鏡の裏
僕がこの世界に来てから、否拉致されてからどの位の時間が経っているだろうか。外の世界では、両親や親友など様々な人々が今も探しているだろうか。
「また、一人で考え事?それより、一緒に遊びましょ。何したい?」
そうこの世界に住む少女が言う。少女には名はない。
「ねぇ、聞いてる?祥くん。」
祥くん、少女にそう呼ばれているが、自分の名は刈谷 祥太。ごく普通の、何ら突出している点のない中学生。
「また、指の爪剥がそうか?」
外の世界を表とするなら、この世界は鏡の中にある裏の世界。僕はある日その世界へと少女の手によって拉致され、逃げられぬよう足枷をはめられている。
「むう。チャンスを一回あげる。私に好きと、百回言ってくれれば許してあげる。」
少女曰く、拉致の理由は『どの男より素敵で好きで。しかし、この世界から自分は出られないからそうした。』。
少女は拉致して直ぐから僕に目一杯好意を伝え続けた。しかし、その愛は俺が少女の言葉に生返事ばかり返し続けるうちに、いつの間にか、純粋さを無くし今のように重く病んで。結果、血を流す事は殆ど日常となりつつある。そうそう、逆らいたい気持ちは自分の中にはしっかりとあるけど、何が原因なのか逆らう事ができない。
「また、無視する。このやり取り何度目になるかな。今回は二枚目剥がそうか。いや、剥がすね。」
ペンチが僕の爪を挟み―
「つっ。」
麻酔なしに、一気に引き剥がされる。走る激痛と傷口から溢れる血液の温かさはやはり馴れない。
「さぁ、もう一枚。」
また、ペンチにより同じ手の爪がもう一枚剥がされる。
この様に普通なら逆らう事ができるのだが、できない。
少女は溢れる血液を跪いて二本の指ごと口に加え吸い取る。そして、指を口から出すとそのまま口付け。
「祥くんはずっと私の物。何時になれば、この愛を理解してくれるの?」
少女はそう言うが、理解は到底無理。
僕は今日も少女と過ごす。