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東方幻想入り  作者: コノハ
際限なき憎悪と……?
77/112

狂った吸血鬼と私

 肩を揺すられて目が覚めた。夢も見ないほどぐっすりと眠っていたのは随分と久々のことだったように思う。目を開けると、キアが私を揺すっているのが見えた。

「あ……」

 目が合って、キアが固まる。

 私は彼女の透き通るような瞳をじっと見る。特に吸血鬼の力を込めたわけではないのに、キアは驚いたようにとびずさった。

「ふふふ、何もしないよ」

 おいでおいでと、笑いながら手で彼女を招いた。強制力がなくとも、彼女は私の方へと歩み寄って来た。

「私の隣に」

「はい」

 彼女は言われた通り、私の隣に腰をかけた。悪戯心が湧いて、彼女の腕を撫で上げる。きめ細かい肌は、まるで絹のようにすべすべとしていた。

「ひゃ、マスター……」

「ねえ、キアは恋したことある?」

 昨日、紫に言われたことを思い出す。私は恋をすれば幸せになれる。でも、恋ってどんなの? わからなかった。アリスやみんなにも聞いてみるつもりだけど、まずは手近な所から。

「えっと、そうですね。心があったかくなって、ぽわわってなって、とっても心地いいものです」

 似た感情を魔理沙に感じたことがあるけれど、それはどうなのだろう。私は女の子で、魔理沙だってそう。恋とは男が女に、女が男にするものだ。だからきっと私が感じているのは恋ではないだろう。

「ふうん。で、パパは?」

 ちょっと乱雑に、キアの首筋を指でなぞる。くすぐったそうにむずがるキアが愛おしく思える。

 パパはキアと私から距離をとって、楽しそうな笑みをうかべ、片膝を立てて座っていた。

「恋? 僕が君や君のお母さんにしたものだよ。心の中がぐぢゃぐぢゃになって、ぞろぞろと溶けて、おぞましくとも愛おしいものだよ」

 それは恋なのだろうか。

「それは恋じゃないです!」

 そう言おうと思ったところで、キアが叫び声を上げた。パパに声を張り上げるなんて、よほど重要なことなのだろう。

「……へぇ」

「恋って言うのはステキなものなんです! 甘いけど、でもちょっぴり苦かったり切なかったりで、でもでもやっぱり大切で! そんな変な欲とは違います!」

「ミオが僕としてるときは、苦かったんじゃないかな。まずいらしいし、アレ」

 そう下卑た笑いを浮かべたパパに、私を眉をひくつかせた。

「死にたいならそう言えばいいのにね、パパ」

「おっと、復讐はなし、だろ?」

 ぐ、と言いつまる。魔理沙との約束を反故にしたくない。だからなにもできなかった。

「ふ。ま、恋ってのは性欲みたいなものだから、満たされたら気持ちいいものだよ。ほら、試しにキアを魅了してごらん? きっと熱烈に求めてくるよ」

 じっと、彼女を見てみる。ビクリと怯えたように私から離れようとしたキアを、掴んで逃がさない。

「ちょ、ちょっとマスターっ!? お、お父さんの言うことが正しいかどうか、わかりますよねっ!?」

 頷く。間違っている。洗脳して恋させるなんて、絶対に変だ。でも。

「キアも私に同じようなことしたよね?」

「う」

 魔理沙やアリスの幻覚を見せて、二人のことを怖がるように仕向けた。それと、過程は違うけど、同じようなことをするだけだ。

「ちょっとだけ。ちょっとだけ、恋ってどんなのか見てみたいだけなの」

 復讐心から、こんなことをするんじゃない。ただの知的好奇心だ。

「ミオ。復讐じゃなきゃ、いいんだよ」

 パパの声が胸に入ってくる。パパらしくない、正しい言葉だった。

「ちょっと臣!? や、やめさせてください!」

「でもほら、僕今ミオに逆らえないし」

 そんな、と彼女は呟いた。ふるふると怯えたように顔を振るキアをみていると、なんだか気の毒になってきた。

 ふう、と高ぶりかけた頭を鎮めるために息をついた。冷静になったところで、キアの手を離す。

「冗談だよ」

 私がそう言っても、彼女はしばらく細かく震えていた。こわかったろうなぁ。

「ごめんごめん。お詫びに私が出かけている間、パパに何してもいいよ。二人ともここから出ちゃダメだけど」

 私はそう言い残すと、小屋の外に出た。

「臣、なんでさっき助けてくれなかったんですか!?」

「いや、それはね?」

 そんな会話を聞きながら、私は背中から翼を生やし、アリスの家を目指して飛ぶ。

 アリスの家につくころには、日が登り始めるくらいの、挨拶をするにはちょうどいい時間になっていた。私はアリスの家の前に立つと、扉をノックする。

「アリス姉ちゃん! おはよー!」

 扉が開くと、私は満面の笑顔を作って挨拶をした。

「おはよう、ミオ。あの二人に何もされなかったでしょうね?」

「もちろんだよ」

 アリスはいつもの洋服とはちがって、可愛らしいパジャマを着ていた。彼女の後ろから、誰かがやってきた。

「うい~……っす。お、ミオじゃん、おはよ」

 それは、アリスとおそろいのパジャマを着た魔理沙だった。乱れに乱れた魔理沙の服は、彼女のだらしなさというか大雑把なところをよく表していた。それにしても、どうして魔理沙とアリスが同じ家で寝ているのだろう。

「てか、本当にお前、アリスんちから出てったんだな」

 魔理沙が驚いたような、あるいは呆れたような顔をした。

「昨日アリスに泣きつかれて大変だったんだぞ? 『私は妹の居場所になれなかったダメな姉だ~』てな具合にな」

 パシッ、と、アリスが魔理沙の頭をはたいた。

「嘘をつかないで。ミオについて話してたのよ。遅くなったから泊まっていってもらったの」

「あたしは大丈夫だっつったんだけどな」

「何かあったらどうするのよ」

「こんなことを泣きそうな顔で言うんだぜ。可愛いだろ?」

 二人が楽しそうに話す姿に、憧憬のようなものを感じた。もしくは、羨望だったのかもしれない。

「で、紫の言ってたことなんだがな」

「恋ってこと?」

 ああ、と魔理沙は頷いた。アリスから聞いたのだろう。なんだか魔理沙に恋云々を言われるのは、少し恥ずかしい気がする。なぜだろう。

「まぁ正直あたしは専門家じゃねえからわかんねぇけど、永琳はそんなに悪い反応をしなかった。だから好きなだけ恋をしな!」

 恋をしろって、また強烈な命令だ。

「まあ恋愛にゃ相手がいるだろ? あたしはそんな趣味ねぇし、ノーマ、じゃなかった、望あたりが妥当なところか?」

 魔理沙の言い方に、私はむっとなった。

「恋ってステキなものなんでしょ? 治療の一環でするなんてまっぴらごめん」

「ま、それが普通の反応だわな。あたしだって心治すために恋しろって言われてもふざけんなって返すぜ。だから」

 にっと、魔理沙は笑った。

「しろって言われてできるもんじゃねぇよな。だからあたしはもうなんも言わねえぜ。

 じゃ、またいつか弾幕勝負しような!」

 そういって魔理沙は箒に手をかけか、ほとんど一瞬で空高くに上がった。

 あの速さが、彼女の強さの秘密なのだろうか。そんなことをちらりと思った。

「ねえねえ、アリス姉ちゃん、恋ってどんな感じなの?」

 私が聞くと、アリスは首を振った。

「さあ、わかんないわ。私はそもそも男の知り合い自体少ないし。男みたいなのは何人かいるけど」

 そう言ってアリスはクスクスと笑った。

「ふうん」

「恋に興味出てきた?」

 頷く。きっかけはちょっと不思議な人からもたらされたけど、彼女以上に疑問なのは、恋と言う感情だった。

「じゃ、私色んな人に聞いてみる。それじゃあねアリス姉ちゃん!」

「ええ。またいつでも泊まりにいらっしゃい」

 私は頷くと、空に飛び立った。遥か遠くに魔理沙の姿が見える。

 とりあえず紅魔館に行ってみよう、と私は湖へと向かった。


「おや、ミオ。アリスはどうしたのですか?」

 紅魔館の門番、紅美鈴の前に降り立つと、彼女はそう言って声をかけてきた。

 メリハリのある身体に、引き締められた筋肉。体の内には溢れんばかりにエネルギーが満ち満ちている。

「今はいないよ。一人暮らし中」

「うん? ……そうなのですか。まあ私がとやかく言えた義理ではありませんが、家族とは仲良くしたほうがいいですよ」

 なんだか勘違いされているみたいだった。

「喧嘩して出て行ったわけじゃないよ」

「それならよいのです。して、本日はどのようなご用件で?」

 と、美鈴が聞いてきたところで、紅魔館の方からものすごい音がした。何かが爆発したような、凄まじい音だ。

「……最近は安定されていたのですが」

 美鈴はそう言ってため息をついた。

「すみません、ミオ。本日のところはお引き取り願いま」

「キャハハハハ! 知らなイ吸血鬼だっ!」

 甲高い哄笑と共に、門を飛び越えて赤い人型が私の前に降り立った。

「フラン様。お屋敷の外は危のうございます。お屋敷にお戻りください」

 美鈴の言葉には一切耳を貸さず、その人型は私の顔をまじまじと見た。血にまみれたその顔は綺麗に整っていて、狂気に満ちた笑みさえなければ可愛らしいと表現できただろう。

「私はミオ。あなたは?」

 それでもごく普通を装って、私は自己紹介をした。

「私? 私はね、フランドール、スカーレットだよ、よろしくネ!」

 彼女は心の底から楽しそうに笑うと、私の前でクルリと回った。背中の翼には翼膜がなく、七色の、クリスタルのような飾り付けがされていた。

「よろしく。私に何か用?」

「うん! ネェ様いがイの吸血鬼、初めて見るの! だから、遊んデ!」

 返事をする前に、攻撃が始まっていた。歪んだ笑顔のまま、彼女は鋭い爪を私の首めがけて振るってきた。

咄嗟に体を後ろにずらし、両手で首をかばう。二の腕が切り裂かれ、パックリと赤い肉を曝け出してしまう。

「いきなりこんなこと……!」

 その傷をあっという間に治癒すると、私は血の力を操って、爪を鋭く伸ばす。犬歯も伸ばし、羽も生やす。全力全開、吸血鬼モード。

「キャハッ! やっぱり、思ったとオり! アハハハ!」

「いきなりなんのつもり!? 私は戦いたいわけじゃない!」

「私は戦いたい! さア、相手をして!」

 会話を交わしている最中も、爪による攻防は続く。敵の烈火のような攻撃を、爪を使って受け流す。イライラしたり理不尽な気持ちを感じないでもないけれど、私は専守防衛につとめる。

「ふざけ……!」

 んな、と私が怒鳴ろうとしたところで、フランの姿が横に吹き飛んだ。入れ替わるように、攻撃態勢に入った美鈴が私の視界に入る。

 フランには対してダメージがないようで、すぐに立ち上がり、美鈴に向かって駆け出していた。

「ミオ、下がってください」

「いいの?」

 フランが美鈴めがけて飛び蹴りを放つ。美鈴はそれを流れるような動作で受け流すと、フランの軌道を変えて地面に叩きつけた。

「フラン様、お屋敷にお戻りください」

 フランを見下ろしたまま、美鈴が冷徹に命令する。

「イやだ!」

 フランが手のひらを美鈴に向けた。

「……フラン様」

 美鈴は眉一つ動かさず、その腕を踏み砕いた。手首から肩口まで、グチャグチャに歪む。内から砕け、折れた骨がいくつも、肉を突き破って外へと出る。

「ぎゃアァァァァァァァっ!?」

「私はあなたと違います。破壊されてしまったらすぐに回復できないのです」

 叫びながら痛そうに手を押さえていたフランだったが、ふと、急に嬉しそうに笑みが浮かんだ。

「アハハっ! ばーかっ! キュッとして」

 美鈴は半ば崩れたまま手を握り込もうとするフランに舌打ちすると、地面を蹴って一気に距離を取った。

「チッ。ドカーン!」

 フランの手のひらが握りこまれると、美鈴の足首が何かに握りつぶされたかのように弾けた。

「……っ」

 美鈴は悔しそうに眉を潜ませ、地面に膝をついた。

「お逃げ下さい、ミオ。ここは私が」

 フランが立ち上がった。美鈴に踏まれグチャグチャになっていた腕は綺麗に再生していた。ゆっくりとした足取りで、フランは美鈴に近づいて行く。

「ダメ」

 私はフランの前に立ちはだかった。しっかりと、彼女の紅い瞳を見つめる。

「どイて。美鈴に罰を与えるの」

「私を守っただけ。攻撃してきたあなたが悪い」

 バッと、フランが私に手のひらを向けた。嫌な予感がして、その手のひらから逃れようと横に跳ぶ。

「バーカ!」

 でも、完全に合わせられた。私が移動しても、彼女の手のひらは変わらず、私の正面を向いていた。

「キュッとして、ドッカーン!」

 ぐしゃり、と私の心臓が破裂した。胸に風穴が空き、大量の血を地面に撒き散らす。私は感覚が遠くなるのを感じた。全身に力が入らず、そのまま地面に倒れる。

「やっぱり、心臓はまだ治し慣れてなイみたイ。キャハハハ!」

 笑い声が、遠い。

 地面を握り込む。悔しかった。苦しいのも、痛いのも構わない。でも悔しかった。レミリアとケンカしたときとは違う。本気でやって、あっさり負けた。永琳にお墨付きをもらっているはずの体は、心臓を潰されただけであっさりと動かなくなる。私は弱い。パパに勝てたのだってパパが弱かったから。私は強いはずなのに。

「う……」

 急に、どうしようもなく喉が渇いた。血を大量に失ったからだろう。そういえば、私、魔理沙と戦ってから血を吸ってない。その状態で、この出血。もしかしたら私は、死ぬのかもしれない。いや、死ぬことはないだろう。でもこの苦しい時間がずっと続くかもしれない。そんなのは嫌だ。

「はぁ、はぁ……」

 頭を踏みつけられている美鈴を見る。ぼやけていてよく見えないけど、殺されてはいないみたいだった。

彼女と特に交流があったわけではない。でも、私を守ろうとしてくれた。私も、守ろうとした。でも、できなかった。弱かったから。違う。

 足りないからだ。

 血が足りないから。血さえあれば。血液さえあれば、私は強くなれるのに。

 渇く。血が欲しい。血があれば。

 ダメ。私は……。

「かはっ」

 咳き込むと、自分でも怖くなるくらいたくさんの血を吐き出した。

 ぎゅっと、震える手を握る。渇く。怖い。けど、体は動く。自分でも気づかない内に回復していたようだ。血が欲しい。喉が渇いた。

 でも、私、は。いや、でも。

「フラン!」

 私が叫ぶと、フランは楽しそうに私の方を見た。渇いた。カラカラだ。ああ、早く血を飲みたい。でも私は人なんだ。人、人、人。

 ……ふと、気付く。こんなに渇いてる。こんなにも苦しい。こんなにも辛い。こんなになってもなんで私は人でいることにこだわっているのだろう。永琳にはもう人には戻れないと言われたのに。血を吸う自分を許してあげてと言われたのに。でも、でも私はみんなが愛してくれる自分を守りたい。

「なァに?」

 オアシスがある。違う。彼女はフラン。吸っちゃだめ。

 どうして? だって、彼女は人じゃない。しかも、私を攻撃してきたんだよ? なんの理由もなく、私の心臓を潰したんだよ?

 ああ、そうだ。じゃあ、ちょっとだけ血をもらおう。

 大丈夫、失った血を返してもらうだけ、そう、返してもらうだけ……。

「喉が渇いた。血を飲ませろ」

 駆け出して、一気に彼女の元へと向かう。何度も彼女の不思議な破壊術に胸やら腕やら顔やら潰されたけど、気にせず突っ込む。彼女の胸元が、至近に迫る。

「……っ」

 焦った様子で、私の顔面めがけてフランの手が飛んでくる。私はその拳を噛み砕いた。血の甘い味が口に広がる。

「グウッ! ネェ様が共食いはダメって言ってた!」

「私は、人! だから!」

 フランの爪が、私の首を狙う。私はしゃがんでそれを躱し、フランに突撃して彼女を押し倒す。馬乗りになって、フランを見下ろす。

「何する気!?」

 手を握り込もうとするフランの手。私は地面から血の帯を生み出して彼女の手を開いた状態で固定した。フランの顔が絶望に染まる。不思議な破壊術を封じられて、フランは足をジタバタとさせ、まるで子供のように稚拙な抵抗を始めた。その程度の抵抗で、私をどかすことはできない。構わず、彼女の平坦な胸を撫でる。何にも感じないけど、調理前の魚に触れているような、変な気持ちになる。

「グウゥ! やめろ、何する気!?」

 私は舌なめずりをする。しなだれかかるようにフランにピタリと密着し、彼女の耳元へと口をやる。

「食ってやる」

 囁いてから、フランの瑞々しい首筋に顔を近づける。抵抗がさらに激しくなった。念のために血の帯を作り出し、フランの足を縛る。甘い匂いがして、お腹が鳴った。お腹も空いた。

「いただきます」

 ガブ。鋭い牙で、フランの首の肉を噛みちぎる。皮と肉を味わってから飲み込む。

「ウガァァアッ!」

 大量の返り血が私の顔にかかる。傷口を口に含んで、溢れ出る血液を飲む。甘くて、濃厚で、喉が潤う。傷をチロチロと舐める。まるで飴でも舐めているような気分になる。

「ゴク、コク……」

 傷が治り始めて血が流れなくなったところで、また肉を噛み切る。

「ウギャッ!」

 そしてまた、血を啜る。一連の動作を何度も何度も繰り返した。

「ガアァっ!」

 野性的な叫びに嫌気がさして、私は血で細い針と糸を作り出し、フランの口を縫う。顔を逸らして逃れようとする彼女を押さえ込んで、ゆっくりと裁縫していく。

「ギャ、ウグゥ、アギ、ガ、あ、あ、あ、ア、ァ」

 裁縫が終わると、フランの口元は血で真っ赤になっていた。

「しゃべったら痛いよ?」

 口元の血を舐めとると、私は再び吸血を再開した。

「ぐ、うぐ、あぐ」

 フランのいじらしい叫びをバックグラウンドに、私は食事を楽しんだ。だんだん、フランからの反応が薄くなる。

「……ふう。ふふふ、あはは」

 私はフランの上から離れる。彼女は茫然自失といった表情でピクリともしない。

「また派手にやったわね、ウチの妹相手に」

「……レミリア」

 私は血で作った身の丈ほどもある剣を数本、背後に浮かせて警戒態勢をとる。

「吸血鬼としてのあなたを目覚めさせたフランが悪いのはまあわかるんだけど、いくらなんでも口をまつり縫いはないわ。ったく。残酷なことはしちゃダメなのよ。わかった?」

 そう言ったレミリアの腕が弾けた。

 表情一つ変えず、レミリアはフランの方を見る。そこには、五体満足で臨戦態勢のフランがいた。そういえば、フランにしていた拘束は剣を作ったときに解いちゃったんだ。すっかり忘れてた。

「アハハハ、キャハハハハハ! ネェ様、愛しいネェ様! 遊んでよ!」

 フランは何事もなかったかのように立ち上がると、空高く飛んだ。ついてこい、ということなのだろうか。

「ミオ。フランの遊びに付き合ってもらえるかしら」

 ため息をついて、レミリアが私に言ってきた、

「あ、遊び?」

 私、フランにひどいことしたのに、遊び?

 レミリアが呆れたように頷いた。

「まぁ、私たちだって吸血鬼だし、ひどい事したのはお互い様よ。最近忙しかったから相手してあげられなかたのよね。よければあなたも遊んであげて」

「あ、遊ぶってどうすれば」

「殺すつもりで戦うのよ」

 理解不能だった。

「弾幕勝負は?」

「美鈴とかがフランの相手ならそう言うんだけど、ほら、参加者全員死なないし。だから、全力でやりましょう」

 そう言ったレミリアの顔は、獰猛な笑顔に満ちていた。

 ちょっと怖いな、と思ったけれど、戦うということ自体にはあまり恐怖がなかった。

 それは、相手がパパじゃないからだろうか。遊びという括りの中だからだろうか。それとも。

 この体中を巡る滾るような力を発散したいからだろうか。

 わからなかった。わからないままに空を飛び、フランの元へと向かった。


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