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これからのこと

 父が、いや元父が見事にざまぁされたその日の夜、私は陛下から執務室に呼び出されていた。レーニャは私のお付きとして帯同を許可されている。


「失礼致します。カサンドラ・キルシュバウムでございます。ただいま参上致しました」


 執務室には陛下と宰相の他に何故か筋肉隆々のおじいさんがいた。どちら様?


「よく来てくれたカサンドラ嬢。なに、そんな緊張しなくても良い。今回はカサンドラ嬢の今後について話し合おうと思ってな。それと紹介しておこう。彼はアレクシード・キルシュバウム。先代のキルシュバウム公爵でカサンドラ嬢の父方の祖父にあたる」


 この人が私の祖父ですと!? 名前は知っていたけれど、予想以上にあの豚とまったく似てないのですが。本当に血の繋がりあるのだろうか?


「陛下、何故ここにお爺様がいらっしゃるのでしょうか? 」

「カサンドラ嬢よ、キルシュバウム公爵が引き起こしたこの件の影響はどのくらいに及ぶと思う?」


 祖父について質問しようとしたら、逆に陛下に質問されてしまった。


「非常に申しにくいことですが……恐らく、貴族内の勢力図が一新されるほどかと」

「その通りだ。おかげでしばらく忙しくなる」

「も、申し訳ございません……」


 元父の国王暗殺計画にはどうやら他にも有力貴族も名を連ねていたそうで、本人やその親族の処分をすべて行うと一気に貴族内の勢力図が一変してしまうのだそうだ。


 キルシュバウム家の親族の多くは国王暗殺計画には関与していなかったが、横領などの不正を行なっていたため処分を受けるはずだ。だが祖父がこの場にいるということは、祖父がその件に関与していないといえる。処罰はないのかもしれない。その祖父を私に会わせたということは、


「つまり祖父は私の後見人の候補、または監視ということでしょうか?」


 私が自分なりの答えをだすと、陛下は苦い顔になる。あれ?まさか外した?


「カサンドラ嬢はとても聡いな。こちらが悲しくなるほど物分かりが良すぎる」


 それは前世の記憶があるからとは言えない。しかも見た目は子供、中身は前世を含めると三十路だなんて死んでも言いたくない。


「普通は親に甘えたい年頃だというのにカサンドラ嬢は達観し過ぎているな。やはり君には甘えられる保護者が必要だ」

「それでお爺様が後見人と。たしかに罪人の娘である私を引き取ってくれる物好きな貴族はいないでしょう。ですがキルシュバウム家は取り潰しになりますのでお爺様は私を引き取る余裕はないのではないでしょうか?」

「カサンドラ嬢の言う通りキルシュバウム家の取り潰しは決定だ。しかしアレクシードは先代当主といっても婿養子で実家はハミルトン伯爵家だ。既に隠居しているがアレクシード自身もハミルトン伯爵領内に屋敷をもっているので子供1人養うことくらい問題はない。それにアレクシードは先代騎士団長だ。人望も性格もこの私が保証する」


 ハミルトン伯爵家というのは王国の西にいる辺境貴族だ。決して大きくはないが、キルシュバウム家と違い領民第一とした善良な貴族として知られている。


「しかし自分の領地に罪人の娘を迎えるとなればハミルトン伯爵に迷惑がかかります。ご一考を」


 私がそう言うと、陛下はまた苦笑した。何かデジャブを感じる。


「どうやらカサンドラ嬢は誤解をしているようだ。君はたしかに罪人の娘でもあるが、君自身は罪人ではない。寧ろ貴族の中では君は身を呈して国を守った勇気ある者として賞賛されている。そのカサンドラ嬢を悪く言えばその貴族が騒動に関与したかと疑われるくらいだ」


 はあぁぁぁぁ!? 私の好感度高すぎでしょ! はっ、これはまさか、立派な令嬢としてどっかの貴族子息と婚約するフラグ!? そんなの勘弁してよ、私は冒険者になるんだ~!

 だが陛下はそんな私の葛藤に気づくことはない。


「だからそんなことを気にする必要はない。それに後見人役はアレクシード自身が望んだことだ。もしアレクシードが志願してくれなかったら後見人役を名乗りでてくる貴族が殺到してただろうな」


 まじっすか……って何気に陛下お爺様のこと推してない?


「そうでしたか。ではお爺様、今後はしばらくの間お世話になります」

「しばらくの間だと?」


 あっ、何気にお爺様が喋ったのが初めてじゃない?中々渋くて良い声。


「陛下に以前申しあげましたが、私は貴族より冒険者として生きたいのです。ですのでしばらくの間は一般知識を学んで、その後は冒険者として生きようと思っております」

「駄目だ。カサンドラのようにか弱な婦女子には冒険者なんて不可能だ。悪いことは言わないからやめときなさい。カサンドラは私に守られていれば良い」


 お爺様が私の決意に反対するのは目に見えていたからそこは仕方ない。だけどお爺様は言ってはいけないことを言ってしまった。


 守られていれば良い、と。


 それは(カサンドラ)にとって、いや前世で大切な家族を目の前で失い己の無力さを恨んだ(東城美波)にとって禁句だった。


 ふざけるな! 私は守られていなければ生きていけないような存在になることなんて死んでも御免だ!


 力が無ければ自分にとって大切な何かを守ることはできない。


 力がなかったせいで前世では家族以外の大切なものも守れなかった。


 紛争地域で助けた子供が目の前で機関銃に撃たれてミンチにされた、放浪先で知り合った友人が私を逆恨みしていた奴に襲われ殺された、必死に私に助けを求めながら怪物に生きたまま食べられた者もいた。

 その時どれだけ自分の無力さを痛感し、無力な己を呪っただろうか。口惜しくて何度も泣いたこともあった。


 転生してもその苦い思いを忘れたことはない。

 だから私は無力な私になることを許容できなかった。


「あら、お爺様とあろう人が私の実力を測ることすらできないですのね。それでも本当に元騎士団長ですか?それとも……もう耄碌したのですか?」


 この挑発は効いたのだろう。お爺様は私だけに殺気をむける。恐らく並の兵士でも動けなくなるほどの殺気。普段殺気をむけられることがない貴族、それも子供なら失禁してしまうかもしれない。普通なら。


「おや、たかが子供の戯言に殺気をむけるなんてなんて大人気ない人。それとも力づくで抑えつけようとでもなさいましたか?」


 でも私にはこの程度の殺気は通用しない。祖父は驚いているがそんなの気にしない。それにやられっぱなしは気に食わないのだ。私は祖父にさっきの二倍程度の殺気をむけた。恐らく一般兵士が腰を抜かすレベルぐらいだろう。


「なんとっ……!? ここまでとは……」


 祖父もまさか十歳の少女、しかも自分の孫が殺気を振り撒くとは思わなかったのか、陛下が不審がるほどに動揺していた。


「アレクシードよ、一体どうした?」


 陛下には殺気がむけなかったので、何が起きたのか理解できていなかった。


「失礼いたしました陛下。どうやら我が孫は戦士としてとんでもない素質があるようです」


 流石に実力を理解できたのか、私の評価は上がったようだ。これで分からなかったら私は祖父に失望していただろう。


 祖父、いやお爺様が私と向かい合う。


「二年だ」


「えっ?」


「二年は屋敷に居てもらう。その後は冒険者でもなんでもなれば良い。だが二年は勉学などをしてもらう」


 なるほど、そこが妥協点か。我儘言ってるのは分かっているからここは私が折れなくてはならない。


「分かりました。我儘を聞いてもらってありがとうございますお爺様」


 ほんと、話が通じる御仁でよかったよ。下手な相手だと監禁または軟禁されかねなかったしね。


「それと、お前が屋敷にいる間は私が特別に鍛錬してやろう」


 そう言うと、お爺様はそっぽむいて陛下に準備があるからと言って執務室から退室していった。


「おやおや先代の騎士団長もあんな表情するんですねえ」

「そうだな、私の前ではほとんど無表情だったしな」


 今まで空気だった宰相がそう言うと、陛下も同意して笑う。やばい、宰相の存在をすっかり忘れてた!


「私はそんなに存在感ないのでしょうか?」


 宰相がこっちを見て黒い笑みを浮かべている。もしかして心読まれている!?


「いえいえ、そんなことないですよ」ニッコリ


 完璧に読んでんじゃないですかー!! 後、存在感薄いなとか思ってごめんなさい。





◇◇◇◇◇




 それから数日が経過し、私とレーニャはお爺様と共に馬車に乗ってミリム王国の辺境にあるハミルトン伯爵領を目指していた。馬車の周りにはお爺様の従者が控えている。


 馬車はどんどん王都から離れていく。伯爵領は旧公爵領のイリンピアとは真逆の方角に位置している。窓から見えるのは切り開かれた地平線とその先にある青々とした麦畑のみ。前世ではなかなかお目にかかれない絶景だが、ある事が気がかりで素直に感動できない。


「二人は一体どこにいるのかしら……」


 結局出発直前になっても、クリスティアとクレハは姿を現すことはなかった。周りにも二人を探すように指示したが、手がかりはゼロ。二人が生きているかどうかすら掴めなかった。唯一気になる情報は別館の裏庭にある古井戸に血痕が付着していたというものくらいだ。


「お嬢様、クリスティア様達はきっと無事ですって」

「それもそうね」


 二人の安否は気になるけど、一芸に秀でた彼女達のことだ。案外無事かもしれない。


「ハァ……とにかく告発が上手くいってよかったわ。おかげで豚両親は処刑、私も公爵家の取り潰しで貴族とおさらばできた。後は冒険者になって自由に生きるだけね」


 けど元両親が私を疎んだ理由が“自分より綺麗だから”だなんて思いもしなかったわ。何故か自分の容姿に自信があった豚共は自分達より美しいのは許せないと産まれたばかりの乳児に嫉妬したというのだ。たしかに自分でいうのもなんだけど、カサンドラってヒロインのライバル役でもあったからかなり容姿は良いんだよね。

 でもそれが理由で育児放棄は駄目だと思うんだ。これは後々聞いた話だけど、元両親は私を飼い殺しにするか何処ぞの変態貴族に妾にさせるつもりだったらしい。何そのバッドエンド……

 ちなみにゲームとは違って第二王子との婚約は考えていなかったようだ。これもバタフライエフェクトの影響なのかな?



 まあ色々とあったけど、もう私は貴族でもなくなったからカサンドラの悪役令嬢フラグは折れたはず。王立魔法学院にも行くことはないだろうし、もし乙女ゲームの本編が始まっても巻き込まれる心配はなさそうだ。


「後はのんびり過ごせたらいいんだけど……」




 だがその時の私は気づかなかった。それはフラグだということを。






 今後の私の人生が『のんびり』から無縁なものになるなんてまだ誰も知る由もなかった。


これで第一章本編は完結です。後は閑話を数本投稿する予定です。

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