勇者を迎えに。いざ、隣の大陸へ!?
「……何だよ、これ」
用意されてた服は勇者の服ではなく、ボロボロのローブだった。まるで貧しい人が着る服だ。なんでこんなの着なきゃいけないんだ?
不満に思いながらも王の間へ行くと、あろうことかアリスも同じ格好をしていた。
「ん? ずいぶんと遅かったな」
「あ、アリス! なんでそんな格好を」
どうやら甲冑の上に着てるみたいだ。でも一国の皇女が着るような服じゃない。こんなの着てたら周りから蔑まれるじゃないか!
「…何故かと言ったか? 私達はディアモール王国から出るからだ。こんな小綺麗な格好をしていれば賊に狙われやすいからな…そう考えれば悪くなかろう?」
そう言ってアリスは微笑んだ。笑ってる所、初めて見るけどやっぱ有栖川に似てる。あいつもこんな風に無邪気に笑うんだ。
「…そうだな」
「では、行こうか」
「…………ま、待って下さいお姉様!」
行こうとする俺達を止めたのはシェリルだった。目には涙が溜まっているが泣かない。涙を堪えてるみたいだ。
「…何だ? 私と離れるのがそんなに寂しいか」
「それもあります。でも、護衛も無しに隣の大陸まで! お姉様は第一皇女なのですよ! お姉様もヴェルド兄様のように死んでしまったら…」
ヴェルド?死んだのか………じゃあ、この旅も危険なんだな。床に力無く崩れ座り込むシェリルをアリスは無言で抱き締めた。家族にこんなにも愛されて羨ましい。
「不安な思いをさせてすまないシェリル。だが、死ぬつもりは全くないぞ! 私はディアモール王国最強、聖騎士「アリアフォース」の騎士長なのだ。簡単には殺られまい」
サラッと凄い事言ったぞ、この人!つまりアリスは剣の達人って事か?皇女が騎士長って良いのかよ。反対しろよ、周り!
「…そうでした、お姉様は誰よりも強い方でした。取り乱してすいません」
「いや、気にするな! 私達は一人目の勇者を見つけ、連れてくれば終わりだ。すぐ帰る。行くぞ蒼熾」
やっぱり行くのか。俺達はシェリルと王様に別れを言うと王の間を出た。あの王様、意外にもすんなりアリスを行かせたな…あんなに溺愛だったのに。そう思ったが違った。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんん!!」
後ろから王様の泣き声が聞こえた。泣きすぎだろっ!あれをなだめるシェリルは可哀想だ。そう思いながらも歩き続ける。どれぐらい歩いたか分からないが目の前に扉がある。アリスはその扉を開ける。すると外に繋がっていた!
行き交う人で溢れている。祭りでもやってるのだろうか?だとしたら俺も混ざりたい。
「アリス様と勇者様! どうぞ」
扉を守る兵士の一人がそう言う。アリスは頷いて人混みの中に飛び出して行く。俺も続けて後を追うと扉が閉まる音と「御武運を」て言う言葉を背中で受けながら城を飛び出した。にしても人が多いな。
「なぁ、アリス。何でこんな人が多いんだ?祭りでもやってるのか」
「こんな人混みの中でアリスと呼ぶな! 私の事はこれからアヴィナと呼べ」
アヴィナ?これは王族だとバレないようにか!なるほどな。じゃあ俺もなんか考えても良いのか?
「蒼熾。一刻も早く城下町から出るぞ」
「……分かった」
あぁ、俺はそのままで良いのか。そうだよな。勇者でもこんな格好をしなきゃいけないんだもんな。クソー。人混みの中、アリスとはぐれないように歩きながら周りの様子も見る。今の俺達と同じボロボロの服を着る人が路地裏に入って行った。後は、シェリル程じゃないがドレスを着た女性やスーツを着る男性も居る。それと屋台だ。色んな物が売ってる。食べ物とか、布とか。
「おい、お前ら!」
その声にアリスは止まる。アリスの後ろから前を見てみると見るからに賊がいた。これは喝上げか?どこの世界でもあるんだな。
「アリじゃなかった、アヴィナ」
「…大丈夫だ。お前は私の後ろにでも隠れていろ」
いや、大丈夫そうには見えない。賊は俺達にターゲットを絞ったのか周りを囲まれてしまった。アリスなら倒すのは簡単だろうが正体を見られる訳にもいかない。
「へっ。近衛騎士が来る前に場所を変えるか! 逃げるなよ、お前ら」
さっそくピンチな俺達!果たして俺達の旅はどうなるのだろうか。