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常闇の魔女  作者: 空色
第3章 忍び寄る影
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地下の巨大洞窟の中を、地響きを立てながらゴーレムが歩き回っている。

実際の様子を目にした騎士や、魔術師達がお互いに顔を見合わせた。

多くのものが表情を引き攣らせる中、カーデュレンは涼しい顔で魔術師達に指示を出した。



「私達魔術師は、騎士の素早さ、防御力の底上げを。それから、周りに影響が及ばないよう、結界を張ります」



そう言って、さっさと詠唱を始めた団長に、周りの魔術師も慌てて加わる。

淡い光りが騎士の体を包み、次いで洞窟全体に魔力が張り巡らされた。

これで、どれだけ洞窟内で暴れても、壁が崩れ落ちてくることはないだろう。



「我々はゴーレムと対峙し、陛下が奴に近づける隙をつくる」



フォルトの言葉に、騎士達が敬礼を返す。

待機を命じられた従者達は、一様に青い顔で黙ってその姿を見つめる。

そんな彼らの後ろで、腕を組み、壁に凭れていたユーリの肩が叩かれた。

振り返ると、ラズフィスが彼女を静かに見下ろしている。



「何?」

「では、行ってくる」

「……精々無駄死にしない様に頑張りなよ」

「無論、そのつもりだ」



笑みを浮かべるラズフィスに、ユーリは肩を竦めてみせる。

王の足元で、精霊は輝くような笑顔で彼女を見上げた。



「ルース様、リリアも! リリアも頑張ります!」



激励を乞う様に、リリアージュはユーリに手を伸ばす。

ユーリはその頭に片手を乗せ、くしゃくしゃと髪をかき混ぜた。

きゃっきゃとはしゃいだ声を上げる精霊に苦笑して、彼女は王に視線を戻す。

無言のまま、二人の視線がほんの数秒交わった。


笑みを深くすると、ラズフィスはユーリの横を通り過ぎる。

リリアージュはその後ろを追いかけ、振り返るとユーリに大きく手を振った。

王が近づいてきたことに気付いたカーデュレンとフォルトが、跪き胸に手を置き深く頭を下げる。

それに習って、騎士や魔導師達も続く。



「頭を上げよ」



彼らを見渡してから、ラズフィスは軽く頷いた。



「ここでそなた達に怪我を負わせることは、本意ではない。皆、無理はするな」

「勿体無いお言葉でございます」



ラズフィスの言葉に、フォルトが再び頭を下げた。

それに苦笑を漏らしたが、王は直ぐに表情を改め号令をかけた。



「では、始めよ」

「「「御意!」」」



立ち上がり、騎士達は剣を抜くと捧げ持って声を上げた。








*************









洞窟内に木霊した声と甲冑の音に、ゴーレムがぐるりと入り口に顔を向ける。

駆け込んでくる騎士達を認めると、威嚇の咆哮を上げた。

わんわんと洞窟内に音が反響するなか、地響きを立ててゴーレムが動き出す。


先陣を切って駆けていた若い騎士二人が、その勢いを殺さずゴーレムへと突っ込み、両の足に切り付けた。

剣はゴーレムの足を僅かに削った程度で、硬い表面に弾かれてしまう。

それでも、騎士は二度、三度と攻撃を繰り返す。

そんな中、彼らに追いついた壮年の騎士が声を上げた。



「お前達、下がれ!」



若い騎士達が顔を上げると、ゴーレムが腕を大きく振り上げていた。

そのまま横になぎ払うように、勢い良く振り下ろされる。

手前に居た騎士は素早く後ろに下がったが、奥に居た騎士は僅かに反応が遅れる。

危うく弾き飛ばされる所を、壮年の騎士に襟首を掴まれ、引きずり倒された。



「申し訳ありません、助かりました」

「構わん、行くぞ」



壮年の騎士の号令に従い、追いついて来た数名の騎士達と供に再びゴーレムに対峙する。

代わる代わる切りつけて来る騎士を、腕や足で払いのけていたゴーレムだったが、不意にその動きを止めた。

深く息を吸い込むと、騎士達に吹き付けるようにして息を吐き出す。



「っく!」

「砂嵐か!」



咄嗟に目を瞑った者はその被害を免れたが、まともに攻撃を受けた者は目も開けられず片手で顔を覆う。

そんな混乱の中、砂塵の中を黒い影が過り、巻き上がった砂を払うようにしてゴーレムの腕が現れた。

突然現れた巨大な腕に、数名が弾き飛ばされる。

あわや壁に激突と言うところで、彼らと壁の間に巨大な水の塊が出現した。

ゴムのように騎士の体を受け止めると、彼らはずるずると地面に滑り落ちる。

戦闘を補佐していた魔術師の一人が、安堵の息を吐いて汗を拭った。



「あなたは彼らの救護を」

「はい」



カーデュレンに声をかけられ、魔術師が地面に座り込む騎士達の方へと駆けて行く。

魔力を構成しつつ魔導師が詠唱を行うと、回復の魔術が発動され騎士の体を淡い光りが包む。

その様子を横目で確認しながら、カーデュレンはゴーレムに意識を戻した。

ゴーレムは己の足元に群がる騎士に、再び砂嵐を見舞うため息を吸い込む。

目を庇う様にして腕を上げた騎士達の間を、小さな影が素早くすり抜ける。



「目に砂が入るのは、とっても痛いんです!」



怒ったような声を上げて、王の精霊が砂嵐に対抗するように強風を起こす。

お互いの風が相殺され、ゴーレムは苛立たしげに咆哮を上げた。

拳を握り、思い切り腕を引くと、勢いをつけて前へと突き出す。

その腕を、前衛に出たフォルトと壮年の騎士が剣で受け止めた。


硬い拳と剣が勢い良くぶつかり合い、岩と刃物が擦れるような高い音が洞窟に響き渡る。

打撃による衝撃で痺れ、感覚が鈍る両腕に顔を顰めながら、フォルトはゴーレムに鋭い視線を向けた。

剣の柄を握りなおし、押し返すように力を込めた。

ゴーレムの力に圧され、じりじりと後退する騎士二人の足元には、引き摺ったような跡が残る。



「フォルト、肩を借りるぞ」



背後から聞こえた声に、フォルトは王の意図を察し、僅かに腰を落とす。

彼の右肩を足場に、ラズフィスは跳躍し、ゴーレムの腕に飛び乗る。

低く詠唱して魔力を練りながら、突き出されたままの腕を駆け上がった。

ゴーレムは逆の腕を動かし、虫を払うように横に凪ぐ。

それを身を屈めて交わすと、ラズフィスは腰から剣を引き抜いた。


魔術の構成が進むと供に、彼の体が淡く光りだす。

再び襲ってきた拳を飛び上がって避け、逆にそれを足場に高く飛んだ。

空中で剣を真下に向かって垂直に構え、落下する勢いのままゴーレムの核に突き立てる。

同時に魔術が発動し、閃光と供に爆風が洞窟の中で吹き荒れた。


ユーリは腕で顔を庇い、強風をやり過ごすと、目を凝らしてゴーレムの影を捉える。

土埃が治まった頃、ようやくラズフィスの姿を確認できた。

魔術の媒体にした彼の剣は、柄の部分を残してボロボロと崩れている。

その柄を投げ捨て、ラズフィスはゴーレムの胸を蹴って後ろに飛び退いた。

肩で息をするフォルトの隣に着地すると、成り行きを見守るようにゴーレムを見上げる。


数秒間、固まっていたかのように見えたゴーレムだったが、次の瞬間轟くような断末魔の咆哮を上げた。

足元からざらざらと崩れ落ち、少しずつ只の土塊に戻っていく。

やがて、巨大な土山が出来あがり、天辺に虹色の石がポトリと落ちた。

その中央からひびが入り、ぱきりと乾いた音を立てて割れる。

誰もが無言で土山を見つめる中、若い騎士がぽつりと言葉を漏らした。



「終わった……のか?」



その一言で、張り詰め居ていた洞窟内の空気が一気に霧散する。



「皆、良く頑張ってくれた」



王の労いの言葉に、騎士達はたまらず歓声を上げ、自らの持つ剣を高々と突き上げた。

魔術師達も、騎士達の援護に構成していた魔術を解き、肩の荷を降ろしたかのような表情で笑う。

それぞれ、側にいる者同士でお互いを労い、時に笑い声が上がる。

青い顔をしていた従者達も、今では興奮で顔が真っ赤だ。

どうやら、それほど大きな被害も出さず、ゴーレム討伐は終焉を迎えたらしい。

一気に賑やかさが戻った洞窟内で、ユーリは小さく安堵の息をついた。









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