冒険者登録をしよう
大分投稿が遅れてしまってごめんなさい
「で……でかい」
数時間歩いてようやく森を抜けた私達の目に飛びこんできたのは高さが十メートル近くあろう石造りの城壁だった。
城壁の形は前世のヨーロッパの城塞都市のものによく似ている。その城壁の中心には立派というより防御力を優先したような無骨な城門。
漆黒に真紅の幾何学模様というデザインの門からは来る者を拒むような迫力を感じる。
個人的にはとうの昔に燃え尽きたはずの厨二心を刺激するデザインはどストライクで逆に擦り寄りたくなったけど。
「お嬢様、ここがハミルトン伯領で唯一冒険者ギルドがある都市メックラムでございます」
メックラムは辺境側に魔物が潜む森、王都側に国内最大の河川ヘンドリア川が控える緩やかな丘陵上に築かれた中規模の城塞都市である。
都市全体を二重の城壁で囲み、その外縁部には数メートルの空堀を設けられている。
それに加えて魔物の脅威がある辺境側には都市を囲んだ城壁とは別に防波堤のように横に伸びた城壁を築き、王都側はヘンドリア川を天然の水堀として利用することでより堅牢な構造となっている。
その堅牢ぶりはお爺様の代に起きた内戦時に一万の軍勢相手に救援が来るまで耐え抜いたことで難攻不落の要塞として国内外に知れ渡ることになった。
当時メックラムの救援に来たお爺様が『数多くの戦場で手柄を立ててきたが、あそこを落とすことだけはできる気がしなかった』とこぼすほどだったのだから驚きだ。
そのメックラムは代々キルシュバウム公爵派閥だったダグラス伯爵領だったが、二年前のキルシュバウム家の件ーー通称『五月政変』に連座した廉でダグラス一族は爵位剥奪。
ダグラス没落後は領土が隣接するハミルトン伯爵がメックラムを暫定的に統治してたが、五月政変で少なくない貴族が処分されたために後任がなかなか決まらず結局正式にハミルトン伯爵領に編入されていた。
現在、ハミルトン伯爵は直接統治せず、部下の代官がメックラムの政務を執り行っている。
「うわぁ、結構賑わってるわね」
「なんだかこの街の活気を見ているとイリンピアを思い出しますね」
門をくぐって都市の中心部の広場に足を運ぶとそこにはたくさんの人、人、人。
メックラムはハミルトン伯爵の堅実な領土経営が反映されてるのか比較的平和で市場は賑わっていた。そのせいか商業が盛んだったイリンピアと雰囲気がなんとなく似てる気がする。
それに今まで静かな森の中で過ごしていたからかこういったザ・街な雰囲気がとても懐かしく感じる。
広場の屋台からは美味しそうな匂いがあちこちから漂ってくる。じゅるり。
「うーん、あの時みたいに買い食いしたくなる気分だけど、まずは冒険者ギルドを探すのが先ね」
「はいはい、そう言ってるそばから身体が屋台の方へ引き寄せられてますよ~」
「はっ!? いつの間に! 」
レーニャの言う通り私の身体は屋台の方に傾いていた。レーニャに肩を掴まれなかったら無意識のうちに買い食いしてたかも。
「気持ちはわかりますが屋台はまた今度です。ほら、あそこに冒険者ギルドがありましたよ」
レーニャの指差した先には看板にこの世界の文字で『冒険者ギルド』と書かれた某狩りゲーの集会所をちょっとでかくしたような建物があった。
「では早速行きますよ」
「ちょっと、手ェ握らなくても自分で歩けるって」
この歳になって小さな子供みたいに手を引っ張っられるのは流石に恥ずかしかった。
「目線ががっつり屋台の方に向けておいて何言ってるんですか」
「そ、そそそそんなことな……って力強っ! 」
結局私はレーニャの手を振りほどくことができず、周囲から生温い視線を浴びまくりながら冒険者ギルドの中まで連れてかれたのであった。
《冒険者ギルド》
扉を開けると昼間で冒険者が出払っているからか中には職員と昼間から呑んだくれてる一部の冒険者しかおらず閑散としていた。
入る前は外まで聞こえていた酔っ払い共の談笑の声は冒険者ではない若い女二人組である私達が入ってきた途端にピタッと止む。
その代わりに彼らの身体を舐め回すような視線が私達へ向けられた。特に平民用の服とローブを着てても身体の凹凸が分かる私への視線が多くてとても不快だ。レーニャも表情は変えていないが明らかに不機嫌になっている。
「下衆共が……潰してやりましょうか」
ヤバい、早くもレーニャがキレかけてる。私大好きのレーニャの気持ちも分かるけど冒険者に登録する前に揉め事を起こすのは勘弁してほしい。
「落ち着きなさい。あんな有象無象の相手なんかする必要はないわ」
「……わかりました」
それでもどこか不服そうなレーニャを制した私はにやにやしてる酔っ払いを無視し、冒険者登録をするために受付嬢のもとへ向かう。
受付嬢は酔っ払い達を蔑んだ目で見てたが、私が近づいてくると瞬時に営業スマイルに切り替えた。
「ようこそ冒険者ギルドメックラム支部へ! 」
「私とこの子の冒険者登録をお願いします」
「お二人ですね。ではこちらの書類に必要事項の記入をお願いします。銅貨一枚で代筆も可能ですがいかがなさいますか? 」
「両方とも代筆は大丈夫よ」
必要事項である名前、性別、使用する武器などを記入して受付嬢に提出すると、書類を確認してた受付嬢が「えっ? 」という声を漏らしてちらっと私の方を見る。
多分私の使用する武器の部分に『ガントレット』と書かれてたことに驚いたんだろーー
「十二歳であの大きさって……私なんかもう何年もAから変わってないのにっっっ! 」
えっ、そっちなの? いや確かに自分でも十二歳の大きさじゃないとは思ってるけどさ。この辺は悪役令嬢ボディーの影響なんだろうか。
戦闘だとでかいと邪魔にしかならないから正直いらないんだけど。
「「チッ」」
近くから二重の舌打ちが聞こえた気が……うん気のせいだね。血の涙を流す二人なんていなかった。いいね。
「コホン、ではこれから冒険者の説明を始めますね」
受付嬢の説明をまとめると冒険者は上からS、A~Fまでランク分けされている。それぞれどのレベルかというとFは新人、Eが半人前、Dが一人前、Cが熟練者、Bは優秀、Aは一流の実力らしい。Sランクは超高難度クエストを達成した者だけに与えられた称号で、現在Sランク冒険者は世界で数人しかいない。
また冒険者には登録時限定で飛び級制度あるようだ。なんでも有望な新人を潰さないための救済策らしい。そのためランクは試験官の判断だが上限はCまで。
冒険者に登録すると身分証として冒険者カードが渡される。構造は不明だが偽造は不可能で紛失すると再発行に銀貨五枚がかかる。カードには氏名、ランク、二つ名が表示されるようだ。
「冒険者についての説明は以上です。何か質問はございますか? 」
「いいえ、特にないわ。レーニャは? 」
「大丈夫です。問題ありません」
正直細かい規則についてはまだ全部把握してないけどそれは後でギルドから配られるらしい初心者セットを見ればどうにかなるだろう。
「では最後に飛び級試験についてですが、お二人は試験を受けますか? 」
勿論答えは決まっている。
「「受けます」」
そう答えた瞬間、ギャハハと酔っ払い共の下卑た笑い声がギルド内に響いた。
受付嬢とレーニャが不快そうに顔を歪ませていると、一人の酔っ払いが私達に近づいてきた。
「おいおいおい、アンタ達みたいな女が飛び級受けたって無駄だっての! 」
「ゲヒターさん! 」
受付嬢が険しい顔で叱るが、中年の酔っ払いもといゲヒターはヘラヘラと反省する様子はない。
「おっ、そこの嬢ちゃんかなりの上玉じゃねえか」
なんてテンプレなと思っているとゲヒターがジロジロと私の身体を嫌らしい目つきで見つめてくる。
それだけで気持ち悪かったのに、こいつそのまま私の胸に手を伸ばしてきやがった。
「ゲヘヘ、いい身体してんじゃねえか。どれ、この俺が味見してやるよ」
「その喧しい口を閉じなさい、この下郎」
もう限界とその腕を握り潰そうとした瞬間、私とゲヒターの間に入りこんだレーニャがゲヒターの腕を掴む。
「あん? なんだてめェエエエエ!? 」
途中から悲鳴に変わったゲヒターの腕からミシミシとやばそうな音が聞こえる。
「ギャアアアアアアア! 折れる、折れるゥゥゥ! 」
「折られたくないなら今すぐお嬢様に自らの無礼を詫びなさい」
レーニャは無表情のままさらに腕に力を加える。
ゲヒターと一緒に笑ってた酔っ払い共は顔を真っ青に染めてガタガタ震えていた。
「ひぃぃぃぃごめんなさいごめんなさい本当に申し訳ありませんでしたァァァァ!!」
ゲヒターが泣きながら断末魔の叫びのような声で私に赦しを乞うたことでようやくレーニャの手から解放される。
痛ぇ痛ぇと腕を押さえるゲヒターを無視して私は受付嬢の方へ向き直る。
「飛び級受けたいんだけど大丈夫かしら? 」
「はい、大丈夫です! 」
後に酔っ払い共が云うには、この時の私達は全員イイ笑顔を浮かべてたらしい。
面白いと思って頂けたなら、下にある評価、ブックマーク、感想等よろしくお願いいたします。




