どうにかなるさ
木の上に少女が1人乗っかっていた。
「っんお゛…?あ、あー…」
「お、起きたか」
「うん…んぁ?」
少女の体は、木の枝に貫かれていた。背中から刺さり、腹を突き抜けて赤く鋭い先が見えていた。
「は…?何これ?」
「お前1時間くれぇ前に落ちた、つか降りた?じゃん。上から」
Mは顔をあげて、自分が身を投げた屋上を見据えた。
「そーいやそーだっけな…」
「お前そんくらい覚えとけよ」
「それを覚えとくのがフードのお仕事でしょー?」
「道とかだけな!!!」
「あーもーうっさい。怒鳴んないでよ、耳痛い…」
「んっ…ほっ……あれえ?」
体勢を変えて木を抜こうと身を捩ったが、逆に体が沈んで生乾きの傷からまた血が零れた。
「抜けないいぃー…フードーーぉ」
「あぁ゛?木から落ちりゃ良いだろ?体重外側に向けて…そしたら体は落ちるし体重のお陰で枝は折れるから…」
「おー…フードあったまいー!」
「…いいからはよしろや」
「うん…」
Mは言われた通りに体重を動かし、下を見た。
「(あ…赤い)」
枝はめきめきと音を立てて、ついには重さに負け、その身を折った。
「ふべっ、わ、あぶ!」
ぼうっと下を眺めていたMは、顔面を木の先と共に地面に埋めた。
「ぶへえっ…」
ぺっぺと土を吐き出し、顔の土を掃う。
「ばっかかお前!!!」
「失礼な、馬鹿じゃないし」
「…じゃぁアホンダラ」
「うっさい。燃やすよ?」
「すいませんでした」
背中の折れた枝を掴み、ゆっくりと引き抜く。
「んっ…ふ…あ、ぅ」
ずるりと糸を引きながら木の枝が抜けた。そのまま放る。
「っあー…スッキリー」
「お疲れー」
「ん」
「穴開いてるー?」
「んんー?いんや、無い」
聞かれて、 血塗れの手で腹をさするが、ただ手に更に血が付くだけだった。
「相変わらず早いな」
「そーお?」
すっくと立ち上がって辺りをきょろきょろと見渡す。
「何探してんだ」
「あー、いや…」
Mが探しているのは1時間ほど前に一緒に降りた、しかし落ちたに近い兵士のことだった。自分の右後ろに体が変な方向に曲がった死体があったのに気がつくと、すぐさま駆け寄った。
「これかなぁ?」
つんつんと飛び出した内臓を突きながら半分潰れて不細工になった顔を見ながら言った。
「そうだろうな、腕の紋章が同じだ」
「へえ…あ、武器…良いの持ってないかな?」
平然とした顔で死体を漁る。ごろりと転がして色々な所を探したが、細かい隠しナイフなどは見つかるが、理に適う武器は見つからない。
「んあああ!!!」
「収穫無し…か」
「…使えないなぁ」
転がしたままその場を立ち去ろうと振り向いた瞬間、Mが、鼓膜が破れんばかりの悲鳴を上げた。
「きゃあああああっ!何これぇ!!!」
しかしその声は黄色い色を連想させる悲鳴であって、決して恐怖に怯える声ではなかった。嬉々として植え込みにかぶりつき、口元を緩ませていた。
「いやぁん!なぁーにこれ!!可愛いいいいぃっ」
凹んだ植え込みから取り出されたのは、一本の大型ククリナイフ。兵士が使っていたものと思われ、落ちたときに一緒に落ちたんだろうとフードが説明してくれた。
「良かったな植え込みに落ちて…」
「植え込みじゃなかったらいけないの?」
「そのまま地面だったら粉々になってたぞ」
「うえっ!?そーなの!!!??」
丸く目を見開いて叫ぶ。
フードが重力加速度が何やらと説明しているがMには分からず、さして楽しそうな事でも無さそうだったので聞き流していた。
「(この子の名前何にしようかなぁー……)」
嬉しそうにナイフを抱えて歩いて行く姿は、やはり変質者さながらだった。
*
「そういやさ」
突然にフードが切り出す。今は何事も無かったかのように綺麗な自室に篭もって新しい仲間を磨いていた。
「何ぃ?」
「全部あのままにしてたけど…怒られねえかな?」
「あ…」
嬉しそうにナイフを磨いていた手が止まり、思考に耽る。そして数秒も経たないうちに口を開き、
「どうにかなるさ!!」
と満面の笑み。呆れたような少年の声が聞こえて、またナイフを磨く音が部屋に響きだした。
「そうだっ!あのねフード!!」
んあ?と声が聞こえるとMは続けた。
「この子の名前はね…」
そうやって何も無かったかのように夜が更けていった。