! 姉さんは今、どこに居るんですか!?」


「残念ながら、私達の町にはもう居ないわ。しばらくは滞在するのかと思ったら、あっさり旅に出ちゃったのよね」


 流石にそう上手くはいかないか。聡哉はめげずに質問を重ねてみる。


「そうですか……。それじゃあ、どこに行ったのかはわかりますか?」


「それなら聞いてるわ。その時の事も話したいし、まずは私の家に戻りましょうか」


 そう言うと、レメゲトンはサッと杖を地面に向ける。

 地面に魔法陣が描かれ、直後にこの空間に来た時と同じ光が聡哉達を包み込む。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 聡哉が目を開けると、そこは既にレメゲトンの家の中だった。

 今までは目を閉じて、次に開いたらワープしていたなんて有り得ない事だったのに、それにあっさりと適応できているという事実に改めて驚きを覚える。やはりこの世界は、元居た世界とは世界の原理が違うのだろう。


「さて、まずはあの時の事を話しましょう」


 そう言うと、レメゲトンは姉と知り合った時の事を話し始めた。




「さっきも言った通り、知り合ったのは数日前のこと。突然知らない女の子が家に押しかけてきて、しかもそれが……。っと、いや、何でもないわ」


 何故か何か口を滑らせたように軽い焦りを見せるレメゲトン。それが、とはどういう意味だろうか?

 恐らく、姉の身に何かあったという訳ではなさそうだが……。


「……まあとにかく、明音ちゃんの方から私の家に訪ねて来たのよ。色々話してくれたわ。自分が異世界から何故かこの世界に転移したこと、何をしようというあてもないから、よければこの世界で生きていくのに必要な知識を教えて欲しいってこと、そして――元居た世界に、唯一の家族を残してきたこと、とかね」


 また、姉に余計な心配をかけてしまったらしい。それはそうだろう。

 その事を謝るということも含めて、必ず姉に会わなければ。


「色々話し合ったけど、明音ちゃんが一番気にしてたのは聡哉君の事だったわね。もしも弟が一人で取り残されるようなことになったら、私は謝っても謝りきれない……なんて言ってたわ。二人共この世界に来られたのは不幸中の幸いね」


 確かに、一歩間違えば二度と姉に会えなくなっていたかも知れない。

 この転移は幸運な事とは言えないが、少なくともそこは神に感謝しなければ。居るかどうかは知らないが。


「話も終わって、いよいよ旅に出るって時に、最後に明音ちゃんに言われたわ。『もしも弟がこの世界のこの町に来て、それが何の力も持っていないようなら、どうか弟を守ってやって欲しい』ってね。私が、じゃあ強かったらどうするのか、って聞いたら、苦笑いを浮かべながら『私にも分からないけど、彼の望む事を応援してやって欲しい』って答えたの」


 聡哉が口を開こうとした瞬間、レメゲトンが聡哉を止めるように話を続けた。


「言わなくても分かってるわ。話を聞いて、私はきっとその弟さんは何が何でも明音ちゃんを追おうとするだろう、って考えたの。当たりよね?」


「……勿論です。僕は、例え自分に何の力が無かったとしても姉さんに会いに行きます」


 結果的にはこの世界でも戦っていけるだけの力はあったが、例え無くても姉に出会うことを諦めたりはしない。聡哉の、心からの言葉だった。


「やっぱりね。まあそんな訳で、その時の私は、果たしてその子が本当に来て、しかも弱かったらどうやって明音ちゃんを追わせてやろうか、って考えてたわ。……ま、さっきも言った通り結局は杞憂に終わった訳なんだけど、ね」


 レメゲトンは少し呆れたような笑いを浮かべながらそう言った。

お読み頂きありがとうございました!

これ以降はほぼ不定期になってしまうかと思いますが、のんびりお待ちくださいm(__)m

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