VSリフレクティノイド前半
~霊峰アルナド~
「ッッッッ!!!?」
突如として視界に広がる地獄。
僕が転移した先には木々はなぎ倒され、大地は抉れ、数多くのバラバラになった魔物の遺骸・残骸が散らばっていた。
そして何よりも目に入るのは……
僕と同じ人間の死体だ。
それも1つや2つではない。
こうして立っているだけでも2~30程の死体を数えることができる。
この死体がもし、普通の庶民が着るような服装であったのならまだここまでショックを受けることは無かっただろう。
しかし、この死体達が着ているのはどう見ても上等な鎧、法衣なのだ。
それは僕の頭によぎった可能性を確信するには充分過ぎることだった。
この死体は全て勇者である。
ここに倒れている死体は全てリフレクティノイドに挑んで、そして敗北した者の末路なのだろう。
四肢が分散している者。
黒焦げになっている者。
全身が氷結している者。
その全てが、チート能力を数多くの保有していたであろう勇者の死体なのだ。
「くっ…………!」
何か死体を即座に腐敗させる能力でも発動しているのか、先程までなかった酷い臭いが辺りに立ち込める。
そして植物も、魔物も、人も、分け隔てなく腐り始める。
阿鼻叫喚。
そう表現しても問題ない光景が僕の目の前に広がっていた。
唯一の救いは辺りに誰一人として人間が居ないことだろう。
これだけの地獄が目の前に広がっているのにも関わらず、この場は静寂そのものなので冷静に現状を把握し、落ち着くことができた。
もしも誰かが隣にいて、ギャーギャーと騒いでいたら僕はここまで冷静になることは出来なかっただろう。
熟練者であるティルファさんやローグさんが居ないのが心もとなく感じるが、そういう意味では助かったといえる。
「頑張ってくれて、ありがとう」
目の前に広がる勇者達を前に、僕はそう言うしかなかった。
既に彼らの肉体は腐敗しきり、今では骨しか残っていない。
着ていた鎧や法衣もいつの間にかボロボロになっている。
もはや彼らの面影は残っていない。
なんという無慈悲な……
彼らにも家族や親友、帰りを待つ者は沢山居るに違いない。
しかし、こうなってしまえば誰が誰なのかを特定するのは不可能だ。
死体となって尚、愛する者と最後をともにすることはできない。
これが……魔王の行う仕打ちなのか……
これではあまりにも、可哀そ―――
そこまで考えかけて僕はそう考えるのをやめた。
その考えは、勇敢に戦った彼らに対する侮辱になると気づいたからだ。
リフレクティノイドの討伐はランクSS-。
こうなることを覚悟の上で勝負に望んでいるのだ。
それは勿論僕も同じこと。
もしも、僕が死んで他の人が僕が今考えかけたことを言い放ったのならきっと僕は激怒するだろう。
ふざけるな。
そんな同情を得る為に僕は戦ったのではない。
全て覚悟の上で戦ったのだと。
だから、今僕のやるべきことは彼らの死体を見続けることじゃない。
目の前の光景にショックを受けることじゃない。
「そうだろう?リフレクティノイド!!!」
先程から感じていた後方からの気配・殺気を読み、前方へ飛んで回避する。
ズドン!
という音が後ろから聞こえる。
振り向くと30mはある巨大な怪物……地面に右腕を叩きつけているリフレクティノイドが立っていた。
『ゲギャ、ゲギャギャギャギャギャ!き……付いた!ギャギャ!け、配……けし、たのに!ギャギャギャギャ!殺せなか、った!』
その姿は醜悪と表現する他なかった。
形は人間だ。
しかしどうやらその体は腐っているらしく、四肢からは腐敗臭が放たれ、動く度に体の一部が欠損し、その箇所が再生しては欠損してを繰り返している。
何故こんなにも目立つ敵を発見出来なかったのかが分からない。
別の場所にいた?
それとも何かの能力?
いや、今はそんなことを考えている場合ではない!
『まぁ、いっ、か!死!ね!』
スドドン、と、今度は両腕を僕に向かって振りかざしてきた。
そのスピードと威力はリフレクティノイドの大きさに比例しており、とてつもない破壊力を持っている。
……多分予備動作がなければやられていただろう。
『ま、た!買わされった!ギャギャギャギャ!継ぎはこう、は?往かないっぞ、!』
今度は左腕を横に大きく振りかぶる。
その時の風圧・衝撃で左腕の部位が欠損し、僕の方へ向かってくる。
その1つ1つが車程ある。
多分重量も同じくらいはあるのだろう。
スピードは速く、範囲も広い。
今度はは避けれそうにないな。
だが、それならそれで粉砕するまでだ!
「粉砕棍!」
密度・質量共に本来なら簡単に破壊できるものではないが、今僕に向かって飛んで来ているのは腐った肉の塊だ。
硬度は0にも等しい。
聖魔混沌騎士団を相手に中級魔法では心もとないかもしれないが、こいつにはこれで充分だ。
発動した粉砕棍が飛んでくる肉塊を次々と地面に叩き落とし、ぺしゃんこにする。
『ギャ、ギャ?士、んで内?ギャギャギャ?なら、これ、は?どうだ!?』
今度は右足を後ろに引く。
多分蹴りを入れてくるつもりなのだろう。
「中速移動!」
それならそれで横に回避すればいいだけの話だ。
『ギャ?また、買わされ……た?』
こいつが蹴りを入れた場所は縦に大地が地割れのように割れていた。
威力は確かに異常なまでにある。
流石は聖魔混沌騎士団といったところだ。
だがその攻撃をするまでの予備動作が遅く、何をするつもりなのかが丸分かりなので回避するのは容易い。
攻撃パターンも単純そのものなことから知能はかなり低いのだと思われる。
言葉も所々変だしな。
「今度はこちらから行かせてもらうぞ!冷斬!風斬!」
「ギャ……?グギャァァァ!!?」
氷と風の刃がリフレクティノイドの体を切り裂き、両腕を切断する。
やはり脆い。
この程度の魔法で切り落とせるとは。
ズズンと両腕が地面に落ち、不快な臭いを漂わせグジュグジュと音を立てて崩れていく。
もしかして弱い……のか?
いや……でもそれなら他の勇者達が先に倒しているはずでは?
僕のその疑問はすぐに晴れることになった。
「ギャ、ギャ。うで、嫌れた!ギャ、?ギャ、!でも……もん台ない?ギャギャギャギャ!!!」
切断した部分から新しく腕が生えてきたのだ。
考えれば当たり前のことだった。
欠損した部位がそのまま再生するのだから、消失した部位が再生しても何もおかしくはない。
勿論再生したと言っても新品の……全く腐っていない部位が新しく再生しているわけではない。
初めと同じように腐った腕がそのまま生えている。
劣化超再生能力といったところだろう。
「だがこれならどうだ!冷斬!」
「ギャ?」
今度は首を狙って魔法を放つ。
油断をしていたのか、反応が遅れている。
僕の魔法はそのままリフレクティノイドの首に命中し、その首は地面へと転がり落ちた。
「やったか?」
しかし、どうやらそれでも駄目なようで落ちた首は崩れ、同じように切断した部分から新しく生えてきた。
首を切り落とすのでは駄目、か。
だがまだやれることはある。
切り落とさずに頭を半分に割る。
炎で全身を焼き尽くす。
氷らした後、粉々に砕く。
雷で体を撃ち抜く。
水に包んで窒息させる。
風で浮かして高度から叩き落とす。
粉砕・切断・消失・破壊・融解・etc。
考えれるだけのことをしたがこいつは、
「ギャっギャっギャ!お舞え!思白、い!もっと、やれ?」
攻撃を攻撃とも思わずにただただ楽しんでいた。
痛みは確かにあるようだ。
だがこいつにとっては痛みは快楽に過ぎないらしい。
攻撃して再生して。
攻撃して再生して。
その繰り返し。
元気そのもののこいつに比べ、僕は少しずつ体力を削られていっていた。
こんな細かい攻撃を重ねるよりも未知の侵略者で一気に倒してしまえばいいと自分でも思う。
あれだけの威力ならきっと倒せるだろう。
僕にはその確信がある。
しかし、僕にはまだ未知の侵略者を使えない理由があるのだ。
「ほかの、敵?ここまで、おもしろ、く!中った?!?愛つら、駆ってにじめつ!した」
気にはなっていたのだ。
何故、こんな単純な攻撃しかできない威力馬鹿に他の勇者が敗北したのか。
何故、こんな知能の低いこいつに対して策を巡らし倒すことが出来なかったのか?そもそもこいつの攻撃方は至って単純な物理攻撃のみ。にも関わらず、他の勇者達の遺体は明らかに物理攻撃以外の攻撃を受けた外傷が残っていた。
そのことから弾き出される答えは1つしかない。
こいつは間違いなく弱い。
威力はあるが攻撃は単純。
知能は低く動きは愚鈍。
劣化超再生能力はあるが本体がこれなら大したことではない。
でもそれならおかしくはないだろうか?
この世界はチート能力がありふれている。
こんな奴、一瞬で消し去れる能力を持つ勇者は沢山いたはずなのだ。
けれども結果は惨敗。
何故?
その答えはこいつの進化前であるアンティノイドが示してくれていた。
「お前は!かし、こ!い!俺?の!能力!ちゃん!と?りかい、して、る。ギャギャギャギャ!」
アンティノイドを倒せばその放出されるエネルギーを取り込むことでアンチ系の能力を会得できると説明された。
このことからアンティノイドはアンチ系……多分なんらかの能力を無効化する能力を持つ魔物なのだろう。
それこそ固有能力封印や魔法無力のような。
だがこいつは今まで1度もそういう能力を使ってきていない。
いや、そもそも使う必要がないのだ。
ではどこからその根拠が来るのか?
恐らくアンティノイドやリフレクティノイドという名前は昔の人が魔物を分類する為に名付けた名前なのだろう。
スライムやドラゴンといったようにその特徴を現した名前を。
アンティノイドはアンチ系の能力を使うからアンチからアンティとなり、適当にノイドというのをつけてアンティノイドとした。
ならリフレクティノイドは?
地球にはこれに近い言葉がある。
リフレクト。意味は、反射。
それがこいつの本来の能力なのだ。
だからやられた。
雑魚だと思って一気に倒して倒そうと強力な能力を使用した勇者達がその能力を跳ね返され自身に受けてしまったから。
確かにこいつは弱い。
しかし、それが故に強い。
能力を使えばそれが自身に反射し自滅することになり、魔法を使って攻撃してもすぐに再生してしまう。
特性と能力による無敗コンボとでも呼ぶべきだろうか?
これでは他の勇者に勝ち目がなかったのも理解できる。
「おま、え。りかい、して、るから?押しえて!やる。俺の、能力の?菜まえ!能力反射!」
ただ、固有能力である「世界の理を知る者」により魔法を発動させたのに反射されなかったのは、それが能力と判断されず、魔法として判断されたからだろう。
どうやら能力反射は完全な能力ではないようだ。
もしかしたら……
他にも何か欠陥を見つけることができたとしたら未知の侵略者をぶつけることが出来るかもしれない。