お酒の魔力と私
宴会が始まってから二時間が経った。
私は望君を連れて少し離れたところで二人一緒に飲んでいた。境内の隅っこ、大樹の根元の地面に座り込み、ちびちびとお酒を飲む。私達の前には空になった一升瓶が三本、まだ中身のあるのが二本置いてある。私のグループは私と望君以外は酔っ払って眠っていた。念のために永琳に見てもらっているから危険はないだろう。
「でさ、ミドリも美沙お姉ちゃんも変なの! 犬の真似したり猫の真似っこしたり! 信じらんない! 動物の真似なんて絶対ヤ!」
「どうしれ?」
望君が聞いてくる。彼ももうそろそろダウンするかもしれない。私もまた然り。
「首輪つけられてお尻に尻尾挿されて四つん這いにされながら犯されたらわかるよっ! ああおぞましい! パパなんて大っ嫌い!」
私も普段は言わないようなことを口にしている。私も酔っているのだろう。
「うんうん、らいじょうぶらよ、僕がいるよ」
「……ふふ、ふふふ」
嬉しくて、嬉しくて。
「ねぇねぇ、望君。私たちもう一週間だねぇ」
私は地面にコップを置いた。
「そうらね」
「お手て繋ぐくらいしかやってないねぇ。小学生かっての! いや、小学生か。くふふふ」
まともなことを考えつかない。なんていうか頭で思ったことをそのまま口にしているような感じさえする。
「でもねぇ、私はコウノトリ信じてるほど子供じゃないの! 子供の作り方はわかるしそれがどんなものか実感だってしてる。望君、私、同年代の子達が数年後に経験することを先に経験してるんだよ? おかしいね、変だね! きゃはは……キャハハハハ!」
「うーん。僕は君とならどんなことでもいいよ。君でないとヤ」
「嬉しい!」
私は彼に抱き付いて、そのまま彼の唇を奪う。お酒の甘い匂いがする。
「うふふ、お酒の勢いに任せてヤっちゃうなんて、大人みたい」
「うん……そうらね~」
そのまま、彼を地面に押し倒す。彼は抵抗しなかった。彼の半ズボンを少しだけまくり上げて、ふとももに指をやる。そのまま、つつつ、と表面に触れるか触れないかのところで撫で上げる。
「ふわ、ふぁっ……!」
彼の口から甘い声が漏れる。
「きもちーでしょ? 何も心配いらないよ、私が、君をよくしてあげる……」
ゾクゾクと、背筋から欲望が上ってくる。普段なら絶対にしない、感じないような官能が、私を塗りつぶしていく。
このまま、彼と色んなことをしたい。気持ちいいこと、そうじゃないこと、なんでもいい。エッチなこと、エッチじゃないこと、どれでもいい。私と望君の愛の思い出をいっぱいいっぱい作りたい。
「ねぇねぇ、そろそろ私たち、いいと思わない? キスして、その先もして、恋人とすること夫婦ですること全部しよう?」
「まだ、はやいよぉ……」
「早くないよ。むしろ遅いくらいだよ。早く私を望君で一杯にして。私、望君よりもパパと交わってるときの方が多いなんてヤ! だから、だから!」
もう一度キスして、今度こそコトになだれ込もう、としたとき、私の頭に誰かが手を置いた。
「……れー、む?」
「すっかりできあがっちゃって。どう、私達と飲まない?」
「や! 私は望君と飲むの! 私は望君のなの!」
霊夢は呆れたように肩を竦めた。
「愛しの彼は寝てるわよ?」
言われて、彼を見る。健やかな寝息が聞こえてくる。
……。
「もう……バカ」
私にあんな恥ずかしいこと言わせて、それで自分だけ寝ちゃうなんて。
私は望君をお姫様抱っこでミドリや美沙お姉ちゃんが寝ている場所まで歩く。
すると、永琳の周りには酔いつぶれて寝ている人たちがたくさんいて、永琳は逐一何かをチェックしている。
「えーりん!」
私は駆け寄って話しかける。
「あら、ミオ。楽しんでるかしら?」
「この人たちどーしたの? 死んでる?」
私が聞くと、永琳は肩を竦めた。
「そうならないよう、私が見張ってるのよ。望も潰れたの? じゃ、ミオ、そこに寝かせておいてあげて」
「うん」
私は空いているところに彼を横たえると、その隣に座り込む。
「あなたはもう飲まないの?」
「飲みたいけどぉ。でもでも望君ここにいるし」
「大丈夫よ。他の外来人と違ってあなたも望君も死なないんだから、量に気をつけなくてもいいわ」
「ん……でも、ホントにいーの?」
なんだろーな、テレビで『飲み会で放っとかれた若者が』云々言ってた気がする。
「心配?」
「うん」
私が頷くと、永琳はどこかへ……楽しそうにどんちゃん騒ぎをしている魔理沙とアリスのところへ行った。
しばらくして、二人がやってくる。
「ん?望じゃん。こいつ、真面目そうだからてっきり一人寂しくジュースでも飲んでんのかと思ったぜ! やっぱ彼女もちは違うねぇ! く~! 羨ましい! あたしもあやかりたいぜぇ!」
「何バカなこと言ってんのよ。とっととやって再開するわよ」
アリスと魔理沙は両手を望に向けた。すると望の体が光始める。数十秒二人はそうしていた。
「よっし! これで身体ん中の酒が出て行った! だから大丈夫だ! ミオ、一緒に飲もうぜ!」
「あ……霊夢は?」
バンバンと肩を叩かれながら聞く。
「霊夢も一緒だぜー! ほらほら、来いよ!」
了解も得ずに魔理沙は私を連行していく。彼女の顔もアリスの顔も真っ赤で、そうとう飲んでいることが伺えた。
「あら、きたのねミオ」
アリスたちのグループまで来ると、霊夢が一番に歓迎してくれた。
と、いうよりは。
「きゃっほ~! 二番八雲紫! 脱ぎまーす!」
「イェーッ!」
「パラリ……残念! スキマの中で脱ぎしましたっ!」
「ブー!」
というより霊夢しか私に気付いている人がいない。みんなはっちゃけてるなぁ。魔理沙とアリスも私を連れてきたら早速あっちに行ってるし。
「いえーっ! 三番霧雨魔理沙! 魔法で花火! 野郎ども、空を見な!」
「うーん?」
「イエスっ!」
爆発音。空をみると七色の綺麗な花火が上がっていた。
「イエーイっ! さすが魔理沙!」
私と霊夢以外の人が口々にそんなことを言っている。
「楽しそうだね、皆」
「楽しいわよ、実際。あなたは?」
「超楽しい」
「ならばよし」
そう言って、霊夢はくしゃくしゃと私の頭を撫でた。
「っていうか! なんで霊夢、さっき望君との逢瀬を邪魔したの!?」
「あのね。ここは宴会会場であってそういうことする場所じゃないの。仲良くなっていい雰囲気になるのはいいけどヤるのはダメよ」
「む~っ! 霊夢のケチ!」
「ケチで結構」
私は頬を膨らませて目の前に置いてあるお猪口を手にとって中身を呷る。
「霊夢! 霊夢は恋ってどう思うわけ?」
「……は?」
「いろーんな人に聞いて回ったけど霊夢にだけ聞いてなかったような気がしたから。で、どうなの?」
「恋は、恋よ。好きだと思ったその気持ちが恋。いいとか悪いとかじゃ測れないものよ」
「さっすが霊夢! いいコトいうねぇ!」
私は霊夢の頭を撫でて言った。
「……あなたも結構酔ってるわね」
「酔ってないよ、これが自然体! ナチュラルなミオなのだ! キャーハッハッハッハッハッハッハ!」
ひとしきり笑う。なんだか、とっても可笑しい。意味もなく笑ってしまう。
「あなたも騒ぐ側になる?」
落ち着いたことに、霊夢がそんな提案してきた。熱っぽい頭で判断して、私は首を振った。
「いいよいいよ。私そんなに芸とか持ってないし」
「まあまあ」
それでも私は首を振り続けた。隠し芸とか、ああいうのは苦手だ。
「ふいーっ! 疲れたぁ! もう無理!」
そういいながら、魔理沙が私の隣に腰掛けた。
「ま、り、さ!」
私はわけのわからぬ衝動のままに抱き付いた。
「お、お? どうしたミオ、甘えん坊さんだなぁ」
そう言って魔理沙は荒々しく私の頭を撫でてくれる。顔が熱いのが、酒のせいなのか感情のせいなのかわからなくなる。
「ごめんね、甘えん坊で~。でも、でも~」
自分でも何を言っているのか半ば理解せぬまま、会話を続ける。
「でも、なんだ?」
「でもね、もう一人の私がね……いや、やっぱいいや」
やっぱり気持ちは本人が伝えないと。もう二度と体明け渡すつもりはないけどね!
「うーぐりぐりー」
魔理沙のお腹に頭を当てて、ぐりぐりと押し付ける。
「うわ、おっと。お前ホント子供みたいだな」
「こども! 私子供なの! こーどーもー! キャハハハハ!」
そんな風にみっともなく主張する。
夜は、更けていく。