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疲労促進症

 フェルグランさんの部屋の前まで来ると、例の蒼の鎧の男性と紅蓮の鎧の女性に呼び止められる。




「「待て。何用でここに参った?」」




 僕がここに来たのは間違いなく知っているはずだけど、魔族が変身でもして浸入した可能性を考えての処置なのだろう。

 二人の目付きは真剣で、本当に僕のことを疑っているようだ。

 ローグさんと一緒だった時にはこんなことはなかったので、もしかしたらある程度の地位を築いた人なら警備のレベルは下がるのかもしれない。

 選定公(チョイス)の提示も要求されなかったし。




「フェルグランさんの部屋の中に、ペガサス支部のローグというギルドマスターが居るんです。今日はその人にここへ連れて来てもらったので、その人が居なければ僕は帰れないんです。一度は入室許可も頂いているので中に入れてもらえませんか?」

「……証拠となるものを提示しろ」




 紅蓮の鎧の女性が僕にそう指示を出す。

 選定公(チョイス)は必要ないが、また別に証拠となるものか……

 あぁそうだ。

 あれがある。




「これで証拠となるでしょうか?」

「…………うむ。問題ない。入っていいぞ」

「ありがとうございます」




 僕は部屋を出るときにフェルグランさんに渡してもらった銀色のカードをような物を提示した。

 どうやらあれは証拠として十分な物だったらしく、案外すんなりと通してくれた。

 僕は扉の前に立っていた二人に軽く会釈をし、フェルグランさんの部屋の中に入った。



 ~世界連盟勇者斡旋ギルド本部・ギルドマスター執務室~




「失礼します」

「どうぞ……ってレイか。どうした?わざわざ正面から入って来たのか?連絡してくれれば迎えに行ったというのに。あいつらに呼び止められて面倒だっただろう?」

「…………あ」




 フェルグランさんに言われて思い出す。

 そういえばあの銀色のカードはトランシーバーみたいな役割を持っていたんだっけ。

 すっかり忘れていた。


 …………まぁ本部で一番偉い人にわざわざ迎えに来てもらうのも何か悪い気もするし、別にいいか。




「すいません。すっかり忘れていました」


「む?そうか。まぁ気にする程でもないがな。むしろ迎えに行く手間が省けて助かった。……本部の醜態を晒すようで恥ずかしい限りなのだが、私の部下が先程また問題を起こしたと報告があってな。その対処に追われていたんだ」



 フェルグランさんの部下が問題を起こした?

 ……ほぼ間違いなくさっきの騒動のことなんだろうなぁ。




「全く……第3兵器開発部の連中は毎度毎度何をやっているんだ……!確かに性能の良い武器や兵器を作り出す腕は認めるが、こうも問題を繰り返すと流石の私も庇い切れないぞ!しかもそれだけならまだ良かったが、別の問題も発生していてな。レイ、君さえ良ければ1つ私から依頼を―――――」



 フェルグランさんが何かを僕に話そうとしていた時に、僕とフェルグランさんの間に割って入るようにクリスティアと呼ばれた女性が出現した。



「フェルグラン様!連れて来ました!」


「やぁ」


「ん?」


「あれ……?」



 そして何故か見覚えのある3人の体を縄で拘束して連れてきていた。

 スペリーさんとエミリアさん、それにティンセルだ。



「やぁじゃないぞベックマン!何度問題を起こせば気が済むんだ!!!」



 フェルグランさんの突然の怒声にその場に居た全員がビクッと身を震わせる。

 スペリーさんを除いて。




「いや、問題を起こすのは私じゃないからな?私は指示を出して、監督しかしていないよ?」


「ならその監督の仕方に問題があるのじゃないのか!何があったら研究施設が半壊するんだ!」


「「「EMG-003型が暴走しただけだ/したんです/したのー」」」


「!?」




 3人が口を揃えて応答する。

 いや、確かにその通りなんだけどその流れだと僕にも責任が発生するんじゃないのか?

 フェルグランさんは一体こいつらは何を言っているんだと言わんばかりに顔をを歪めている。

 そりゃそうだ。

 EMG-003型なんて完全な固有名詞を使われただけじゃなんのことか分かるはずもない。

 本当ならここでそのEMG-003型がどんな物なのか問いただすのが普通なのだろうけど、フェルグランさんはその追及すら既に面倒になっているのかクリスティアさんに今回の被害の度を聞いている。



「………………クリスティア。今回の被害はどれだけのものだ?」


「まだ暫定的ですが、研究施設の約7割が損壊、1割が全壊、その他は一応は無事ですが資材や機材全般が現在使用不能になってしまった為に、研究の停止を余儀なくされています」


「復興までの時間と総額は?」


「およそ3日と約65000枚の金貨になります」


「また無駄な出費を……この責任、お前達はどうとるつもりだ?」



「ん?知らないよそんなの。私達は頑張ってより良い兵器を作るだけだからね」


「まぁ、一介の研究員にそんな大層な責任を負えるわけがありませんですし」


「分かんなーい。えへへ☆」




 3人は自分には一切責任がないと言わんばかりに胸を張る。

 ……大物の気配がする。




「はぁ……もういい。クリスティア」


「はい!」


「こいつら全員研究施設が修復されるまでの3日間、独房に入れておけ。また邪魔されては敵わないからな。今回の件に対する処罰はまた考える」


「分かりました」



「いやー悪いね。まさか臨時休暇を貰えるとは。はっはっは」


「まぁこれしきのことは当然でしょう」


「んーベックマン博士と一緒ならどこでもいーや!」



 流石……と言うべきか、相当深刻な状況であるにも関わらず、3人は態度を変えるわけでもなく、それどころか嬉々として現状を受け止めていた。

 問題時の墓場と称される部署に配属されただけあって案外慣れっこなのかもしれない。

 一番セーフゾーンにいる気配を醸し出していたスペリーさんも結局責任問題に問われているし。

 これだとティンセルとエミリアさんに行った罰は全く意味がなかったというか理不尽というか……

 なんだか3人に対する印象が変わったなぁ……


 それからすぐにクリスティアさんは3人を連れて独房へと行ってしまった。



「……本当にお見苦しいところを見せてしまったな。普段はあまりこういうことはないのだが……タイミングが悪かったと言う他ないだろう。本部に対する印象を落とさないように気を付けてはいるのだが、あいつら第3兵器開発部の連中と来たら毎度毎度本当に手間のかかる……!」




 フェルグランさんの憤りを見る限り、本当に苦労をしているようだ。

 御愁傷様……と言う他ないだろう。

 多分スペリーさん達の暴走はそこらの人間に止めることは出来ない。

 フェルグランさん。

 これからも頑張ってください。



「……まぁあいつらのことは今はどうでもいい。それより更に厄介な問題が発生してしまってな」



 スペリーさん達の話を一先ず終え、本題に入る。

 先程フェルグランさんが言いかけていた話だ。

 確か依頼がどうとか言っていたような気がするな。

 どんな依頼だ?




「どうかしたんですか?」


「ローグの奴がどうにもたちの悪い病気に感染していたみたいなんだ」


「たちの悪い病気って……大丈夫なんですか?」



 突然の告白に少し心を揺さぶられてしまう。

 ローグさんが病気?

 どういうことだ?



「命の危険はない。ただ、その病気と言うのが疲労の回復を阻害して疲労を促進させるものなのだ。簡単に言えば疲れがとれず、何もしてないのに疲労が溜まっていくという病気だ。この病気の感染源が「フワラリア」という植物が出す胞子なのだが、どこでその胞子を体内に取り入れてしまったのやら……。そこら辺に生えているような植物ではないのだがな」


「魔法で治すことは出来ないんですか?」


「残念ながら魔法で治すことは出来ない。治療方法はフワラリアの球根を煎じて飲ませるしかない」




 ローグさんがここに来てからすぐに寝込んでしまったのはそういうことだったのか。

 フェルグランさんとの言い争いに疲れたわけではなく、ただ単純にそのフワラリアという胞子にやられてしまっていたから。

 疲れを回復させず、疲れを促進させるなんて……

 ローグさんは先のリフレクティノイドの件やら僕の看病やらで多分ロクに休んでいないだろう。

 それに加えてギルドマスターという地位に就いている人なんだ。

 元々休みがとれない上にそんな病気かかってしまったのならたまったものではない。

 出来れば僕の手でなんとかしてやりたい。

 多分それを見越してフェルグランさんはそのフワラリアの球根を採取してくるよう依頼をするつもりなのだろう。



「それで僕にそのフワラリアという植物を採取してこいということですね?」


「そういうことだ。正直な話、よっぽど弱ってない限り1ヶ月程放っておけば自然に治るのだが、ローグがギルドマスターである以上そんなに長い期間席を開けさせるわけにはいかない。1日2日で採取してこいなんて無茶は言わないから私からの依頼を受けてもらえないだろうか?先の一件もあり、他のことに人材を割く余裕もないんだ」


「勿論受けます。ローグさんは僕がリフレクティノイドとの戦闘の後にとても迷惑をかけたみたいですから。今度は僕が恩を返す番です」



 それに研究施設が壊れてしまったのは僕が安易に最後のパーツとなる魔素に汚染されていない金を作り出してしまったからだ。

 間接的とは言え、本部の職員の人達に迷惑をかけてしまったのは間違いない。

 これ以上本部の人達に負担をかけたくないからな。



「ふふ。頼もしいね。それじゃペガサス支部の方にレイへの指名クエストとして依頼書を発行するように伝えておくから1度戻ってローグの代理の副ギルドマスターに指示を仰いでもらってくれ。」


「分かりました」



 フェルグランさんがわざわざ僕にクエストとして依頼を出すのは理由があるのだろう。

 多分一介の勇者を、それも新人の勇者に本部のギルドマスターが私用で依頼をしてもらうのは何かと問題があるのだと思う。

 特別扱いするなーとか。

 規定に従えーとか。

 口には出さないが、フェルグランさんの表情は「こんな面倒なこと本当はしたくないのだけれどな」という感じに曇っている。

 やっぱり本部のギルドマスターというのも大変そうだ。



「あぁそうだ、それとこれを一応読んでおいてくれ」


「何ですかこれは?」



 フェルグランさんから2枚の羊皮紙のような紙を手渡される。

 僕はとりあえず1枚目の紙にざっと目を通してみる。

 そこにはフワラリアについての情報が記載されていた。



『第二級危険植物・フワラリア

 フワラリアは約100年以上前に草王リシェンが作り出した人工植物の1つである。


 その姿は縦に3m、横に2mとかなり巨大な植物であり、根を動かすことで移動可能の植物である。

 植物であるが故に意識や感情は存在しないが、フワラリアは肉食植物をベースに作られているようで、遭遇した生物を体内に内包されてある胞子を放つことでその生物を弱らせ、補食する習性を持つ。

 下位の魔物、冒険者であれば遭遇してしまえばその生還率は30%にまで落ちる。

 その危険性を鑑みてフワラリアを第二級危険植物と認定。


 胞子の効果は胞子を体内に取り込んだ生物の自然治癒力を低下させ、疲労を促進させるというもの。

 これを感染症、「疲労促進症」として呼び習わしている。


 基本的に直接フワラリアから胞子を受けた場合速攻で疲労促進症は発症する。

 また、疲労促進症となった生物に付着した胞子を第三者が体内に取り込むことで、二次感染が発生することも確認されている。

 二次感染の場合、疲労促進症が発症するまでの時間は個体によってバラバラである。


 そしてこの症状は魔法による治療は現在不可能であり、活動を停止したフワラリアから採取した球根を乾燥させ、それを粉末状にしたものを飲むことで治療が可能。

 また、約1ヶ月に及ぶ自然治癒で治ることも分かっている。

 ただしその間倦怠感で活動することは出来ない。


 フワラリアの根や葉は強い麻痺性の毒素を含んでおり、球根以外は薬として使用することは出来ない』




 …………結構危険だな。フワラリア。

 後でちゃんと2枚目の紙も読んでおこう。



「それを見てもらえれば分かると思うが、フワラリアというのは植物と言うよりは魔物に近い。だから十分に気を付けて球根の採取に望んで欲しい」


「なるべく気を付けます」


「あぁ。よろしく頼むよ。それとこれも持っていってくれ。次にここに来る為に必要になる選定公(チョイス)だ。球根が手に入ったらそれを使ってここまで来てくれ」


「分かりました」


「ペガサス支部へはその選定公(チョイス)に『ペガサス』と唱えれば帰れるからな」


「はい」



 僕はフェルグランさんからから貰った2枚の紙をポケットにしまい、選定公(チョイス)を右手に握りしめてペガサスと唱えて支部へと戻った。

この次でようやく始めての軽い冒険パートに入ります。

思えば主人公、まだちゃんとした旅立ちをしてないんですよね。

さぁこれから主人公の能力が輝き始めますよ!(多分)

それともう1つ。

作者の力量不足により作品の書き方を変えてしまうかもしれません。

もし、読んでいてあれ?なんか違うなと思ったら、あ、作者が駄目なせいかと思い出して下さい(汗)



ここまで読んで下さってありがとうございます!

感想・評価・批評等なんでも受け付けておりますのでこれからもよろしくお願いいたします。

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