国王の頼み
「つい二週間程前の話だ。エルトア王国領にあるイルトアの街を警護している衛兵団から不審な人物が毎夜街の外をウロウロと徘徊しているという報告を受け、治安の為にそれが何者であるのかを調査させようと3人の衛兵を調査に向かわせたのだがその翌日に全員行方が分からなくなった」
「それは……」
「今度は冒険者ギルドに依頼をして幾人かの冒険者に調査に向かって貰ったのだが……その冒険者達はその日の夜に惨殺され、イルトアの街の外にこのマークと一緒に転がされていたらしい」
そう言ってフレンベルグはピエロの顔が鎌で縦に半分に切り裂かれたマークが描かれた紙をレイとティルファに見せる。
「ギルドによるとこれは殺劇遊奪という盗賊団が自らの存在を主張する時に使うマークらしい。しかもこの盗賊団、殺戮をまるで遊びのように行い殺した相手から奪えるだけの金品を奪う残虐非道の限りを尽くす連中だとも聞いている」
二人はこの王国に入る時に門番から聞いた話を思い出す。
「自由国家を名乗る国の王として、一人の人間としてそんな輩が我が領内に潜伏しているのは許しがたく、一刻も早く民の安全の為にもそんな輩は領内から排除したい。……が、腕の立つ冒険者でさえ軽々と殺せるような連中だ。私の持つ衛兵団だけの力では少し心許ない。そこで勇者である二人に力を貸して貰いたいのだがどうだろうか?勿論最大限の支援と充分な報酬は支払う」
関わればロクな事にはならないだろうと念を押され、早めにこの国から出て行く事を勧められた。
それは普通に考えれば当然の事なのかも知れない。誰だってワザワザ危険に身を晒す程馬鹿じゃない。
レイとティルファとて、そんな面倒な盗賊団を相手にしたいとは思わない。
思っていなかった。フレンベルグに会って話をするまでは。
「分かりました。そのお話、是非とも受けさせて下さい。いいですよね?ティルファ」
「勿論。普通ならそんな盗賊団の相手は国に任せる所だけど、そんな話を直接頼まれちゃね。私からもお願いします」
「おぉ!そうか!受けてくれるか!二人が協力してくれるのであればこの問題はすぐに解決するだろう!ドルーニヴ!」
「はっ!」
「二人を盗賊団を領内から排除するまでの間王宮内で快適に過ごせるように手配をしろ」
「御意に」
「キリサト殿。ティルファ殿。これから盗賊団を排除するまでの間、この王宮で過ごして欲しい」
「よろしいのですか……?」
「そんな……私達如きが恐れ多いです」
「私なりのせめてもの配慮だ。そなたら二人を過ごせるだけの設備は整っているし、私が直接依頼をした者を街の中の宿で宿泊させ続けるのは心苦しい。だからどうか気にしないで欲しい」
そこまで言って下さるのであればと、レイとティルファは少し気兼ねしながらもフレンベルグの提案を受ける事にする。
「ありがとう。決して不自由はさせない。何かあれば王宮内に居る使用人に声をかけて貰えば対応するよう伝えておく。外出も当然好きにしてくれていい」
こんなに国王様に気を遣わせていいのだろうかと二人は心配になるが、周囲の家臣は心なしか嬉しそう顔をしているし、これまでのフレンベルグの様子を見ているとこれが通常運転なのだろうという結論に至ったので、言葉通り特に気にする事をやめる。
「分かりました。身に余るお心遣い感謝致します」
「滞在中何か私共に出来る事がありましたなんなりとお申し付け下さい」
「何か別件で問題が発生して、そなたらであれば解決出来そうならその時は頼らせて貰おう。……よし。では皆の者!二人の歓迎の為に準備を急げ!今日の夕刻までには迎え入れれるように急ぐのだ!」
はいっ!
と、元気の良い返事と共に謁見の間に居た家臣や使用人達はどこへともなく消えていき、この場には静寂だけが残った。
「はは。すまないね。ここに客人を招くのは随分と久し振りでね。長らく誰かがここに滞在するという事が無かったから少し皆気合が入っているようだ」
フレンベルグは嬉しそうに笑みを浮かべながら話を続ける。
「魔王が復活し、魔族との戦争が各地で発生し始めてからは他国の王族や貴族を招いてのパーティをする事も少なくなったからな。騒がしい事が大好きな家臣ばかり故、少々うるさくなってしまうかも知れないが許してくれ」
そう言うフレンベルグは本当に嬉しそうで、それを見ると二人がここに滞在すると聞いた時の家臣達の嬉しそうな顔にも納得がいった。
「準備は夕刻までには終わらせるからそれまでは王国内を好きに見てもらっていてもいいだろうか?」
分かりました、とだけ答えるとフレンベルグは無言で頷き、二人はそのまま王宮の外へと出ていった。
〜エルトア王国・王国内〜
「何というか、この国の国王様は凄い人が良い方なんですね」
「うん。国民からの支持は厚いし、私達勇者も頼りやすい国と国王として有名だからね。私も今日会うのが初めてだったけど皆んなの評価が良い理由がよく分かったよ」
「そう言えばティルファさん、国王様に名を知られているようでしたけど何か凄い功績を過去に残されているんですか?」
「どうだろう?ある程度世界連盟勇者斡旋ギルドの依頼をこなしていると自然に名声は上がっていくからね。どこかのタイミングで私の名前を知ったんじゃないかな?」
それにしては反応が普通じゃなかったような?
そんな事を考えたが、あまり深く考えても意味は無いと結論付けたのでそれ以上は追求しない事にする。
「なるほど。流石ティルファ。……それでこれからどうします?まだ日は登り切ってすらいないみたいですけど」
「それじゃこの前話した鍛冶屋の所に行こっか。頼んだ防具がどうなったのか知りたいし」
「あ。そう言えば言ってましたね。分かりました」
「うん。じゃそこまで案内するね」
☆★☆★☆
「イルドさん。こんにちは!」
「おぉティルファの嬢ちゃん。久しいな。お前さんが来たって事はあれを受け取りにきたのかい?」
「その言い方だとやっぱりもう完成してました?」
「あぁ。ほんの一週間程前にな。ワシにしては中々良い出来で作り上げた自信がある。初めて使う素材だったから少し不安はあったがのぅ!はっはっ!」
「本当ですか!イルドさんがそう言った時の完成度って凄い高いから楽しみです!良かったら早く見せて貰えませんか!?」
「はっは!そう急かすな。ほら。連れの彼氏も話について行けずぼーっとしとるではないか。それにしても……お前さんにしては良い男を見つけてきたな!」
「イルドさん!レイとはそんなんじゃ無いよ!同じ複数人編成の仲間!」
「お前さんが複数人編成!今までどんなクエストも一人でこなしてきたと豪語しよったお前さんが!孤高の女勇者を気取っておったお前さんが!」
「なんでそんな随分前にした話を覚えているんですか!ていうか孤高の女勇者なんて気取ってません!」
「それも二人っきりの複数人編成で名前を呼び捨て!オマケに歳が近そうで容姿の整っとる男と!」
「怒るよイルドさん!?」
「これはもう初夜待ったナシぐほぁっ……!?」
「馬鹿!イルドさんの馬鹿!」
「ナイス……パンチ……だ!腕を上げたな……ぐふっ……」
レイは何が起こっているのか全くついていけずその場に硬直してしまう。
対してティルファはあわあわして顔を赤面したり、気絶したイルドを見て青ざめたりと忙しい。
「あのね、レイ。イルドさんの言う事は真面目に聞く必要無いからね?この人ただのおっさんだから。失礼なおっさんだから」
「えっと、その、はい」
先程までの評価とは打って変わり、失礼なおっさん呼ばわりされているイルドに同情の念が湧いてくるが、何となく前世の地球にもこんな感じの親戚のおじさんが居た事を思い出したのでこの人もそれに類するなんだろうと納得する。
「子供が出来たらワシを名付け親に」
「イルドさん。もう黙ろっか。永遠に」
「あっ!待っ!」
そう言うティルファの目に光は宿っていない。
これは本気だ!
そう悟ったレイはそーっとこの場を去る。
『のわーーーーーーーーーー!!!』
レイが武具屋を去ってから聞こえた悲鳴は一体何をされたものからだったのか。
数十分後、武具屋に戻った時に妙にスッキリした顔をしたティルファとぐったりとしたイルドの顔を見て一切の追求はしまいと心に誓ったレイだった。




