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第3兵器開発部

「おいおいマジか……」



 ティンセルに案内された場所にそれは立っていた。

 所々見たことのない外装は付いているが、それはどこかで見た事のあるような外見していた。



「完成度は高いのかな?なるべく元となった絵に似るように開発したしたんだって。そうだよね?アンシューツ博士!」


「あらティンセル。……こちらの方は?」


「見学者!地球から来たんだよ!」


「そうなの。私はエミリア・アンシューツ。ここで武器を専門に開発している者よ」


「僕は地球から転生してきた、転生勇者のレイ=キリサトです。よろしくお願いします」


「えぇ。こちらこそ。それでティンセル?さっきなんて言ってたのかしら?」


「このEMG-003型ってさ、昔地球から来た科学者が描いた絵を元に外見が似るように開発したものなんだよね?って!」


「そうよ。それがどうかしたの?」


「ううん!レイ君がこれを知ってるみたいだったからさ。そうだったよね?って確認しただけ!」


「そう。あ、でも別に外見だけを重視して開発したわけじゃないのよ?私も少しだけこれの開発に関わってみて初めて分かったのだけど、このEMG-003型のデザインはこれまで私達が研究してきたどの人型機構ヒューマノイドよりも優れているの」


「優れている?」


「このデザイン、人間の動きを真似して動かすには最も最適なのよ。重心の位置、間接部の可動性、五体のバランス比、どれをとってもこれまで私達が研究していた人型ロボットよりも優れているからよ。これだけ大きなものを遠隔操作するとなるとなるべく人間の動きに近いものを作るのがベストなのよ」


「遠隔操作?搭乗して操作することはできないんですか?」


「馬鹿言いなさいよ。技術上それは可能だけど、そんなことをしたら操縦するパイロットが大変なことになるわ。振動と衝撃が酷過ぎてロクに戦えやしない」




 なるほど。

 でもそれなら別の解決策があるんじゃないか?



「それなら操縦席に液体を流し込んでその液体に振動と衝撃を吸収させればいいのではないですか?」


「その案も確かに出たわ。でも却下。理由はそんなことをしたら操縦席の機器が全て壊れてしまうから。当然ね。液体に強い電子機器なんて存在しないもの」


「なるほど」



 確かにそれはもっともだ。

 そんな特殊な液体、とてもじゃないが作ることはできないだろう。



「それでティンセル?」


「なーに?」


「このEMG-003型だっけか?が、動かない理由ってのはなんなんだ?見たところ完成しているように見えるが?」


「あ!そうだ!忘れてた!ねぇスペリー博士!レイ君にさ、あの依頼を頼んでみようよ!」


「えぇ……?でも彼は完全な部外者でしょう?私達の研究の為に危険を冒してもらうのはちょっと……」


「あ、気にしないで下さい。僕もこれが動くところ見たいですし。それに僕は世界連盟勇者斡旋ギルドの勇者なんです。その依頼が世界の為になるのなら、どんな依頼でも受けますよ」


「そう。なら……『魔封じの山脈』で採掘できる(きん)を約100kg持ってきて欲しいの。………頼めるかしら?」


「100kgですか!?……ごめんなさい。運ぶのはともかく、そんなに都合よく大量に発掘できるとは思えないのですが……」


「あ、ううん。金そのものは魔封じの山脈に腐る程あるから100kg程度ならすぐに採掘できるの。でも、問題はそこじゃないの」


「ではどんな問題が?」


「その山脈にね、金を食料とする黄金喰蟲(こがねくいむし)という巨大な昆虫型の魔物が群生しているの。何もしなければ全く害の無い魔物なんだけど、自分達の縄張りにある金を持ち去ろうとしあらその付近にいる何千匹もの黄金喰蟲(こがねくいむし)が一斉に襲ってくるのよ。

 しかも魔封じの山脈ではその名前の通り魔法を使うことができない。厳密には魔素が一切存在せず、仮に人間や魔族のように体内に魔力を内包している者がそこに立ち入ると体内の魔力でさえも拡散してしまう不思議な力が働いているの。

 だから魔法を専門に扱って戦う冒険者や勇者ではまず襲いくる黄金喰蟲(こがねくいむし)に太刀打ち出来ずにそのまま殺されてしまうから魔法を使わずに能力スキル黄金喰蟲こがねくいむしを倒せる人にしか金を運び出すことができないの」




 魔法が使えないのか。

 ……厳しいな。

 世界の理を知る者も未知の侵略者も、能力スキルではあるが、結局は魔法だ。

 それが使えないとなると僕に出来るのは精々大切断による物理攻撃ぐらいだ。

 でも、それにしたって敵が何千匹もいるのなら数体倒したところで負けてしまうだろう。

 どうしたものかな。

 ……ん?

 いやでも待てよ?




「金が必要なら僕の勇者の能力スキルで……というか勇者としての権限で適当にそこら辺の王族から金を分けてもらいに行って来ますよ?」




 そうだ。

 わざわざそんなことをしなくても王族からの援助がある。

 この世界の王族からの財政状況がどれくらいなのかは分からないが、いくつか回ってみれば100kgくらいの金なら集まるだろう。




「それじゃ駄目なのよ」


「駄目なんですか?」


「えぇ。私達が求めているのは『普通の金』じゃないの」


「普通の金じゃない?」


「そう。実を言うとね、私もマテリオンっていう世界から転移して来た転移者の1人なの」


「そうなの!?」


「あら?ティンセルには言ったことがなかったかしら?」


「聞いてないよ!初めて聞いたよ!?」


「なら今言ったわ」


「同じ場所で働いている仲間なのに扱い雑じゃない!?」


「……まぁそれで以前の世界でも科学者として色々開発に携わっていたのだけど、そこでも使っていた材料はここと基本的には同じで、機械的な物を開発する際には電子回路を作るのに金だけは欠かせなかったの」


「私の言葉は無視なのー!?」


「ティンセル、ちょっと静かにしよっか」


「へうっ!?」




 ちょいちょいティンセルが話に割り込んで落ち着いて話を聞けなくなったのでティンセルを抱っこして後ろの方へ持って行く。

 お菓子があればそれを渡して大人しくさせることも出来たのだろうけど、生憎今僕は持っていない。

 だが持っていないのなら創ればいい。




「お菓子作(スウィーツ)り!はい。ティンセル」


「いいの!?」


「勿論」




 分類的には補助魔法なのだろうか?

 前に魔法の一覧を見た時に食べ物を創り出せそうな魔法があったから試してみたが、案の定僕の予想は合っていたようだ。

 僕の手のひらに出現した数個の飴玉をティンセルに渡す。

 するとティンセルは大喜びで近くにあった椅子に座って一つずつ丁寧に飴玉を舐め始めた。

 …………これでしばらくは大人しくしているだろう。

 もう少し沢山のお菓子を創れれば良かったが、この魔法じゃこれが限界なのだろう。




「……あなたティンセルの扱い方、上手いわね。ティンセルと知り合いだったの?」


「まさか。思いつきの行動が功を奏しただけですよ」


「そう。……まぁいいわ。話を続けましょう。それで1つ質問なのだけど、あなたが居た世界には魔力・魔素の概念はあった?」


「どうでしょう?概念は空想上のものとして多くのひとが知っていましたが、この世界のように魔法を扱える人はまず居ませんでした」



 もっとも、地球の異世界魔法が使える以上、それが発動出来る位には魔力や魔素は存在していたのだろうけど。



「そう。ならマテリオンと基本的には条件は一緒ね」


「条件?」


「えぇ。あなたが居た世界にも基本的には魔素と魔力の概念が世界の理ルールとして存在していなかった。これが何を意味するか分かる?」


「意味……?」


「魔素にはある特性があるの。その特性というのが、『地上に存在する物質に魔素が浸透し、その物質に魔力的な影響を与える』というものなの。分かるかしら?」


「魔素が影響した物質と影響していない物質ではその本質に若干の誤差が出る?」


「まぁつまりはそう言う事ね。そしてその場合における金属に与える影響というのが、『電気伝導率』なの。電気伝導率と聞いてピンとくれば話が早いのだけど。どう?」


「大丈夫です。詳しくは知りませんが、どんなものなのかはなんとなく知っています」



 確か物質に対する電気の通りやすさを数値化したものじゃなかったっけ?

 ……うん。

 そんな感じだよ。

 多分。



「良かった。つまりね、この世界と元の世界では金属の電気伝導率が違い過ぎて、元の世界の知識のままに機器を制作すると必ずどこかで不具合が生じてしまうの。魔素が影響を与えるのはあくまで物質であって、現象ではないから」


「なるほど。やっと話が見えてきました。それで魔封じの山脈にある魔素に汚染されていない金を取って来て欲しいと。そういうことですね?」


「そういうこと。かなり危険なクエストになるのだけど、それでもお願いしてもいいのかな?」




 魔法は使えない。

 戦闘に使える魔力を使わない能力スキルも今の僕には無い。

 イコール不可能。

 無理ゲーだな。

 やっぱり。



「ごめんなさいエミリアさん。さっきはあぁ言いましたが、今の僕にそのクエストを達成出来る力はありません」


「……そうね。そうよね。ありがとう。こんな話を真剣に聞いてくれて。またクエストを達成出来そうな人が来るまでこの開発は凍結させて」


「ですが」


「え?」


「それ以外の方法で魔素に汚染されていない金を用意することは出来ます」


「そんな……どうやって?」




 エミリアさんの話を聞く限り、一部の例外を除いて物質が魔素に影響されるというのはこの「世界の理」のようだ。

 なら、僕の称号能力(クレストスキル)、創造者の能力のうりょくで魔素の影響を受けていない金を創ることが出来るはずだ。

 一応確認の為に観察眼(ハウンド)で確かめてみよう。

 多分、観察眼(ハウンド)能力(スキル)の詳しい効果も鑑定出来るはずだ。

 対象となる「者/物」とは表示されずに「もの」と表示されていたからな。

 僕は創造者の能力(スキル)観察眼(ハウンド)の能力のうりょくを使用してみる。

 するとやっぱり創造者の詳しい詳細が僕の脳内に響き渡ってきた。




『創造者・称号能力(クレストスキル)

 能力(スキル)使用者が現在活動している世界の理に反する物質を精製することが可能な能力(スキル)

 術式は錬金術・錬精術と同じ。

 精製方法は以下の2つである。


 ・合成

 ・変換


 合成は複数の物質を混ぜ合わせることで、その物質が持つ特性を1つにまとめる、もしくは特性を打ち消すことで新たな物質を精製する方法である。


 変換は対象となる1つの物質の特性を質量・密度はそのままに異なる特性に変える精製方法である。


 これら2つの精製方法は成功すれば高位の物質を創ることが可能性だが、成功確率は極めて低い。

 精製に失敗した場合、対象となった物質は消失する』




 ふむ。

 地球でよくやっていたゲームの設定とあまり大差はないな。

 でも、この内容なら変換の精製方法で魔素に影響されない金を創ることができるだろう。

 唯一心配している問題の精製に失敗したら対象の物質が焼失してしまうという点。

 これも多分この能力(スキル)でなんとか……




『錬精術師・称号能力(クレストスキル)

 錬金術師の上位にあたる能力(スキル)

 この錬精術師の能力(スキル)は錬金術・錬精術に分類される術式であるならば、その錬金・錬精は必ず成功する』




 うん。

 全く問題無さそうだ。




「エミリアさん、この研究所に普通の金で100kgはありますか?」


「えぇ。この研究所には無いけど、共同の材料倉庫にならあるわ」


「ならそれを持ってきてもらってもいいですか?その金を僕の能力スキルで魔素に影響されない金に作り変えます」


「そんなことができるの!?」


「はい。まだ試したことはないんですけど、ほぼ間違いなく成功します」


「分かったわ。ティンセル!」


「はむはむ♪」




 返事が無い。

 飴玉に夢中のようだ。




「もう……そこのあなた」


「あ。アンシューツ博士。何でしょうか?」


「今手の空いている研究員全員集めてここに第8材料倉庫にある金を全部持って来るように放送をかけて」


「分かりました」



 呼び止められた男性研究員がそう指示を受けてこの場を立ち去ると、研究所に放送が鳴り響いた。



『連絡します。現在手の空いている第三兵器開発部の研究員は第8材料倉庫に集合して下さい。繰り返します。現在手の空いている第三兵器開発部の研究員は第8材料倉庫に集合して下さい』




 異世界に来てまで放送なんて現代的なものを聞くとなんだか異世界に来た感じがしないなぁ……

 別にいいんだけどね?

 既に魔法とは無縁そうな科学技術で作られた物を沢山見てるし。




「よし。後は待つだけね」


「あの、思ったんですけど僕がその倉庫に行って直接錬精するのでは駄目なんでしょうか?」


「それは駄目よ。いくら敵意の無い協力者だと言っても、どこの倉庫にも機密事項にあたる物も数多く保管されているの。言い方は悪いけど、部外者を倉庫の中に入れる訳にはいかないわ。それにどうせここに持って来るのだから結局は一緒だからね」


「なるほど。確かにその通りですね。ごめんなさい」


「謝ることじゃないのよ。気にしないで。……それじゃ私も倉庫に行って指示を出してくるからあなたはここで待っていて」


「分かりました」


「一応ティンセルもね」


「はむはむ♪」



 まだ飴玉に夢中だから放っておいても大丈夫そうだけど。



「分かりました。ちゃんと見ておきます」



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