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東方幻想入り  作者: コノハ
あなたと私と、それからみんなと
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マスターへの想いと私

 マスターからのトキメキが伝わってくる。

「……はふぅ」

 あまりにもあのお方の愛おしい気持ちに、つい口から甘い吐息がこぼれてしまう。小さくも愛おしいマイマスター。あのお方のことを考えているだけで、暖かい気持ちになってくる。

 ついこの前まで、私はこの気持ちを洗脳されたからだと考えていた。しかし、違うことがわかった。

 あのお方は、私の能力を知って、それでもなお私を利用しなかった初めての人なのだ。前の世界でも、この世界で臣さんの元にいた時も、私はただ幻覚の投影機くらいしか存在を認められていなかった。

 でも、マスターは違った。私のことを許さないと言い、奴隷として扱う。けれど、幻覚投影機としてではなかった。私を私として見てくれた、最初の人。それだけではない。言動、接し方、それらすべてでマスターは私の心を掴んで離さない。だから、身も心もマスターの物になりたかった。隷属趣味なんて、自分でも変に思うけれど、もう変わってしまったものは仕方ない。

 今日もマスターは望くんと遊んでいるようだ。私も、彼の虐待に手を貸してしまった。……私が解放団として入るときにしたおぞましい儀式。その犠牲者が、彼だった。あの時私は、恐怖と怯えに突き動かされ、言われるがままに彼に暴力を振るった。許されないことだろう。償えるなら、償いたい。けれど、望くんは私に私がしたことをそっくりそのままやり返してもスッキリしないだろう。このまま彼の記憶から消えていくのが、きっと正しいんだ。そして私は、罪悪感を感じながらずっと生きていくのがお似合いの罰だ。それでももちろん、復讐させろと彼が言ったのなら、私は喜んでこの身を投げ出そう。

「……ほぅ」

 またマスターの心が柔らかく跳ねた。マスターの恋心は、感じようと思わなければ感じることがないくらい淡い。でも、あのお方は間違いなく望くんに恋をしている。

 はたからこうしているだけでも幸せになれるような、素敵な恋だと思う。

「全く、最近君はそればかりだね」

 幸せな私の気持ちをぶち壊したのは、距離を置いて座る同じ立場の吸血鬼だった。

 軽薄そうな顔にニヤニヤとした笑みが張り付いている元解放団団長、現弟分。ありていにいえば奴隷仲間だった。

「臣、何か用ですか」

 思わず冷たい声色になってしまった。他意はないのだが。

「いいや? なんだかさっきっから発情した猫かと思うくらいエッチな吐息が聞こえるからね。また澪と感覚繋いで野暮なことやってんの?」

「うるさいです。マスターからの許可はいただいています」

 この前、草花のバケモノに犯されて監禁されて飼われそうになっていたマスターを救うお手伝いをした功績が認められ、マスターを感じるだけならいつでもしてもいいという許可をもらった。それ以来、私はマスターの身に危険が迫ったときに対処できるようこうしてマスターの感覚を感じているのだ。

「っとに。ガキの感覚盗み見て何が面白いわけ?」

 臣の言葉に、私の心はささくれ立つ。

「マスターを侮辱しないでください」

「そのマスターを陵辱したくせによく言うよ」

「ぐ……」

 彼の切り返しに、私は言葉を詰まらせる。

「幻覚使って、家族にさえ怯えるように仕向けて。ああ恐ろしい。身体を弄くって強姦したり拷問したりしたのは僕だけど、心を辱めて歪めたのは君だよね? くっくっく」

 襲いかかりたい気持ちをグッと堪える。確かにマスターから許可をもらっている。だからと言って無抵抗の人間を攻撃したのでは、奴隷になる前と何も変わっていない。それではダメなのだ。

「それにしても、あれだね。望、だったっけ、あの子」

 臣は楽しそうに口元を歪めた。

「あの子、中々気持ち良かったよね」

 私は彼の質問に無視で返した。

「締め付けとかも最高、ふわっとしてて、でもぎゅっとしてて……ホント、男なのがもったないくらいだったね。前の具合はどうだった? 君はやってなかったっけ? あはは」

「あなたはやはり滅びるべき存在です」

 彼の言葉を聞いてると、気分が悪くなる。彼はさらに言葉を続ける。

「彼は床の上じゃどうなるのかな? 野獣になれば楽しいよね。きっとあの子、フラッシュバック起こして彼のことをパパって呼ぶんだよ。それを彼は『パパのことが好きなんだ』って勘違いする。そうしたら一気に破局コース。さいっこうだね」

「最低です」

 どうして私は、彼についていってしまったのだろう。あの時逆らって犯されるか殺されるかしていれば、こんな風に嫌な気持ちになることはなかったのに。

「ねえ、キア。この調子でミオの点数稼いで、信用しきったところを裏切ってよ」

「お断りです」

 点数稼ぎはする。そして、マスターの口から自由の身になることが許されたら、改めて奴隷にしてもらうのだ。

「まるで恋する乙女だね。そんなにミオが好きなら股開いたら?」

「本当、男性は恋イコール性欲ですね」

「女は違うとでも?」

 頷く。すると、彼は可笑しそうに笑った。

「面白いねぇ。恋愛は性欲に随伴するものだよ。でなければできちゃった婚なんてものが存在するわけがない」

 むっと、臣を睨む。

「それは、見境なくなる若い人の特徴で……!」

「わかってないねぇ。それは言い換えれば見境なくなるくらいしたくなるって証左でしょ? 君だってミオに服を脱いで股を開けって命令されたら、ちょっとは期待するよね?」

「しません!」

 私が返すと、臣は驚いたような表情をした。

「それはそれは」

 彼はそう言ったきり、何も言おうとはしなかった。私もそんなに彼と話したいとは思わないので、何かを言ったりはしない。

 二人きりの住処に、静寂が流れる。

「また、したいね」

 ポツリと、彼は呟いた。

「百年、二百年後でもいいからさ、また外来人率いて暴虐の限りを尽くしたいよね」

「……またマスターに止められますよ」

 臣はニヤリと笑った。

「二度はないよ。今度は上手くやるさ。キアはその時、どっちの味方をするの?」

「マスターです」

 私が即答すると、臣は驚いたような顔をしたあと、何が面白いのかにやりと顔を歪ませた。

「そう。じゃあ、二百年後、僕がまた決起したら、最初の生贄は君だね。三十人くらいでマワしてあげるから覚悟しといてね」

「あなたこそ。次はマスターの攻撃と一緒に、私の幻覚が襲いますよ。夢と現の境目を行ったり来たりさせてあげますよ」

 しばらく、睨み合う。

 すると、住処の扉が開いて、マスターが入ってきた。

「たっだいまー! キア、いい子にしてた?」

「はい!」

 私はマスターに駆け寄る。マスターは私の肩に手を置いた。私は頷いて、しゃがむ。

「よしよし、いい子いい子」

 マスターに犬のように撫でられる。本来なら屈辱的で嫌なことなのだろうけど、マスターにされるのなら別によかった。かなり心地いい。

「よし、それじゃあ私はもう寝るから、キアもパパも私に何もしちゃダメだよ」

 そう言って住処の一角に陣取ると、マスターは早々に眠ってしまった。

「キアもパパも、だってさ。まだ君だって信用されてないんじゃないか」

「いいんです」

 私がマスターを想っていたら、それでいい。

 それからしばらくマスターを眺めていたのだけれど、私も眠たくなってきて、マスターの隣で横になった。横で眠るくらいなら、許されるだろうから。

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