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新たなメイドは

ストーリーが停滞気味。そろそろどうにかしないと。


「ねえ、レーニャって子、最近調子のってると思わない?」


 それはあるメイドのこの一言から始まった。







 カサンドラが本館に移ってきてから二年の歳月が経過した。


 当初屋敷の人間から煙たがれていたカサンドラだったが、性悪家庭教師を返り討ちにしたのをきっかけに一部の者から自身の評価を改めてさせた。

 さらに二年が経つと彼女の聡明さはより際立つようになり、それはやがて親カサンドラ派という下級メイドが中心の勢力が現れるほどになっていた。


 一方、それまで身分を盾に下級メイド達に自分の仕事まで強要していた貴族出身のメイドや屋敷内のヒエラルキーが高い者達はこのままでは自分達の立場が危うくなると、聡明で求心力のあるカサンドラの存在を疎んでいた。


 だが当主から無視されてるといっても、今のところカサンドラは公爵家の正当な跡取りだ。我儘令嬢ならまだしも名門貴族として相応しい振る舞いをみせるカサンドラを前に一使用人がどうこうすることはできない。


 反カサンドラ派筆頭のセバースは自室で頭を抱えていた。彼は執事だが、当主不在時に屋敷の留守を預かるほど当主から信頼されていた。当主から信頼されることを誇りに思っている彼は当然主が疎むカサンドラを快く思っていない。


 そのため最低限の仕事はこなすがカサンドラ側に配慮は一切していなかったし、仮にカサンドラが不満を持っていてもどうすることもできないと高を括っていた。


 だが二年前の家庭教師の件でカサンドラへの評価は一変する。

 実はカサンドラがクビにした家庭教師はセバースが招いた者だったのだ。当初セバースは家庭教師をクビにしたのはカサンドラの我儘と判断して彼女を責めたが、家庭教師の自白や下級メイド達の証言などで事実が明らかになると顔面蒼白。それなりの名家出身というだけで彼らを雇ったセバースはその家庭教師の評判を全く知らなかった。


 この件でカサンドラを責めるつもりが逆に公爵家に相応しくない家庭教師を連れてきた彼の責任を問われ、それ以降周囲から自身の手腕を疑われるようになってしまった。


「まさかここまでカサンドラ様が優秀だとは……! 」

「それはあなたがマヌケなだけじゃなぁい。頭は良いくせに役立たずの無能が何を言ってるのかしらぁ」


 セバースしかいないはずの部屋から第三者の声が彼の耳元から聞こえた。

 咄嗟に振り返ると、彼の目の前には黒いローブを着た人物が林檎を手で弄びながら立っている。顔はローブが邪魔して見えない。


「ッ!? 貴様、何者だ? どこから入ってきた!? 」

「誰でもいいじゃなぁい。あなたみたいに自分を優秀だと思い込んでる無能に名乗る名はないしねぇ」


 ローブを纏う者から発せられたのは男とも女ともとれるような不思議な声。


「なんだと? 侵入者風情が偉そうに。誰か、こいつを捕まえ……」


 だがセバースは最後まで言うことができなかった。


「愚かねぇ。何でわざわざ私があなたなんかに会いにきたと思ってるのよ」


 いつの間にかセバースの胸にはローブを纏う者の手から放たれた不気味なデザインの黒いナイフが突き刺さっていた。


「私の雇い主さんからの伝言よぉ。『お前はもう用済みだ』そうよ。可哀想に……捨てられちゃったのね、ってもう聞こえてないかぁ」


 セバースの目から光が失われてる。既に彼は事切れていた。


「でもあなたの身体(・・・・・・)には利用価値があるから安心してちょうだいねぇ」


 一瞬部屋が巨大な影に覆われたが、それに気づいた者はいなかった。



 バギッゴキッゴリッグシャアッバキボキッ



 数分後、部屋の扉が開く。中から現れたのは事切れたはずのセバースだった。

 部屋にはローブの人物の姿は見えず、代わりに白い棒状のなにかが転がっていた。


「さて始めましょうか。カサンドラちゃんには悪いけど、私の愉しみのためにちょっと踊ってもらいましょう」





 そして冒頭に戻る。

 最初のセリフを言っていたのは親カサンドラ派のメイドだった。


「獣人の癖にカサンドラ様の専属とか生意気なのよ」

「そうよそうよ。どうせカサンドラ様に取り入って、お情けで専属にさせてもらったに違いないわ」


 最初に発言したメイドに賛同する声が上がる。彼女達も親カサンドラ派のメンバーだ。しかし比較的穏健な親カサンドラ派の中でもカサンドラ至上主義を掲げる過激派の一員でもある。


「ならレーニャって子をちょっと懲らしめてやりましょうよ」

「そうね。獣人なんて野蛮な存在はカサンドラ様に相応しくないわ。これはカサンドラ様のためなのよ」

「だから私達がこれからやることは正当なことよ。私達はカサンドラ様を野蛮な獣から守るのだわ」


 カサンドラに心酔する親カサンドラ派にとって唯一のカサンドラ専属メイドであり獣人でもあるレーニャは嫉妬の対象だ。一部は常日頃からカサンドラに野蛮な獣人は相応しくないと主張していた。

 メイド数人の不穏な会話は続く。だがそれを聞いている者がいた。


(やっぱり親カサンドラ派も一枚岩じゃないわねぇ。攻撃対象を反カサンドラ派からあの獣人の子に変えるだけでこうなるなるんだから)


 セバース(?)が行ったのは、『レーニャがカサンドラに取り入って専属にしてもらった』、『レーニャは他のメイド達を見下している』という根も葉もない噂を屋敷内で流したことだ。


 親カサンドラ派の中には獣人でカサンドラの専属であるレーニャを妬む者も多い。これが予想以上に上手くいった。


(嘘か本当か分からない噂なのに見事に騙されちゃって、人間って愚かねぇ。それに親カサンドラ派はあくまで自称に過ぎないし。カサンドラちゃんが信頼してるのはあの獣人だけなのにね。親カサンドラ派が彼女が信頼する子を害すると思うとワクワクするわぁ)


 自身の策略が上手くいったことを確信したセバース(?)はその場を去っていった。


「そう、私達はカサンドラ様を守る騎士なのよ! 」


 セバース(?)が去った後も彼女達の会話(妄想)は続いていた。

 だがそれはある人物の介入によって終わりを告げる。


「先輩方、そこまでにした方がよろしいと思いますよ」

「あなたは、たしか新人の……」

「新人のクレハと申します」


 黒髪のポニーテールにすらりとした高身長、無表情で何故かよく目を瞑っている彼女は最近屋敷に仕え始めた新人メイドだ。

 話を聞かれたメイド達はクレハの凜とした態度に若干たじろぎながらも強気に出る。


「盗み聞きは感心しないわね。それで私達の話に割ってまで何か用なの?」

「そうですね。たしか先輩達はレーニャさんを害するって言ってましたよね」


 クレハの断言するような口調に、そこまで聞かれてたか、と彼女達の表情が苦虫を噛み潰したような顔に変わる。


「もし本当にレーニャさんを害するつもりなら、痛い目に遭う前にやめた方がよろしいですよ。……彼女は普通じゃない」

「ちょっ、それはどういう……」

「では自分は仕事がありますので、失礼します」


 彼女達の問いかけには応じず、クレハは淡々と仕事に戻っていった。


「ふん、あんな子の言うことを真に受けることはないわ。さっさとあの獣人に追い出してしまいましょう」


 メイド達はクレハの忠告を無視して再び話し合いを再開させた。

 しかしこの判断が後の彼女達の運命を大きく左右させることをまだ誰も知らない。








 あの会話の翌日、早速彼女達はレーニャを屋敷から追い出すべく、レーニャに様々な嫌がらせを敢行する。


 その日から彼女達は仕事をするレーニャの足を引っかける、すれ違い様に嫌味を言う、レーニャの部屋に虫入りの箱を置いておくなどメイド達の中では常套手段の陰湿な嫌がらせを繰り返した。


 そんな彼女達の所業はかつてレーニャを虐めていたクリスティアの耳にも入る。一時期はレーニャによく突っかかってた彼女だが最近は落ち着き、一メイドとして内心レーニャのことを認めていた。

 彼女は貴族出身のメイドだったが、現在の彼女は屋敷内では珍しく中立を貫いていた。


「クリスティア様、これに乗じてあの獣人を再び虐めませんか?」


 取り巻きの言葉にクリスティアは黙ったまま首を横に振る。


「乗り気じゃないですわ」


 一言そう呟くと、納得していない取り巻きを無理矢理下げさせた。

 屋敷内の醜い争いにクリスティアは溜息をこぼす。


「はぁ、馬鹿らしい。でもちょっと前まで私もあちら側だったのよね……」


 諸事情があったといえ、性根が腐ってたかつての自分を思い出してさらにブルーになるクリスティアなのであった。










 一方、その頃のカサンドラ主従


「聞いてくださいよお嬢様~。最近、仕事仲間が私を怖がっているんですよ。何ででしょう?」

「知らないわよ。大方無意識で何かやらかしたんじゃない?」

「そうですかねぇ~」


 平常運転。全く嫌がらせに動じていなかった。











「もう……どういうことなのよ。化け物なのあの子は。何で私達の嫌がらせに動じないの」

「むしろ返り討ちに遭った……脱落した子もいるし」

「でもこんなので諦められないわよ。仕方ないわ、最終手段よ」

「最終手段って?」


 首謀者のメイドが血走った目で共犯のメイド達に詰め寄る。



「殺すのよ、あの獣人を」


 この彼女達の愚かな判断はさらなる悲劇の幕開けとなるが、まだ誰もそのことを知る者はいなかった。






「なんて愚かな……」


「あっはっはっは! 愉快だわぁ。面白そうねぇ」


レーニャへの嫌がらせの結末


足を引っかける→強靭な足腰をもつレーニャに力負けし、むしろ足ごと持ってかれて自分が転ぶ。周囲から変な目で見られる。


すれ違い様に嫌味を言う→カサンドラのことばかり考えているからそもそも聞いていない。だけど重要事項などはちゃんと聞いてる。レーニャ本人が気づいていないため、嫌味を言った人物は周囲からいつもボソボソ呟いている変な人というレッテルを貼られる。


部屋に虫入りの箱を置く→何故か食用が入っている。レーニャ、夜食として喜んで回収する(割と好物)。犯人がたまたまその食べるところを目撃して倒れてしまったので強制終了。

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