7話:己の力
大変長らくお待たせしました……。
年末年始の忙しさが落ち着いてきた頃にインフルエンザにかかったり、寝込んでる時に予定していたストーリーの根本的な破綻を見つけてしまったり、色々ありましたがようやく更新できました。
また、先述の通りストーリーの破綻が見つかってしまったので現在色々と考えなおしてます。
なので、今までのような定期投稿は難しくなるものと思われます。申し訳ございません。
目の前にそびえ立つ巨竜の姿を見て、聡哉は戦慄する。
空想の世界から、色だけを失って出てきたような、漆黒の竜。
こんな怪物を相手に、どう戦えと言うのだろうか。
「――さあ、今こそ見せてもらうわ。貴方の『力』を、ね」
レメゲトンが指を鳴らす。すると、竜はその大木のような腕を振り上げ、そのまま振り下ろしてきた。
「――っ!!」
聡哉は間一髪で落ち着きを取り戻し、振り下ろされた一撃を紙一重でかわした。
倒れこむように後方に跳び、そのまま宙返りして立ち上がる。
体操選手のような一連の動作は、正に超能力あってこその神業だ。
そのまま、聡哉は大剣を構え、竜の姿を改めて見据える。
聡哉の何倍も高い背丈に、非常に堅そうな鱗を纏う竜。その竜は、聡哉を見下ろし、既に次の攻撃の準備を始めている。
ここは態勢を整え、次の攻撃も回避すべきだろうか。あるいは――
「――いや……」
防戦一方で勝てる場面ではない。ならば。
「――ここは、思い切って打って出る!」
聡哉は軽く身を屈め、そのまま跳んだ。
その身体は流星の速度で飛び立ち、瞬く間に竜の背後を取る。
竜が振り向こうとするが、遅い。
「これでも――喰らえっ!」
そのまま、聡哉は竜に落ちて行き、手にした大剣をその背に振り下ろす。
死角を衝いて放たれた一撃は、その片翼の根本を完全に捉えた。
しかし。翼を切り落とす気概で放った一撃は、鱗の合間を僅かに拓き、そこで止まってしまった。
「くっ……!」
聡哉は大剣を鱗の合間から抜き、後方に跳ぶ。
直後、竜が振り向きざまに放った剛腕が聡哉の眼前を薙いだ。
危なかった。立て直す判断が出来ていなければ、おそらく今頃はあの剛腕に粉砕されていたことだろう。
「聡哉! 振り下ろす時に重力を掛けるのを忘れないで! 貴方の『全力』なら、あの鎧も貫けるはずよ!」
ミラの声が聞こえてくる。確かに、振り下ろす際に重力を掛けていなかった。
大剣を軽くするために反重力を掛けていたのだから、威力が出ないのも納得だ。
斬撃の瞬間に重力を変え、最大重量の一撃を見舞う。
簡単な事ではないが、弱音を吐いていられる状況ではない。
聡哉は一度自分の身体に掛けた反重力を解き、そのまま眼下の地面へ落ちていく。
そして、衝突直前に重力の方向を変え、一気に前方へ加速する。
その先には、振り向きざまに攻撃を放ち、態勢を整えられていない竜がいる。
「今度こそ……!」
聡哉は大剣を握り締め、竜の巨大な脚に狙いを定めた。
そして、狙いを自らのリーチに捉えたその刹那。
大剣に掛ける重力を一気に変え、斬撃に乗せる。
すれ違いざまに放たれた一撃は、その脚に深い傷を入れた。
傷口から黒い影が噴き出し、竜が崩れ落ちる。
聡哉は竜の姿を一瞥すると、再度加速し、その巨体の下に陣取った。
感覚は掴んだ。次の一撃には全てを乗せられる。
聡哉はそんな確信を抱き、自分の上から倒れてくる竜を見据えた。
「ちょっと、聡哉!? 自分から潰されるつもり!?」
ミラが慌てたような声を上げると、その横に居るレメゲトンが答えた。
「いや――彼の、勝ちね」
いよいよ竜が目前に迫った瞬間、聡哉はその腹部目掛けて一気に飛び立つ。
そして、自身に掛かる重力を微調整、理想の態勢を整え、そのままその巨体に蹴りを放った。
無論、全力で重力を乗せて、である。
「あれだけの巨体を蹴りで……!?」
ミラが驚愕と感嘆の声を漏らす。その隣では、レメゲトンが満足気に頷いていた。
重力を乗せただけの蹴りでは、精々僅かに落下を止めるのが限度だろう。
しかし、竜は上空に大きく吹き飛ばされた。
それを見届け、聡哉も飛び、瞬く間に先回りする。
竜の吹き飛ぶ速度が緩み始めた頃、その頭部の前方上空には一人の少年が佇んでいた。
「この一撃で、最後だ――!」
聡哉は大剣を振りかぶり、自身のマナを感じ取る。
そして、目の前に標的が現れた瞬間。
自分の出し得る全力で以て、その大剣を振り下ろした。
「極めて精緻かつ複雑な動作を可能とする局所的重力操作、か。自分の『力』、完全にモノにしたようね」
レメゲトンは、嬉しそうにそう呟いた。
お読みいただきありがとうございました。
更新は不定期とさせて頂きましたが、それでも可能な限り土曜日に投稿したいと考えています。
今後ともよろしくお願いします<(_ _)>