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東方幻想入り  作者: コノハ
ずっと続く暖かな
112/112

幸せと私

 パパが封印され、幻想郷に平和が戻ってから、二年が経った。誰かが言ったように、私の不幸や苦痛の元凶はパパなんだろう。その証拠に、私はこの二年、かつてないほどの幸せに包まれながら過ごした。元革命団の人達は、私のところで召使いをしているのだけど、目立ったトラブルもなく、しっかりと幻想郷に馴染めている。今でも、外に出れば白い目で見られるみたいだけど、それは仕方のないことだ。

「ミオ」

 森の中で木々を眺めていると、後ろから声がかかった。振り返ると、十八歳くらいの男性――吸血鬼の力で体を変え、大人になった望がいた。もちろん私も、十六歳くらいの姿をとっている。

「どうしたの?」

「どうしたの? じゃないでしょ。時期が一番危ないんだから、ちゃんと見てて上げて」

「……はぁい」

 私はゆっくりと、望のところまで歩く。

「もう。おてんばなんだから」

「ごめんね。でもほら、あの子に森の景色を見せてあげたくて。危険がないか下見してたの」

「そんなの、大きくなってからいくらでも見せてあげればいいよ。今は、大人しく。ね?」

 頷く。いくらあの子が少し大きくなったといっても、幼児がデリケートには変わりないのだ。少し考えなしだったかも。

「家に帰ったら、一緒にのぞみと遊ぼうか」

「うん」

 望は、私が一人娘の希を産んだときから、少し変わった。男らしく、もっといえば父親らしくなってきた。私はまだまだ母親らしく、なんてできないけれど。けど、覚悟はある。一人前の人間で、なくて、吸血鬼に育てる覚悟は、ちゃんとある。

「じゃ、帰ろうか」

「うん」

 私たちは家に……『ミオの館』なんて呼ばれてる我が家に帰った。


「ただいま」

 玄関の扉を開くと、大きなエントランスが視界いっぱいに広がる。

「あら、おかえり」

「アリス姉ちゃん? 久しぶり」

 エントランスの中央には、人形を一体、自身の周囲に浮かせたアリスがいた。

「リュカは今でかけてるよ?」

 アリスは、リュカと一緒にいることが多い。そしてリュカは魔理沙と一緒にいることが多い。リュカ、魔理沙、アリスは、結構有名な仲良し三人組だ。

「ただいまー、ほらやっぱり、ここにいた!」

「おお、ホントだ。さすがリュカだな。勘が冴えてるぜ」

 ドタドタと慌ただしく、噂の二人が入ってきた。いつもの白黒エプロンドレスのような魔法使い装束に身を包んだ魔理沙と、白いワンピースに、長い髪を後ろで一つにまとめたリュカ。リュカの背丈は、二年前と変わっていない。まあ、彼女には変える理由がないから。

「二人とも何の用よ?」

「アリスお姉ちゃん、今日飲み会しようよ! 霊夢がいいお酒入ったってさ! ミオと望も来る?」

 純真な目を私に向けて来るリュカに、私は首を振って答えた。

「ごめん、私希がいるから」

「あ……ご、ごめんね」

「いいのいいの」

 リュカは今度、望を見た。

「じゃ、望も、ダメだよね」

「うん。心配だから」

「ええ? ミオ、そんな体弱いようには見えないんだけど? 赤ちゃんだって、吸血鬼同士の子供だから強いと思うんだけどなぁ」

 リュカの疑問に、望は苦笑して答える。

「ほら。ミオが一人でどこかに行っちゃわないように、ね。いくらミオが強いっていっても、遠く離れた子を守って戦うなんてできないからさ」

 ああ、なるほど、とリュカは納得した。

「そういうわけだから、三人で楽しんで来て」

「私も行かないわよ?」

 アリスがしれっとそんなことを言った。

「へ? なんで?」

「いや、たまにはミオについていてあげたいじゃない。飲み会には二人で参加してよ」

「ええ~? どうする魔理沙?」

「ううん、どうすっかなぁ。永遠亭のやつらを誘うか?」

「よし、そうしよう! 輝夜と久々に飲もう! というわけで魔理沙、れっつごー!」

 満面の笑顔で、二人は風のように飛び出して行った。

「元気いっぱいだね」

 望が楽しそうにそんなことを言う。

「そうね。リュカも表情が戻って、本当によかった」

 魔理沙がそばにいるからだろうか? ところで魔理沙とリュカは付き合っているのだろうか? でも正直、あの二人は、恋人同士と言うよりは友達に近い気がする。

「リュカ、魔理沙を振ったんだって」

「は?」

 アリスの言葉に、思わず聞き返す。

「あなたのことは好きだけど、もう恋愛感情じゃない。そう言ったんだって」

 妙に納得した。つまり彼女は気付いたのだろう。自身の感情の、本当の名前に。

「じゃ、そろそろ部屋に戻ろう、ミオ」

 頷いて、歩き出す。心持ちゆっくりめで、一歩一歩を踏みしめるように。

 一度、おてんばと言われてからは、おしとやかに歩くよう心がけている。

 部屋まで戻ると、メイド服を着た女性がお辞儀をした。

「お帰りなさいませ、マスター」

 そして顔をあげ、にっこりと花のような笑顔を浮かべた。彼女の腕には、玉のような我が子、希がいる。

「ただいま、キア、希」

 私はキアから希を受け取ると、ゆっくりとベッドに腰掛けると、ふう、とため息をつく。なんだかここに来てようやく一息つける感じがする。やっぱり外に出るのは早かったかな。もっとお腹が大きくなってからのほうがよかったかも。

「にしても、あなたが子供を、ねえ」

「もう、アリス姉ちゃん、それ何度め?」

「でも、やっぱり不思議なのよね。あなたたち、結婚はしても子供は作らないって」

「アリス姉ちゃん、子供は作るんじゃなくて、授かるんだよ」

 私の言葉に、アリスは呆気に取られたような表情をした。

「作るなんて表現をするから、子供が自分の物だ、なんて思っちゃうんだよ。だから、私は神様から愛しい我が子を授かるの」

 でも、と思わなくもない。さんざ神様なんて、と思っていた私が、その神様から子供を授かるなんて。今では神様を呪うことはなくなったが、それでも神様は怒っていると思ったのだけど。

「でも、不思議だね」

 にひひ、と軽く笑う。

「外の世界にいたときは神様なんているかどうかもわからなかった。けど、今じゃ違うよ。映姫や神奈子、諏訪子のおかげで、信じることができる」

 神様はいるって。

「……ま、そう思えるんなら、いいんじゃない? ……授かる、か。じゃあ神気を込めて……。そうすれば、人形にだって」

 アリスは何かを呟き出した。しばらくして、彼女ははっとなった。

「……ごめんなさい、ちょっとぼうっとしてたわ」

「ううん、全然」

 むしろ別のこと考えてたってのが正しいと思う。

「アリスお義姉さんは、僕たちがいい親になれると思いますか?」

 ふと、と言った感じで望が聞いた。

「……そればっかりは、わかんないわ」

「ねえ、アリス姉ちゃん、私不安なことが一つだけあるんだけど」

 この際だ、聞いておこう。

「不安なこと?」

「うん。魔理沙やパチュリーから貸してもらった本に書いてあったんだけど」

 パチュリーというのは、魔理沙に紹介してもらった大魔法使いだ。喘息持ちで戦闘が長続きしないのを除けば、幻想郷でもトップクラスの魔力を持っているそうだ。無口で、ちょっと無愛想だけど、優しい人だ。紅魔館の図書館で迷っていると、ちゃんと案内してくれた。

 でもそれっきりで、会っていない。また会いに行こうかな。いや、それよりも今は、相談しよう。

「虐待されてた子が親になると、虐待しちゃうって書いてあったんだけど……」

 私は、希に虐待しないで育てることが出来るのだろうか。

「ミオ、そう言うケースは、ある認識が原因なの」

「?」

「『こうしないとまともな大人に育たない』『私もこうして育てられた』。そして、可哀想なことだけれど、その虐待が子育てに必要不可欠だと思っている場合ね」

「そんなこと、あるの?」

 アリスは頷いた。

「性的な虐待だと、誰にも発覚せずに虐待された子が育つことがあるわ。その時、その子はそういうことが子育てに必要だと、思うのね」

「ふうん……」

「でも、ミオは違うでしょ?」

「うん」

 でも、不安だ。もし私が気付かないうちに子どもを虐待していたらと思うと、全身が凍りつくのではないかというほどの寒気が襲う。

「……どうしても不安が拭えないっていうのなら。もし、自分がやり過ぎたんじゃないかって思ったら、私のところに来なさい。今、私そういうこと勉強してる最中だから、きっと力になれるわ」

「……ありがと」

 ちょっと、楽になった。

「望、あなたも気をつけるのよ」

「はい。わかっています」

 望は神妙に頷いた。

「よし」

 アリスはそう言って、微笑んだ。


 それから、私たちはとりとめもないことを話した。アリスが帰る頃には、もうすっかり暗くなっていた。

「リュカ、帰ってこないね」

「今日は朝帰りかな」

 なんてことを望と、ベッドの中で話す。寝ぼけて潰しちゃうとたぶん私耐えきれないから、希はベビーベッドの上だ。つぶれてもたぶん死なないとは思うけど、それとこれとは話が別だ。

「あとどれくらいでハイハイとかできるようになるのかな?」

「早く成長してほしいよね」

 二人して頷く。

「でも、希が思うように育ってほしいよね。キミの思うように育っていいんだよ。私たちは、あなたを愛しているんだから」

 そばの希に向かって語りかける。

「ふふ、そうだね」

 にこにこと、望は楽しそうだ。

 子どもと、望と、そしてリュカ。アリスに魔理沙に霊夢にキア。

 色んな人に囲まれて、色んなことを話して、大小さまざまな幸せを見つけて。

「……そろそろ寝よっか。おやすみ、望」

「そうだね。おやすみ、ミオ」

 そして私は、幸せになる。ううん、違う。

 望んだものは何気なく、そしてゆったりと日常の中にある。そして私は、それを余すことなく感じてる。つまり、私は。


 私は、幸せだ。

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