元悪役令嬢の冒険者デビュー
お久しぶりです。
飛び級試験に合格してから数日後、実はギルド長だったバルナーツからそれぞれBランクとCランクと記された冒険者カードを受け取り、冒険者登録を済ませた私とレーニャはギルド推薦の宿屋『石釜亭』を拠点に定めて冒険者として活動していた。
『石釜亭』は元冒険者の夫婦が資金に余裕がない駆け出しの冒険者をサポートしたいとはじめた宿屋で、そのため価格は相場と比較してかなり良心的。別料金になるけど朝、昼、夜の食事付きらしいのでバルナーツ曰く、たいていの新人冒険者はここを利用しているという。私たちも高ランクからのスタートとはいえ冒険者としてはまだ初心者で、無駄な出費は避けたかったこともあってここに決めた。ちなみに二人部屋である。何故かレーニャがずっとそわそわしていたけどどうしたのだろう?
拠点を決めた後はいきなり依頼を受けるのではなく、まず冒険者としての基礎知識を学ぶためにギルド内で定期的に開催されている新人向けの講義に参加することにした。飛び級したとはいえ私達の冒険者としての知識はほぼ初心者同然なのでこういった機会を逃す手はない。
講義には私達以外にもいかにも駆け出しらしき少年少女達が数人参加していて、みんな真面目に講師の話を聞いていた。内容も薬草の見分け方や道具の使い方、魔物の対処法など実用的なものを中心に構成されていて、私達も屋敷では学べなかったことを多く学ぶことができた。
特に私は腐っても貴族の一員だったので、貴族のマナーといった礼儀作法など多くのことを学んできたけれど、庶民となった今では文字、計算、地理以外は役に立たないものが多い。おまけに生まれてから十年は一応貴族として、その後の二年も平民というより世捨て人的な暮らしをしていたからか平民としての常識というものに疎かったので、今回の講義のような生きるために必要な実用的な知識を学ぶことができたのは幸運といえた。
そして講義で必要な知識を学んだ私たちは本格的に活動を始めるため、受付へ向かい、ある一枚の依頼書を指さした。
私達が指したのは『薬草の納品』という依頼書。これは依頼者が冒険者ギルドとなっており、ランク問わずいつでもだれでも受注することができる常駐型といわれる依頼だ。ギルドから指定されてる薬草の群生地は危険の少ないメックラムの外にある森の外縁部に存在するので、基本的に討伐系の依頼をまだこなせないルーキーが受けるというのがギルド内での一般的な認識らしい。その理由として薬草の納品は大きな危険はない代わり、討伐系の依頼と比較して報酬はかなり低く、頑張ってもその日暮らしが精一杯程度しか稼げないからだ。逆に討伐系の入門編といえるゴブリン狩りでも薬草採取の数倍は稼げてしまうという。だからある程度の実力がつけた冒険者の大半は稼ぎのいい討伐系の依頼に移り、薬草採取を卒業するのが定番らしい。
BとCランクの私達はEランク以上が条件となっている討伐系の依頼を受けることは可能だけど、今回は初めての仕事ということなので無難かつ講義で学んだことの復習を兼ねてこれを選んだ。
受付嬢が試験を担当していたときの人だったのでトラブルや揉めることなくスムーズに受注を済ませて、早速メックラムの城門を抜けると目の前には多くの商船が行き交う大きな運河と青々とした大自然の光景が広がっていた。
街側はきちんと道路が舗装しており商人や冒険者、旅人などの人々が行き交っている。そこを抜けていくと徐々に人気がなくなり、大きな森が姿を現わす。
「ここが……いざ目の前にしますと中々迫力がありますね」
「まるで生きた迷宮って感じね。そこらへんの森とはえらい違いだわ。レーニャ、油断するんじゃないわよ」
まだ入り口付近だからそこまで強力なオーラは感じないけど、奥に行けば行くほどヤバい奴がいるのは間違いないと私の第六感が告げている。それにこの雰囲気、かつて訪れた鞍馬やミノスに似ている気がする。しかもここは強力な妖怪や怪物が棲まう場所と同様かそれ以上だ。一応外縁部は比較的初心者向きとのことだが気は抜けないな。
「レーニャ、油断は厳禁だけど緊張しっぱなしも良くないわ。ただ周囲の警戒だけは怠らないようにしなさい」
「は、はい!」
レーニャが緊張気味だ。ギルドの試験のときはそこまで緊張していなかったのに。
そこまで考えてふと思い至る。そうか、レーニャにとって冒険者業は初めてなのだ。私と修行していても、レーニャはそれまでメイドとして生きてきた。要はバイト初日みたいな感じなのか。そりゃ、緊張するなとはいえないわ。
私?私は前世から冒険者擬きみたいなことやってたからあまら緊張はしていない。でもちょっとだけワクワクしてる。強い奴いないかなぁって。
「──そんなこと考えからこんなことになったのかしら」
私達の目の前には緑色の肌をした人型の魔物がいる。
緑色の肌をした人型の魔物といえば前世でもお馴染みなゴブリンが思い浮かぶだろう。実際この世界にもゴブリンは存在し、駆け出しの冒険者でも倒せる低級魔物の代名詞と認識されている。
けれど目の前にいる魔物はそのような雑魚ではなかった。
背丈は二メートル近くあり、ややどす黒い緑色の肌の身体は窶れているどころか、まるで猛獣のように筋肉が発達している。
極めつきはその眼光とオーラだ。ゴブリンどころか鬼のような顔つきから放つ眼光は明らかに只者じゃない強者特有のギラつきがあった。
そしてこの肌がひりつくような全身から放つ強烈なオーラ。一瞬の油断が命取りになりそうだ。
「冒険者デビューのお相手はスライムかゴブリンが定番とは聞いてたけど、これはちょっと贅沢すぎじゃないかしら」
「お嬢様……」
「レーニャ、死ぬ気でやりなさい。じゃなきゃ本当に死ぬわよ」
それに相手はもう待ってくれなさそうだ。
「GIGAAAaaaaaa!!」
個体名、ゴブリンキング。
討伐危険度──推定Aランク。
討伐危険度……魔物の討伐での危険度指数。ランクが高い魔物ほど強力。
討伐危険度Aランク……討伐にはAランク冒険者相当の実力が最低基準。Aランクの魔物一体で都市ひとつが陥落することも珍しくない。一部の飛竜種がここに分類される。




