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東方幻想入り  作者: コノハ
最後の反乱
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治療と私

 夜、私は横たわったまま微動だにしないキアを前に、唸っていた。

 経験上、嫌な記憶を振り切るには力がいる。精神的な力はもちろんのこと、肉体的な力も。

 だから私はミアに血を与えて吸血鬼としての力を底上げしようとしているのだった。

 が、飲ませ方がわからない。

 パックでの食事方法については、そう複雑じゃない。パックの口を噛み切ってチューチュー吸うだけ。けど、なんの反応もないような子はその『だけ』ができない。

 どうしたものか、しばらく悩む。けれどなかなか方針が定まらない。

 ……。

 パックを見る。本来飲み物なんかじゃないから、噛み切るのにも力がいる。そして血は鮮度が命のため、一息に飲むのがベスト、だと思う。まあそうでなかったとしても、キアには飲めないことは確定している。

「口移し」

 これなら、ある意味なんとかならない気がしないでも、ない。

「キア」

 キアにとってキスはどういうものなのだろう。怖いものになっている可能性は否定できない。キスされたらさらに症状がひどくなってしまうかも。どうなのだろうか。でも力が要るのはほとんど間違いなくて。今のキアに血を飲ませようとしたらそれこそ口移しくらいしか、思いつかない。

 でも、私は彼氏がいるのに。これって浮気にならないのかな?

 でもこれって人助けだよね。緊急時ってやつだよね? 望君を裏切ることには……ならない、よね?

「キア」

 呼びかける。起きて、そう願いを込めて。

 何度呼びかけても、返事はない。

 やるしかないのかなぁ。でもなぁ。もっと他に方法ないかな。

 結局、何も思いつかなかった。

「と、いうか」

 そもそも、ご飯食べられるかどうかわからない。

 私はキアの口を見る。指を咥えさせてみる。ガリっと、割りと本気で噛まれた。

 いたっ!

「……っ」

 叫ぶのを堪えて、キアの口から指を引き抜く。

 血が滲む指を回復させながら、確信する。

 キアは口に入ったものになら、反応できる。それなら、血を飲ませても窒息しない。

 私はキアを抱き起こし、彼女の背を壁に持たれさせる。

 私はうず高く積まれている血液パックのうちの一つを手にすると、彼女の足にまたがる。虚ろなキアの顔が視界の真ん中にくる。

 ちょっぴりドキドキしてきた。私にリュカみたいな趣味はないはずなんだけどなぁ。

 私は血液パックの口を噛み切ると、中身を半分口に含む。

「……」

 無反応のキアの唇に口付けをする。ピクリと、彼女の体が痙攣したように小さく暴れる。

 私は血液がこぼれないよう舌を出す。彼女の唇を割って、口内に侵入する。噛まれないかな、と思っていたら、意外と何もされなかった。よし、飲ませられる。

「……」

 くい、と少しだけ体を立ち上がる。彼女を見下ろすような格好になってから、口の中の血液をキアの中へと注ぐ。

「……ごく、ごく……」

 なんの疑問も抱かず、キアは血を飲み込んだ。

「ふう、よかった」

 飲んでくれた。少しは力が強くなったかな。

 私はもう半分を口に含むと、再びキアに口移しで飲ませた。ちょっとこぼしてしまって、彼女の唇からは赤い線が一筋、淫靡にきらめいている。

「……」

 それでも、キアは無反応。

 はあ、と私はため息をついて血液パックを一個鷲掴みにする。それの口を乱雑に噛み切ると、私は中身を一息で飲んだ。

「ぷはぁっ!」

 なんともいえない心地よさが全身に広がる。気持ちがよくて、もっともっと飲みたくなる。けど、これは基本的にキアのなんだから、我慢我慢。

 新しく供給されたエネルギーのせいか、全身が火照るように熱くなる。

 力がお腹の底から湧き上がってくる。

 たった一本吸っただけなのに、こんなにもなるなんて思わなかった。

 思えば血を吸ったのなんて随分と久しぶり……でもないか。ついこの間キアを吸血鬼にしたばかりだった。でも、あの時とはまた違う快感だった。吸血するときの意味が違えば、心地よさも違ってくるのかな。

私はキアを横たえてやると、私も彼女の隣で横になる。彼女の肩をあやすように叩きながら、私は話しかける。

「キア、急がなくていいよ。何日でも待ってあげる。いつまでも一緒にいてあげる。だから」

 だから、元気になってね。

 最初は憎い仇だった。今だって完全にその気持ちが消えたかといえばそうではない。けれど、少なくともこうして口移しで血を飲ませてやるくらいには、キアに情を湧かせていた。

 それにしても、私はなぜリュカじゃなくてキアを引き取ったのだろう。

 もしかして、私はリュカのこと気に入らないの? 心の底じゃ、そう思ってる?

 違う、違うはずだ。

 じゃあなんで?

 しばらく考えて、気づく。

 私、キアみたいになったリュカを見て、まともでいれる自信がないんだ。

「キア、起きて」

 呼びかけることも、忘れない。こうすればきっとよくなる。もう一度、人の心を取り戻してくれる。

 私はその日の夜まで、ずっとキアの様子を見ていた。あまり、進展はなかった。


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