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東方幻想入り  作者: コノハ
際限なき憎悪と……?
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芽と私

「れ、恋愛?」

 私の戸惑いを、アリスが代弁してくれた。恋愛の二文字が頭の中で踊っている私には、アリスのように聞き返すことすらできなかった。

 思考が真っ白になるくらい戸惑ったのはいつぶりだろうか。

「そうよ。れ、ん、あ、い!」

「この子にはまだ早いわ」

 アリスはかばうように言ってくれたけど、紫はそんなこと、少しも気にしていないようだった。

「いいじゃない。恋は人生を彩り、心を明るくするものよ」

「あ、相手がいないよ」

 私はやっとの思いで、絞り出すようにして言った。

「ノーマが、じゃなかった、望君がいるじゃない。男が嫌なら魔理沙や……私がいるわ」

 紫はふわふわとした少女然とした雰囲気から、一転して妖艶に笑い、唇を舐めた。

 思わずドキッとしてしまい、私は慌てて叫んだ。

「私は普通に男の子と恋愛するの!」

 そう叫んではみたものの、魔理沙の名前を聞いてまんざらでもないと思ったのは秘密だ。

「そう? じゃあ望君だね」

「私はあの子のこと好きじゃない!」

「じゃあ、嫌い?」

 首を振った。

「じゃあいいじゃない」

「待ちなさいよ。話が早すぎるわ」

 アリスが不機嫌そうに言った。

「なんで? ミオちゃんを救うにはこれしかないのよ?」

「でも」

「アリス、この子は早急に対処しないとすぐに間違った方向へ行っちゃうわ。この子が悪いんじゃなくて、御陵臣に施された教育が歪みに歪んでるせいなんだけど、それでもやっぱり子供って口や心ではそれが間違っていることがわかっていても、つい無意識的に親から教えられたことを実行しようとするのよ。虐待を受けた子供が自分の子供に虐待をしてしまうように、ね」

 急に正論を説き始めた紫に、アリスは口をつぐんだ。

「まだこの子は自分がおかしいということを感じているから大丈夫だけど、しばらくあなたと暮らしたら自分が治ったと思うはずよ。そんな状態で、まだ歪んだところがある状態で恋したらどうなるか、わかるでしょ?」

「歪んでるところって、何よ」

「男女愛よ。正しい家族愛はあなたが教えればいいけれど、正しい男女愛っていうのは、あなた以外でないと教えられないのよ。死なない望君をミオちゃんが『愛してる』とか言いながら壊してるところを見たいの?」

「そ、そんなの、その時対処すれば……」

「その時が来たらダメなのよ。わかるでしょ?」

 アリスは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「でもね、紫。それでも恋愛させるなんて、なんだか操作してるみたいで嫌だわ」

「あなたが嫌かどうかは聞いてないわ。それに、別に操るわけじゃないわ。ただ、ミオが誰かに恋をしたら認めろというだけよ」

 そこまで一方的にアリスへ言うと、紫は私の方へと向き直った。

「話、聞いてた?」

 頷く。

「あなたは、自分の価値観を疑っているうちに恋をしないと知らず知らず、あなたのパパと同じことを愛する彼にしてしまうわ」

「私はパパと違う!」

 必死になって叫ぶと、紫に抱きしめられた。

「そんなのわかってるわよ。そんな顔しなくても、わかってるから。ミオちゃんは、私の言ってること、わかるわよね?」

 なんだかずるい。こうやって抱き締められたら、優しくされたら、頷くしかない。

「ねえ、紫。私、普通の恋がしたいよ」

 パパみたいに狂った恋愛なんて絶対に、それこそ死んでもしたくない。だから。

「そう思えるあなたは十分立派よ。大丈夫、あなたならきっとステキな恋ができるわ」

 優しく微笑む紫は、まるで母……違う。お母さんみたいだった。私の知ってる母ではなくて、物語や世間一般でいうお母さん。

「……」

 でも、ダメだ。お母さんと呼びそうになった私の中で、ブレーキがかかった。ダメ。ママは、ママだけ。そうじゃないとママに、私の中にいるママに申し訳が立たない。ママ以外の人を、お母さんだなんて呼んではいけない。

「……おっけ、言いたいことはわかったわ。紫、御陵臣をひきとってくれる?」

 アリスがどうでもよさそうな声で言った。

「んなわけないでしょ。あいつと同じ空気を吸うのも嫌なのに」

 紫は私を抱きしめたままそんなキツイ言い方をした。

「……ミオちゃん急に話しかけてごめんなさいね。お詫びに目的地に送ってあげる。どこがいい?」

「家に帰るわ」

 ため息混じりに、アリスがそう言った。

「そう」

 にっこりと微笑んで、紫は私を解放した。次の瞬間には紫色の不思議空間もなくなって、目の前にはアリスの家があった。

「……紫って、変な人だね」

 おちゃらけていたかと思ったら、真剣な顔になったりして、変化に富んだ人だった。

「まぁね。さ、入りましょ」

「うん」

 私はアリスと一緒に家に入った。

 実質、この時点で、パパを誰かに引き取ってもらうという計画は失敗したのだった。


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