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東方幻想入り  作者: コノハ
迷い込んだ世界で
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紅魔館への道のりと私

 綺麗な湖を眺めながら、私とアリスは歩いていた。舗装されていない道を歩くのは辛いけれど、我慢する。だんだん慣れてきたし。

 左側にはアリスが歩いていて、その背景にな森と青い空があった。右を向くと、目を見張るような美しい湖が見える。

 水面は光り輝く網をはったように太陽の光を乱反射し、まぶしいくらいにきらめいている。湖の水は、ここからでも中心の底を見れるんじゃないかと思うほど透き通っていた。

「この湖、おきにいり?」

「私はこの景色を美しいと思う。だから、好き」

 アリスの方を見る。

「素直にキレイだから好きって言えばいいのに」

 アリスは苦笑しながら言った。

 その様子は、まるで親しい人間にするような、柔らかい顔だった。

 私がアリスの家族になったかのような錯覚に陥り、それを振り払おうと首を振る。

「どうしたの? また何か理由があるの?」

「違う。アリスと家族になったような感覚がして。それを頭から振り払っていた」

 アリスはしばらく悩むような仕草をした。やはり、気持ち悪がられただろうか。せっかく仲良くなれたのに、残念だ。

「別に、いいけど」

「……?」

 いい? 何がいいのだろうか。

「別に、家族になってもいいよ」

「……本気?」

 私に新しい家族ができる?アリスが、こんなに優しくて綺麗な人が私の家族に?

「本気も本気」

「……なぜか、聞いてもいい?」

 アリスはしばらく顎に手を当てて悩んだ。本人もわかりかねているのだろうか。しっかり悩んで、結論を出して欲しい、半端な考えで家族になって、いらないから、で捨てられるのは嫌だから。

「私、あなたを助けるって決めたから。霊夢が言うには長いこと滞在してもらわなきないけないのよね。その間ずっと一緒にいるわけだし、それってもう家族と一緒でしょ? まぁ、あなたが帰るくらいまでなら、ね」

 私はすぐに頷くことができなかった。家族が一緒にいるのが当たり前かのように言われて、戸惑ったのだ。やはり私はおかしい。そう再認識した。

「私、アリスの家族になるの? なっていいの?」

「ええ。この際だし、別にいいわ。でもちゃんと帰るのよ?」

 ああ、なぜ私は笑顔や仕草で喜びを、この全身を包む幸福を表現できないのだろう。

 私は自分のできる精一杯として、アリスに抱きつくことにした。

「ありがとう、アリス……お姉ちゃん」

「お母さんと呼ばれる覚悟だったんだけど……。まぁ、いいか」

 アリスは照れ臭そうに頬をかくと、まぁ、家族だしね、と言って抱きしめてくれた。

 お母さんではだめ。お母さんと呼んでしまえば、アリスも母のように……。

「澪、震えてるわよ?」

「嬉しくて。喜びに打ち震えるというものだと思う」

 私の言い訳を、アリスは信じてくれた。私はお礼を言ってアリスから離れる。私は震える体を無理に動かし、湖の奥に見える紅魔館を目指す。

「澪、どうしたの?」

 すぐにアリスが追いついてきた。

「なんでもないよ」

 吊り下がった母の遺体が思考の端から消え、体の震えが止まると、私はアリスのそばに行って手を繋いだ。姉妹はこうするものだと思ったからだ。

「おー? アリスじゃない!」

 紅魔館へ進もうとしたとき、声がした。私達の目の前に氷の粒が集まって、それは人型をとり、やがては一人の女の子になった。

 その子は短い水色の髪に、水色を基調としたブラウスを着ていて、背中には三対の氷柱が翼のように生えていた。

「こんにちはチルノ。用事があるからあんたの相手はしてやれないの。どっかいって」

 アリスは冷たくあしらうように言った。

 アリスが誰にでも分け隔てなく優しくするような人間でないことがわかって、少しだけ安心する。

 聖女と共に暮らす自信はない。

「私が相手してほしいのは、そこの人間なのだ!」

 チルノ、とアリスに呼ばれた子供は私のすぐそばまで来て言った。空気が急に冷え込んだような気がする。私の本能が警鐘を鳴らしているのだろうか。

 警告に従い、私は何歩か後ずさる。

「おー。なんの力も持ってない人間だ。名前は? あたいは『氷精』チルノ! 氷を自在に操れるのだー!」

氷を、自在に? そんなもの、人間が、少なくとも私が叶う相手じゃない。なんたかして生き残らなければ。どうする。

「私は星空澪」

アリスの名前を名乗りたかったけど、教えてもらっていないから名乗れなかった。あとで聞こう。生き残れたら。

「ほー。星空か。いい名前だな!」

「澪って呼んで」

チルノはあっさり頷いた。

「わかったぞ、澪! さぁ、弾幕勝負だ!」

そんなことを言って、チルノはいきなり攻撃してきた。氷粒がいくつも、無数に飛んでくる。

 知覚はできている。ちゃんと見えている。けれど、避けれない。私はまだまだ未熟な上に華奢だ。怪我もしてる。

 氷の弾の雨にさらされた私は、後ろに吹き飛ばされて地面に転がる。お腹が痛い。体がうまく動かない。

「チルノ! あんた何してるの!?いきなり撃つとか何考えてるのよ!」

「い、いやまさか本当に何もできないなんて思わなくて、あっさりよけて反撃するんだとばかり……」

「あんた澪の力量見切ってたでしょ!?」

「あ、あれは、その、なんていうか……」

「なによ」

「当てずっぽう……」

「ああ、もう! とっとと失せろ!」

「わ、わかったのだ。ご、ごめん澪。」

 それきり、チルノの声はきこえなくなった。アリスが駆け寄ってくる音がした。

「大丈夫澪!? お腹見せて。内出血してわね。痛い?」

 抱き起こされ、聞かれる。正直、傷みはもう引いている。

「チルノのこと、許してあげて」

「はあっ? なんの澪があいつを庇うのよ?」

「あの子はきっと、ただ子供なだけで、普通に悪気があったわけではないはずぁから」

 悪意があれば、去り際謝るなんてことしないだろうし、そもそも私は死んでいるだろう。

「優しい子ね」

 私はそう言われて嬉しかった。ここに来る前はなにを言っても何をしても、誰も何も言ってくれなかった。気味が悪いといって近づいてもくれなかった。

 それなのに、ここの人達は。

「ありがとう、アリスお姉ちゃん。もう歩けるから」

 自力で立ち上がると、ふらつきながらも歩き出す。アリスも心配そうについてくる。

「そうだ、アリスお姉ちゃん」

「どうしたの?」

 私は紅魔館を見つつ、アリスに聞く、

「アリスお姉ちゃんの名字はなんていうの? 私、お姉ちゃんの名前を名乗りたくて」

星空。こんな名前、いらない。いくらお父さんの名前でも、関係ない。お父さんとは血が繋がっているんだから、名前が違っても繋がっていれるはずなんだ。だったら、こんな名前は、捨てる。

「マーガトロイドよ。そんなに名前が嫌?」

頷く。私は今から、澪……。

 ミオ・マーガトロイドだ。少なくとも、この幻想郷にいる間は。

「じゃ、行こうかアリスお姉ちゃん」

「わかったわ。ホントに大丈夫?」

「大丈夫」

 私はそう言うと、少しだけ歩む速度を上げた。傷みが増してくるけど、構いやしない。

 歩いてからかなり経って、紅魔館の門が見えてきた。遠くで見たときはそうでもなかったのに、今見ると物凄く大きな館だ。壁から屋根、窓枠に至るまで全てが朱色に染められているところは、さすが吸血鬼の住処だ、と思った。

「こんにちは、アリス。今日はどんな御用ですか?」

 赤く染まった門の前には、中華風の衣装に身を包んだ女性がいて、アリスにそんなことを聞いた。門番さんだろう。ここまで大きい館なら、門番くらいはいて当たり前なのだろうか。

「今日はレミリアに伝言があって来たわ」

「……伝言?」

「ええ。霊夢からの大切な伝言よ。通してもらえる?」

「……何か書類はお持ちでしょうか」

「持ってないわ」

 そうアリスが言うと、門番は少々お待ちを、言って門の中に入った。話し声が聞こえるのでおそらく内線か何かで主と連絡をとっているのだろう。

「妙に厳重ね」

「いつもは違うの?」

 アリスが不思議そうにしていたので、聞いてみた。すると訝しげな顔をしたまま、私に教えてくれた。

「いつもは用件言えば大抵通してくれるのよ。そもそも昼寝していることもあるし」

「門番がそんなので大丈夫なの?」

「まぁ、ここの主は強いから。ちょっと腕に自信がある、くらいで忍び込んだところで夕食にされるだけだからね。……まぁ、今日は様子が違うのだけど」

「どうしてだと思う?」

 アリスは肩を竦めた。興味がないのだろうか。もしかして、アリスはあまり他人に興味がない?

「お待たせしました。通ってよい、とのことです。それでは、お通りください」

 門から出てきた門番は、私たちを中へと案内した。

「ありがと。美鈴」

「いえ」

 そう言って恭しく一礼したメイリンという女性は、私たちを見送ると再び門番としての仕事を果たすため、門の外に立った。

 クールビューティという言葉が彼女ほど似合いそうな人は、今まで見たことがなかった。

「どうしたの? 美鈴の方ばっか見て」

「……なんでもないよ」

 私はアリスに促され、ちゃんと前を見る。赤い大きな扉が目に入ってくる。この先に、吸血鬼がいるのか。

 思わず震えそうな体を感じながら、私はアリスについていく。無意識的に、ぴったひと寄り添うように歩く。アリスは私を見てにこりと微笑んで、扉を開けた。

「いらっしゃいませ、アリス様。お嬢様がお待ちです」

 広々としたエントランスの中央で、メイド服にみをつつんだ人形のような女性が待っていた。彼女は綺麗なのは綺麗なのだが、なぜだか、背筋が凍るような悪寒を感じた。

「……はじめまして」

 そう私に言ったメイドの瞳は、夕日のような真紅だった。

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