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閑話ミリムスーパーライブ

約一ヶ月ぶりの更新です。お待たせしました。

 “革命の戦妃”


 ミリムの国民は王妃レイカ・ローズウェンディスのことをそう呼んでいる。


 彼女は病院や平民向けの学校の設立、それまで快く思われていなかった女性の社会進出を後押しするなど夫とともに革新的な政策を打ち出した。彼女らの政策によって平民の識字率は向上し、才能を持ち腐れしていた有能な貴族令嬢を筆頭とした女性達が仕事を得て各所で活躍しはじめた。それ以外も肥料の導入などの農地改革や書式の統一などの仕事の効率化を推し進めて、いつしか先王時代から荒れていたミリム王国は瞬く間に立ち直り、かつてないほどの最盛期を迎えていた。


 そんな偉業を成し遂げた彼女は国民達からまるで神のように信仰されている。


 故にもし彼女が突然民衆の前に現れたならどうなるかは火を見るより明らかだろう。




◇◇◇◇◇



「順番にチケットを拝見しますので押さないでくださーい! 」

「おいそこ割り込むな! ……はあ?自分は貴族子息だから文句言うなって? 何言ってんだ、貴族なら余計ルール守れよ。ほらあそこを見ろ、レオンハルト殿下だって早朝から順番守って並んでるんだぞ」

「うわあ、並んでるつっても殿下ほぼ先頭だよ。徹夜は禁止だから夜明けぐらいから並んでたのかな」

「まさかのガチ勢超え?殿下、マジぱねえ」


 王都の中心にある大きな劇場、ミリムスーパードーム。

 普段は劇を上演している王都民の憩いの場は大人気の歌姫ルルアーナのライブ会場として人がごった返していた。ルルアーナグッズを販売する特設エリアには最後尾が見えないほどの大行列ができている。


「ぶひひ、ルルアーナちゃんの限定ポスターをゲットしたぶひ」

「ふっ、まだまだ甘いでやんす。あっしは等身大ルルアーナちゃん抱き枕を買ったでやんす」

「おや、君はそんな物で満足しているのかい?私は完全受注生産のルルアーナフィギュア(幼女ver)だ! 依頼してから約半年……ようやく君に出会うことができたよ」

「えっ、殿下!? 」


 とまあ、色々あって遂にライブ開始一時間前。ライブ会場はすでに満席。倍率五千倍のチケットを購入できなかった人々は会場の外に溢れかえっていた。


 そして開始時間が近づくにつれて、会場からはルルアーナコールが響き始める。


『ルルアーナ! ルルアーナ!ルルアーナ!』


 コールが鳴り響く中、ライブ開始時間を迎える。


「ミリムスーパードーム、キター!!!!」


 幕が上がると同時に、青のドレスを身に纏った青髪の美少女ルルアーナが魔道具『マイク』を片手に叫ぶ。


『『『ウオオオオオオオオ!!!!』』』


 マイクによって大音量で会場内に響くルルアーナの声に数千の観客達が総立ちし、ありったけの声を振り絞って叫ぶ。

 ポスターを買ってた者は席から『ルルアーナ命』と書かれた鉢巻と団扇を装備してぶひぶひ叫び、抱き枕を買った者は興奮のあまり声にならない声を上げている。


「おおう! かなり盛り上がってますねえ! それじゃ早速一曲目いきましょうか! 」


 満足そうなルルアーナの合図とともに彼女の後ろに控えていた演奏団の魔道具『ギター』、『ベース』、『ドラム』、『キーボード』がマイクに負けぬ大音量でメロディを奏でる。


「~♪~~♪」


 演奏団が奏でるアップテンポなメロディとその音量に負けないルルアーナの力強い歌声に、それまで声をだして興奮していた観客はその迫力に呑まれる。観客は静まりかえり、会場は彼女一人の歌声が支配していた。


「すっげえ……」

「これが歌、なのか」


 初めて彼女の歌を聴いた者達はそれまでの音楽の常識をぶっ壊されるほどの衝撃を受ける。しかし無理はない。

 ルルアーナ登場以前の歌と言えば聖歌など静かで厳かなものが主流だった。それがアップテンポで激しい常識破りなルルアーナの歌とギターなどの魔道具の出現で、それまでの音楽の概念は大きく変わったのだ。





「えー、改めましてルルアーナです!よろしく!」

『『『ウオオオオオオオオ!!!』』』



 ルルアーナはアップテンポな曲やバラードなど数曲を歌い終えると、改めて観客に挨拶をする。観客も彼女に対して叫ぶことで反応した。


「うっはあ、皆さん元気ですねー!そんな皆さんに朗報です。なんと今回、特別ゲストとして私の歌の師匠が来てくれました!」


 ルルアーナの突然の発表に会場がざわめき、困惑を隠せない。彼らにとって今をときめく歌姫に師匠がいたなんて初耳なのだ。

 それに仮に彼女の師匠がいたとしても何故ライブに出てくるのか理解できなかった。


「あれ?皆さん、反応悪いですねー。師匠、割と有名なはずなんですけど」


 それでも観客の反応は良くならない。


「じゃあヒント出しますね。実は師匠はギターなど楽器系魔道具の発明者です。これで分かるかな?」


 彼女のヒントが出た途端、会場内の空気が二分した。ひとつは師匠の正体が全く分からない者達、そしてもう一方は薄々ながら師匠の正体に気づいた者達だった。


「おいおいマジかよ……」

「嘘だろ」

「えっ? お前ら分かったの? ていうか何でそんな驚いてんだよ」


 気づいた者は驚愕し、分からない者はそんな彼らの様子に困惑する。


「おっ、気づいた人がいるようですね。ではでは早速お呼びしましょうか!特別ゲストはこの方です、どうぞ!」


 ルルアーナの合図に合わせてステージ上が輝きはじめる。観客はどよめくが、一部の者は気づいた。

 この輝きは魔力そのものだと。



 そして輝きの中から現れたのはオレンジ色のフリフリしたドレスを着た十代前半に見える黒髪の美少女。輝きが完全に消え、閉じていた瞳を開いた。その瞳は虹色に輝いていた。


「ご紹介預かりました、特別ゲストとして呼ばれましたミリム王妃レイカ・ローズウェンディスです」


 彼女は観客に向かってにっこりと笑う。


『『『ウオォォォォォォォォォォオオ!!!!!』』』


 その瞬間、ルルアーナ登場をはるかに超える大歓声が会場を沸かした。


「お、王妃様だ……本物だ……」

「なんとお美しい。まるで女神のようだ」

「ああ~ロリロリしいんじゃ~」


 まさかの王妃登場で特に平民の観客が大歓声を上げる。彼らにとってレイカは自分の暮らしを良くしてくれた英雄で雲の上の存在だ。そんな彼女が目の前にいるなんて信じられなかった。


「レイカ様、音楽まで手を伸ばしてたんだなあ。楽器みたいな魔道具を発明してた時からなんとなくそんな気がしてたけど」

「なんか色々と規格外すぎて驚かなくなってきた」

「あの歌姫の師匠とは流石というかなんていうか……」

「おい、何呆けてるんだ。レイカ様の御前だぞ! 」


「あ、今回は私人としてだから堅苦しいのはなしでお願いします」


 一方貴族達は一部を除いて臣下の礼をとろうとするが、レイカにやんわりと固辞された。


「というわけで、今回は王妃としてでなく、唯のレイカとしてやってきました。なので皆さんあまり固くならないでくださいね! 」ニパッ!


『『『オォォォォォォォォォォ!!!』』』


 レイカの満面の笑みにやられた観客は、突然の王妃登場で困惑した空気から元の熱気へと一気に戻す。


「王妃様ハァハァ」

「ルルアーナちゃんも可愛いけど、王妃様マジキュート」

「あれで人妻なんだろ。そんなの……最高ですありがとうございます」

「人妻系ロリ……ふぅ」

「警備員さんこいつらです」


 一部変な輩が出現したが、会場はルルアーナ以上の盛り上がりを見せる。


「おうおう盛り上がってますよ! ではここで師匠から私とのエピソードを話してもらいます、やったね!」

「えっ、そんなの聞いてないんだけど。まあ、いいか。……え~、まず私とルルアーナとの関係なんですけど、彼女は私の妹弟子ですね。私が魔法使い見習い時代からの付き合いだから大体二十「ちょっ! 年齢関係はNGですから! 」あ、そういう設定……」

「設定言わない!ルルアーナは永遠の十七歳。いいですね?」

「アッハイ」


 ステージでみせる二人の漫才みたいな掛け合いにハハハハハ、と客席から笑い声が漏れる。

 二人は歌姫と王妃という立場を忘れて楽しそうに笑い合う。特に心の底から楽しそうにしているレイカを見て、普段レイカに王妃らしさを求めていた貴族達もやれやれと苦笑い。


「ああもう、師匠に任せると色々やばそうなんで私が話します。というわけで師匠は黙っててください」

「そんな~」


『王妃と歌姫のエピソードwktk』


 それまでレイカの私人発言もあり、王妃と歌姫の共演にもかかわらずほんわかしてた観客は二人のエピソードを聞こうとある意味臨戦態勢に入る。


(いやいや空気変わりすぎでしょ。どんだけ話聞きたがってるのよ……)


 穏やかな雰囲気から一転して静寂に包まれた会場にルルアーナの笑顔が若干引き気味になる。

 ふとステージ横で必死に腕をぐるぐる回してるスタッフが目に入った。


(えっ、時間ないから巻けって?これから面白くなるところなのにー)


 だが思ってる以上にトークが盛り上がってたことを自覚していたルルアーナはずっと喋りたいという思いを封印する。


「あー、まことに言いづらいのですが、どうやら時間が押してるらしいので手短に説明します。ごめんブーイングしないで。まず何故私がレイカ様を師匠と呼んでいるかというと、それは彼女が私に歌を教えて歌手という道を開かせてくれたからです」


 当時のルルアーナは魔法使い見習いだったが、魔法の実力が頭打ちになっていて魔法使いとしして大成することはできなかった。そんな時、たまたまレイカが口ずさんでた歌を聴いたルルアーナはそれを聴いて感動し、レイカにその歌を教えてくれと頼み込んだ。彼女は妹弟子の頼みを無下にせず、快くその歌を教えた。その歌はルルアーナがそれまで聴いてた歌とは全くの別物で、レイカ曰く、『遠い故郷の歌』ということだった。


「それでその歌を歌ってみたところ、師匠にプロでやっていけると絶賛されまして。当時は魔法使いとして生きても三流以下だったのは目に見えてたんで思い切って歌手に転向しました。すると私とその歌の相性が良かったのかどんどん有名になって今に至ります。だから私は歌を教えてくれた師匠のことを師匠と呼んでいるのです。とまあ、こんなところですね。さて時間がないのでさっさと進めましょう! 次は私ルルアーナと師匠レイカ様とのスペシャルコラボです! 」


『『『オォォォォォォォ!! 』』』


 スペシャルコラボと聞いて、それまでしんみりしていた会場は再び盛り上がる。


「これから歌う曲はさっき言っていた師匠が教えてくれた曲で私のデビュー曲でもあります。さーていきますよ、師匠」

「あの曲かー。随分と懐かしいね」



「嘘やろ……まさかここであの曲(・・・)だと!?」

「安い酒場で歌っていた彼女のファンになってから十数年経ったけど、俺はやっぱり彼女のデビュー曲が大好きなんだよな。ついに王妃様とコラボするなんて長生きはするもんだ」


 古参のルルアーナファンはまさか王妃とのコラボでデビュー曲が聴けるということで興奮で震えている。他の観客も彼女のデビュー曲は有名であることを知っている。興奮しないわけがなかった。

 しかも普段ルルアーナはこの歌を滅多に歌わない。実際彼女がこの歌を歌うのは数年ぶりであった。



「「それでは聴いてください。『異世界ファンタズム』!!! 」」



 軽やかなメロディの前奏が流れ始めると会場のボルテージが急上昇していく。


「~♪~~♪~~♪」


 出だしのAメロはルルアーナの静かな独唱から始まる。ルルアーナの力強い歌声は観客を引き込ませる。

 Bメロに入ると歌い手はルルアーナからレイカへ。徐々にテンポアップしていくパートをレイカは高く甘い歌声で歌い上げる。観客は初めて聴いた王妃の歌声にうっとりとしている。それは最前列にスタンバッてたレオンハルトも例外ではない。


「これが母上の歌声か。なんとロリロリしく甘い声なんだ…………うっ、ふぅ」

「え、殿下?」


 実の母親の歌声で欲情した第一王子を放っておいて、歌はついにサビの部分を迎える。


「「~♪~~♪~~♪」」


『ウオォォォォォ!! キター!!!!』



 力強く伸びのあるルルアーナとレイカの砂糖のように甘い歌声が会場に響く。会場のボルテージは最高潮に達していた。

 観客全てが総立ちし、皆特設エリアで購入したレイカ印のペンライト擬きを必死に振り回す。レオンハルトは最前列のルルアーナファン達を持ち前のカリスマで纏め上げ、無駄にキレッキレなオタ芸を披露する。護衛はドン引きするも、殿下に逆らえず必死にオタ芸。


「おおおおおおおお、母上ぇぇぇぇぇ!!」


 特にペンライトを六本を持つレオンハルトのオタ芸は歴戦の猛者にも劣らない。いかにもな美形の王子様がキレッキレのオタ芸とかなんてシュールな光景なんだ。


 そして演奏団がアウトロを弾き終わると、会場からは割れんばかりの大歓声と拍手が沸き起こった。



「皆さん、今日はありがとうございました!! とても楽しかったです!」

「私も久しぶりに王妃という立場を忘れてはしゃぐことができました。ルルアーナ、再びミリムでライブを開くことがあったらまた呼んでくださいね」

「あははは……ぜ、善処しまーす」



 こうしてルルアーナのミリム公演は世紀の大成功を収めたのであった。












「ふふふ、今日はとっても楽しかった。今度はあの子(・・・)を誘ってみようかしら?王妃としての権力を使えば可能だと思うけれど」


 最近貴族の間で話題になっているあの幼女。そして、おそらく私と同類のーー





「へくちっ、ズズッ、うーん風邪かしら?」

「お嬢様、だからちゃんと服を着てくださいと言ってるではありませんか」


 彼女達の邂逅は遠い未来の話でないことをまだ誰も知らない。


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