VSリフレクティノイド後半
『ほん…、当は、もっと……遊びたい?け、ど!そろ、そろ、おまえこ?ろさないと……真……王さ、まに!お、こられる!』
「っ!?中速移動!」
先程までの攻撃に比べてスピードが増した。
同じように高度から腕を地面に叩きつけてくるだけなのだが予備動作で攻撃を見極めるだけでは避けれなくなっている。
……いよいよこいつも本気ということか。
『ゲギャギャギャギャギャ!まだ、まだ』
「くそ!中速移動!粉砕棍!」
今度は連続して腕を叩きつけてくる。
威力・スピードが増している分更に避けるのが難しくなり、それだけならいいが欠損した腕の部位も衝撃で横から飛んできたり、上から落ちてきて手がつけられなくなってきている。
今は魔法を使うことでなんとか凌ぐことができているが……
唯一の救いは魔力切れをまず起こさないことか!
『ゲギャギャ?やっ、ぱりお前え!お、もしろ?い!』
「あぁそうかよ!ならもっと面白いものを見せてやる!」
現在僕は魔法は中級のものしかまともに使うことはできない。
それ以上の上級、最上級、古代、禁断も同様だ。
しかし、異世界魔法というのだけは例外のようで、ちゃんと呪文を構築したら発動できることが判明している。
多分、この世界でいう異世界の1つが前に居た地球のことを指しているのだろう。
どうやら地球に現存していた魔法なら僕にも使えるようなのだ。
勿論詠唱は長いんだけどな。
「罪を償え。咎を認めよ。汝に降りかかるは天星よりの裁き。1を0としその身を清めたまえ。我は汝の罪を赦す者。『業』!」
『ギャ?』
上空に巨大な魔方陣が出現し、そこから黒い煙のようなものが出てきてリフレクティノイドの身を包む。
こいつは何が起こっているのか分からない様子で、ただ立ち尽くしているだけだがその身に危険が迫ってきているのを本能で感じとったのか、突然暴れ始める。
『ギャ!や、めろ!ギャギャギャ!!?』
が、そんなことは無意味である。
あれは力任せに破壊できるようなものではない。
初めて使う魔法にも関わらず、僕はあの魔法のことを熟知していた。
これも能力のおかげなのだろうか?
黒い煙がリフレクティノイドの身を完全に包んだところでこいつのは声は全く聞こえなくなった。
中でまだ暴れているようだが脱出することは叶わないだろう。
この業という魔法は一種の結界なようなものだと言えば分かりやすい。
あの黒い煙は外部からの攻撃には滅法弱いが、内部からの攻撃にはほぼ無敵と言っていい程に耐久性がある。
そして黒い煙が対象となるものを包み込んだら内部に魔法が具現化し、実体を持つ無数の剣が現れ、串刺し、もしくは八つ裂きにする。
『……!!!……!……??!!!?』
それが終わると黒い煙は消え、対象となったものは解放される。
そこにはバラバラになったリフレクティノイドの肉片があった。
まだ辛うじて話すことはできるようだ。
どうせすぐに再生するのだろうが。
『お前え……ひど、いな!こ、れは!?辛い、ぞ?!』
バラバラにするだけなら中級魔法でもできる。
この魔法にはまだ次があるのだ。
『……ギャ!?』
上空の魔方陣から楔のようなものが飛び出し、その全てがバラバラになったリフレクティノイドの肉片に突き刺さる。
『ギャ……?動け、ない?』
こいつの言う通り、楔が刺さった箇所を動かすことはできない。
そして、
『さい、生も……しな、い!?』
一度楔が刺さればその者が持っている特性を封じることができる。
勿論能力は普通通りに使うことはできるし、楔自体も女子供でも少し力を入れれば簡単に抜くことができる。
が、こいつにはそれができないし、気づけない。
こんなことに気づくだけの知能を持ち合わせていないから。
能力を反射するだけの能力しか持っていないから。
『ギャ、ギャ、ま、ずい……な!』
「年貢の納め時だな」
僕はここまでして気づいたことがある。
世界の理を知る者は、本来そもそも能力であり、魔法ではない。
なのにこいつの能力反射は世界の理を知る者で発動した魔法を反射できなかった。
何故なのかと言うと、能力反射は能力を反射するものであり、魔法を反射するものではないから。
それは前述の通りだ。
では、能力と魔法は何が違うのか?
僕は完全にその違いを理解できたわけではないが、1つのある仮定が浮かんでいる。
それは、能力は自身の「何か」を消費して発動し、魔法は魔力を消費して発動する。
簡単に言えば魔力を使っているか使っていないかの違いだ。
能力反射は魔力以外の「何か」を反射する能力だと考えている。
もし、僕のこの予想が的中しているのなら同じようにこの能力も反射されないだろう!
これはもう賭けだ。
反射されたら他の勇者同様に僕の負け。
反射されなかったら僕の勝ちだ。
さぁ受けてみろ。
リフレクティノイド!
「くらえ!未知の侵略者!」
バラバラになったリフレクティノイドに未知の侵略者をぶつける。
結果は……反射をされなかった。
黒い玉がリフレクティノイドに向かい、僕の魔力を全て吸収し、高密度の重力場を形成して僕の目の前に居たリフレクティノイドを大地と共に跡形もなく消滅させる。
「く、はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……っ!!」
その後僕は避けることのできない倦怠感に襲われる。
その場に倒れ込むので精一杯だ。
だが、上手くいった。
やはり、未知の侵略者は魔力を消費して発動する能力……
魔法のカテゴリーに入らず、けれども能力とも言えないその中間の能力だったか。
この能力に助けられたな……
「ゲゲゲゲゲ!引っ掛かったぞ!バカメ!」
この声は……まさか!?
「だ、れだ!」
「ダレダ?おではおでだぞ?さっぎまで一緒に遊んでいたじゃないか?おでの「分身」と!」
僕の目の前にはハゲ頭で長身で太った体型の……まるでゴブリンのような魔物が立っていた。
あの巨大なリフレクティノイドに比べて雑魚感を感じずにはいられないが、今の僕にとっては厄介極まりない。
魔力の枯渇によるせいでろくに動けないせいで攻撃も回避もできない。
全快するにも後数分はかかる。
なんとかして……時間を稼いで魔力の回復を……!
「分、しん……?」
「そうだ!おでの固有能力死廃者!これは殺した敵の死体を腐らせ、その腐らせた死肉で自由に動かせる操り人形を造ることができるのだ!しかもその分身は使用者と同じ能力を使うことができる!」
あの時の異常なまでの腐敗速度はこの能力のせいだったのか。
どうりであれだけの巨体に気づくことができないはずだ……!
「ゲゲゲゲゲ!おでは天才かもじれねぇなぁ!能力反射で勇者の攻撃を跳ね返して、それで殺じだ敵の死体で無敵の操り人形を造る!……まぁ壊されぢまっだけどなっ!ゲゲゲ!」
だがまぁ……それでもあまり関係はなさそうだ。
知能が低いのは変わりない。
かといってあの分身のように力があるわけでも無ければ、魔法を扱って敵を倒すわけでもないのだろう。
こいつはあくまでも敵から受けた能力を反射することで勝利するタイプの魔物なのだ。
「そう、か。なら……つい、でにお前も、壊して、やる、よ」
「?無理無理!お前みたいな死にかけの奴が何言ってるの?おでの分身相手に精一杯の奴がおでに勝てるわけないって!」
だから、もう一度未知の侵略者を当ててしまえば今度こそ僕の勝ちだ。
そら、無駄な雑談をしているうちに僕の魔力は回復したぞ?
「お?」
「悪いな。僕は別に死にかけていたわけじゃない。わけあってその場に倒れ込んでいただけさ。お前の分身なんざ、雑魚も同然。あんなのに僕が精一杯?笑わせてくれるな」
「な、なにぃ!なんだとぅ!おでの分身をバカにするのか!?」
リフレクティノイドが地団駄を踏んで必死に抗議をしてくる。
バカ……いや、ガキだな。
こんなのがよくランクSS-に認定されたな。
これならまだあの分身の方が強いぞ。
「バカになんてしてやしないさ。お前の分身は聖魔混沌騎士団の名に相応しい魔物だった」
「お?そうだろう?」
「だがな、お前は聖魔混沌騎士団の名に相応しくない雑魚だな!」
「げぶっ!?」
リフレクティノイドの腹に思いっきり蹴りを入れてやる。すると予想異常にその体が吹っ飛んでいった。
……雑魚だ。本体は。
間違いない。
「お、おでに攻撃だと!?そんなことをしたらまた新しい分しっ!?げっ!?」
今度は横っ腹にパンチを入れてやる。
いいところに入ったのか、ゴロゴロと苦しそうにのたうちまわる。
これじゃどっちが悪者か分からないな。
まぁでも……こいつが他の勇者を殺したのは間違いないし、さっさとその分の罰は受けてもらうとしよう。
「未知の侵略者」
説明はもう不要だろう。
今度こそ、リフレクティノイドを倒して―――
「ゲゲゲゲゲ!まーた引っ掛かったぞバカメ!いや、アホーメ!」
いなかった。
再び後方からリフレクティノイドの馬鹿な声が聞こえてくる。
なんでまだこいつが生きている?
間違いなく、未知の侵略者は直撃したはずなのに。
「お前が今まで話していたのは同じ死肉で造ったおでの分身だ!おでと同じ大きさだから完璧に再現できていただろう?ゲゲゲっ!だーまされたっだーまさーれたっ!ゲゲゲゲゲ!おでの奥の手を見れたことを感謝して死ぬがいいど!」
同じ大きさの分身ねぇ……
油断した!
とでも言えばこいつは満足するのだろうか?
確かに僕は油断をして、現状動くことができない。
それは事実だ。
だが、いくらこいつの策略?に僕が嵌まったからと言って僕の敗北が決定したわけじゃない。
奥の手は僕にもあるのだから。
「は、は……やっ、て……みろよ?」
「ゲゲゲゲゲ!言われずともな!今のお前は妙に強い能力を使って動けない!その様子だと、全魔力を使用して放つ能力なんだろう?だからおでの能力反射も発動しなかった!」
馬鹿のわりにはちゃんと理解できているな。
「恐らくお前の能力以上におでと相性の悪い能力は無い!お前危険!本当ならおでは勝てないだろうけど、お前は動けない!おで、チャンス!ゲゲゲゲゲ!」
が、理解できているのと気づくことができるのとでは天と地程の差がある。
「くらえ!おでの修得能力!人肉棍!」
こいつの敗因は2つ。
1つ目は無駄にお喋りなこと。
こいつが無駄に話してくれたお陰で体を動かせれるぐらいの魔力を回復することができた。
そして2つ目は、自分自身で言っているのに、正しい未知の侵略者の発動条件に気づけなかったこと。
「ゲゲゲゲゲ!おでの勝ちだ!」
勇者達の死肉でできた醜いハンマーが僕に向かって振り下ろされる。
……ごめんな。
僕が弱いせいでお前達の死を侮辱する行為を許してしまった。
今、楽にしてやる。
今度こそ、ゆっくり休んでくれ。
「未知の……侵略、者……!」
未知の侵略者の発動条件。
それは使用者の全魔力を使用して発動すること。
これはまだ仮説でしかなかったのだが、この能力は魔力がフルに満たされていたとしても、雀の涙程の魔力しか残っていなくても、魔力が0でない限り同出力・同威力で発動することができる。
こうして未知の侵略者が発動された以上、僕の仮説は間違っていなかったようだ。
神の寵愛の能力が無ければ未知の侵略者を発動できず、他の勇者と同じように殺されていただろう。
リフレクティノイドの方に顔を向けると、驚愕の表情を浮かべて僕を凝視していた。
「……ゲ――――――!!?」
強力な重力力場がリフレクティノイドを包む。
そして押し潰す。潰す。潰す潰す潰す潰す。
「ゲァァァァァ!!?」
どうやら本体はあの分身のようにやわな造りではないようだ。
この能力に耐えているのだ。
想像以上に頑丈な体をしているのが分かる。
これなら……恐らく単騎でも肉弾戦だけでも一騎当千の力を発揮するに違いない。
ここにきてようやく……聖魔混沌騎士団の恐ろしさを実感できた気がする。
少し、いや。正直かなりみくびっていた。
「ゲ……ァァァァ…………」
しかし、どうやらそれもここまでのようだ。
流石に肉体が悲鳴を上げたのか、ボロボロとリフレクティノイドの体が崩れていくのを確認できる。
そしてそれからほんの数秒で、リフレクティノイドは塵と化した。
今度こそ、消滅させることに成功したはずだ。
後に残っているのは、僕があけた3つの巨大な穴だけだ。
はぁ…………
ようやく、終わったな。
本当に……ギリギリの戦いだった。
僕のこの奥の手もかなり危険な賭けだった。
「く………そ…」
おかげでこの有り様だ。
指1つ動かせない。
おまけに意識も遠退いてきた。
せめて……
せめてギルドに帰――――――――