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東方幻想入り  作者: コノハ
あなたと私と、それからみんなと
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ほかの外来人と私

 望君と付き合って一週間が経った。朝に永遠亭で会って、疲れるまで遊ぶ。疲れたら元気になるまでおしゃべりして、また遊ぶ。それを日が暮れるまで繰り返す。そんな子供っぽいお付き合いが一週間続いた。日に日に出会う時間は早く、別れる時間は遅くになっていく。ケンカもした。最初のケンカは、仲の進展具合についてだった。望君はもっと先に進みたいのではないのか、なんて勝手に思って、それで怒られたのが始まり。最初はお互い男女交際について論じていたのか何時の間にかどちらが相手のことをより想っているかという話になって、最終的にはいつかのように笑い合っていた。

 ケンカも、遊びも、全部含めて彼と過ごす緩やかで優しい時間が楽しくて、嬉しくて。

 燃え上がるでもなく、ドキドキするでもなく。

 私の恋はまるで川のせせらぎのように緩やかで、けれど確かに気持ちは存在していて、どこまでも続いている。

 最初、恋とは心がねじくれるほど強い気持ちを身に宿すものだと思っていた。けれど、違うのだ。私は、わずかな気持ちをしっかりと抱きしめるような恋をしたのだ。

「……」

 キアとパパが眠る住処で、今日あったことを反芻する。彼の笑顔を思い出すたび、私が彼に笑いかけて、照れたように顔を赤くしてくれる度、わずかに心臓が跳ねる。その感覚が好きだった。

 と、思い出に耽っていると、住処の戸がノックされた。

「はい」

 こんな時間に誰だろう。

 扉を開けてみると、そこには優しい笑みをたたえたアリスがいた。

「アリス姉ちゃん?」

「こんばんは、ミオ」

「こんばんは」

 別々に住むようになってから、アリスとはほとんど会話していなかった。こうして会いに来てくれるのは嬉しい気持ちになる反面、怖くもある。

 また戦闘など荒事に巻き込まれるのではないかという点だ。また何かあったのではないか。そんな風に疑ってしまう。

「ねえ、ミオ。今から宴会開くんだけど、そこの二人を置いて一緒に行かない?」

 きょとんと、肩を落とす。なんだ、そんなことか。疑った私がバカだった。

「行く! 望君は?」

「彼も行くでしょうね」

 ならばなおさら行きたい。

 私はアリスの服を掴むと、一度頷いた。

「じゃ、早速行こー!」

 私は背中に翼を生やすと、空を飛ぼうとする。

「待った」

 そこで、アリスにとめられた。

「私が運んであげるわ。何も知らない外来人もいるから。吸血鬼だって知られない方が友達できやすいわよ」

 言われて、頷く。外来人も来ているのか。

 私はアリスに近づいて、彼女に抱きつく。アリスが優しい手つきで私の背に触れると、ゆっくりと宙に浮いた。幻想郷が一望できる高さまで上昇すると、ゆるやかに進みはじめる。

「宴会って、なにするの?」

「普通にお酒飲んだりご飯たべたりするのよ」

 ふうん。お酒、か。飲んだことないからどんな味かはわからない。けど、私が飲んでもいいのだろうか。

 そんなことを考えながら、私は宴会会場へ着くのを待っていた。


 宴会会場、つまり博麗神社の境内にはたくさんの人がいた。私が出会った幻想郷の人たちはみんないる。その他にも、知らない人が何人もいた。五人から十人のグループに別れて、みんな楽しそうに話しているけど、目の前にある食事やお酒には手をつけていない。

「こっちよ」

 境内に降り立って、アリスに案内されたのは、現代風の、というかそのまま外の格好をした人たちの一団が座っている場所だった。

「お、アリスちゃん。その子も参加するの?」

 アリスに気づいた十代後半に見える男性が立ち上がって彼女を迎えた。

「ええ。この子、子供に見えるけどお酒とか飲ませてあげてね」

「いいの?」

「いいのよ。ちょっとくらい暴れてもここには山ほど腕に自信がある奴がいるんだから」

 そう言って、アリスは私を一団の空いてるところに座らせた。

「それじゃ、私は私で呑んでるから」

 そう言ってそうそうにどこかへといってしまった。

 ついこの前までなら、このままアリスを追いかけていただろう。けれど、今はいつでも会えるアリスより、ここにいる知らない人たちとお話して、お友達を増やしたい。

 輪の人たちを見る。男の人が二人、女の人も二人。大人数で固まっているグループが多い中、私のグループは少人数の方だった。

「はじめましてやな、お嬢ちゃん。名前何? ウチは風見翠。気軽にミドリって呼んでな」

 私が輪の中に入って一番最初に話しかけてきたのは、左の肘から先がない女の人だった。彼女の年齢は十代前半頃のように見える。端正な顔立ちの彼女の顔には楽しそうな笑顔が浮かんでいる。

「私、ミオ・マーガトロイド。……それにしても、風見?」

「今マーガトロイドいうたか?」

 二人して、疑問の声を上げる。

「二人はアリスと幽香と同じ苗字なんだな。偶然か?」

 少し目つきの鋭い男の人が興味深そうに聞いてきた。

「最初に発言するんやったら名乗ってぇや。ウチ、名前も知らん奴と話すん嫌やわ」

「……それもそうか。自己紹介が遅れてすまない。俺は武藤大樹。よろしく」

 小難しそうな顔をしているのにも関わらず、意外と素直に武藤さんは自己紹介をした。

「それで、武藤がさっき聞いてたことはどうなんだ? あ、俺はカイルね。苗字は考えちゅ、今んとこない」

 さっきアリスと会話していた男性がぎこちない笑みを浮かべながら言った。緊張しているのだろう。

「私は、アリスから苗字をもらったんだよ。妹にしてもらったの」

「ウチもそんな感じやな」

 そう言って、ミドリは顔を赤らめた。恥ずかしいのかな。

「ま、まあ、ウチらの名前のことはもうええやん。なぁなぁ、さっきから黙っとるけど、名前なに?」

 ミドリの隣に座る、人形みたいに綺麗な女の子は、ミドリの顔をみると小さく頷いた。彼女の年はこの中で一番高いようにも見える。二十歳を超えているのではないだろうか。

『私は駒鳥春。いきなり驚かせてごめんなさい。私、言葉の代わりにこうしているの』

 頭の中に、声が響いた。彼女の口元は、少しも動いていなかった。

「おー。まぁまぁ、気にせんとき、とりあえず話せたらそれでええやん!」

 そうやってミドリは駒鳥さんの肩を軽く叩いた。

 これで、全員の名前を知った。関西弁を使う左肘から先のない女の人が風見翠。

 ちょっと無愛想だけど、根は素直そうな男性、武藤大樹。

 見るからに軽薄そうだけどパパみたいな邪気は一切感じない男性、カイル。

 人形みたいな美しさの、この中で一番年長に見える駒鳥春。

「いたいた」

 後ろから声がして振り返ると、そこには望君を連れた輝夜、鈴仙、それから子供のような、うさぎ耳を頭につけた女の子がいた。

「こんばんは、望君」

「こんばんはミオちゃん。また会えて嬉しい」

 そう言って、望君は私の隣に来た。

「えっと、あなたは?」

 小さいうさぎ耳の女の子に話しかけると、彼女は嬉しそうににやっと笑った。

「私は因幡てゐ。喜べ人間、今日は無礼講! ただで幸せくれてやる!」

 そう言って因幡ちゃんは楽しそうな笑みのまま、どこかへといってしまった。

「……ふふふ。てゐもいったように、今日は無礼講よ。好きなだけ呑んで好きなだけ食べなさい」

 そう言うと、輝夜も別のグループへと行ってしまった。

『ミオちゃん、彼、どうしたの?』

 頭に声が響いた。駒鳥さんの方へと振り返ると、望君が皆に見られて固まっていた。

「望君?」

「人見知りなんかな? ウチら別に怖ないよ?」

 それでも、望君は黙っていた。震えているようでもある。

「紹介するね、私の彼氏で、戸神望君。ほら、大丈夫だよ望君」

 私が彼に促すと、望君は絞り出すように声を出した。

「あ……ぼ、僕は、戸神、望、です」

 普段見れない彼の一面が見れた。それだけで今日ここに来てよかったと思える。

「あっはっは! お前男だろ、もっとしっかりしろよ!」

 カイルが快活に笑って軽く望君の肩を叩いた。

「う、うん……」

 弱々しくはあるけれど、彼は頷いた。

「にしてもこの子かわええなあ! こんな彼氏おって羨ましいわぁ」

「そ、そんな」

 私は思わず顔を伏せる。

「うわぁ、ミオちゃんもかわええ! 可愛いもん同士がくっ付いたんか……。アリやな!」

『うん、私も思う。二人ともすっごく可愛い。それに、幸せそう』

「うん! 私幸せだよ!」

 私は二人に褒められて嬉しかった。だから私も、二人を幸せにしたい。褒めてあげたい。

「ミドリと駒鳥さんもすっごくキレイだよ!」

 私が言うと、駒鳥さんもミドリさんもはずかしそうに照れた。

「ま、真正面から褒められたらなんやこそばゆいなぁ」

『でも、すごく嬉しい』

 駒鳥さんは慈しむように胸に手を当てていた。

「やっほー! 楽しんでる?」

 話していると、美沙お姉ちゃんが後ろから話しかけてきた。

「あっ、美沙じゃん! 美沙も飲むん?」

 ミドリが立ち上がって美沙お姉ちゃんのところまで駆け寄り、抱き付いた。

「おおー! ミドリじゃん! ミドリも来てたの!?」

「もうホント寂しかった! なんではように来てくれんかったん? ミオちゃん来るまでウチだけ喋っとって心細かってんで?」

 そう言って頭をスリスリしたりしてスキンシップを楽しむ二人。

「美沙お姉ちゃん、知り合いなの?」

 私が聞くと、美沙お姉ちゃんは笑顔で頷いた。

「外の世界の友達! ホント、寺子屋にいたときはびっくりしたんだから」

 それから、少し暗い表情をして二人とも黙る。左肘から先がないことが、関係しているのだろうか。

「はーい! 注もーく!」

 ふと、お賽銭箱の前に立った霊夢が立ち上がった。私達の上に不思議な陣が現れると、霊夢の声が近くなった。その陣は私達のグループだけでなく、各グループの上空に浮かび上がっている。

「さてさて、お集まりの皆さん今日は遠いところからご足労いただきまことに……」

 陣の方から、霊夢の声が聞こえる。ああ、これって拡声器みたいなものなんだ。

「御託はいいからとっととはじめろー!」

 ヤジを飛ばすように、魔理沙の声が聞こえた。

「ったく、うるさいわねぇ! ……さてさて、今日は解放異変が収束して始めての宴会で御座います。故に、今日は皆さん飲んで食べて吐いて下して思いっきり、心ゆくまで酒宴をお楽しみ下さい!」

 そう言うと、霊夢は袂からお猪口を取り出すと、お賽銭箱の上においてあった陶器の瓶を持ち、中身をお猪口に注いだ。

「ほらほら、ミオちゃん」

「え?」

 皆の手には各々コップが握られていて、中身もしっかりとある。

 ミドリは私に、大人が使うようなしっかりとしたコップを渡した。そのコップの中には透明な水みたいな液体が注がれており、匂いをかぐとすっと通り抜けるような匂いがした。お酒か、これ。

「幻想郷の平和に!」

 霊夢の音頭と共に、皆がコップを掲げる。私も皆にならう。

「乾杯!」

「かんぱーい!」

 そこかしこでコップが打ち鳴らされる音がする。中には勢いがつき過ぎたのか、パリんと、何かが割れる音もする。

「望君は、お酒飲むの?」

 そう私が聞くころには、もう周りはすっかり盛り上がっていた。

「うん。お酒、飲んでみたいし」

「でも、まだ私たち子供だよ?」

 まだ私は踏ん切りがつかなかった。パパに虐待まがいのことをしたあとで、こんなことを思うのは変なのかもしれないけど、まだ私の理性は飲酒に対する抵抗を残していた。

「僕はあと百年経っても今のままだから、今飲んでも変わらないよ。……ミオちゃんは、どうする?」

「望君が飲むなら、飲む」

「じゃ、飲もう」

 そう言って、彼はコップを私に掲げた。私も彼と同じようにする。

「乾杯」

 カチリ、と触れ合うようにコップ同士を合わせる。それから私達は同時にコップに口を付け、中身を呷った。

 喉が焼けるような感じがする。でも、そんなに嫌じゃない。顔が熱くなる。

「おーっ! 飲んでるなぁ、若人よ!」

 もうすっかりできあがったミドリが絡んでくる。

「うん。お酒、おいしいね」

「うむうむ。その年で酒の味を理解するとは。やるな、お主!」

 もう酔いきったのか関西弁が抜けてそれでも標準語ともいえない不思議な言葉遣いをしている。

「なぁ、大樹ぃ」

「なんだ。寄るな酒臭い」

「酒臭いはねぇだろお前だって!」

「で、なんだ」

「女の子組はいいよなぁ、楽しくおしゃべりしてよぉ。俺も混ぜてくんねぇかなぁ」

「混ざりたいなら混ざればいいだろう」

「もーっ! 情緒を介さないやつは嫌いだぁ!」

 大樹もカイルもなんだかテンションが違う。

『あー……ふわふわ~』

 駒鳥さんはさっきからそんな感じで意味のある言葉を発していないし。

「うにゃ! うーにゃ? うにゃうみゃ! ……猫の真似~。上手でしょ?」

「上手上手〜」

 美沙お姉ちゃんもミドリもさっきからこんな調子だし。一杯くらいでこんなに酔うかなぁ? もしかしてこのお酒結構強いのかな? なんて思う。

「望君、酔ってない?」

「うん、酔ってないよぉ」

 彼もちょっと様子が変だった。

 もしかしてまだまともなのは私だけ?

 周りを見渡す限り、私の予想はあながち的外れでもないようだった。

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