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幼女とメイドのぶらり街巡り 上

今回は上と下で分割します。

「スッゲー!さっきのどうやったの!? 俺にもできる?」


(やばいやばいやばい!やっちまったよ!何でイベントのこと忘れてたんだ私は~!)


 目をキラキラさせて迫る少年に笑顔を引きつらせる。


 この少年の正体はランドルフ・ハインケス。『トキメキ学院』の攻略対象者である騎士団長子息だ。

 騎士を志す無骨な体育会系男子という設定だが、ゲーム内での言動を見る限りただの脳筋という印象しかない。

 当初ヒロインには心を開かなかったが、彼ルートを進めていくとヒロインの優しさに触れて次第に心を開いていく。最後は何の落ち度もない婚約者と婚約破棄してヒロインと結ばれるというエンド。

 けれど私はこのエンドに全く共感できなかった。だって破棄された婚約者が可哀想だし、なによりランドルフルートに一切関わっていなかったカサンドラがラストでいきなり処刑されていたのは納得できない。

 ストーリーに関係ないんだから出さなきゃいいのに、何故か最後にカサンドラが処刑されたことが書かれていた。悪事はしたかもしれないけど、このルートに限ってはヒロインにすら関わってないんだよ。虐めた描写もないのに勝手に殺されるとか制作側はどんだけカサンドラが嫌いなんだ。


 そしてどうやら私は彼ルートを進めると回想という形で判明するあるイベントに出くわしてしまったようだ。


(よりによって攻略対象者のイベントに巻きこまれるなんて)


 しかもランドルフの誘拐というとんでもないものに。




◇◇◇◇◇



 話は昨日に遡る。


「ねえレーニャ」

「何でしょうかお嬢様」

「明日って何か予定があったかしら? 」

「幽閉されてるお嬢様に予定なんてありましたか?」


 ないね。だって日課にしてる適度な筋トレと勉強以外やることなくてめっちゃ暇だもん。


「なら明日さ、街に行かない?」

「はい?」


 キョトンとするレーニャ可愛い……じゃなくて!


「だーかーらー!明日街に行ってみない?もちろんお忍びで」

「えぇ、急にどうしたんですか~? また何か思いついたんですか?」

「いやぁ、私って生まれた時から屋敷から出ていないじゃない? だから街の様子とか気になって……」

「あ~、そういうことですか~。大人びていてもお嬢様はまだまだ子供でしたね~」


 何を考えてるのか分からないけど、によによしてるレーニャからの視線が生温かくてなんか物凄く恥ずかしい。


「むぅ……」


『ぐふっ……。お嬢様の赤面上目遣い(しかも若干涙目)の威力半端ないです~』


 えっ、急にレーニャが大人しくなったと思ったら、いきなり体をクネクネしだしたんだけど。なんか身の危険を感じる……


「もう限界です!やーん!もうお嬢様ったら可愛いです~!」


 って、レーニャが飛びかかってきたああああ!?

 突然のことで回避できず、そのままがしっと抱かれてしまった。あわわわわわ……


「赤面のお嬢様はあはあテンパるお嬢様はあはあ」


 のわああああ!? レーニャが壊れたああああ!! いつからレーニャはこんなに変態になってたのおおおお!? 止めろおおおおスリスリすんなああああ匂いを嗅ぐなああああ!!


「いいから、は・な・れ・な・さい!!」


 渾身のぉぉぉぉお、アッパァァァァァ!!!


「あべし!」



 変態メイドの顎にカサンドラ渾身のアッパーが炸裂!


「も、申し訳ありませんでした……」


 殴られたことで正気に戻り、目の前で土下座するレーニャ。殴られた顎は赤くなっていた。


「まったく、お咎めなしにはするけど本来ならクビよ。金輪際、こんなことはないように」

「本当に申し訳ありませんでした。初めてお嬢様が可愛い我儘を言ってくれたことに舞い上がってしまい、つい愛情が溢れて……」

「分かったからとりあえず鼻血は止めなさい」


 あと早口で私のことを語るのも謎の迫力があってちょっと怖いからやめてほしい。

 ハァ、いつからレーニャって変態になったんだろう? いきなり暴走したからマジで焦った。


「それで明日のことなんだけど……」

「あ、問題ないです。朝食後になりますがそれでもよろしいですか?」

「え、いいの?」


 最初の反応からして反対だと思ったんだけど。


「お嬢様の我儘に応えるのもメイドの嗜みです……という建前は置いといて、私も食事の配膳とお嬢様のお世話以外やることないので暇なんですよ~。それにここの警備もザルなんで抜け出すことなんて造作もありません。でも夕食までには戻りますよ。昼はなんとか誤魔化せますが、夕食は無理ですからね~」

「やったあ!ありがとうレーニャ!」


 ハッ!喜びのあまり、つい前世の癖で抱きついちゃった!恐る恐るレーニャを見てみると……


「ああ……世界って、こんなに優しいんですね……」


 なんか浄化しとるぅぅぅう!?

 レーニャは菩薩のような笑みを浮かべながら、濁流のように鼻血を垂れ流し、


 パタリ


 そしてレーニャが倒れた。


「レ、レーニャァァァァァァ!!!」




「という夢を昨日見ました」

「いや現実だから。昨日倒れたまま寝ちゃったから私のベッドに寝かしたけど、この状況に関して疑問はないのかしら」


 この状況→私とレーニャが同じベッドで寝ている。


「……朝チュンですか?」

「違うわ!」


 こんなことで今日のお忍び大丈夫かなあ、不安だ。


 そして昼間、なんやかんやあって私とレーニャは無事に屋敷を抜け出して街に辿り着いた。ちなみに二人は平民用の服とローブという格好だ。特にレーニャは獣人であるためこの辺はしっかり対策している。


「ここが公爵領最大の都市イリンピアか。あんな屑が当主なのに結構賑わってるのね」


 私達が訪れたのは公爵邸もある商業都市イリンピア。街は人通りが多く、それぞれの店からは客寄せの声が聞こえる。予想以上に街は活気満ち溢れていた。

 屋敷から見るのとはまた違う新鮮な景色に目を奪われてる間にもレーニャの説明は続く。


「イリンピアは先代当主様の時代からこの地域の経済の中心らしいです。王都ほどではありませんが地方では有数の規模を誇ります。もっとも今は昔ほど治安は良くないみたいですが」

「あら、表通りは賑わっているけど裏路地は駄目なようね。皆、裏路地を避けてるみたい」


 表通りは活気溢れる感じだけど、裏路地がある場所は空気が死んでるような鬱々した感じがする。


「裏路地は浮浪児の溜まり場ですので特に女性は絶対通ろうとはしません。お嬢様もそこには近づかないでください。お嬢様のような方は服で誤魔化そうとしても奴らの目は誤魔化せません。間違いなく狙われます。色々な意味で」

「ふーん。自分はあまり令嬢っぽくない気はするけど、分かる人には分かるのかしら」

「とんでもございません! お嬢様は御自身の魅力に鈍感すぎます。お嬢様の素顔」


 最初は淡々と話していたけど、話の内容がイリンピアから私に移るとだんだんレーニャの語りが熱くなりはじめた。


「そうです!絹のようになめらかなではじけるような瑞々しい白い肌、銀糸のようなきめ細やかで美しい髪、人形のように可憐で上品な美しい顔、そしてなにより不遇の立場にも悲観せず前向きに生きるその生き様と気高き魂!まるで女神の如きお嬢様を狙わない輩なんているはずがありません!」

「あー……うん……とりあえず私についての説明ありがとう?」


 どーしたんかねレーニャは。ここまで変態じゃなかった気がするんだけどなー。私のことを心配してくれてるのは分かるんだけど。


「うん裏路地には気をつけるわ。とりあえず辺りを見てみるかしら」


 レーニャと手を繋ぎながら大通りを一通り回ってみる。ちなみにお金はレーニャが持っている。本人曰く、「自分の金でお嬢様が喜ぶならお金も幸せ」だそうだ。なんて良い子なの。


「らっしゃい!お嬢ちゃん達、オークの串焼きはどうだい? 一本で石貨五枚だよ」


 私達に声をかけてきたのは屋台のおじさん。屋台にあるオーク串焼きが良い匂いで、私達の食欲を刺激する。石貨五枚かあ。


 この世界の貨幣は価値が低い順に石貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。前世の価値に換算すると石貨一枚で百円、銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円、白金貨が百万円位らしい。


 そう考えるとオークの串焼きは五百円か。屋台の品物と考えると妥当かな。ちらりとレーニャの方を見てみる。二人分だと銅貨一枚だ。序盤で安くない出費になるなら諦めるつもりだったけど。


「ダラダラダラダラ……ッハ!ど、どうしますか?」


 レーニャ、涎がふけてないよ……


「食べましょう。おじ様、串焼き2つお願い」

「お、おじ様? なんだかよくわからねえけどイイ響きだぜ。よし!二つで石貨七枚にまけよう。可愛いお嬢ちゃん達にサービスだ」

「ありがとうございます、おじ様♪(にぱぁ」

「「ゴフッ!」」


 ゴフッ?


「い、いいってもんよ……ガクッ」

「お嬢様は……天、使……ガクッ」

「???」


 いきなりおじ様とレーニャが吐血したんだけど、何がおきたのかしら?レーニャに関しては膝から崩れ落ちてるし。


「ねえ大丈夫?」


 心配になって覗き込むと、レーニャと目が合う。彼女の顔は真っ赤だ。


「ブ……」

「ブ?」

「ブッハァァァァア!!!」

「レーニャァァァァ!?」


 は、鼻血が!レーニャの鼻血が噴水みたいなことにィィィィィ!?






「はあ……なんで街に着いて早々疲れないといけないのよ」

「……申し訳ありません」


 流石に二日連続で粗相したのはショックだったのか、レーニャは落ち込んでいた。変態化は収まったけど、テンションが低くてなんか調子が狂うな。


「……あっ!」


 テンションが低かったせいか、注意散漫になっていたレーニャは財布をスリに奪われてしまった。


「ちょ! 待ちなさい!」

「えっ? お嬢様!? 」


 あの財布には汗水働いたレーニャのお金が入っている。そのまま奪われてたまるか!


 スった犯人はやや小柄で、追いかけてきた私に気づいて走り出した。私は早く捕まえたかったが、人混みと体格差のせいでなかなか追いつけない。体力は鍛えていたおかげで問題なかったけど、足幅とかの体格差は大きかった。

 犯人はこの道に慣れているらしく流れるように裏路地へ逃げこんでしまった。一瞬レーニャの忠告を思い出したけど、私はそのまま犯人を追いかけて裏路地に入っていた。明らかに表通りとは別世界の裏路地を目の当たりにして後先を考えなかった自分の行動に若干後悔しかけた。けどだからってこのまま諦めるつもりはない。それに人混みのない細い路地は私にとっても好都合だった。


 だってここなら全力を出しても支障がないから。


 走るスピードを落とさず三角飛びをする要領で壁に飛びつき、その反動を利用して反対の壁で跳躍する。それを繰り返しながらジグザグと壁の間を飛び交う。

 壁を蹴る瞬間に脚部に気を流し込むことで爆発的なスピードを生み出しているから、どんどん犯人との距離が縮まり、ついに


「捕まえたぁぁぁぁ!!! 」


 そして手をクロスにして相手の背中にそのままダーイブ!


「へ?……へぶっ!!」


 ズザザザザァァァァ、と無防備な状態で私のダイブを食らった犯人は顔面から地面へダイブ。そのまま数メートル顔を地面に削られながらすっ飛んだ。


「アアアアアアアア!!」


 犯人が血塗れの顔を押さえて悶絶している。もっさりとした髪で隠れてた顔をよく見てみるとその正体はおっさんだった。小柄だったからてっきり子供かと思ってたよ。

 顔面を押さえつけながら断末魔の叫びで悶えていた。なんか痛そう(小並感)。

 だけど傷口に塩を塗るのがカサンドラクオリティー。


「ほらさっき盗んだ財布返しなさい!」


 痛がる犯人の背中を踏みつけながら髪を掴む。この時、何度も顔を地面に叩きつける。わざわざ負傷してる顔面を狙うというまさに鬼畜の所業。

 無害な幼女にいいようにやられるとかなんて無様。


「わ、わかった。わかったから髪を離してくれええ!」


 財布を投げながら幼女の私に泣いて懇願する犯人。……情けないなぁ。


 このまま解放するのは癪なので最後に思いっきり顔面を地面に叩きつけて終了。グシャって音したけど問題ないよね。無事財布も回収したし、あとは……


「あっるぇ?ここどこお?」


 辺りを見回しても壁、壁、壁。しかも初めてこの街来たからどこに何があるなんて分からない。これって、つまりーー


「迷子ですか、そうですか」


 いや洒落にならないって。財布回収しても治安が悪そうな場所で迷子とか笑えない。


「っ!?」


 途方に暮れてるとガサガサと何処からか物音が聞こえた。おかげでパニックは沈静化したけど、レーニャの忠告もあって周囲への警戒度がMAXだ。


 ガサガサ


 また聞こえた。物音が聞こえる方へ目を向けると、


「こ、子供?」


 そこにはジッとこちらを見ている小さな男の子がいた。自分と同じくらいの身長から見ると歳は私と大差はないだろう。庶民にしては綺麗で可愛い顔をしているけどこの子は一体何者なんだろうか。着てる服は汚れているが、よく見ると生地は上等なものを使っているようだ。


(考えられるとしたら貴族の子息の線。でもそれだったら何でこんなところに?)


 裏で繋がりがある貴族ならこんなところに来る可能性はありそうだが、それなら子供を連れてくるわけがない。しかもこの子の周りに人の気配がないことから、護衛も近くにいないことがわかった。

 普通なら護衛もなしに放置なんてありえない。それにこんなに小さいこの子が護衛を振り切った可能性は極めて低い。もし本当に振り切られたなら護衛として失格だ。


 となると可能性が高いのは誘拐かな。誘拐ならこの子がここにいることや汚れていることの説明がつく。何故一人でいるのかという疑問もあるが、とにかくこの子に話しかけて事情を聞いてみる必要がありそうだ。


「ねえ君、何でこんなところにいるのかな?」


 男の子は私に話しかけられてビクッとしたが、特に警戒する様子もなく素直に話しだす。


「わかんない。朝に俺を捕まえたおっさん達がいなくなってたから、逃げ出してきたらここにいた」

「捕まえた? どういうこと? 」

「なんか屋敷の外に出てたらいきなり連れていかれた」


 あー、これは誘拐ですわ。


「その捕まえた人ってどういう人か覚えてる? 」

「うーん、髭がいっぱいだった」


 髭がいっぱい? 山賊っぽい感じかな? でもこれだけだとどういう人間か分からない。


(誘拐犯から逃げ出してここにいるってことは長居は危険ね。でもここの土地勘なんてないからどうしよう)


「お嬢様~!お嬢様~!」


 再び途方に暮れていると、道の奥からレーニャの声が聞こえてきた。しかも段々とこっちに近づいてくる。声の方向を見てみるとそこには地面に転がってるゴミやらを蹴飛ばしながらこちらへ爆走しているレーニャの姿が。


「お嬢様! 」

「レーニャ! 」


 よくここが分かったわねーー


 パァン!


「……え?」


 衝撃とともにカッと頬に熱が集まる。しばらくしてジンジンと痛みが私を襲ってきた。そして目の前には手を振ったレーニャ。もしかして私、叩かれた……?


「お嬢様は自分が何をしたか分かっていますか?」


 背筋が凍りそうな冷たく低い声。彼女の顔は怒ってもなく、泣いているでもなく、ただただ無表情だった。普段の彼女からは想像できないほど冷酷な表情をするレーニャは見たことなかった。


「……スリの犯人を追いかけた」


 私は素直に自分のしたことを話した。自分でも忠告を無視して裏路地まで追いかけたのは悪かったと思っていた。


 私から全ての話を聞いたレーニャはこめかみを押さえながら呆れていた。


「お嬢様に常識が通用しないことは分かっていましたがここまでとは……最初は私が原因とはいえ、お嬢様がいかに無謀な行動をしたかを叱ろうと思っていたのに……」

「心配かけて本当にごめんなさい」


 レーニャに心配かけた今回は全面的に私が悪いのでしっかり謝った。


「いえお嬢様が無事で何よりですよ。でも下手したら誘拐されたかもしれませんでしたから、二度とこんなことはないようにお願いしますね。……ところで先程から気になっていましたが、お嬢様の後ろにひっついている子供は何者でしょうか」


 はっ!レーニャに指摘されるまでこの子の存在を忘れてた。


「あー、この子多分誘拐された貴族の子供……かな?」

「え?」


 とりあえずレーニャにこの子と出会った経緯と事情を話す。かくかくしかじか。


「うーん、これだけだと何とも言えないですね~。街の詰所で保護させるにしても、最低でも貴族の子供である証拠は必要ですし」

「そうよねえ。証拠がないと動きようがないだろうし」

「ところでこの子の名前はなんて言うんですか?」

「……え?」

「だからこの子の名前ですよ。……まさか聞いてないんですか」


 はい。すっかり忘れていました。普通、最初に聞くよね……


「えーと、僕、名前は? 」


 レーニャが登場したあたりからずっと黙っていた男の子に声をかける。退屈だったのか男の子は少しボーッとしていた。


「えーとね、僕の名前はラ「餓鬼! こんなところにいやがったな!」……あっ!」


 突然聞こえた乱暴な声の方向を見ると、いかにもガラが悪そうな男が数人こちらを睨んでいた。


「ひっ!」


 今まで変わった様子がなかった男の子が怯えている。


「あら、この子に何か用かしらおじさん達? 」

「あん? なんだチビ。てめえには関係ないだろうが。さっさとそこの餓鬼を俺達に渡しな」


 うわあ、子供相手に何凄んでいるんだか。


「ですがこの子は怯えています。はいどうぞと簡単には渡せません」


 ここでレーニャも援護射撃してくれた。私の想像だけどこいつらはこの子の誘拐犯かもしれない。私の服を掴む男の子の手の力が強くなっている。


「うるせえ! 痛い目に遭いたくなきゃさっさと渡せ!」


 今度は恫喝か。しかもこの子との関係性について一言もない。ますます怪しいね。


「(もしかしてこの人達に誘拐された?)」


 男の子の方をちらりと見て小声で聞いてみる。男の子は怯えていたがコクリと首を縦に振った。そういえばこいつら髭を生やしてるや。

 レーニャをチラリと見ると彼女の目と合う。


(こいつら黒よ)

(了解です)


「とにかくこの子は一度詰所に連れて行きます。お引き取り下さい」

「ふざけんなよ、このアマ! 」


 レーニャが強い口調で言うと、男の一人が逆ギレしてレーニャに殴りかかった。

 しかしレーニャの顔面を狙った男の拳はレーニャに届くことはなかった。何故なら……


「遅いですね。それに威力も足りない。駄目駄目です」


 レーニャは涼しい顔で男の拳を右手一本で容易く受け止めていた。男は一瞬呆然としたが、すぐに我に返って拳を引き抜こうとする。だけどそれは無理なことね。


「え? あれ? 」


 男が思いっきり引き抜こうとしても、男の拳はレーニャに捕まってビクともしない。男が一人だけ力いっぱい引っ張る姿は滑稽だ。男の仲間達もポカンとしている。

 捕まえたレーニャは飽きたのかいきなり手を離す。その反動で男はバランスを崩して勢いよく腰を打った。ざまぁ。

 しばらく沈黙が続いたが、私達に馬鹿にされたことに気づいたのか男達は火が吹く勢いで顔が赤く染まる。


「てめえら、やっちまえ! 女は捕まえたら好きにやっていいぞ!」


 一人の男のゲスい命令をきっかけに男達は私達に襲いかかってきた。大半はレーニャの元に向かったが何人かがこちらに向かってくる。私を人質にするつもりなんだろうか。


 まあ無駄なことだけどね。

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