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新たな修行場所と不穏な風

「では今日はここまでです。カサンドラ様はすぐ吸収してくれますので、私も教え甲斐がありますわ」

「ありがとうございます。ですが私なんてまだまだ未熟者ですわ。これからも精進していきます」

「カサンドラ様は本当に真面目ですね。この時期の子達なんて遊び盛りで、授業すらまともに受けてくれない子も多いから……」


 ワントーン先生が溜息をつく。この人、真面目に子供達のこと考えてくれてるなあ。


「でそういう子には身体で教えるのが一番ね。勿論、性的に」


 でも変態なんだよなあ。というか手ェ出してんのかい。よく今まで無事だったな。


 結論、ワントーン先生は真面目なんだかそうでないのかよく分からない。




 レッスンが始まってひと月が経過し、慌ただしかった日常は落ち着きを取り戻していた。

 レッスンも新しくまともな人を雇ったから特に問題もない。

 食事も前よりマシになり、幽閉された時よりも快適な生活だったが、ある問題点が浮上した。


「暇だわ。暇すぎる」


 そう暇を持て余していることだ。

 別館の時も時間が有り余っていたが、修行や読書を自由にできたので暇を感じることが少なかった。


 だが本館に移ったことで周囲の目が厳しくなり自由な行動が取りにくくなっていた。書庫も別館の物置と化していた旧書庫よりも面白いものはないし、なにより最近まで修行していた別館の裏庭に行けなくなったのは痛かった。


 現在は室内でのトレーニングが中心で、組手など実戦形式や技の修行ができない。


 レーニャに新たな場所を探してもらってるが、本館の近くは人目が多いのでなかなか人目のつかない場所が見つからないのが現状だ。


「まだ見つからないかしら……」


 答えは変わらないと分かってるのに、何度も同じ質問してる気がする。

 だが今日は違った。


「一応、候補は見つかりました」

「ええ?本当なの?」

「はい、あくまでも候補ですが人目も少なく、それなりに広さがあります」

「本館の近くにそんな穴場が!? 」


 これでようやく満足に修行できないストレスから解放されるーー




「レーニャ、ここはどこかしら……?」

「屋敷の地下牢です。今は使われてないみたいですよ」


 ということで私達は屋敷の地下牢に来ている。


 足下は地面のままだが壁などの周りは石造りになっていてかなり丈夫そうだ。ただ途轍もなく広い。地下牢って言うからそこそこの広さだと思っていたら、実際は面積だけなら別館と同じくらいの地下空間だった。本当に地下牢なのこ疑ったけど、中に牢屋がたくさんあるので地下牢なのは違いない。


「確かに広いし人目にはつかないから条件を満たしてるけど、いちいち地下牢に行くのは怪しまれるんじゃない?」


 今回は周囲の監視の目を盗んで来ているが、普段から頻繁に行けるような場所ではない。


「大丈夫ですよ。ちょっと待っていてください」


 そう言うとレーニャは何かを探すように地下空間を歩き始めた。

 よく見ると彼女のケモ耳がピクピクと動いている。


「う~ん、この辺りですね」


 レーニャはある地点で立ち止まり、その近くの壁を力強く押した。


 ガコッ


 するとどうだろう。彼女の押した部分がまるでスイッチのように沈んだではないか。

 それと同時に目の前の壁が扉のように開き、その奥には通路らしき空間が広がっていた。


「な、ななななな!? 」

「凄くないですかこれ?どうやら隠し通路みたいなんですよ」

「何で地下牢にこんな仕掛けがあるのよ……」


 地下は馬鹿でかい空間だし、なんか変な仕掛けもあるし一体どうなってるんだこの屋敷は。


「他にも似たような仕掛けがあるようです。何のために作ったかは分かりませんが」

「まるでからくり屋敷ね。でも何でさっきの仕掛けを起動させたのかしら?」

「それはこの通路がお嬢様の部屋に繋がっているからです。つまりお嬢様の部屋から直接ここに来ることができます」

「はあ?」


 何で私の部屋が地下牢に繋がってるのよ。物騒すぎるわ。下手したら地下牢に捕まってる奴がこれを見つけたら、私の部屋まで来ちゃうじゃない。


「でも今は使われていませんし、人も近づきませんから平気ですよ」

「そうね。仮に地下牢が使われるとしても、その時は気配で気づくわよね」


『いやそれできるのお嬢様だけですって』


「じゃ、じゃあ新たな修行場所も見つけたことですし、戻りますか」

「それは賛成なんだけど……」

「どうしましたお嬢様?」


 レーニャが通路を開けた時から思っていた疑問をぶつけてみる。


「いや、通路が私の部屋に繋がっているって分かってたなら、わざわざ地下牢じゃなくて私の部屋から行けば良かったんじゃない? 」

「……あっ」


 レーニャ……完全に忘れてたね。

 どうやら彼女のドジっ子体質はまだ治っていなかったようだ。








 翌日、私達は練習着に着替えて早速地下牢に来ていた。


「やあああああああ!! 」


 ローソクの火が頼りない地下牢で、レーニャの拳が私の目の前で空を切る。


「やっぱり暗いと目測が合わないみたいね! もっとローソクを増やした方が良いんじゃない? 」


 空振りにおわり体勢を崩したレーニャの隙を突く形で、彼女の右脇腹へ回転蹴りを浴びせる。こちらは目測を誤っていない。暗闇での戦闘は前世で嫌ってほど経験してきた。


「ぐっ!!」


 右手は伸びきり、右足に重心がかかっていたためレーニャは蹴りを避けられず、直撃して吹き飛ばされる。

 一方私も蹴った反動で後ろに吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直し無事に着地する。


「ガハッ! ゲホゲホッ」


 勢いを殺せず地面に転がったレーニャはすぐに立ち上がるが、右脇腹を押さえており足下がおぼつかない。これ以上の続行は不可能だった。


「今日はここまでね。予想よりもろに蹴りが入っちゃったけど大丈夫?」


 加減はしてるから大きな怪我はないはずだけど、当たりどころが悪いと骨折してる場合があるから油断はできない。


「大丈夫です。ちょっと痣になってる程度ですので」


 やや苦しそうにしているが、怪我の箇所を見ても骨折してる気配はない。


「でも一応処置しなさい。油断したら悪化するわよ」

「お嬢様はこういうことに口煩いですからね。その辺は徹底してますよ」

「そう、それならいいけ……ん?」

「どうしましたか?」


 気のせいかしら。さっき誰かに見られたような……


「何でもないわ。ほら、さっさと戻るわよ」


 もう一度周囲を見渡すが、さっき感じた気配はなくなっていた。

 私は気のせいだと思い、レーニャを連れて地下牢を後にする。


 だから気づけなかった。


「…………」



 私達が去った方向をじっと見つめる、目が不自然に光る蝙蝠の存在に。





◇◇◇◇◇





 蝙蝠はやがて地下牢の外へ飛び、ある場所へと向かう。

 そこには黒いローブを纏った人物が立っていた。


「あらあらあらぁ、これは面白いものが見れたわぁ」


 その腕に蝙蝠を止まらせた人物はねっとりとした笑みを浮かべる。


「この子達なら愉しめそうねぇ」


 突然、風が吹くとその人物は姿を消していた。


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