出来事の顛末と私
事の、顛末。
革命団の人たちは皆、捕らえられた。被害は、ほとんどなかった。人里には魔理沙がいたし、寺子屋にはアリスや慧音、レミリアやフランなど必要以上の人員が割かれていたため、全くの無傷。
地霊殿も同じく。というか地霊殿にはもう外来人がおらず、標的にもされなかったらしい。
優斗、シードも同じく捕縛された。
優奈さんも捕まったんだけど、彼女はまだ人間で、何もしていないということで、みんな扱いを決めかねている。でも、他の革命団の連中は私が眷属として従え、奴隷とすることが決まっている。まあちょっと怖くもあるけど、もうパパみたいに失敗はしない。たぶん優奈さんも、いずれ私が眷属にするのだろう。
「では、審理を始めます」
キアの前で、映姫が告げる。
今、神社の前で彼女は審判を受けている。
ここは神社の一角。ここには私とリュカ、それから望君しかいない。他の皆は、事後処理に追われている。
「ではまず、キア。あなたが御陵臣と共にいたとき、虐待したのは彼だけですか?」
「はい。間違いありません」
ふむ、と映姫は頷いた。
「では、望。あなたは彼女を許すつもりはありますか?」
望君は、映姫を見つめた。
「僕、ずっと、わからなかった。だって僕にひどい事したのは彼女で、それは絶対に許せないって」
「……では」
「でもね」
望君は、続けた。
「でも、あの時のキアは、本当にキアだったのかな、って思う」
「と、言うと?」
「なんていうかな。まともじゃなかった、っていうか。今にして思えば、あの時キアは御陵臣に脅されていたのかな、って」
「あなたは、被害者です。加害者の事情を知ったからといって、あなたがそれを考慮する必要はないんですよ?」
「……正直言うと、僕は、許してもいいと思ってる」
キアが、驚いたように目を見開いた。
「なぜですか?」
映姫が、優しく聞いた。
「なんだろう。少なくとも、もうひどい事はしないかな、って思えるから」
ふむ、と映姫は言った。
「わかりました。では、キア。判決を言い渡します」
「はい」
キアは神妙に頷いた。
「判決、黒。情状酌量の余地はありますが、だからといって彼にしたことは許されることではありません」
はい、とキアは頷いた。
「……では、罰を言い渡します。能力を封印したのち、彼にしたことをそっくりそのまま、その身に」
「はい」
「以上です。本来ならば拘束して監獄に連れて行くのですが。
……明日の朝九時。遅れずに来るように。信じています」
そう言って、映姫は去っていった。
「キア?」
私は彼女に駆けよる。
「はい。ええ、本当にありがとうございます、望様」
「い、いや。いいよ。……君が僕と同じ目に遭うんなら、許すよ」
「……ありがとうございます。望様、あの時は本当に、申し訳ありませんでした」
望君は、頷くだけだった。
「映姫、審理終わった~? あれ、いないじゃん」
頬を緩ませた霊夢が、私たちのところに来た。
「映姫なら帰ったよ?」
「へえ。あれ、そこのは無罪放免なの?」
「違うよ。力を封じて、あとは望君にしたひどい事をそのままする、っていう罰で、おしまい」
「ふうん。望、許す気になったの?」
「うん」
「そう」
じゃ、と言って霊夢は私の手を取った。
「霊夢?」
「いや、革命団の連中をあなたが血を吸って、眷属化してもらおうと思って」
「え? でも私の住処って住めて四人だよ?」
それもぎゅうぎゅうに詰め込んで。彼らを私の眷属にするのには、そんなに抵抗はない。もう二度と失敗しない。ちゃんと眷属にして、私の命令には逆らえないようにしないと。
「紫とも相談したんだけどね、あなたに館をプレゼントしようかなって」
「館ぁ?」
それってすごく大変じゃないの?
「ええ。たくさんの人を預かってもらう報酬みたいな感じ。紫が本気でやるから、たぶん数十分もかからないわ」
「そんなに?」
紫ってそんなにすごいの?パパの動きを封じた時も思ったけど、全然そんな風には見えない。
「ま、あいつは私の次には強いんじゃないかしら」
霊夢の、次? そんなに?
「さ、ついたわ」
境内には、何十人もの人が両手両足を縛られて寝転がされている。その周りには何人かの幻想郷の人がいて、みんな苦い顔をして彼らを見下ろしている。
「あら、ミオ。お疲れ」
アリスが声をかけてくれる。
「うん、お疲れ。この人たちを眷属にすればいいんだね?」
私は周りにいる人たちに聞いた。
「ええ。頼むわね。ごめんなさいね、こんなこと頼んで」
「いいよ、別に」
彼らは、永久封印するほどの罪ではなく、かといって軽く済ませるわけもいかず、というかなんとかして反逆の目を摘まないといけないから、私に白羽の矢が立った。正直手下が増えるのは面倒以外の何ものでもないのだけど、なぜかみんな心配してくる。
「じゃ、始めるね」
私は、眷属化の作業を始めた。
それから私とリュカ、それから望君は用意された屋敷に眷属と共に過ごすこととなった。こんな幼いうちから人を従えることを覚えて、将来が不安になることもあるけど、まぁ、もう手遅れな気がしないでもない。幸せだから別にいい、とみんな言ってくれるけどね。
で、パパはどうなったかというと。
パパは封印され、石となった。その石はまるで核廃棄物が如く地中だ深くに埋められ、二度と出てくることはなくなった。パパが埋められてようやく、今回の異変は終わりを告げたのであった。
最後に美沙お姉ちゃん含む外来人の人たちはどうなったかというと、みんな外の世界に帰ることができた。
外来人に能力もちが多かったのは、他者に能力を与えることのできるシードがいたのが原因で、虐待される側の外来人にはほとんど能力持ちがいなかった。私が能力持ちだったのは、パパの計画通りなら私は仲間になるはずだったから。美沙お姉ちゃん以外の外来人なんて、あの時宴会で同席した人たちくらいしか知らないのだけど、私はみんなを見送った。
「……さよなら、美沙お姉ちゃん」
眷属が大量に増えて、屋敷に住むようになってから、数日。神社の中、鳥居の前に私とリュカ、望君が最後の外来人であるお姉ちゃんの見送りに来ていた。
「さよなら。ミオ、リュカ、幸せにね」
「うん。私たち、幸せになるよ、絶対」
リュカが答えた。最近、リュカは表情を取り戻しつつある。親しい人にしか見せないけれど、それでも大きな一歩だろう。
「望、ミオを泣かせたら、許さないんだから」
「わかっています、美沙義姉さん。ミオちゃんは、幸せにします」
気恥ずかしくなって、私はうつむく。
「……ま、じゃあね」
「うん」
そう言って、美沙お姉ちゃんは鳥居をくぐった。すると、もうそこに美沙お姉ちゃんはいなくて。
「うう……」
だから。私とリュカ、二人して、涙ぐむ。
「うう……うわあああぁぁぁん!」
美沙お姉ちゃんがいないから、私たちは泣いた。皆仲良く、別れを惜しんだ。
これが、事の顛末。そして、波瀾万丈と、不幸の終わり。
「……ミオ? 何してるの?」
机に向かっていると、後ろからリュカが声をかけてきた。
「日記書いてたの。ほら、せっかく『りょうしゅさま』になったんだから、記念に」
「ふうん。ねえ、ミオ。今日は私魔理沙のところで泊まる」
最近、リュカは妙に積極的だ。叶わないとわかっていても、果敢な攻撃を続けている。
「魔理沙がオッケーしたならいいんじゃない?」
「ん。今日は私いないから、好きなだけ望といちゃつくといい」
「なっ! い、いちゃつくなんて、そんな……」
と、言い終わる頃にはもう彼女はいなくなった。
リュカはだいぶ変わった。小学高学年らしく、ちょっぴりませたところも出るようになって、表情や言動も子供っぽくなってきた。ちょっと前のリュカと違うところが多すぎて、ときどきびっくりするけど、まあ、大丈夫。
すべて、順調。
「望君?」
「あ、ばれちゃった」
後ろから気配を殺して忍び寄ってきた彼は、おどけてそういった。
「もう。何する気だったの?」
「いきなり抱きしめたらどんな顔するかな、って」
「嬉しくて泣いちゃうかも」
「あはは、大げさだなぁ」
「大げさじゃないもん!」
「そうかな?」
「うん、そうだよ。……それで、こんな夜遅くにどうしたの?」
私は日記帳を閉じて、体を望君に向ける。
「今日、一緒に寝ない?」
「……!」
顔が真っ赤になる。今の私はタコのようだろう。ミオダコ一匹ウン百万円。望君にならタダ!
じゃなくて。
「え、ええっと、それは、どういう……」
「え、あ? あっ! へ、変な意味じゃないよ! 何もしないって!」
それはそれで嫌。
私はむっとして、望君の手を掴み、ベッドに連れ込んでダイブする。
「……寝よっか」
「う、うん……」
まあ結論すれば何もなかったわけだけど。でもいつか彼ともそういうことをして。
ゆくゆくは、彼の子を……。
何考えてるんだろ、私。
「おやすみ、望君」
「おやすみ、ミオちゃん」
私たちは幸せに包まれながら眠った。
そう、幸せに。