能力珠
「あの、能力珠ってのはそもそもどういった物なんですか?」
「まぁ、簡単に言えば今言った通り、これを使うことでこの珠の中に封じ込められた能力を会得できる魔導具の1つだ。ただ魔導具とは言っても人の手で作ることはできず、強力な魔力を持つ魔族がごく稀に体内に内包しているものしかない。基本的にはランクSS以上の魔族だな。
それ故に能力珠のことを知っている者は少ないし、能力珠自体かなりレアなアイテムとして扱われている。たまに裏市場に出回ることがあるが、その時の相場は金貨7000枚から10000枚くらいだな」
「そんなにするんですか!?」
「まぁ何の努力も無しに能力を得られるわけだからな。それに能力珠から得た能力1つで勇者になることができるからな。それを考えれば安いものなのだろう。勇者になってしまえば後は各国の王族からお金を援助してもらえば元は回収できるしな」
「なるほど。……でもそんな高価な物を頂いても宜しいのですか?何も僕なんかに使わなくても、フェルグランさん自身で使えばより有効かもしれませんし」
確かにこれから先のことを考えると能力はいくらあっても困るものではない。
でも、そんなに簡単に能力を会得できるのなら、僕より強いフェルグランさんが使うべきだ。
例え魔族と戦う時には能力が反転するとしても。
「レイは……本当にいい子だな。その気持ちは嬉しいがあまりそれはあまり気にしなくていいぞ?この能力珠、実のところを言うと世界連盟勇者斡旋ギルドが秘密裏に回収しているものでもあるんだ。ギルドが発注したクエストを達成する過程でこれを見つけて提出すれば追加報酬として倍の金額を払うようにしているし、市場に出回った能力珠の殆どは一般人に扮したギルドの職員に大金を持たせて買ってくるようにしている。」
「何故そんなことをするんです?」
「何故だと思う?」
色々考えれることはあるけど、やっぱり他の魔族が更に力をつけないようにする為かな?
「他の魔族が能力珠を使用することで新たな能力を会得しないようにする為ですか?」
「いや、能力珠は魔族にとっては自身の魔力を完全に回復させる為のアイテムでしかないらしい。勿論それはそれで脅威的なのだけれど。そうじゃない」
「では何故?」
「簡単さ。レイが今言ったことの逆、味方の戦力増強の為さ。今はまだ魔族と人間の戦いはギリギリ均衡を保っている。でも、もしも魔族が更に強い力を手に入れたら?そうなった時、強くなった魔族に対抗できる人間は今以上に限りなく少なくなるだろう。私達はそれを防ぐ為に、能力珠を集めている。そのような非常事態が起きた時に、能力珠を使うに値する有能な人間の力を強化する為に。今はまだその時ではないが、私はレイを能力珠を使うに値するだけの人間である評価している。理由は……言わなくても分かるだろう?」
転生して1週間やそこらで人類の驚異となりうる新たな聖魔混沌騎士団を倒したから、か。
「はい」
「だから私はこれをレイに贈ろう。きっと、役に立つ」
「……分かりました。ありがたく、頂きます。でもどうやって使えばいいのですか?」
「珠を手に握って解放と唱えればいい」
「…………」
最初に緑色の珠を握り、解放と唱えてみる。
「解放」
すると、一瞬だけ珠が眩い緑色の閃光を放ち、珠は灰のようにハラハラと崩れてしまった。
能力珠がちゃんと効果を発動した証拠なのだろう。
フェルグランさんは言わなかったが、話を聞く限りやはり能力珠は1度しか使えないアイテムのようだ。
とりあえずステータス画面を開いてみよう。
職業能力
勇者(王族から無条件の援助)
剣聖(剣と判断される武器の重さを装備時のみ無効)
称号能力
錬精術士(錬金術の成功確率100%)
魔導師(上級魔法までの呪文詠唱破棄)
駆け出し勇者(ダメージが魔族に対してのみ2倍)
創造者(世界の理に反する物質を精製可能)
世界の理を知る者(全魔法使用可能)
剣聖(剣の耐久性が無限大)
固有能力
神の寵愛(毎分自身の魔力の4分の1を回復)
精霊皇の加護(全属性体制)
未知の侵略者(全魔力消費でブラックホール出現)
VS魔族(魔族に対してダメージ2倍)
母親の知恵(家事・料理全般Sランク)
乱獲者(倒した魔物から得る素材2倍)
大切断(一定確率で対象となる物質を無条件に切断)
修得能力
反射壁・型式魔法(魔法を反射する壁が出現)
反射壁・型式能力(能力を反射する壁が出現)
観察眼(対象とするものの詳細を知ることができる)
未覚醒能力1
未覚醒能力2
修得能力の項目に観察眼という能力が増えていた。
効果は……対象とするものの詳細を知ることができる。
これは……どんな能力なのだろう?
「……うん。問題なく会得できたようだね。その珠に封じられていたのは観察眼という能力。使い方は簡単。ただ自分が知りたいと思うものに意識を向ければいい」
「自分が知りたいと思うものに?」
「そう。例えば……この、私の剣で試してみるといい」
そう言ってフェルグランさんが渡してきたのは白銀の細身の剣だ。
余計な装飾は殆どなく、刃の部分に紋様のようなものが彫られているだけだ。
……綺麗な剣だ。
とりあえずフェルグランさんに言われた通りにこの剣を知りたいと意識してみよう。
僕がそう意識をした瞬間、僕の脳裏に突然言葉が浮かび上がった。
「これは……」
『銀龍の鱗剣・幻影級
竜種の最上位種、龍皇種の一角である銀龍ラグナの鱗を加工して作られた剣。その刀身はラグナの力を僅かながらに秘めており、使用者の魔力に比例してあらゆる物を切断する効果をもたらす。また、意識を集中することで前方にシールドを展開することが可能。この剣は龍皇族と同等の力を持つ生物を素材とした武器・防具以外では傷つけることは出来ない』
なんか凄いな。
龍皇族って。
これもう普通に聖剣とか呼び習わしてもいいんじゃないのか?
よく分からないけど幻影級なんてレアリティの高そうな階級に位置してるみたいだし。
でも、これが観察眼の効果か。
中々に便利だな。
「この剣がどんな物なのかが分かったか?」
「はい。龍皇種の素材を使って作られた剣なんですね。……この剣の素材となっている銀龍ラグナというのはフェルグランさんが倒して手にいれてたものなんですか?」
「いや、私がギルドマスターに就任してから各地を転々としていた時にたまたまラグナが脱皮した脱け殻を見つけてな。それをそのまま武器の素材として使わせてもらった。他にもこの鎧や盾は同じようにその時のラグナの脱け殻を使っている」
「そうなんですか?」
確かにフェルグランさんは銀色の綺麗な鎧に身を包んでいる。
本当なのは間違いないだろうが、興味本意で鎧と盾を観察してみる。
『銀龍の殻盾・幻影級
竜種の最上位種、龍皇族の一角である銀龍ラグナの甲殻を加工して作られた盾。銀龍ラグナの強靭な甲殻を加工して作られたこの剣は、如何なる熱も冷気も完全に防ぐ力を持つ。
また、盾に魔力を込めることで魔法を防ぐ力も付与できる。
この盾は龍皇族と同等の力を持つ生物を素材とした武器・防具以外では傷つけることは出来ない』
『逆鱗の銀鎧・幻影級
竜種の最上位種、龍皇族の一角である銀龍ラグナの逆鱗と鱗を加工して作られた鎧。稀少な逆鱗に秘められた強力な力が鎧を通して使用者に伝わり、使用者の身体能力を3倍に引き上げる。一定以上の魔力を込めることで擬似的に銀龍ラグナへと変身することが可能。
この鎧は龍皇族と同等の力を持つ生物を素材とした武器・防具以外では傷つけることは出来ない』
…………驚くべきか、驚かぬべきか。
この人にして、この装備ありって感じだな。
僕の感覚が鈍ってきたのか?
これぐらいの装備なら当たり前だと感じている。
でも、僕の装備はきっとしょぼいんだろうなぁ。
とりあえず僕の装備にも観察眼を使ってみる。
『転生者の服・希少級
転生者が転生してきた時に何故か着ている不思議な服。
誰がなんの為に、どうやって作ったのかが不明。
素材も不明。
服として機能性はよく、ヒートテック・クールビズを備えている。
着心地がよい。
また、連日気続けても臭いがつかない。
面倒臭がりな人にとってはうってつけの一品』
『転生者の靴・希少級
転生者が転生してきた時に何故か履いている不思議な靴。
誰がなんの為に、どうやって作ったのかが不明。
素材も不明。
靴としての機能性はよく、ウォーキング・ランニングの両方に向いている。
履き心地がよい。
また、連日履き続けても臭いがつかない。
足の臭いが気になる人にはうってつけの一品』
『錆びて朽ちた剣・幻影級
どこかの兵士が捨てた錆びて朽ちた剣。
しかし、持ち主の能力により破壊不能・重さ無効と剣として最高の能力を獲得。
元々は廃棄級であったが、持ち主の能力により幻影級となった』
なんだろう。
確かに詳細は分かってるんだけど、フェルグランさんの装備と僕の装備じゃ微妙に詳細の表し方が違う気がする。
フェルグランさんのは某有名モンスターをハンターが狩るゲームに出てくるような表記なのに、僕のはなんか商品の紹介のような感じがする。
ヒートテック・クールビズって。
そんな概念がこの世界にあるのか?
「ん?どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」
まぁ、気にしたら負けか。
うん。
「とりあえずそんな感じだ。気になるんなら観察眼を使ってみてみるといいさ」
ごめんなさい。
もう既にやっちゃいました。
「それじゃ次の能力珠だ。同じようにやってみるといい」
今度は茶色の能力珠を手渡され、同じように解放と唱えてみる。
「解放!」