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力を持つが故に

 さて。

 まず最初に山岳……山について簡単におさらいをしよう。

 山とは何か?

 山とは大陸移動(プレート移動)に伴う褶曲や断層運動などの地理的要因により形成されたもののことを言う。

 簡単に言えば大陸と大陸がぶつかって、そのぶつかった場所が盛り上がった所が山だ。

 他にも例は沢山あるがここでは割愛する。

 そしてその中でも平坦かつ標高の高い地形は台地、高地、高原と言い、山の複合的なものを山岳と呼ぶ。

 また山岳のうちでも標高が高く目立つ頂点の部位を山と呼ぶ。

 その山の基本的な大きさはというと、相対的に2,000フィート(610m)の高さを持つものを山としている。

 とは言え僕達が来た期待外れの山岳はそこまでの標高はない。

 ここに来るまでの時間を考えたら大体2~300m程だろう。

 見た目も大したことはなかったし。


 まぁそんな山についてのおさらいはこんな感じだな。

 次は何故、突然そんな無意味なおさらいをしたのかを考えてみよう―――と、思ったが数分前のことを思い返せば明確なことなので止めた。


 僕は今、期待外れの山岳に……最初に来た変な槍っぽいのが刺さっている場所に倒れこんでいる。

 倒れていると聞こえが悪いかもしれないが、なんのことはない。

 魔力を全て使用してしまったからその倦怠感でその場に倒れているだけだ。

 では何に魔力を使ったのか?

 それこそ考えるまでもない。

 未知の侵略者の能力(スキル)だ。


 数分前に僕は意を決して未知の侵略者を発動させた。

 発動させると同時に僕の手のひらから真っ黒な黒い玉が出現し、前方へとゆっくりと進んでいった。

 大きさはビー玉程度。

 速さも紙飛行機を飛ばしたぐらい。

 正直あれほどビビっていた僕からしたら拍子抜けをしていた。

 因みにこの時点ではまだ僕の魔力は使用されていなかった。

 魔力が使用されたのはその次の瞬間だ。

 戦闘機が近くを飛んで行ったようなヒィィィィンという甲高い音とともにその黒い玉が徐々に徐々に……いや、実際には瞬間的に膨張し、大体ではあるが直径30mくらいの大きさになったかと思うと突然周囲が真夜中になったかのように真っ暗になり、今度は眩いばかりの光りに包まれたかと思うと轟音が鳴り響き、僕の目の前の景色は山岳ではなく、まるで隕石が落ちてきたような底の見えない巨大な穴が広がっていた。

 それを確認したら僕は魔力を使いきったことによる倦怠感でその場に倒れ込み、今に至る。



「……どう、しよう、か?」



 それが今の素直な気持ちである。

 魔力が全快するまでもう少しだけ時間がかかる。

 それはまぁ放っておいたら勝手に回復するのでいいのだが、流石に目の前のこの現状を放っておくことはできない。

 てか、放っておいたら後が面倒そうだ。

 小規模とは言え山岳が消滅したのだ。

 そうなるんじゃないかなとは考えはしていたけど、まさか地形を変える程の威力が本当に出るとは思わなかった。

 だってその前が残念だったし!

 ……とは言え何か最善の策があるわけでもない。

 うん。

 本当にどうしようか?

 そんなこんなで色々と考えているうちに魔力が全快したようだ。

 先程までのように普通に動ける。



「とりあえず、ペガサス支部に帰ろうか。ティルファさんも居るだろうし」



 僕は目の前の現実から逃避し、ペガサス支部へと行くことにした。



 ☆★☆★☆



 ~世界連盟勇者斡旋ギルド・ペガサス支部前~



「……!!…………!!!!?」

「!!!?……!!…………!」

「………………?????!!」



 ん?

 どうしたんだ?

 ギルドの入口に沢山の人がいる。

 ……嫌な予感がするな。

 ここからじゃ何を話しているのか分からないな。

 もう少し近づいてみよう。



「ローグさん!あんたギルドマスターでしょう!?何か知らないんですか!?」

「私達は見たんです!ほんの一瞬。ほんの一瞬辺りが暗闇包まれたかと思うととてつもない閃光と爆音が鳴り響いて期待外れの山岳の半分が消滅したのを!」

「ま、魔王だ……!魔王がとうとうこの地にまで侵略してきたんだ……!!!」

「まぁまぁ皆さん落ち着いて下さい!現状では私の方から何かを言うことは出来ません!ですが、代わりに世界連盟勇者斡旋ギルドの本部に連絡して原因を究明してもらうよう要請しました!明らかに異質なことが発生したのですぐに取りかかってくれるそうです!」

「そんなの待てるか!早くしろ!」

「せめて!せめて原因だけでも教えて下さい!」



 ……どうやら想像以上に面倒なことになっているようだ。

 当然と言えば当然なのだが。

 山が突然消滅したら何事かと思うのは当たり前だ。

 もし、僕が逆の立場だったら同じように慌てふためいて原因の解明を急かしただろう。

 さて。

 どうしたものかな。



「あ!レイ君!無事だったんだね!ローグさんが探していたよ!」

「ローグさんが?」



 なんとなくの予想はつくな。



「うん!今はちょっと忙しそうだけど、早くいこう!」

「あ、ちょっ!」



 ~ペガサス支部~



『あーけーろ!あーけーろ!』

『中に閉じこもらないで話を聞かせて下さい!』

『そうやって逃げるのがギルドマスターの仕事か!?』



「ふぅ……申し訳ない。突然のことで皆気が立っていてね。許してくれ」

「あ、いや、その!全然大丈夫です」

「ありがとう。レイは期待外れの山岳の半分が消滅したのを知っているね?」

「……はい」

「つかぬことを聞くが、あれは君の仕業じゃないのかい?」

「ローグさん!?何を言って……」



 流石はギルドマスターの地位につく者か。

 多分、嘘は通用しないな。



「そうです。僕の固有能力(ユニークスキル)、未知の侵略者を発動した際に山岳は消滅しました」

「レイ君……?本当なの?」

「はい。僕がやりました」

「そう、か。具体的にはどのような感じでだ?」



 どのような感じ?

 とりあえず僕は覚えている限り、ありのままをローグさんに伝える。



「なるほど……レイがいた世界にはそんな恐ろしいものがあったのだな」



 ブラックホールのことを一から説明するのも面倒なので一種の災害扱いとして処理させてもらった。

 多分宇宙の話をしても理解できないだろうからな。



「それでお聞きするのですが、今回の件について僕に課せられる罰は如何様なものなのでしょうか?」



 既にどんな罰を受ける覚悟はできている。

 自らの能力(スキル)を検証する為とはいえ、山を1つ消し去ったのだ。

 そしてそのことにより町の人に多大な不安も与えている。

 これで罰がない方がおかしい。



「罰?……そうか、罰か。なら、君に対する罰はこれの他をおいてないな」



 ローグさんが僕に罰の内容を宣言する。

 しかし、その内容は僕の予想に大きく反しており、理解するのに少しの時間を要した。



「君一人で。霊峰アルナドに住み着いたアンティノイド……霊峰の霊力、そして新たな聖魔混沌騎士団(カオスドール)となったアンティノイドの進化種『リフレクティノイド』の討伐クエストを強制的に君に受注してもらう」

「ローグさん!待って下さい!いくらなんでもそれは……!?」

「分かっている。レイもティルファもよく聞け。今俺が言ったリフレクティノイドってのはほんの数時間前に出現した新たな種類の魔物なんだ。ティルファがここに来た時にお前に丁度いいクエストがあると言ったのを覚えているか?」

「え……と?あ!はい。覚えています」

「その時のクエストは、霊峰アルナドで暴れている未確認の魔物調査、もしくは討伐ってのだったんだ。その時はまだ何が暴れているのかは判明していなかった。でもお前達がここを去った後、また新しく書類が届いてな。それがこれなんだが……」



 そう言ってローグさんは一枚の紙を取り出して机の上に広げる。

 その内容はと言うと、



『世界連盟勇者斡旋ギルド本部より各支部へ伝達する。

 兼ねてより調査を行っていた霊峰アルナドで暴れる魔物についてだが、その詳細、及び重大な事項が判明したのでここに記す。

 霊峰アルナドで暴れていた魔物は「アンチ系」の能力(スキル)の原初とも言えるアンティノイドであり、そのアンティノイドが霊峰アルナドの霊力を取り込み自身の力を強化。そして、その力にいち早く気づいた魔王が強化されたアンティノイドを聖魔混沌騎士団(カオスドール)に入団させたことを確認。このことよりそのアンティノイドは数百年の間出現することのなかったアンティノイドの上位種であるリフレクティノイドへと進化した。当本部はリフレクティノイドを第一災厄級魔族へと指定。並びにリフレクティノイドの討伐は急を要すると判断し、ランクSS(ダブルエスマイナス)-の緊急クエストとして発令。報酬は討伐者の望み通りとするものとする。各支部のギルドマスターはこれを討伐する勇者を集められたし』



 今、ローグさんが話したリフレクティノイドという魔物ことが書かれていた。

 魔物が聖魔混沌騎士団(カオスドール)になることで進化した……?

 そんなこともあるのか。

 それも数百年も現れなかった種族に。

 凄まじい、としかいいようがないな。

 自らの眷族にするだけで災厄級の魔物に。

 ……確かに魔王は僕らが倒せるような相手ではないみたいだな。



「これをレイ。お前にやってもらう。異存はないな?」

「待って下さいローグさん!いくらなんでも無茶苦茶過ぎます!レイ君はまだこの世界にきて1週間程しか経ってないんですよ?確かに山岳を消してしまったのはとんでもないことかもしれませんが、他にも何か別の罰がある―――」



 ティルファさんの口を僕の手でふさぐ。

 ティルファさんのその気持ちはありがたい。

 でも、ローグさんの言うことは間違っていない。

 山岳を消す程の能力(スキル)を持つ僕ならリフレクティノイドを倒せるかもしれないと思ったのだろう。

 仮にもし失敗しても、所詮は捨て駒。

 他にも代わりはいるはずだ。

 倒せればよし。

 倒せなければそれもまたよし。

 そんなところだろう。



「いや、それは違うぞ?」

「え?」

「別に俺はレイのことを捨て駒だなんて考えてはいない。お前には戦闘の才能がある。呼吸の仕方、筋肉の動かし方、歩き方。常に全線で戦ってきた俺なら分かる。それに加えてお前は強力な能力(スキル)を持っている。勝算は十分にあると判断した。だからお前に任すんだ」



 心を……読まれた?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 僕に戦闘の才能がある?

 心も肉体も普通の男子学生と遜色ないんだぞ?

 それなのにどうして?



「どうしてもこうしてもないさ。レイが自らの才能に気づいていないだけだ」



 僕に戦闘の才能が……?

 あるわけがないと思うがな。

 確かに運動はそこそこはできていたけど、そこまで誇れるようなものじゃなかったしな。



「まぁどう思うもレイの自由だ。それにこの話はお前にとって都合がいいんだぞ?」

「どういうことです?」

「今から表に出るぞ。それで皆に山岳を消滅させたのは僕ですって告白するんだ」

「それは別に構いませんが……怒り狂って暴れたりしないでしょうか?」

「大丈夫。その時一緒に近くの霊峰に1体の凶悪な聖魔混沌騎士団(カオスドール)が襲来したと言う。そしてその魔物を倒す為の腕試しとして山岳を消し去ってみせたと言うのだ」



 おいおい……

 本当に大丈夫なのかそれは……?



「心配するな。今のこの世の中、強大な破滅の力には怯えるが強大な守護する力には希望を見いだす者が殆どだ。どの国も魔王の侵略によって何らかのトラウマを植え付けられている者が多い。そんな時に、山岳を一瞬にして消滅させる力をもつ……それも勇者が現れたらどうだ?これほどまでに民衆の心の支えになることはないだろう?」



 確かに……そうかもしれない。



「それに、あの消滅してしまった山岳も本部に依頼すれば元通りに修復される」

「へ?」

「損壊した物質を再生させる能力(スキル)を持つ職員がいるんだ。だからその点については本当に大丈夫だ」



 流石勇者をかき集めるギルド……

 そんな能力(スキル)持ちの人がいてもおかしくはないか。



「分かってくれたか?」

「はい」

「よし。それじゃ説明をしにいこう」




 結果として、僕が山岳を消滅させたこととそれは突如現れた強大な敵を倒す為とローグさんに言われた通りに話したらあれだけ恐怖で騒いでいた人達は逆に歓喜の声で騒ぐようになった。

 単純……と言えば言い方が悪いが、それだけ魔王という存在に怯えている証拠なのだろう。



「な?俺の言った通りだっただろう?」

「ですね」

「それじゃあレイの方は準備はいいか?」

「そう、ですね。特に何も用意をするものはないので」

「自信満々だな。頼りにしているぞ。他にも多くの勇者が討伐に向かったそうだが……まだ報告は何もない。勝手に送り出しといてこんなことを言うのもなんだが、死ぬなよ。ヤバイと思ったらすぐに逃げろ。アインハルト!」

「はい。お持ちしました」



 アインハルトと呼ばれた男性が何かを持ってくる。

 石、か?



「これは転送石板(ワープポータル)の簡易版、一方通行(リターン)という魔術道具だ。その石に念じることで最後に転送石板(ワープポータル)を使用した場所へ行くことができる。ただし、1度きりしか使えないから絶対に無くすなよ」

「分かりました」



 ヤバくなったら、か

 ワープした瞬間やられなければいいけどな。



「レイ君……」

「大丈夫ですよ。死にかけてもちゃんと戻りますから」

「それじゃあ、覚悟はいいな」

「はい」



 僕は転送石板(ワープポータル)に触れ、霊峰アルナドへと向かった。





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