6話:重力操作
前回の投稿が遅れてしまったので、その埋め合わせと言う事で若干早めに投稿してみました。
「やったじゃない聡哉! 並の人間じゃスライムを蹴りで吹っ飛ばすなんて絶対出来ない、これは紛れもなく超能力よ!」
ミラが嬉しそうな声で話しかけてきた。レメゲトンも満足気に頷きながら話し始める。
「うんうん。実に良かったわ。こんな事だったら本当に強い魔物を喚んでみても良かったかもね。スライム相手にしちゃちょっと熱すぎる気はするわね」
「いや、そんな……ところで、結局僕の能力って何だったんですか? 僕自身よく分からなくて……」
聡哉は若干照れながらも、レメゲトンに質問する。
「そうね。あれだけじゃ自分には分からないわよね。教えましょう。あの時貴方が放った魔力と、起きた現象。これらから推察するに――」
レメゲトンはそう言うと、ビシッっと指を指して言い放った。
「――聡哉君。貴方の能力は『重力操作』よ」
重力操作。そう言われても正直あまりピンと来なかった。
てっきり、身体能力を大幅に向上させる、とかそういったものだと思っていたが……
「腑に落ちない、って顔ね。正確には少し違うのだけれど……。まあとにかく解説するわ。貴方は自分の周囲の重力の強さや方向を変えられるの。さっき走りが異様に速かったり、本来打撃は大体吸収してしまう筈のスライムが蹴りで吹っ飛んだのも、この能力のおかげよ」
なるほど、そう言われれば納得できる。
確かにあの感覚は、自分の力が大幅に向上した……というのとは少し違っていた。
「僕の能力は分かりました。それで、もしよかったら、もう一回さっきのスライムを召喚してくれませんか? 自分の能力の感覚をしっかり掴みたくて……」
「素晴らしい心がけね。いいわよ。好きなだけ能力を使ってみなさい」
レメゲトンはそう言うと、サッと杖を掲げる。すると、少し離れた場所に光が現れ、そこからスライムが降って来た。
……本来ならこんなにあっさり出て来るのか。さっきの演出は……
それはさておき、今は自分の能力を理解しなければ。
聡哉は気を取り直し、遠くのスライムに向かって手を伸ばす。
「僕の能力が重力操作なら……これでどうだっ!」
そのまま意識を集中させ、先程のようにスライムに能力を放つ。
周囲の重力が一気に強化され、スライムはあっけなく潰れ……
……なかった。
「……あれ? え? た、確かに何かしらの手ごたえはあるのに……!」
聡哉は必死にイメージを強め、スライムを押し潰そうとするが、スライムはほんの少しへこんでプルプルしているだけだ。潰れそうな気配は全くない。
「ふふっ、どうもその能力、貴方から離れるごとに急速に力が弱まるみたいね。残念ながら、貴方が想像するような事は出来ないみたい。接近しないとどうしようもないわね」
レメゲトンが笑いながら解説する。
「そ、そんな……重力操作なんて言ったら、やっぱり問答無用で敵を押し潰すようなイメージがあったのに……」
聡哉は落胆する。現実はそう甘くないらしい。これで自分も遠くの敵を重力で翻弄するようなことが出来るのかと思えば、全くそんなことはなかった。精々、スライムをへこませるのが関の山だ。
「う、うう、くっそぉ! 僕もラスボスみたいな能力を手に入れたかと思ったのにいいいい!」
聡哉はむなしい叫びと共にスライムに駆け寄り、怒りに任せて蹴りぬく。
スライムは先程の一撃をも上回る速度で星になった。
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「……まあ、貴方の思っていたものとは少し違ったみたいだけど……。それでも、それはとても強力な能力なのよ?」
「そうよ聡哉! 重力操作なんて、魔法でやろうと思ったら何十年って修行を積まないといけない大魔術よ!? それを自分の周囲だけとは言え自由にできるなんて、やっぱり貴方は大したものよ! 私が見込んだだけのことはあったわね!」
まるで自分のことのようにドヤ顔で語るミラを見て、聡哉も元気が出てきた。
こういう時は、彼女の底抜けの明るさはとても頼もしい。
「そうか……。確かに自分の周囲だけとは言え、重力を操れるなら出来ることも沢山あるはず……!」
「その意気よ、聡哉君。それじゃあ最後に私から一つ、ちょっとした試練を与えましょう」
レメゲトンはそう言うと、杖を掲げながら話し始めた。
「無事に能力も目覚めたことだし、最後に限りなく実戦に近い戦いを経験してもらうわ。本当に命が危なくなったら助けるけれど、基本的に私達が助けを出すことはない。自分の力で、現れる魔物を打ち破ってみなさい。……とは言え、流石に丸腰じゃ辛い相手だと思うから、いくつか装備はあげるわ。好きな物を選んでいいわよ」
レメゲトンが言い終わると、聡哉の目の前に幾つかの武器が落ちてきた。
種類は、かなり小さな短剣から、身長と同じくらいの大きさがありそうな大剣まで様々だ。
聡哉はひとまず、真っ先に目に付いた最大の大きさの大剣に手を伸ばした。
見た目通り、途轍もない重さだ。普通に持ち上げようとしても、まず無理だろう。
しかし。
「こんな巨大な剣でも、僕の能力なら……!」
聡哉は二度のスライム戦で能力の使い方を殆ど掴んでいた。
能力を使って剣を持ち上げると、先程までの重さが嘘のように、まるで紙で出来た剣を持つように軽々と持ち上がった。
「なるほど。自分の能力を活かした、いいチョイスね。……さてと、それじゃあ始めるわよ?」
レメゲトンはそう言うと、目を閉じ、何やら呟き始めた。
「――魔より出でし虚空の影よ。集い来たりて形を為し――」
「詠唱って……レメゲトンさん、まさか……!」
ミラが驚いたような声を上げると、レメゲトンの背後に黒い魔法陣が現れた。
魔法陣の周囲に黒い稲妻が走り、空が暗く染まっていく。
「――古より謳われし、天地を統べる王と成れ。……ま、所詮はただの影だけど、ね」
最後にいつもの調子に戻り、レメゲトンが言い終える。
その瞬間、黒く染まった天空から、黒い雷が落ちた。
雷は魔法陣の中心に吸い込まれ、魔法陣は漆黒の闇に包まれる。
――やがて、その闇から巨大な影が現れた。影は見上げる程の大きさにまでなり、そして形を為してゆく。
巨山を思わせる巨体。背に具える双翼。そして、頭から生えた二本角。
そう。レメゲトンの背後に現れたのは、紛れもなく――
「――竜……なのか、これが……」
影の巨竜は咆哮した。
その轟きは、正に王の貫禄。
聞くもの全てを戦慄させる、王者そのものの姿だった。