悪役令嬢VS復活を遂げた夜叉
改稿作業が終了して久しぶりの投稿です。
戦闘シーン難しい……文才が欲しい……
カサンドラ達が旅立つ前日。
屋敷の庭にて互いに真剣な面持ちでカサンドラとアレクシードが対峙する。これまで二人は何度か手合わせをしたことがあったが、今回二人が放つ圧は以前のものとは比較にならない。
特にアレクシードから放たれたビリビリと肌に突き刺さるような闘気はカサンドラだけでなく審判役のレーニャまで呑みこんでいく。
ほぼ全盛期の力を取り戻したアレクシードの迫力にレーニャは無意識に後ずさってしまったが、逆にその闘気に魅せられたカサンドラは愉快そうに口元を歪めて嗤う。
「これが『ミリムの夜叉』の本領ですか。今までとは桁違いの力を感じますわ」
「礼を言うぞ、カサンドラ。お前のおかげでとうの昔に燃え尽きたはずの灯火に再び火をつけることができた」
「こちらとしてもかつてミリム最強と謳われた騎士と闘えるのですから感謝は不要です」
「ならばその言葉に甘えるとしよう。だがこれで終いだ。これより先に語る口に価値はなし」
「その代わりに刃と拳で存分に語り合いましょうか! 」
アレクシードは騎士団長時代から愛用していたロングソードを抜剣し、カサンドラはパンッとガントレットをつけた両拳を合わせる。
今回カサンドラは槍も剣も持たず徒手空拳でアレクシードに挑んでいる。槍も剣もそれなりに扱えるが、本気のアレクシード相手ではそんな二流の力は通用しない。ゆえにカサンドラは一見無謀に思える本来の戦闘スタイルである徒手空拳を選択したのだ。
先程の倍近くまで膨れ上がった互いの殺気がぶつかり合い、その波動で木々は不自然に揺らめいた。
「で、では、始め! 」
若干声が震えてるレーニャが開始の合図を出した。
それと同時にレーニャの視界から両者は一瞬で姿を消す。そのゼロコンマ数秒後、両者の得物が激突し、金属同士がぶつかり合う音が庭に盛大に響いた。
実力者であるはずのレーニャですら目で追うのが精一杯の凄まじい攻防が彼女の目の前で繰り広げられる。
アレクシードの斬撃をカサンドラは最小限の動きだけで躱す。
しかし剣を振るいつつカサンドラの反撃を警戒して一定の距離を保つアレクシードの老練で隙のない動きを前にカサンドラは攻めあぐねていた。隙を掻い潜って攻撃しようするも距離をとられて間合いに入れない。
完全に力を取り戻したアレクシードは以前の彼と全くの別人。斬撃の鋭さもそうだが、一挙一動がより洗練されている。
前世で格上の人外と死闘を繰り広げた経験をもつカサンドラも内憂外患の混迷期を生き残ったアレクシードの巧みな動きに苦戦を強いられた。
(流石はミリムの猛将。強いだけじゃなく戦い方が上手い……! )
直撃こそ避けてるが防戦一方のカサンドラ。しかし焦れる展開にもカサンドラは冷静さを一切失っていない。
(力を取り戻したといっても体力の衰えはカバーできない。このまま向こうが息切れするのを待つのもありだけど、やっぱりそれは駄目よね)
とはいっても今のカサンドラにはアレクシードが息切れする前に倒すのは非常に困難だ。だがカサンドラには勝つ算段があった。
それは重力負荷の解除と仙術の使用。
今までカサンドラは重力操作で自身に負荷を掛けた状態で日常を過ごしていた。このアレクシード戦も例外ではない。それに加えてカサンドラはこの戦いで前世から鍛えていた仙術を使用せず、純粋な身体能力と技術だけで挑んでいた。別にアレクシードを舐めていたわけではない。ただ単純に一武人として自身の武技だけで闘ってみたかったからだ。
けれどこのままでは確実に不完全燃焼で闘いは終わってしまう。
躊躇する時間はなかった。
「お爺様、ひとつお詫びしたいことがあります」
距離を大きくとり、剣を構えるアレクシードにカサンドラは頭を下げる。
「……詫びだと? 」
「はい。私はまだ本当の意味で本気を出していませんでした。それは全力で相手してくださったお爺様への裏切りです」
アレクシードは黙ってカサンドラを見つめる。
「ですからここからはまだ今まで出したことがなかった本当の全力を出させていただきます! 」
そう言うと、カサンドラは自身に掛かっていた十倍の重力を解除するのと同時に体内に眠る全ての気を高速で身体中に循環させる。
「ぐっ、がぁ……」
前世ぶりの身体の中が焼けるような感覚に苦悶の声を上げる。だが楔から解き放たれたカサンドラは嗤っていた。
ーー仙術・纏
体内の気を具現化させて鎧のように纏う強化系の技。本来はポイントを絞って発動させるのだが、今回は全力を示すため全ての気を身体中に纏わせる。その分、気や体力の消耗は激しいが代わりにアレクシードを相手するには十分な力を発揮できる。
本来の力を解放したカサンドラの身体から具現化された気がバチバチと火花のように迸る。
「グ……!! 」
それまでとは桁外れな“圧”にアレクシードの警戒度が一気に高まる。レーニャに至っては完全に呑まれて立ち上がることすらできない。
「ではいきますよ」
その瞬間、それまでカサンドラの動きについてきてたアレクシードの視界からカサンドラの姿が消えた。
直後、背後からぞわりと悪寒が走った。
「どこを見ている」
アレクシードがそれに反応できたのは奇跡に近かった。
咄嗟に振り返り剣を盾にするが、背後からの裏拳を受けた剣はバキッと大きな音を立てて粉々に砕け散ってしまう。
そしてアレクシードが目にしたのは剣の破片が飛び散る中、身体を横にして自身の胴に正拳突きを叩き込むカサンドラの姿だった。
それを最後に身体が千切れるような激痛に襲われたアレクシードは意識を失ったのであった。
◇◇◇◇◇
(一時は死を覚悟したが、カサンドラが咄嗟に威力を抑えたおかげで肋骨の骨折だけですんだ、か。もし本気ならば儂どころかドラゴンすら木っ端微塵にしてしまいそうだ)
カサンドラの一撃を食らったアレクシードはその日は医師から絶対安静を告げられていたが、翌日には動けるまで回復していた。
見舞いにきたカサンドラはやり過ぎてしまったことは詫びたが、アレクシードを怪我させたことについては謝ることはなかった。
(付き添いのメイドは謝るべきと進言してたが、まさか儂の目の前で『これは互いが全力を出した結果による名誉の負傷。謝罪は不要』と断じるとはな。親に似ない子だとは思っていたがどうやら公爵家らしくない儂の血が一番濃かったようだ)
そんな孫は既に屋敷を出ている。冒険者になるといっていたカサンドラは当分屋敷には戻らないだろう。
(早くてもカサンドラが屋敷に戻ってくるまで数年か。短いようで長いな……)
粉々になったかつての愛剣の残骸を見つめてフゥと溜息をつく。老い先短いアレクシードにとって数年という月日は決して楽観できる長さではない。だが数年あれば今回より勘を取り戻せることも可能だ。
「やれやれ、ここまで儂を夢中にさせといて勝ち逃げは許さないぞカサンドラ」
アレクシードは獰猛な笑みを浮かべてカサンドラが向かった街の方向へ目を向ける。
それまで枯れた流木のように時を過ごしていたアレクシードは『孫にリベンジを果たす』という新たな目標を得ることができた。
(だが、そのためにはまず愛剣の復活をさせる必要がある)
アレクシードは使用人を呼び、騎士団時代に世話になった鍛治職人に手紙を出すよう命令した。
一方カサンドラ達が去り屋敷が寂しくなると嘆いていた使用人達はその日から無駄に輝きだした主人の暴走に付き合うことになったのであった。
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