知らない事
大きな衝撃の発生源には人がごろごろ転がっていて、誰1人として動かなかった。窓ガラスと窓枠が無くなった高い壁から、風が入ったり出たりする音だけが鳴っていた。
「うわっ…こりゃまた派手にやったな」
「良く1人でここまでやりますよね…」
「さっさと生き残り探して片付けるぞー」
「あ、はい」
Mが去って静かになった廊下は、壊れていない所が無いくらい壊れていた。
「お?コイツ生きてるか?」
「その様ですね」
「んじゃコイツ宜しく」
「はあ…」
生返事を受け取ると、幻裏はそのまま消えた。まるで蜃気楼が消える様に。
*
Mはふらふらとした足取りで階段を上がり、屋上に出た。そのまま屋上を歩く。
「…あへ、あはは…気持ちいー…ねぇ、フードもそうでしょお?」
「俺わかんねーからMが俺の分まで味わって」
「わかったー、んふふ…」
何もかもを取り払った廊下のような屋上をくるりくるりと回りながら進んでいく。転げそうな足取りだったが、まるで道化師がおどけるように、ギリギリのところで立て直す。
「うわっ…ぶえっ!!」
強い風によろめきながら少しずつ反対側へ歩いていく。
背後に気配を感じながら。
屋上の縁に立ち、
「あははぁっ、もう面倒だなぁ」
そういって彼女は後ろを向いて─────── 落ちた。
背後から確実に間を詰め、それに気づきながらも無視をする少女を、端まで彼女の足によって運ばせて、やっと自分の手で留めをさせると思って刃物を突き出した、が、彼女は自分から落ちたので、挙句の果てには自分から殺そうとしたどころか、自分までも身を投げ出す形になった兵士の心など見ず知らず。
Mは頬を赤らめ、笑いながら呟く。
「ざまぁみろぉ…っははは!」
「う、わ…ひっ、ぎゃぁああああぁああぁぁっぁあああぁ!!!」
兵士は耳を劈くような悲鳴を上げ、派手に回転しながら空を舞った。Mは笑みを顔に浮かべて、背中から静かに、一直線に落ちていった。