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人類最強の男

「失礼、します」

「…………」



 若干声を強ばらせながら入室する。

 ローグさんは無言だ。

 部屋の中は扉の大きさから分かるように天井が高く、それに比例するように横幅も広い。

 壁面には隙間もつ無いほどに本棚が敷き詰められ、どの本棚もぎっしりと本が並べられていた。

 その他は応接用や執務用の机や椅子らしき物が置かれており、それ以外は特に何もないシンプルな内装だった。

 目立つ物と言えば入口の直線上にある本部全体を見渡せる巨大な窓。

 そしてそこに一人の男性が立っていた。

 多分この人が、ギルドマスターなのだろう。



「久しいな。ローグ」

「えぇ。私がギルドの職員となった時以来でしょうか?」

「敬語など使ってくれるな。私とお前は共に数多くの戦場を潜り抜け、同じ釜の飯を食べた仲間じゃないか。組織の上下関係があるとはいえ、そんなものを気にする必要はないだろう?」

「まぁな。でも俺にも色々あるんだよ。気分を害したのなら許してくれ」

「気にするな。そんなことで気分を害す程子供じゃない。して、今日お前を呼んだ理由は既に存じている通り、中々に面白い勇者が現れたそうじゃないか。名前をレイ=キリサト、と言ったか?」

「あぁ。ほら、レイ。挨拶を」



 挨拶って……!

 どんな挨拶をすればいいんだよ!



(普通でいい!)



 アバウトだな!

 どうなっても知らないぞ!

 僕はその人の前まで歩いて行き、本当にごく普通の挨拶をする。



「あの、初めまして。レイ=キリサトと申します」

「そう緊張をするな。もっと楽にしてくれ」

「は、はい!」

「ふふ……。君は中々に礼儀正しい人だね。勇者の多くは高慢な態度の物が多いのだけど。もしかして転生者なのかい?」

「そ、そうです」

「なら納得だ。不思議と転生者の多くは礼儀正しい人が多いんだ。逆に転移者の多くは無礼な人が多い。なんなのだろうね?この違いは。くっくっくっ」



 本部のギルドマスターというくらいだからかなり気難しい厳しい感じのイメージがあったけど、案外そうでもないのかな?

 ちょっと威圧感は感じるけど、普通に話せそうだ。



「あぁそうだ。申し遅れたな。私はここのギルドマスターを勤めているフェルグランだ。よろしく」



 フェルグランさんが右手を差し伸べてきたのでそれに応じて握手をした。

 握手をしたその手は大きく、何よりも硬い。

 武器を扱う鍛練の賜物なのだろうか?

 何度も豆が出来て潰れたとかそんな次元ではない。

 この手を握っただけで、フェルグランさんがこれまでどれだけの努力をしてきたのかが分かるようだ。



「ふふ。驚いた顔をしているね?」

「ご、ごめんなさい」

「謝らなくてもいいさ。それだけ僕のことを評価してくれたのだろう?それも手に触れただけで。嬉しいことさ」

「おいおい……フェルグラン。レイが怯えているぞ。もう少し考えて接してやってくれ」

「怯える?何故?」

「仮にもお前は人類最強の男と称される程の実力者だ。そうでなくてもレイが勇者な以上、組織上の立場としてお前は完全に上位に人間だ。怯えるのは当たり前だろう?」

「そうなのか?」

「その……ごめんなさい」



 ローグさんの言う通り僕は確かに怯えている。

 こうして近づいてみて初めて分かったけど、この人はリシェンやリフレクティノイド、ローグさんやティルファさんよりも遥かに強い。

 扉の横に居た二人もそうだけど、この人は別格だ。

 感じるオーラ……というか本能的に僕はこの人に絶対に敵わないと判断してしまっている。

 だから失礼のないように、怒らせないように神経を張り積めて対応している。

 この人の権力と実力なら僕みたいなのがこの世界から消えたとしても何の問題にもならないのだろうから。



「ふむ……参ったな。どうすれば……レイ、でいいか?は、私に心を開いてくれる?」

「適当に相手をしてやれ。まだまだ新米の勇者だが既に2回も聖魔混沌騎士団(カオスドール)と合間見えている。度胸は間違いなくある!」



 いや、そんな力強く主張しないで下さい!



「なるほど。なら……そうだ!レイよ!私と少し手合わせをしよう!」



 手合わせ?

 え……と?

 人類最強の人と?

 …………よし。



「ごめんなさい。無理です」



 そう言って全力でローグさんの横に避難する。

 無理無理無理無理!

 僕死ぬから!



「そんなに逃げなくても大丈夫だ。手合わせと言っても、レイの実力がどのくらいあるのかを確かめるだけだから。防御はするけど、反撃と攻撃はしないから安心して欲しい」

「……信じて大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ。あいつを信じろ」

「レイは僕に、レイが持つ最強の能力(のうりょく)を使ってくれ。どんな能力(のうりょく)でも加減なくね」



 おぉ……

 流石人類最強と称される男……

 自信満々だな。

 最初から自分が負けることはないと……傷つくことはないと確信しているように思える。

 でも、僕の最強の能力(のうりょく)って……未知の侵略者を放てってことか!?

 そんなことをしたらこの施設事態が消滅しかねないぞ!?



「それも大丈夫だ。何も気にせず思いっきりやれ」



 マジですかローグさん。



「あのリフレクティノイドを倒したという能力(のうりょく)、是非とも興味があってね。さぁ。いつでもいいよ」



 そうは言ってもやはりためらいの気持ちは無くならないぞ!?

 どれだけの大威力だと思ってるんだ!?

 大地が消滅したのはこの人も知っているだろうし、それを踏まえてそうしろってことはただの馬鹿なのか、それともあれを防ぐだけの能力(スキル)を持っているか……


 あぁもういい!

 考えるのも面倒だ!

 なるようになれ!



「そうだ!その意気だ!」



 僕はフェルグランさんに向かって未知の侵略者を発動した。



「未知の侵略者!」

「へぇ…………」



 黒い玉がフェルグランさんに向かってゆっくりと飛んでいく。

 未知の侵略者があの大威力を発揮するのは、能力(スキル)を発動してから約5秒後。

 残り3秒。

 2……1……



「なるほど。確かにこの能力(スキル)はとてつもない破壊力が内包されているみたいだね。でも、この程度の威力ならわざわざ私が能力(スキル)を発動して防ぐ必要もなさそうだ」



 !?

 フェルグランさんがそう言い終わると、未知の侵略者は発動し、フェルグランさんの体を押し潰す。

 …………はずなのだが、



「ははははははは!素晴らしい!確かにこの威力なら大抵の魔物なら倒せそうだ!」



 あの重力磁場の中、平然と高笑いをしていた。

 これが人類最強の男……

 確かにその名に相応しい肉体を持っているようだ。

 それから数秒後に未知の侵略者の発動は解け、僕はその場に倒れこんだ。

 未知の侵略者から開放された後もフェルグランさんは……



「ふぅ……中々に強力な能力(スキル)だったよ。あの能力(スキル)で私を倒すことはできないが、足止めくらいならできるだろう。もっとも……私が何も能力(スキル)を発動させていなかったらの話だがね」



 まるで何事も無かったかのようにその場に立っていた。

 そしてその逆にローグさんはというと、



「馬っっっ鹿野郎!あんなのを素で受け止める奴があるか!」



 何故か怒っていた。



「おいおい。そんなに怒るなよ。私は無事だよ?」

「そうじゃねぇよ!俺もレイのこの能力(スキル)は初めてみたがな、大地が消滅したっていう報告は受けてたからなんとなくの威力のイメージはあった!」

「まぁ、私にもその報告は来ていたわけだが」

「なら少しは警戒しろよ!?お前の体がいくら頑丈とはいえ、大地が消滅してるんだぞ!?せめて能力(スキル)を発動しろよ!?」

「いや、一瞬私もそう考えたよ?でも感じた限りの威力じゃそこまでの驚異はないなって判断したから別にいいかなって。それにあれ以上の攻撃はこれまでに何度も受けているしね」

「こ、この戦闘馬鹿が!」



 それからローグさんの説教はしばらくの間続いた。

 ……とは言ってもフェルグランさんはそのローグさんの言葉を適当に受け流して大して耳に入れている感じはなかったけど。

 毎回のことなのだろうか?

 かなり慣れているようにも思えた。


 ローグさんの説教の間に僕の魔力も回復したのでこの部屋の中を適当に歩き回ることにしてみた。

 本や机しかないこの部屋を歩き回ることに何の意味があるのだと言われるかもしれないが、僕にとってはかなり興味深いのだ。

 驚いたことに、この部屋は未知の侵略者を発動しても傷ひとつつくことなく発動前の状態で存在していた。

 勿論本や書類などの細かい物は辺りに散らばってしまったのだけど、フェルグランさんが魔法をかけたのでそれらは元の位置に戻っている。


 机や椅子もその場所を動くことなく、勿論棚もどれ1つとして倒れてはいない。

 窓ガラスでさえ割れなかった。

 どれだけ頑丈な造りでこの部屋はできているんだと問いたい。

 この部屋の主にしてこの部屋であるのなら納得いかないこともないのだけれど……

 多分、核シェルターよりも頑丈な部屋だ。


 こっそり床に魔法をかけてみたり、壁にかかっていた剣を少々拝借して斬りつけてみたが、やっぱり傷1つつくことはなかった。

 大切断も発動する気配が無し。。

 この部屋の素材が能力(スキル)や魔法を無効化する素材でできているのか、そもそもが超頑丈な物質でできているのか。

 よく分からないけどこの部屋に入れば外部から襲撃されることはないだろう。



「はぁ……はぁ……もういい。疲れた……」

「お疲れ様。隣の部屋にベッドがあるからそこで休んでいるといいよ。まだ私はレイに本題を話していないしね」

「こいつは……!……はぁ。分かった。癪だがお言葉に甘えさせてもらうよ」



 ?

 説教に疲れたのか、ローグさんはかなり疲弊しているようだった。

 説教だけでローグさんを倒すとは……

 フェルグランさん恐るべし。



「さて、煩いやつも居なくなったことだし色々話を聞かせてもらいたいのだけどいいかな?」

「勿論です」

「ありがとう。それじゃ最初にレイのステータス……所持している能力(スキル)を全て教えてくれないかな?」

「分かりました」



 ステータス画面を表示させて、渡された紙に能力(スキル)とその能力(のうりょく)を書き込んでいく。

 前と一緒だから大体覚えて…………あれ?

 修得能力(グローアップスキル)の項目に能力(スキル)が増えている。

 ……リフレクティノイドを倒したからか?

 でも、残念ながらアンチ系の能力(スキル)ではないようだ。

 何々……?


 職業能力(ジョブスキル)

 勇者(王族から無条件の援助)

 剣聖(剣と判断される武器の重さを装備時のみ無効)


 称号能力(クレストスキル)

 錬精術士(錬金術の成功確率100%)

 魔導師(上級魔法までの呪文詠唱破棄)

 駆け出し勇者(ダメージが魔族に対してのみ2倍)

 創造者(世界の理に反する物質を精製可能)

 世界の理を知る者(全魔法使用可能)

 剣聖(剣の耐久性が無限大)


 固有能力(ユニークスキル)

 神の寵愛(毎分自身の魔力の4分の1を回復)

 精霊皇の加護(全属性体制)

 未知の侵略者(全魔力消費でブラックホール出現)

 VS魔族(魔族に対してダメージ2倍)

 母親の知恵(家事・料理全般Sランク)

 乱獲者(倒した魔物から得る素材2倍)

 大切断(一定確率で対象となる物質を無条件に切断)



 修得能力(グローアップスキル)

 反射壁(リフレクトウォール)型式魔法(タイプマジック)(魔法を反射する壁が出現)

 反射壁(リフレクトウォール)型式能力(タイプスキル)(能力(スキル)を反射する壁が出現)


 未覚醒能力1

 未覚醒能力2



 反射壁(リフレクトウォール)

 説明を見た感じ、魔法と能力(スキル)を反射させる壁を出せる能力(スキル)みたいだな。

 これもまたそのうち検証してみるとしよう。

 それよりも気になるのはこの未覚醒能力1と2だ。

 これはなんだ?



「ん?どうかしたのか?手が止まっているみたいだが」

「あ、いえ。リフレクティノイドを倒したからなのか、能力(スキル)がいくつか増えていて。それはいいんですけど項目の中に未覚醒能力というのがあったのでこれは何なのかなと思って」

「あぁ!それはまだレイがその能力(スキル)を修得するために必要なレベルにまで達していないということさ」

「レベル……ですか?」

「レベルと言っても数値化されたものではないのだけれどね。ちょっとアバウトだけど、これから先レイが修行を積んだり魔物を倒していくうちに勝手に修得することができるよ」



 能力(スキル)は無条件に修得できるわけじゃないのか。

 それにしてもレベルとは……

 ここまでステータス画面やら勇者カードやらがあるのならちゃんと数値化してあるような世界だったら良かったのに。

 変な所で融通が効かないな。

 とりあえずその未覚醒能力と反射壁(リフレクトウォール)を含めて能力(スキル)を書いた紙をフェルグランさんに提出した。

 全て、とは言われたけど真能力(オリジナルスキル)だけは書かないでおいた。

 認知もされず、発動もできない能力(スキル)を持ってます!

 なんて自信満々に言ったところで悲しいだけだからな。


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