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東方幻想入り  作者: コノハ
際限なき憎悪と……?
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フランと私

 雲一つない空に、私、レミリア、そしてフランの三人、いや、三体の吸血鬼が浮いている。腕を破壊されていたレミリアは、ここにくる前にはすでに治っていた。

「遊んで、遊んでネェ様!」

「はいはい」

 レミリアは呆れたように肩をすくめた。彼女の周りには、無数の血液でできた銃弾のような塊が浮いていた。

「キャハハ! 遊ぼうよ!」

 フランの背中に、真っ赤な魔法陣が現れる。彼女の翼からクリスタルのようなエネルギー体が生まれ、物凄いスピードでこちらに飛んできた。

「え、きゃっ」

 私は咄嗟に、そのエネルギー弾を回避しようと体をくねらす。

 けれど、エネルギー弾はわずかに軌道をずらし、私にすべて命中した。肉が抉られ、痛みが全身を襲う。

「いたっ! ……もう怒ったんだから! 先に攻撃してきたのはそっちだからね!?」

 私は叫んで、背後に浮かせた八本の大剣をフランに向かわせる。右に、左に動かして、避けにくいよう剣を動かす。

「キャハハハハ! アーッハハハハハ!」

 私の剛剣を、彼女は全く動くことなく全てを受けた。私の剣はフランの手足を切り落とし、臓物を吹き飛ばし、血液をぶちまけさせた。内臓から目玉から脳髄から脊椎から何から何まで、まるでさばかれた魚のように内容物を散らしながら、フランは、フランだったものは地面へと落ちていった。

「……」

 私は思わず口を覆っていた。お腹から熱い物が込み上がってくる。気持ち悪い。

「そういう反応だけ切り取れば、子供らしいんだけどね。スプラッタは苦手?」

 レミリアの無遠慮な声に、何度も頷く。私の目には涙さえ溜まっていた。

「ふぅん。あなたのパパに慣れさせられていると思ったのだけれど。違ったのね」

 パパ。あ。連想されたように、脳裏にママが浮かぶ。吐き気がしてくる。口とお腹を押さえて、必死で堪える。

「……あら。パパに何かされていたのかしら。ごめんなさい」

「う、うるさい、黙って!」

 私は剛剣をレミリアに向かわせる。彼女は自身の周りにあった銃弾をすべて、私の剣に向けて発射した。目に見えない速度で銃弾は私の剣に殺到し、八本全てを粉々に砕いた。

「私はフランと違うからね。あえて食らうなんて真似はしないわ。それに、あなた次スプラッタみたら吐くでしょ?」

「だまっ」

 て、と怒鳴りつけようとしたところで、下から赤いレーザーが私めがけて飛んできた。右半身を失いながらも直撃は避ける。体が再生したのと同時、極太の杭をレーザーの発射点へと投げ返した。地面に到達したところで、炸裂させる。

「ぎゃっ」

 そんな悲鳴が聞こえた気がした。

 杭自体と、炸裂させたあとの無数の針という二段構え。思惑通りに相手が嵌って、思わず笑みが零れてしまう。

「邪悪な笑い方ね」

「そお?」

 レミリアの楽しそうな言葉に、素で返す。

「ええ。でも、吸血鬼らしくて素敵よ。そもそもあれよ。吸血鬼が幻想郷の英雄って、そっちのがおかしかったのよ。今のあなた、とってもいいわ。まあ、ただ」

 ばき、と私の下半身が握りつぶされたかのようにひしゃげ、弾けた。

「壊されないよう、気を付けて」

 戸惑っていると、上半身も、同じようにして壊れていく。

「くっ!」

 反撃しようと一本の大きな針を生み出したのはいいものの、上空からではフランがどこにいるのかわからない。

 めき、ぐしゃ、と嫌な音が自分の中心で鳴るのも構わず、私は感覚に任せて鋭い針を森に向かって投げた。

 その瞬間、私の意識は途切れた。


「キャハハハ、気持ちよくなれるかなぁ? ヒハハ、楽しそー」

 くちゅ、ちゅ、と淫らな音がする。またパパかな、と思って目を開けてみると、フランが私の唇を奪っていた。

「……!」

 驚いて目を見開くと、フランは妖艶に薄く笑った。そのまま、彼女の舌が口内に侵入してくる。ぞ、と背筋に嫌な汗が伝う。嫌悪感に逆らわず、私はフランの舌を噛み切った。

「ぎゃああああっ!」

 彼女は口を押さえて私から飛び退くようにのけぞった。

 フランの舌を地面に吐き捨てると、口を手で何度も拭った。ゴシゴシと、しつこいくらいに拭いた。汚れた。汚された。また、穢された。

「痛イなァっ! 何するのっ!」

 フランは数秒ちょっとで舌が回復したのか、私に突っかかってきた。私は彼女を突き飛ばすと、立ち上がって彼女を睨む。

「何するの、はこっちのセリフだ! なんでこんな」

 自分の体を見ると、一糸まとわぬ姿だということに気づき、胸の前で腕を交差させ、フランから距離をとった。

「……私に何をしたの?」

 フランは自身の唇をペロリと舐めた。

「キーハハハハハ。もちろん一通り。気持ち良かったでしょ? フフフ」

「なっ……」

 ということは、私、は。

 また……。

 怒りより何より、悲しみが身を包んだ。冷たい土に座り込むと、フランがそばにいることも忘れて泣いた。

「……うっく、ひっく」

「エ? 泣いてるの? いくら攻撃しても泣かなかったのに、こんなことで?」

 こんなこと。その言い方に、私は我慢ならなかった。

「こんなことってなに!? 私にとっては大事なの! もうあんなこと、嫌だったのに、もう無理やりなんて嫌だって思ってたのに!」

 顔を両手で覆い、さめざめと泣く。なんで。なんで女の子なのに。女の子に。色んな思いが生まれては消えて行く。悲しい、苦しい、辛い、嫌。そんな思いが、あとからあとから湧いてくる

「うっ、ひっく……」

「フラン。泣かせたわね」

「ネェ様」

「何したの?」

「そ、その、キス」

「キスぅ? なんでまた」

「仲直りの印……の、つもりだった」

「余計なこと言ったんじゃないでしょうね」

「ううん。何されたかわからなかったみたいだから、キス一通りって」

「……ホントにその通りに言ったんでしょうね」

「キスの部分は、しょーりゃくした」

 ため息が聞こえた。

「ミオ」

「何? もういいでしょ、私はオモチャじゃないの。道具じゃないの! なんでまたあんな目に……」

「ミオ、落ち着きなさい」

 無理矢理手の覆いを外された。

「やめて! フラン、もう嫌なの、わかってよ!」

「フランじゃないわ、私よ、ミオ」

 ハッと、気が付く。目を拭うと、レミリアの方へ顔を向ける。

「……どうしたの?」

「キスだけのそうよ」

 レミリアから不思議な言葉が告げられた。

「どういうこと?」

「あなたにとっての一通りと、フランにとっての一通りとは意味が違ったの。最近フラン、エッチなことにも興味あるみたいで。ごめんなさいね、ホントに」

 私はレミリアの言葉を聞きながら、血で服を作る。アリスがいつも着ている服をイメージして、色も作る。大変だけれど、だんだんと慣れてきた。服を着ると、跳ねるように高鳴っていた心臓も収まっていた。

「ミオ、ごめん」

 フランは私のそばまでくると、頭を下げた。

「……フラン。エッチなことに興味あるのも、わかるけど」

 パパを思い出す。パパは興味がある、なんてレベルではなかったけれど。

「でも、エッチなことは相手の同意を得てから、だよ。そうじゃないと、されてる方はとっても辛いんだから」

「……そうなの?」

 フランは不思議そうな顔をした。知らなかったの?

 私はため息をついて立ち上がった。

「そうなの。ほんと、死にたくなるくらい辛くて痛くて気持ち悪くて、嫌で嫌で仕方ないことなの。だから、無理矢理は、ダメ」

 私がそうやって教えると、フランは笑顔になった。

「わかった! もう無理矢理はしない! じゃあ、ミオ、仲直りしよう! 握手!」

 そうやって、フランは私に手を差し出してきた。悪い子では、ないのかもしれない。私はフランの手を握った。

「これでミオと私は友達! 今度遊びに来てね! できればエッチなことしよう!」

 私は頭を抱えたくなった。

「なんであなたはそんなに頭の中ピンク色なの? というかエッチなことは男とするものよ」

「? キスって男としかできないの?」

 なんだかバカらしくなってきた。フランにとってのエッチなこと、っていうのは所詮キス程度。まるで子供みたい。

 レミリアの方に視線を向けると、私とフランを見て苦笑していた。

 私はため息をついてフランを見た。

「いえ、そうね。まあ、人によるんじゃない? 私は、もう二度と無理矢理なんてしたくないけど」

「じゃあじゃあ、私と」

 何かを言い出す前に、私はフランの唇を指で押さえていた。びっくりしたような顔になって、彼女は口をつぐんだ。彼女の唇から指を離すと、レミリアに向き直る。

「レミリア、フランの性教育にはちゃんと配慮してね」

「言われなくても、そのつもりよ」

 レミリアは笑うと、フランの手をとった。

「手間取らせたわね。妹の遊びに付き合ってくれてありがと」

「ん、大丈夫だよ。積極的にしたいとは思わないけど、二度とごめんってほどでもなかったから」

 私は正直な気持ちを伝えた。キスされたのは嫌だったけど、戦うこと自体はそんなに嫌じゃなかった。月一回くらいのペースならいいかもしれない。

「……ありがとう、ミオ。それじゃあね」

 そう言って、レミリアとフランは自分の屋敷へ戻っていった。本当、吸血鬼って変なの。私もそうだけど、ついさっきまでお互いバラバラにしあうくらい激しく戦っていたのに、ほとぼりが冷めたら仲良くしてるんだから。

 私はこれからどうしよう。そうだな……永遠亭に行こう。行き先を決めると、私は背中に翼を生やして空へと飛び上がる。

「……あ、聞き忘れちゃった」

 恋って何か、レミリアに聞けなかったな。まぁ、いいか。また今度聞けば。私は薄く笑うと、永遠亭に向かって飛んだ。

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