世界連盟勇者斡旋ギルドの本部へ
「ん……んんっと!よし!」
あれから2週間、ようやく僕は自由に外出をする許可を出してもらうことができた。
体を動かすこと自体は1週間前からできていたのだが、念には念をということで更に1週間絶対安静の期間が設けられたのだ。
体の調子は問題ないから早く自由にさせてくれとお願いしたのだが例の先生に、
「魔力を強制的に生産した影響で精神に害があるかもしれないからもう少し安静にしておこうね?動いてもいいけど灰人になっても知らないからね?」
と、言われたので大人しくそれに従うことにしたのだ。
普通の怪我や外傷ならまだ簡単な予備知識があるから先生の言うことを無視して外出することも出来たのだが、流石に魔法の影響で精神に害があると言われれば従うしかなかった。
そんなのは完全に僕達地球人の専門外であり、なによりも下手に動いて灰人になるのは嫌だったからな。
……まぁ何はともあれこれでようやく自由だ。
ローグさんやティルファさんには本当に迷惑をかけたな。
僕が消滅させてしまった霊峰アルナド付近の大地の後始末や新規の聖魔混沌騎士団を討伐したことによる世界連盟勇者斡旋ギルドへの書類申請。
他にも僕自身の身の回りの世話から治療の手引きまで何から何まで任せてしまったからな。
しかもまだこれから何かあるらしい。
詳しいことはまだ僕も聞いてないから、聞きに行ってみるとしよう。
僕は部屋を出て、ローグさんの所へと向かった。
「お!起きたかレイ!体調はどんな感じだ?」
「ずっと運動をしていなかったので軽く倦怠感は感じますが特に異常はないと思います。体の傷も使ってくれた薬草が良かったのか、すぐにふさがりましたし」
「そうかそうか!なら良かった!それでこれから俺と一緒にとある場所へと行ってもらうのだが、特に予定はないな?」
「勿論です。……てか予定なんか入りっこありませんよ」
「ハッハッハ!まぁそうだな!それでこれから行く場所のことなんだが……」
「どこなんです?」
「世界連盟勇者斡旋ギルドの本部だ」
「本部?」
「あぁ。新人の勇者が聖魔混沌騎士団を倒したのが珍しいらしくてな。本部の人達が興味を持ったんだ」
「成る程」
「まぁ勿論それだけじゃなくて、能力の確認やどんな人物なのか、っていうのも並行して行うのだがな」
「分かりました」
「それと、霊峰アルナド付近の大地の消滅の事情聴取もな」
「わ、分かりました……」
それにはあまり触れないで欲しかった。
大地の消滅なんて、自分でやっておいて何か言える立場じゃないが、個人でどうにかできる問題じゃない。
もしも周辺のぐにゃぐにゃ町から損害賠償を請求されたらどうしよう……
いや、損害賠償ならまだいい。
死刑や極刑もありえるんじゃ……!!?
「大丈夫大丈夫。そんな物騒な話になるなんてことはまずない」
「……大丈夫でしょうか?」
「あぁ大丈夫だとも。それじゃ心の準備はいいかな?」
「はい」
「これを手に」
「なんですかこれは?」
ローグさんに金色に輝く四角い手のひら大の大きさの塊を手渡された。
純金のサイコロ?
見た目はそんな感じだ。
「本部が許可した人間だけを本部に転送できる魔導具、選定公だ。一方通行の上位互換にあたる導具だと考えてくれていい。使い方は一方通行と同じで、その場所に行きたいと念じるだけでいい」
「分かりました」
「それじゃ行くぞ」
僕は選定公をしっかりと握りしめ、本部へ行きたいと念じた。
☆★☆★☆
~世界連名勇者斡旋ギルド・フィネックス本部~
「ここが……本部……」
「あぁ!久しぶりにきたが、やはり何も変わってないな!」
なんとなくだが僕の中のイメージでは、本部の建物は中世の城ののようなイメージがあった。
ペガサス支部にしてもグリフォン支部にしても、どちらも漫画やゲームに出てくるような建物がそのまま建てられているような感じだったからだ。
実のところ、本部も僕のイメージと相違はなかった。
が、少し間違いがあった。
それは本部が城のようなものではなく、まさに宮殿と呼ぶに相応しい建物であったからだ。
僕達は恐らく本部の入口付近に立っているのだろうが、黙視出来る限り、一番端っこが見えないのだ。
それこそ陸にいるのに水平線があるような感じに。
そして建物自体に、かつてピラミッドに使われていたという化粧石に似たような素材でも使われているのか、太陽の光が反射して神々しい輝きを放っており、装飾も金や白金のような物が使われており、一際輝いて見える。
近くにある噴水や庭園もまるで水晶のような完璧な透明度を誇った素材が使われていて、どこを見渡しても光輝いている造りになっていた。
もしかしたら宮殿というよりも1つの小さな国と言ってしまってもいいかもしれない。
そう思うぐらいに世界連名勇者斡旋ギルドの本部は広大で美しかった。
「なんか……その、凄いですね」
「ハッハ!俺も最初に来たときはレイと同じようにこの外見だけで圧倒されたよ。まぁここは対魔王軍の要になる砦だからな。他にはない特殊な設備がごまんとある。いずれそれも説明することになるだろうさ。それに……内部はもっと凄いぞ?」
「?」
ローグさんのその言葉の意味は中に入ることでよく理解することができた。
「おぉ……!?」
「な?」
某有名魔法映画の魔法学校と言えば想像しやすいだろうか?
上下左右に物理法則を無視して動く階段。
職員らしき人の補佐をする羽の生えた小さな妖精。
人が乗ると空中に浮き、自由自在に移動できる円盤。
中身が無いのに動く鎧。
魔方陣から次々と現れる大勢の人。
ファンタジー映画でしか見れないような光景が今僕の目の前に広がっていた。
「本部は他の支部に比べて重要な情報や仕事を扱う人が沢山いるだけあって、それぞれの仕事の効率を上げる為に様々な工夫や技術を取り入れているんだ。ほら、そこにあるやつもそうだ」
「……あ!」
見慣れない設備に目を奪われがちだったが、逆に見慣れた設備もここにはあった。
エレベーターやエスカレーターだ。
「元々この世界には存在しない技術だったのだが、数年前に「マテリオン」や「地球」、「機構院」といった異世界からやってきた人間が確立した機械という技術らしい。魔法の代わりに雷を動力としている。レイは知っているのか?」
これだけバカバカと沢山の人間が他の世界からやってくる世界なんだ。
魔法だけでなく、機械を扱っていた世界もあるに決まっている。
エスカレーターやエレベーターは恐らく地球の物が原形なのだろうが、地球には存在しえないような物も辺りを見回せば沢山あった。
転送石板とはまた違った短距離移動用のワープポイント。
さっき見た空飛ぶ円盤の機械バージョン。
立体ホログラム。
見れば見るほど沢山ある。
「一部だけですけどね。一応僕も地球出身なので」
「む?そうなのか?ならレイも似たような物を作ったりすることが出来るのか?」
「いやいや、まさか。僕にはここまでの才能はありませんよ」
この技術をここで確立した人達は本当の天才なんだろうな。
道具も技術も設備も素材も何も揃っていないこの世界でここまで様々な物を開発するとは。
僕には絶対に真似できないな。
「むぅ?そうか?まぁレイには戦闘の才能があるからな。そちらの方で頑張ってくれ!」
「勿論です」
「よし!本部の見学をまだしていていたいだろうが、今日はそれがメインじゃないからな」
そういえば今日僕達は何の目的があってここに来たんだ?
ローグさんにはただ本部に行くとだけしか教えてもらってないし。
「じゃあ今日は何故ここに?」
「世界連盟勇者斡旋ギルドの創設者の一人……本部のギルドマスターを勤める事実上人類最強の人に会いに来たのだ。ギルドマスター直々の命でな」
創設者の一人?
人類最強の人?
……うぉい!
マジか!
「な、なんでそんな人が僕に!?」
「さぁなぁ……あの人も結構気まぐれな人だからな。ただ単に新規の聖魔混沌騎士団を倒した勇者がどんな人間なのか興味を持っただけなんじゃないか?」
「……そんな適当でいいんですか?もしかしたら僕はそのギルドマスターの命を奪う為の刺客かもしれませんよ?」
「なに、そこは問題ない。レイは信用できる奴だって俺の本能が告げているし、レイを看てくれた先生が何も言わなかったんだ」
……あの人は一体何者なのだろうか?
「何故あの先生が何も言わなかったから僕は安全だと言えるのですか?」
「先生の修得能力、診断者の能力のおかげさ。診断者は対象となる人間のどこに異常にがあるのかを見抜く能力なんだ。髪の毛の先から、足の爪の先まで隅々とな」
あの時僕が感じだ全身を覗かれているような悪寒はこれのせいか。
「そしてそのついでに対象となる人間の状態や感情、思考なんかを読み取る力もある。だから悪いことを考えていたり、魔物が擬態していたら一発で分かるってわけさ」
なるほど。
そんな効果があるのなら確かに僕でもその人のことを信じるだろう。
本当魔法……違う、能力って便利だなぁ。
「まぁもっとも。仮に本当にレイがギルドマスターの命を狙う刺客だったとしても、そんじょそこらの奴が相手じゃ敵うわけがない。ましてや単騎ならな。ほら、着いたぞ。ここがギルドマスターの部屋だ」
3mはある大きな木製の扉にきらびやかな装飾が施されており、その扉の横には深い蒼と紅蓮の色に染まった鎧に身を包んだ兵士が立っていた。
蒼の鎧が男性。
紅蓮の鎧が女性。
どちらも整った顔つきをしており、何よりも二人から感じるオーラが凄まじい。
まじまじと二人を見つめるが、眉1つ動かさず直立不動の体勢で扉の前に佇んでいた。
「エルシャ」
「はっ!」
「こいつが今回ギルドマスターに連れてこいと言われた勇者だ」
「クリスティア様よりお聞きしております。失礼ながら、選定公と召喚書の方を提示して下さい」
「はいよ。これと、これだな。レイもさっき預けた選定公を渡してくれ」
「はい」
エルシャと呼ばれた紅蓮の鎧の女性に選定公を手渡す。
「…………召喚書と選定公が本物であることを確認致しました。お二人の室内への入室を許可します」
「ありがとう。お勤め御苦労さん」
「いえ」
「さぁ行くぞ。いよいよ初の本部のギルドマスターとの対面だな」
……そういえばまだ僕はローグさん以外のギルドマスターに会ったことはないな。
この世界に来てから日が浅いってのもあるのだろうけど。
どんな人なのか見当もつかないから少し緊張するな。
せめて気分を害さないようにしないと。
「その調子でいい、が、そんなに気を張りつめなくても大丈夫だ。そこまでおっかない奴じゃないからよ」
「分かりました」
さっきからのローグさんの言動を聞く限り、本部のギルドマスターとローグさんは知り合いなのだろうか?
あの人とか、きまぐれだとか、おっかない奴じゃないとか。
失礼かもしれないが、敬意を払っている相手に使える言葉ではない。
……まぁだからと言って僕がそんな雑な態度で接っせる理由にはならないのだが。
僕はより一層気を引き締めて、室内へと入っていった。