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東方幻想入り  作者: コノハ
最後の反乱
98/112

引取りと私

 部屋から出て行った永琳を、みんなは無言で待っていた。なにか聞こうかな。そんなことを思うことすらできないほど、部屋の雰囲気は重々しかった。

 気まずいな~。

 そう思っていると、廊下の床が軋む音が聞こえた。誰かくる。

「姫様、ここに」

 居間の前で、その人は立ち止まった。

「入りなさい」

 からりと、永琳な襖を開けた。

 永琳の隣には、膝をついて自分の首を締め続けているパパがいた。

「パパ、自殺をやめて、大人しくして。誰にも攻撃しちゃダメだよ」

 私が言うと、パパは動きを止めて、首から手を離した。

「はぁ、はぁ、はぁ。ったく、酷いなぁ、ミオ」

「酷いのは、パパ」

 私が言うと、パパは声を殺して笑った。

「何がおかしいの?」

「いや、何も。やり方が手ぬるいな、って思っただけだよ」

 私は、一気に沸騰したみたいに全身が熱くなるのを感じた。溶岩のようにドロドロになった心が命ずるままに、私は血の操る。槍のように尖らせた血をを、パパに向かって伸ばす。その血の槍は、パパのお腹を突き、貫通させた。

「手加減してあげることがなんでわからないの? その気になれば、パパなんて瞬殺だよ!」

「ぐ、うっ」

 痛みで顔を真っ青にし始めたぐらいで、血の針をしまう。

 パパのお腹からは、真っ赤な血が流れている。

「それで、霊夢。御陵臣は地下室に幽閉でいいのね?」

 霊夢は頷いた。

「御陵臣の幽閉に賛成の人は、手を上げて」

 私も含める、全員が手を上げた。

「満場一致。じゃあね御陵臣。二度と出てくるな」

「再審を要求するよ。いくらなんでも終身刑はやりすぎじゃない?」

 飄々とそんなことを言うパパを無視して、霊夢は永琳に連行するよう顎でしゃくった。

「霊夢、ありがとう」

 二人の姿が見えなくなってから、私はお礼を言った。

「気にしないで。元はといえば封印しなかった私のせいなんだから。

 そう言って、軽く霊夢は微笑んだ。

「さて、それでこれからキアはどうするかしら?」

 私は手を上げる。

「はい、ミオ」

「私のところで暮らさせるよ」

 霊夢は渋い顔をした。

「いいのかしら」

「いいよ。キアはとってもいい子だから」

「御陵臣に酷いことされて、変わっちゃってるかも」

 横から、アリスのそんな声が聞こえた。

「それなら、リュカもそうだよ。私は、リュカがパパに変えられていたとしても、愛するよ」

 リュカは大切なパートナー。キアは大切な奴隷。何をおいても、手放すもんか。

 絶対、大切な人を守るんだ。

「わかったわ。あなたはキアと二人で暮らしなさい。それから時々紫が覗いてると思うけど、いいかしら?」

 頷く。

「よし。それじゃ、今日は解散!」


 居間の縁側で、私と望君は話していた。

「……そう、御陵臣が、ここの地下に」

「大丈夫だよ! 多分ものすごい量の薬打たれるだろうから。身動き一つできないと思うよ」

 キャハハ、と必要以上に朗らかな笑い方までして、なんでもないように振舞う。

「……もう一人のミオちゃんは、大丈夫なの?」

「リュカだよ、望君」

「あ、ごめん。リュカちゃんは、大丈夫なの?」

 私は首を振った。

「わかんない。けど、きっと大丈夫。また人格が二つにわかれたり、なんてことはないよ」

 勘だけど、間違ってはいない気がした。もし心が弾けちゃってても大丈夫。私がいる、望君だって霊夢だってアリスだって魔理沙だって永琳だって紫だったいる。だから何も心配する必要はない。ないんだよ。

「……じゃ、今日は帰るね」

「え?」

 寂しそうな顔を、望君はした。

「ごめんね、望君。今は、楽しくおしゃべりって気分じゃないの。……それじゃあ」

 私は望君を残して診察室まで行く。扉をノックすると、永琳が出てきた。

「今日は、帰るのかしら」

 頷く。

「だから、キアも連れてく」

 永琳は渋っていたけれど、一度頷くと、診察室の奥に行った。再び彼女が私の前にくると、彼女は虚ろな瞳を何もない空間に向けたまま、ピクリともしないキアがお姫様抱っこしていた。

「……」

 私は彼女の変わり様に、驚きを隠せなかった。

「……やっぱり、やめとく?」

 永琳の提案は、とても魅力的だった。この様子からキアが回復するのにいったいどれほどかかるのだろう。 そもそも回復するの?

 その間、私はキアと一緒に暮らすんじゃなくて、私がキアの面倒を見るのだ。そこには、ただ一緒にいるのとは違う『責任』が、私に降りかかる。

 ごくりと、私は唾を飲んだ。

「ううん、私、頑張るよ。キアの回復を、信じてる」

 そう言って、永琳からキアを受け取る。彼女の体は羽か綿のようで、軽々と持てた。違うか、私の力が、強すぎるんだ。

「じゃあね」

「待って。これ」

 永琳は私に、たくさんの血液パックを持たせた。

「……ごめん、両手塞がってるから」

 どうしよう。そう思っていると、空間が裂けてひょっこりと紫が現れた。

「やっほー」

「や、やっほー」

 恥ずかしいけど、紫に合わせて挨拶してみる。すると、紫は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「可愛い!」

「それで? 何の用?」

 永琳はこめかみを引きつらせながら言った。まあ確かにここの雰囲気と紫は、全くと言っていいほど合っていなかった。

「まあまあそう殺気立たないでよ。両手いっぱいでしょ? 私が運んでおいてあげるわ」

「それじゃ、血液パック運んでほしい」

 紫は意外そうな顔をした。

「そのしもべじゃなくて?」

「なくて。そりゃ、キアは奴隷だけど。だからこそ、マスターの私が責任持ってあげなきゃ」

 私が言うと、紫は微笑みながら言った。

「わかったわ。それじゃ永琳、パック頂戴な」

「はいはい」

 永琳は紫が新たに作った空間の裂け目に、血液パックを放り込んで行く。

「ありがと、紫、永琳。それから、永琳」

「何かしら」

 私は翼を背中から生やしながら言う。

「アリス姉ちゃんにね、キアを集中して癒してあげたいから、しばらく朝の挨拶はできないって伝えておいて。一ヶ月してもまだ挨拶してなかったら、様子見にきてって言っといて」

 私は羽ばたいて空に上がる。

「わかったわ。頑張ってね」

 頷く。空に舞い上がる前、望君の苦々しい顔が私の目に入った。

「望君、大好きだよ! ごめんね、でも、キアが元気になったらうんと遊ぼうね!」

 私が言うと、望君はその表情のまま、ゆっくりと頷いた。

「僕もミオちゃんが大好き! だから、急がなくて大丈夫だよ! 僕は、永遠にだって待ってるから!」

 嬉しくなって、つい涙腺が緩んでしまう。

「ありがとう」

 そう言って、私は大空に舞い上がった。

 住処に帰って、私はキアを床に横たえた。床に触れる瞬間、彼女の体がピクリと一瞬だけ硬直した。

「キア!?」

 呼んでも、返事はない。ため息をつくと、私は彼女の隣に座る。住処の一部、今日リュカがいたぶられていた場所にはおびただしい量の血液が付着していた。そして、住処の一角には血液パックがうず高く積まれていた。

 ……。頑張ろう、キアのために。

 私はキアの様子を注意深く観察する。何かあれば、すぐ対応できるように。

 ふと、孤独を感じる。今は、一人きりなんだ。

 頑張らないと。

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