2話:炎の少女
思ってたより早く仕上がったので投稿します。ミスや改善案があればご指摘いただけると幸いです。
目が醒めると、そこには雲一つない青空が広がっていた。
体を起こし、周囲の景色を確かめる。少し辺りを見渡しただけで、ここが自分の知らない場所だとわかった。
辺りには一面の草原が広がっており、青空と相まってとても美しい。こんな風景、空想の世界でしか見たことがない。
草原の先には森や山が点々と見え、少し離れた場所には看板のような物も見える。
そして極め付けは、この草原に虹色に輝く草花が僅かながら混じっていることだ。虹色の植物など、それこそ夢物語の典型だろう。到底信じられないが、しかし、現に自分の周囲には虹色の植物が生えているのだから信じるしかない。
ここが自分の知る常識を外れた場所だということはよくわかった。では、何故自分はこんな場所に居るのだろうか?
聡哉は目が醒めるまでの事を振り返ってみたが、どうしても姉の部屋のドアから落ちた後の事が思い出せない。しかし、自分にとって最大の謎は思い出せた。
――何故、自分はドアを開けた直後に落ちたのだろうか?
夢でも見ているのだろうかと思ったが、これが夢などでないことはよくわかっている。
しかし、そうでもなければとても理解できない。現段階では、おそらくどれだけ考えても時間の無駄だろう。
今必要なのは情報を集めることだ。この場所、この一連の現象、そして――姉のことも。
どうか無事でいて欲しい。姉まで失ったら、きっと自分はもう立ち直れない。両親を失って生まれてしまった心の空白が、間違いなく自分の全てを飲み込むだろう。
姉に出会うためにも、今は出来ることをしなければならない。
聡哉は立ち上がり、ひとまず少し離れた場所にある看板に向かって歩き出した。
――その時、視界に映っていた森の中から、黒い影が飛び出してきた。
影の正体を確かめようとそちらに目をやると、その影――黒い獣のような生物と、確かに目が合った。
その直後、黒い獣が凄まじい勢いでこちらに向かって駆け出した。
ほんの一瞬前までは数百メートルもあった距離は、あっという間に縮まってゆく。
本能的に危険を察知し、聡哉は脇目も振らず全力で走り出した。しかし、獣の足音は確実に近づいてくる。
すぐ後ろに強烈な気配を感じて聡哉が振り向いた時には、既に獣は身を屈めており、正に聡哉に飛び掛かって、ズタズタに引き裂こうとする直前だった。
もはや逃げられないことを悟り、聡哉は頭を守るように腕をかざす。
――その瞬間。
「ふう……なんとか間に合ったみたいね」
声が聞こえると同時に、目の前に閃光が迸った。
腕を下げ、前を見ると、そこにはあの獣ではなく、一人の少女が立っている。
「巻き込んじゃってごめんなさい。貴方、『外』の人よね?」
少女の問いかけの意味がわからず、聡哉はただ戸惑うことしかできなかった。
「って、いきなり聞いたってわかるはずないか。まあ、まずはあれをどうにかしないとね。話はそれから!」
少女はそう言うと、目の前の黒い獣に向き直る。
獣は警戒するように唸っていたが、少女が振り向くとわずかに距離を取った。
「やっぱり、私に勝てないのは理解してるみたいね。でも、もう逃がさないわよ!」
少女が、その手に持った杖を獣に向ける。すると、杖の先端から火球が飛び出し、獣へと放たれた。
高速で飛来する火球を、獣は横に跳んで躱し、そのまま少女へと飛び掛かった。
「へぇ、意外とやるわね……」
少女はそう言いながら、飛び掛かってくる獣を杖であっさりと弾いてしまった。
「まあ、結局私には勝てないけれど!」
そして再び杖を獣に向けると、今度は爆発のような炎が放たれた。獣は吹き飛ばされ、宙を舞う。
獣が吹き飛んだのを見ると、少女は地面に杖を向けた。すると、赤く輝く光が地面を走り、魔法陣らしき模様を描き出す。
少女が杖でそれを叩くと、魔法陣は燃え上がった。
「喰らいなさい! アグニ・カノンッ!」
少女が杖を振り上げ、未だ宙を舞う獣に向ける。
その瞬間、魔法陣が爆発し、巨大な炎の塊が獣へと放たれた。
放たれた巨大な火球は獣に命中しても止まらず、そのまま彼方の空で大爆発を起こす。
後にはただ、雲一つない青空が広がっているだけだった。
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