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クリエーターはどこだ?

「アンシューツ博士、指定された金の運搬が完了しました!」


「ご苦労様。それじゃ皆ありがとう。もうしばらくここに待機していてもらってもいいかしら?」


「勿論です!」


「ありがとう」



 今、僕の目の前には100kg分の金の延べ棒がピラミッド状に積み重ねられている。

 高さ的には僕の背とあまり変わりがないが、それでも僕の心を圧倒するには充分過ぎる程の存在感を放っていた。

 こんな光景、地球でもほんの一握りの大富豪にしか見ることは出来ないだろう。




「……さて、と。これでお願いしてもいいかな?」


「分かりました」




 錬金と言えば、僕の中では某有名錬金術士の漫画のイメージしかない。

 流石にあれと全く同じことが出来るとは思わないが、それでも憧れるものはある。

 ……1回やってみたかったんだよな。

 これ。




「錬金!」




 両手をパン!と叩いて目の前の金の延べ棒に触れる。

 すると、その金の延べ棒からバリバリと稲妻のようなものが発生し、一瞬辺りが真っ白な閃光包まれ、金の延べ棒からは淡く白煙が登っていた。

 これで成功なのだろうか?

 見た目に特に変化はないが。




修得能力(グローアップスキル)・黄金の錬金術士が解放されました』




「ん?」




 また能力(スキル)が1つ解放されたみたいだな。

 どんな能力(のうりょく)なんだ?




修得能力(グローアップスキル)・黄金の錬金術士

 錬金術で金を作り出す場合、作り出した金の純度は100%になる。

 また、金属であればどのような物でも同質量・同密度の金を作ることができる』




 おぉ……

 おぉ…………

 マジか。

 マジで漫画通りの錬金術士になってしまったぞ。




「……珍しい錬金の方法ね」


「そうですか?」


「えぇ。普通は対象物を魔法陣の中心に置くか、煮えたぎった魔水に対象物を入れて呪文を唱える面倒な過程が沢山ある錬金がポピュラーなのだけど、あなた全部すっ飛ばしたわね。一体どうやって錬金したの?」


「どうやってと言われましても……」



 正直知らん。

 なんかやったら出来た。




「まぁいいわ。過程よりも結果が全て。金が消失してない所を見る限り成功したみたいね。ティンセル!」


「はいはーい!もう準備出来てるよ!」


「あ、ティンセル。食べ終わったのか」


「うん!美味しかったよ!ありがとーね!」


「はいはいティンセル。これでようやく不足していた分の金が調達出来たから、今すぐこれを使って作業を進めたいと思うのだけど大丈夫かしら?」


「勿論!ねー皆!」


「くーっ!ようやくこの日が来たか!ティンセルさん!いつでも行けますぜ!」


「アンシューツ博士!我らは何時でも準備万端です!」


「ワクワク!ワクワク!異世界の科学力、早くみたいわ!」


「頼もしいわね。……でも、元々この開発に関わっていた人はともかく、他の部署の人も協力してもらってもいいのかしら?なんだか数増えてない?」



「「「新しい物には目が無い!それが第三兵器開発部研究員!!!」」」



「それもそうね。それじゃちゃっちゃと終わらせるわよ!」



「「「おーーー!!!」」」




 ……なんか急に凄い活気が出てきたな。

 さっきまで凄い静かにそれぞれの仕事についていたのに。

 こんなものなのか?

 研究員って。



「どうもありがとう。あなたのおかげでようやく滞ってた仕事の1つが片付きそうよ」


「いえ。大したことはしていませんので」


「ふふ。ありがとう。それでこんなことを言うのは申し訳ないのだけど、あれが完成するまでこの研究所から少しの間出ていってもらっても構わないかしら?機材を運搬したり研究員があちらこちらに移動するから何も知らない人が居るとちょっと危ないの」


「分かりました。でもどこに居たらいいでしょうか?」


「第三開発部以外ならどこでもいいわ。そんなに時間はかからないと思うし、なんなら扉を出てすぐの所に居てもらっても構わない。完成したらあなたを呼びに行くつもりでいるからその方が探す手間も省けて助かるし」


「了解です。それじゃ入口付近を適当にうろうろしています」


「ええ。お願いね。それじゃまた」



 ☆★☆★☆


 ~第三開発部・入口~



「さて。とりあえず完成まで何をするかな?他の部署に行くのもなんだか面倒だし」


「……おや?あんた新入りかい?」



 ふいに男性研究員から声をかけられる。

 どうやら僕はここの研究員の人から見ると随分と珍しいみたいだ。

 スペリーさんに続き、また似たような文句で声をかけられるとは。



「いえ、僕は研究員じゃありません」


「研究員じゃない?じゃあなんでこんな所に?」


「本部に用事があったついでにここではどんな研究をしているのか見学をしに」


「見学をしにってお前、まさか第三兵器開発部にか?」


「えぇそうですけど……それが何か?」


「止めとけ止めとけ。その様子だと何も知らなさそうだから教えてやるよ。この第三兵器開発部で働いている研究員は1人残らずどこかの部署で問題を起こして部署配置を強制的に変えられた人ばっかりなんだ」


「問題を起こして?」


「そうだ。ここの部署には本部の研究員でも問題児ばかりが集められた、通称『問題児の墓場』と呼ばれる部署なんだ。ロクな目に逢いたく無かったから、ここだけは止めときな。見学ってなら他にも見るとこは沢山あるぜ?うちの部署なんかはどうだ?魔法と化学薬品を応用した新型の魔導具を開発中なんだ。見たところあんたは勇者だろう?是非ともテストも兼ねてうちで作った試験品の魔導具を使ってみてはくれねぇかい?」



 問題児の墓場ねぇ……

 スペリーさんもティンセルもエミリアさんも言うほど問題を起こすような人には見えなかったけどなぁ。

 もっとも仮に問題を起こすとしても、僕にとってさほど関係があるわけではないだろう。

 起こったらその時はその時だ。

 逃げるなり助けを求めるなりどうにかすればいい。



「その気持ちは大変な嬉しいんですけど、実は僕はもうここの研究員の人と打ち解けてしまっているんです。僕の目からしたらここの人がそんなに問題を起こすようには見えませんでしたし、何より今は完成を待っているので他の部署に行くことは出来ません」


「もう入っちまったのかよ!?……でも何の完成を待っているんだ?何かここで開発してるものってあったかな……?」


「えぇ。EMG-003型という――――」


「レイ君ーーーー!出来たよ!完成したよ!」


「あ、ティンセル。早かったね」


「うん!皆大急ぎで工事を進めたからね!」




 いや、本当に早いな。

 ここを出てからまだ1時間も経っていないと思うのだが。

 それだけ単純な作業しか残っていなかったのだろうか?

 ……まぁ別にそこはどうでもいいか。



「げっ!ティンセル!」


「げっ!って何よげっ!って!れでぃーに向かって失礼じゃない?」


「お前のどこがレディだ!レディどころかちっちゃいお子様だろうが!」


「あーー!また私のこと子供扱いした!」


「事実子供だろうが!」


「子供じゃないもん大人だもん!」


「どの口がそれを言うか!」


「この口ーーー!」


「うぜぇ!?」




 子供のやりとりだなぁ……

 両方。



「こんな馬鹿放っておいていこ!レイ君!」


「おーおー行ってこい!何を作ったのか知らねぇが、その勇者さんに迷惑だけはかけるんじゃねぇぞ!問題児!」


「言われなくてもかけませんよーだ!さっさと自分の部署に帰って!部外者さん!」


「言われなくてもな!」



 僕に声をかけてくれた男性研究員はティンセルの言葉に押し負けて自分の部署へと帰ってしまった。

 悪い人ではなさそうだったから、言われっぱなしだったあの人には少しだけ同情しよう。

 ドンマイ。


 

「それでティンセル?本当にもう出来たのか?」


「うん!後は金を使ってコントロールパネルと関節部の回路に金を埋め込むだけだったから!そんなに時間はかからなかったよ!」


「そう、なのか?」



 結構あっさり言っているがそれだけのことでも1日近くかかりそう気がするのだが。

 機械関係には疎い僕にとっては何の根拠もない推測だからよくは分からないのだけど。



「うん!それじゃレイ君早く行こ!皆待ってるよ!」


「お、おお!」



 ティンセルに腕を引っ張られて再び第三兵器開発部へと入ってゆく。

 そんなに引っ張らなくてもちゃんと行くって。



 ~第三兵器開発部~



「お~~!!!レイのアニキが来たぞぉ!!!」


「アニキぃ!」


「レイさーん!!!」



 …………なんだこれは。

 誰がアニキだ。



「……ティンセル?」


「なーに?」


「皆に何があった?」


「何って?」


「何故急に僕がアニキなんてこっ恥ずかしい呼ばれ方をしているんだと聞いているんだ?」


「あ、それはね、レイ君が作ってくれた金がこれが完成した時点で結構余っちゃって、どうしようかなってアンシューツ博士と考えていたら皆が欲しいって言い出して。なんか割と皆も魔素に影響されてない金が必要だったらしくてあの金のおかげでだいぶ仕事が片付いたんだって」


「あぁそれで」




 それにしたってアニキはないだろうアニキは。




「じゃあ皆行くぞ!せーの!」


「「「どうもありがとうございましたーー!レイのアニキーーー!!!」」」



 気持ちは嬉しいのだが……うん。

 えーと、どうしたらいいんだ?

 これ。



「ちょっとちょっと、皆何やってるの?早く持ち場に付きなさい」


「エミリア博士!今一同揃ってレイのアニキにお礼を申し上げていたところです!」


「お礼って……感謝をするのは大事だけど、あまり困らせちゃ駄目よ?」


「勿論ですっ!」


「はいはい。元気がいいのと感謝の気持ちがあるのは分かっただろうから、早く持ち場について。あなた達が居ないと試験運転が出来ないのよ」


「分かりました!それじゃ総員配置につけー!!!」


「「「おーーーー!!!」」」




 いや、ホント元気あるな。

 最初のイメージと全然違うぞ。



「うちの研究員がご迷惑をおかけしたみたいね。ごめんなさい」



 エミリアさんが深々と僕に頭を下げる。



「いえ、そんな!顔を上げて下さい!大して気にしてませんので」


「ありがとう。助かるわ」



 確かに困惑はしたが、そこまで嫌なことをされたわけではない。

 あそこまで感謝されてむしろちょっと嬉しかったし。

 たったあれだけのことでエミリアさんに頭を下げさせるわけにはいかない。

 こうやって見ていると、エミリアさんもそれなりに高い地位に就いている人物みたいだし。



「……ところで1つ聞きたかったんですが、エミリアさんはこれの開発の責任者か何かなんですか?」


「いいえ。違うわ。どうして?」


「これまでの見てきた中で結構エミリアさんが指揮を執っていることが多いような気がしたので。でも、これの開発自体にはそこまで詳しく関わっているような口ぶりではなかったのでどうなのかなと思いまして」


「あなた結構細かい所に目が行くのね。まぁ簡単に言えば、私は元々この研究所で博士と呼ばれるだけの地位に就いていて、EMG-003型の開発にはそこまで関わってないけど今は臨時で責任者としての権限を委託されているからこうして指揮を執っているの。詳しい話はまた後でしてあげるわ。さぁ皆!準備はいい?」


「「「勿論!」」」


「危ないから少し横に避けていて。それじゃカウントダウンを開始するわ!配置に付いていない研究員は安全な場所まで退避して!」




 いよいよ動くのか。

 さぁ、どんな感じなんだ?

 今からワクワクが止まらないぞ!




「大丈夫ね?…………カウントダウン開始!」


『5!』

『4!』

『3!』

『2!』

『1!』

『起動!』


 エミリアさんが手元に持っているコントローラーのようなボタンを押すと、ウィィィィンという機器の駆動音と共にEMG-003型はその身をゆっくりと前に動かした。



『…………対魔族殲滅機動兵器EMG-003型、起動しました』



 その姿は雄大で、男なら誰しもが見惚れるであろうものだったが……

 あれ喋るのか!?

 てっきりグオォォォォ!とかギャォォォォォ!とかそんな感じの咆哮を上げるのだとばっかり思っていた。

 ……まぁそこまでこだわる必要が無いからこうなったのだろうけど。

 結局は巨大ロボットだし。




「よし!」


「「「やったぁぁぁぁぁぁ!」」」


「遠隔操作から自立モードへと変更!聞こえる?EMG-003型!」


『…………声紋を確認。第三兵器開発部・博士・エミリア・アンシューツ・あなたの声を認識出来たことを報告します』


「よし。あなたの周りには何が見えるか教えてもらえる?」


『索敵モード・…………トータル57名の研究員・トータル8名の博士を確認。兵器開発に使用された痕跡のある機器トータル86を確認。現在地は四方を壁で囲まれた室内である模様。縦110m・横58m・高さ24m。その他機械的部品、及び工具をトータル8万7362個確認。また、使用可能な武器・兵器をトータル128確認。しかしいずれも明確な攻撃性を有しておらず、安全であると判断。以上です』


「上出来!ここまで出来れば何も問題はないわ。後は戦闘能力なんだけど、流石にここで試すのはまずいわね。移動するわよ。ついてきて」


『移動許諾を確認。これよりエミリア・アンシューツの後続に付き、移動を開始す、………………る……ガ……ガガ……ピ』


「……どうしたの?」



 EMG-003型の各部から白煙が立ち上っている。

 ……大丈夫か?



「アンシューツ博士!」


「何が起こっているの?」


「それが……EMG-003型に使用した金が――――――」


『グオォォォォ!』


「きゃあ!」


「うわぁ!?」



 あ、なんかそれっぽくなった!

 ……じゃなくて!



「大丈夫ですか!?」


「え、えぇ…………」



 突然EMG-003型がこちらに向かって拳で殴りつけてきた。

 殴りつけられた場所は思いっきり抉れている。



『ガガ、ガガ、ピーーーー!ハカイ』



「え?」




『ハカイせよ。ハカイせよ。クリエーターは、どこだ』


「のぁぁ!?」


「いやぁぁ!?」


「ちょ、待ち!?」



 どっかで聞いたことのある台詞と共に、近くにいた研究員を次々を吹き飛ばしていく。

 とりあえず……逃げよう!



「あ、レイ君!」


「ティンセル!逃げるぞ!」


「う、うん!」

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