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Mの法則   作者: 猫又 杷槻
5/11

お屋敷

 真っ青な視界に浮かぶ入道雲が、青とのコントラストと太陽の光の反射で、とても視界に入れたくないものになっている正午頃。

 Mは日陰の中で、遠慮なくくつろいでいた。


 今、Mの視界は、360度どこを向いても、海が太陽の光を反射する。と、いうなんとも要らない光景が映っている。

 Mは、海の上の線路を走っているトロッコの様なものに乗っている。それは、吹きさらしになっていて、前後左右から風が遠慮なく吹き抜ける形になっている。今の時期はとてもありがたい。

 1人、誰もいない列車の中で、座席を思い切り占領して寝転がる。

 ビニル特有のつるつるした感触と、ひんやりとした冷たさが気持ちいい。


「はああぁ…。しあわせー…」

 べったりと座席に張り付いたMが唸るように呟く。

「あ、そ。海からの湿気がはんぱねぇけどな」

「んー…。風があるからいいやぁ」

「んっとに幸せな奴だな、おい。」


     *


 ゆっくりとした時間の流れはやがて、鬱陶うっとうしいものになるというのは、本当の話らしく、すぐ飽きてきた。

「ひーまーーーー。ひまひまひまひまひまひまーーーーーーーーー!!!!」

「だぁぁぁぁぁぁ!!うっっっっっっせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

 声は大きく開いた窓の外に突き抜けて、すぐに消えた。

「だって…」

「暇なんならこいつ押せばいいだろ!」

「へ?…何これ。自爆スイッチ??」

「んな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ぽっかりと口を開けた壁には、窓を仕切るための枠がある。そのひとつは他よりも太くなっていて、人が座っても届く高さによくある(よくあっても如何かと思うが)、赤色に塗られた親指ぐらいの大きさのスイッチが、はめ込まれていた。

 フードいわくそれは、次元をゆがませ、そこから行きたい駅にひとっ飛び出来るというボタンらしい。

「へー…。んなもんあったんだぁ」

「行きも思いっきり使ってましたけどね?」

「そうだっけ?覚えてないやぁ」

 フードは能天気な奴だと思いながらも、口にはしなかった。

「これって押したら良いんだっけ?」

 肯定すると、

「開けー、ゴマだれたっぷり坦々麺!!!」

 という、訳の分からないへなちょこな呪文を唱えながら、人差し指をぴんと立てて、「ぽちっとな」みたいな効果音が似合いそうな押し方で押す。


 トロッコの進む先の虚空こくうに、一筋の線が入る。そこがみるみるうちに周りの風景を歪ませながら広がった。広がった黒色やら濃い紫色やら色んな色の亀裂が、トロッコの少し先にどっかりと居座る。

 トロッコはためらう様子もなく、すんなりとその中に車体をうずめていった。


「うわっはあぁい!なんか変なかんじいー!!」

 子供の様にはしゃぐMに対して、

「行きもこんなんあったなぁ…」

 と、フードは遠い思い出にひたるようにぼやいた。


 切れ目の中は、宇宙にある星みたいな光が沢山あった。星々は互いに重なり合って、星の雲を生み出していた。数え切れないほどの星たちが、主張しあうように、五月蝿く光っている。

 まるで宇宙の中に放り出された感じで、ふわっと体が浮く感覚に包まれる。暗い色を塗りたくった世界に、真っ白なミルクをぶちまけたような宇宙は、何も照らすことは無く、ただ静かに、騒々しく、々として光り続けていた。

 美しいこの世界は、夢みたいに、確認する間もない速さで消えた。


 夢と言うのは目が覚めると、何を見ていたか忘れてしまうものであって、そうそう記憶に残っているものではない。

 覚えていたとしても、現実のモノなのか、夢のモノなのか、分からなくなるものだ。今の体験も、そんな感じである。


「おお…。別ん場所だ…」

 次に目に飛び込んできたのは、古びたコンクリートのホーム。少し暗くて、見事に灰色一色だった。夜中に来れば確実に幽霊が出そうな勢いだ。


「あー…、帰って来たぁ」

「?…ここ何?」

 Mがいぶかしげに聞いてきた。


 ー…あぁ、なんか呆れる奴だ…。


「ここ屋敷だぜ」

「ん?屋敷…?……っあぁ!!あそこかぁ!」

「やっと思い出したのか…」

「ん?なんか言った?」

「なんも」


 ホームはなんと屋内で、高い天井には電球がぶら下げてあり、などの虫が群がっていて、ホームの床に、影を落としていた。

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